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反省の準備


 戻ったタミリアのところにヨデヴァスの母親であるヨメイアもやって来て平謝りしていたが、いい加減に止めさせて客間へ戻した。


父親のサガンはギードの用事で出かけていて不在である。


帰って来たら絶対に叱られるとヨデヴァスもヨメイアも青くなっていた。




 タミリアはいつもより遅い夕食を家族で取る。


「待ってなくてもよかったのに」


とタミリアが言うと、


「ユイリたちがどうしてもって」


ギードが双子を見る。


「だって、タミちゃんがどうしてるのか気になって」


ユイリは口を尖らせて皿をつついている。


ミキリアは手が止まり、目に涙を浮かべている。


よほどズメイの無言が怖かったのだろう。


実際にはドラゴンたちは怒ってはいなかったのだが、何かあったら自分たちは一溜ひとたまりもないことは理解していた。


「ヨディのやつ!」


ユイリは苛立たし気に食卓を叩く。




 ドラゴンの住処から戻ったユイリはすぐにギードに報告した。


ユランとロキッドがズメイをもてなすための酒や料理を指示している間、ギードはその話をじっと聞いていた。


「わかった。ご苦労さま」


それでも祭りの招待自体はちゃんと受けてくれたことで、双子には良くやったと笑顔で評価した。


だがそれではユイリ自身が納得出来ない。


「ごめんなさい、ギドちゃん。僕がちゃんと気を付けていれば」


ヨデヴァスが剣を持っていることは知っていたのに。


その剣を「本物だぞー」と自慢していたのも知っていたのに。


反省しているユイリと一緒に、何も出来なかったミキリアも項垂うなだれている。


ナティリアと部屋の隅にいるロキッドまでがしょんぼりだ。




「お風呂入ろうか!。みんなで」


食後のお茶が出された時、たまらずタミリアが立ち上がった。


「いいね」


ギードがにっこりと笑う。


「う、うんっ」


それがタミリアへの慰めになるのならと子供たちが顔を上げ、元気に返事をしてばたばたと走り出す。


 その夜、地下にある風呂場から二階にいる勇者の親子の部屋まで賑やかな声が聞こえていた。


それは風の最上位精霊であるリンにギードが運ばせた声だった。


ヨメイアがその声を聞いて少しほっとした顔になる。




「母さま、ごめんなさい」


真っ赤な目をした幼子はあれからずっとぐすぐす泣いていた。


こんな大事おおごとになるとは思ってもいなかったのだろう。


「終わったことは仕方がないよ。大丈夫。あんたは私が守る」


ヨメイアはやさしくヨデヴァスの髪を撫でる。


 しかし、父親のサガンがどんな態度を見せるかはわからない。


妖精族である彼は普段から人族とは違う価値観を見せるのだ。


ヨデヴァスをいくらかわいがっていても実の子ではないし、同じ妖精族でもない。


(私が守らなきゃ)


サガンの強さを知っているヨメイアは、固い決意で愛しい我が子を抱きしめる。



 

 風呂上がりの子供部屋では、反省会が行われていた。


「やっぱり、ごめんなさい百回書くのがいいと思うんだ」


ユイリの提案にミキリアがため息を吐く。子供部屋には寝台が三つ置かれている。


「ギドちゃんは反省文、嫌いじゃなかった?」


ギードは反省など文章にしても後の祭りだから意味はないと言っていた。それよりも失敗を次に活かせるような報告書を書くことを推奨している。


「とりあえず報告書にするべきよ」


ユイリとミキリアは今日の出来事を言葉だけでなく、文字にして自分たちがきちんと反省していることを表そうとしている。




「どうしておねーちゃまとおにーちゃまがごめんなさい、なのですか?」


末っ子であるナティリアは、悪いのはヨデヴァスで兄姉ではないのにと首を傾げる。


「それはね、ナティ」


ギードは仕事として今回の件を双子に依頼した。


双子はその仕事をちゃんと終わらせることが出来なかった。


「いくらドラゴンさまが気にしないって言っても、ヨディがまた何かするんじゃないかっていうのは残るわけ」


ミキリアの言葉にナティリアは首を傾げたままだ。


「僕たちは反省した上で二度とこんなことが無いようがんばるって誓うんだよ」


そう言ってユイリは妹の頭を撫で、報告書の用意を始めた。




 双子に構ってもらえなくなったナティリアは、ふわふわと部屋の中を漂う。


「ナティリアさま、あまりお身体を浮かすくせは良くありません」


部屋の隅で様子を見ていたナティリアの眷属であるロキッドが、厳しい顔でたしなめる。


「うん」


双子の兄姉が沈んでいるので、ナティリアも何となく気持ちが重い。


「ロック。どうしてみんな大騒ぎしてるの?。ドラゴンさまはなんにも怒ってなかったよ」


ロキッドを愛称のロックと呼ぶのは子供たちだけだ。


あの時、精霊であるナティリアにはドラゴンの気配は手に取るようにわかっていた。


小さな子供のすることにいちいち怒るようなドラゴンたちではない。


「いえ、今回の場合、ドラゴンさまには特に問題はないのですが」


双子が悩みながら作業をしているので、ロキッドはナティリアを呼び寄せて小さな声で話しかけた。




「ヨデヴァスさまはこの国と友好的なドラゴンさまに剣を抜かれました」


いくら幼子とはいえ、それは立派な敵対行動である。


小さいからと不問にしても、では何歳までならいいのかということになる。


「ナティリアさまはご自分を嫌っている者がいる場所へ行きたいと思いますか?」


「ううん」


ナティリアは首を振る。


「今回の祭りには影響がないとしても、ヨデヴァスさまのご家族はしばらくこの国に滞在されます」


その間に誰かに影響を与えたり、再び同じことが起きるかも知れない。


それは本人以外も気をつけなければならないことである。


ドラゴンとの信頼関係が崩れる恐れがあるのだ。


「しっかりと反省していただかなければいけません」


ロキッドはナティリアにわざと厳しい顔で話した。


「わかったー」


いつもはやさしいロキッドの怖い雰囲気にナティリアは急いで頷く。


きっと自分たちには都合が悪いのだ、ということだけはわかったらしい。





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