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ドラゴン兄妹と勇者の事情  作者: さつき けい


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企ての準備


 ギードはずっと、自分が不在の間どうやって大切なものを守るかを考えていた。


一番のギードの懸念は何故、今、このズメイが口を出して来たのかだ。


ドラゴンの本意などギードにはわからないが、あれは何かを企んでいるに違いないと感じた。


しかし商人らしく効率を考えるなら、ズメイの提案に乗るしかない。


承諾したギードに、ズメイはそれ以上何も言わなかった。




 双子はその日、朝食の席で父親が不在の間の予定を告げられた。


「ユイリはしばらくエルフの森で修行だ」


「え」


「ミキリアはイヴォン師匠のところで修行。いいね」


「う、うん」


母親のタミリアも突然のことに驚いている。


「ナティはー?」


末娘はそれが何かの遊びだとでも思ったのか、顔を輝かせて自分への言葉を待っている。


「ナティはタミちゃんと一緒に遺跡の家へ行くんだ。ナティの勉強は聖域の老木のじいちゃんに頼んでいるよ」


もちろんロキッドも同行だと、ギードは穏やかな笑みを浮かべた。




 父親であるギードが『海の大神』との交渉で旅に出ることは知っていた。


その不在の間、双子は自分たちがこの町を、商会を守ると張り切っていたのに。


「どういうこと?」


子供部屋に戻ったユイリは枕を投げて当たり散らした。


「今さらエルフの森だなんて」


ギードはユイリに、旅から帰ったらすぐに商国に呼び戻すことは約束してくれた。


だけど、ギードが戻らなければ……。


「ミキはそれでいいの?。始まりの町の領主館で、ひとりで修行だよ」


「一人じゃないわ。近くにフウレンもいるし」


ミキリアは、母親のタミリアの剣術の師匠であったイヴォンの指導を受けることになる。


彼は始まりの町の領主シャルネの夫で、今はその領主館で戦闘術を教えていた。


近所には双子とは仲の良い魔術師ハクレイの館もある。


国の実力者のひとりでもある強者に師事出来るとあって、ミキリアはうれしそうだ。




「ははあん」


ミキリアはユイリの顔を覗き込む。


「さては怖いんだー」


「なっ」


ユイリにとって、エルフの森は未知の世界である。


双子はギードがエルフの森を嫌っている理由は知らない。しかし「エルフは信用出来ない」がギードの口癖だった。


そんなところへ自分一人が行かなければならない。


「大丈夫よ、ユイ。エルフの森は聖域に近いから、何かあったら聖域の守護者さまのところに逃げ込めばいいし」


そばには遺跡の家もある。母親や妹も近くにいるのだ。


しかし、ユイリは不機嫌そうに黙ったままだった。




 不満そうなユイリの様子を見ていたギードは、夕食の席で、


「じゃあ、一度、森へ見学に行ってみるっていうのはどう?」


と提案した。


それでどうしても嫌だったら遺跡の家で母親と一緒に留守番にする。


「どうして商国にいちゃだめなの?」


ユイリはぶすっとしたままだ。




 商会の管理については眷属精霊たちに任せるつもりだ。


彼らに仕事に集中してもらうためには、なるべく守る対象は少ない方がいい。


そして、もしも戻らなかった時の事も考えて、保護してくれる者がいる場所を選んだ。


 ギードはユイリの側に寄り、その顔を上げさせる。


「風のリンは確かに弓の指導はしているだろう。でも彼女は精霊だ」


エルフの補佐をするのが精霊だが、エルフ自身が強くなければ意味がない。


「お前にはエルフの指導者が必要だと思っている」


弓だけではなく、他種族とは違うエルフの生活や歴史を教えてくれる者が。




 ギードとユイリの親子は翌日、エルフの森へ飛んだ。


母なる木の広場には、多くのエルフの姿がある。こんなに大勢の老若男女のエルフを見たのは初めてで、ユイリは怯んでいた。


事前に連絡を受けていたギードの養父である最長老が迎えてくれる。


「長老さま、お久しぶりです」


「おお、久しいな、ギード。ユイリも大きくなったなあ」


成人したエルフは容姿があまり変化しない。


長身の青年エルフは目を細めてユイリの頭を撫でる。


とても最長老には見えないそのエルフをユイリは不思議そうに見上げる。




 三人は母なる木の中にある一室に入った。


「ユイリは弓の腕は相当らしいな」


最長老は、先日の王宮でのユイリの話を聞いたようだった。自分の孫同然であるユイリの話を森でも自慢しているそうだ。


ユイリは「それほどでもないです」と恥ずかしそうにしている。


本物のエルフが目の前にいる。自分の弓矢の腕が、エルフの中ではどのくらいなのかわからない。


 一旦席を外した長老が、弓を一張ひとはり持って現れた。


薄っすらと金色に輝く弓は、大人でも手に余りそうな大きさだった。


「これはお前のおじいさんが使っていた弓だ」


「えーっ」


ギードとユイリは同時に声を上げた。




 父親は『弓聖』と呼ばれた名人だったと、ギードは初めて知った。


「ギードはあまり弓に興味が無かったからな、渡すのをずっと迷っていたんだが」


ギードの父親も学者肌であまり弓には執着がなかったらしく、大戦のあと、友人であった最長老に預けていたそうだ。


「大人用だからな。ユイリが成人して、この弓を使う腕があると認めれば渡そうと思う」


「持ってみるか」と渡されたユイリは、その弓が普通ではないことは良くわかった。


「すごい、すごいです、これ」


ユイリは一目で魔力を纏ったその弓のとりこになった。


「ギドちゃん。僕、がんばってここで修行する!」


最長老はうんうんと頷き、ギードは少し複雑そうな顔をして息子を見ていた。




 何はともあれ、子供たちの修行先が決まった。


ギードは商国の自分の地下室に戻り、机に向かって仕事の紙束を取り出していた。


養父と久しぶりに食事をして帰ったので、こちらでもすでに夕食は終わっている。


地下室の奥の風呂場からタミリアが出て来た。


「お帰りなさい」


「うん」


書類から目を離さないギードの背中に、風呂上がりのタミリアが静かに忍び寄る。


「ギドちゃん。あのね」


タミリアはギードの丸くなっている背中に抱きついた。ギードの表情がだらし無く緩む。


「私、絶対に付いて行くからね」


「うん。……うん?」


ギードは相変わらず、決して妻に逆らうことは出来ないのである。



        〜完〜


お付き合いいただき、ありがとうございました。

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