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継承の準備


 ギードは執事であるロキッドを呼び出す。


 ギードの末娘であるナティリアを抱いたロキッドが部屋へ入って来た。彼はナティリアの眷属で、幼い彼女の世話係でもある。


「お呼びでしょうか」


人族の青年執事の姿をしたロキッドは、実体はクー・シー族という牛くらいの大きさの犬の姿をした妖精である。


ロキッドの養父はドラゴンの眷属だ。


そのロキッドに双子をドラゴンの住処すみかへ連れて行ってもらうことにする。




「おとーしゃまー」


ギードはロキッドの腕から黒髪の幼子を受け取る。


そして黒髪黒目の執事に、ドラゴンとの交渉に双子を連れていくように指示をする。


「ナティは行っちゃだめ?」


抱かれたまま、ナティリアはこてんと首を傾げて父親の顔を見る。


その顔は、娘のあまりの可愛らしさに緩みっぱなしである。


「いいけど。おとなしくしているんだよ」


 見かけは四歳ぐらいの人族の子供であるナティリアは、実は精霊族である。


エルフと人族との間に精霊が生まれるなど、前代未聞の出来事だった。今でもごく一部の者しか知らない。


魔力の塊である精霊は妖精族より魔力が高く、不安定で未熟な精霊は魔力暴走を起こす危険がある。


そのため、特殊な子供であるナティリアにはすぐに眷属を付けた。


それがロキッドであり、人化が得意な彼の影響のおかげでナティリアは人族の姿をしている。


この子が黒髪黒目なのはロキッドの影響だ。


ギードは「くれぐれも頼む」とロキッドにナティリアを返す。




「では、行ってまいります」


ロキッドたちが部屋を出ようとすると、廊下をだだだっと走る音がする。


「待てー、待て待てー」  


駆け込んで来た子供の後を、両親である人族の男女がついて来た。


「ヨディ、うるさい」


父親にぴしゃりと言われ、ヨデヴァスは口に手を当てて黙る。


「サガンさま、ヨメイア、お手数をおかけして申し訳ありません」


ギードがふたりに軽く会釈をする。


「いや、うちのヨディがうるさくしてすまない」


それはこの商国に来てからずっとなので、今さらである。




 勇者の一家は数日前に始まりの町からやって来た。


今はギードの館に客として滞在している。


王都と始まりの町という人族の町しか知らないヨデヴァスは獣人が珍しくて仕方がない。毎日獣人の子供たちを追い掛け回して友達になろうとしている。逆効果で嫌われているが。


「ヨディ。ユイリたちはお役目でドラゴンさまのところへ行くの。あなたは邪魔になるわよ」


母親であるヨメイアは申し訳なさそうにギードを見ていた。


「いえ、いいんですが。ドラゴンさまに会うのは初めてでしょうから、覚悟があるのかと思いまして」


口に手を当てたまま、ヨデヴァスは目を丸くしている。


勇者の血族の直系であるヨデヴァスならば巨大な魔力に怯えるようなことはないとは思うが、ドラゴンに対し失礼な態度は困る。


とうさま、だめですか?」


ヨデヴァスは潤んだ瞳で父親の姿をしたサガンを見上げる。




「何かあったの?」


そこへギードの妻であるタミリアが帰って来た。


「うん。タミちゃん、ちょうどよかった。お願いがあるんだけど」


ギードはにこりと笑って片手を上げる。


そしてヨメイアにも手招きして、ふたりにドラゴンのところに行く双子の付き添いをお願いする。


「いいわよ」


タミリアがにやりと笑う。


いぶかしげに首を傾げるヨメイアに、サガンが囁きかける。


「ドラゴンのユランさまは模擬の相手をしてくれるそうだよ」


脳筋にはそれで十分だったようで、ヨメイアは急いで支度に出て行った。




 ギードは子供たちと脳筋女性二人をドラゴンの住処へ送り出した。


そしてギードの仕事部屋にはサガンが残った。


「俺に何か用があったのか?」


来客用の椅子にどかりと座り、サガンは出されたお茶を優雅に飲んでいる。


彼は、ギードが子供たちと母親たちを一緒にドラゴンの元に送り出したのには理由があると確信していた。


「ヨディのことでー」




 ヨデヴァスの実の父親は、勇者の家系に生まれたサンダナという若者である。


サガンはガンコナーという妖精族で、人族の男性に擬態することを得意としている。それで人族の女性をたぶらかすことを生き甲斐とする妖精なのだ。


今はギードの要請でサンダナに擬態している。


 ギードと妻のタミリアにとって、サンダナは恩人である。ふたりは彼を介して知り合った。


しかし彼はドラゴンにわざと挑み、ギードたちの目の前で亡くなった。自分を滅ぼすこと、それは彼が自ら望んだことだった。


その勇者と呼ばれた彼が、死の直前に残したもの。それがヨデヴァスだ。




 ギードは忙しい仕事の合間を縫って、ヨデヴァスの様子を見ていた。


「そろそろ魔力検査をやりたいと思います」


ギードは珍しく真剣な顔でサガンを見つめる。


「ああ、よろしく頼む」


このガンコナーはある事情から、勇者の一族の血の中に長く捕らえられていた。そしてサンダナの死によって解放されたのである。


勇者の死は国に混乱を招くため、しばらくはサンダナが生きていると思わせるために擬態していて欲しいと頼まれた。


しかし今では、妖精であるサガンは人族の子供であるヨデヴァスを我が子同然にかわいがっており、その子供も彼を慕っている。




 勇者とは『ドラゴンを討伐した者、或いはそれと同等の力のある者』に送られる称号だ。


その一族は独特な血統魔法を保持している家系であり、その中から勇者と呼ばれる者を多く輩出しているため『勇者の一族』とされている。


 長く続く勇者の家系は富豪で亜流の家系が多く存在し、後継争いが絶えなかった。本家の直系だったサンダナはそれを嫌い、実家に寄り付かずにふらふらと放浪していたのだ。


脳筋で有名な母親と同じ暗赤色の髪をした幼子が、父親の勇者の血をどれだけ濃く継いでいるのか。


それは本人だけの問題ではなく勇者の一族にとっても、いては王国にとっても大問題なのである。


 あの強力な血統魔法が使えるのかどうか。


その財力と魔力で、王族との間に微妙な力関係を持つ勇者の一族は、サンダナの実子であるヨデヴァスには注目している。



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