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収穫祭の準備

いつもの短編です。よろしくお願いします。


 とある世界の、とある大陸。


その中に商国という名前の、『決して枯れない泉の神』を国主とする国がある。


エルフの少年ユイリと双子の妹で人族のミキリアは、家族と共にその国で暮らしていた。


 商国はもともと獣人だけの小さな村だった。

  

すぐ傍に在った森に双子の家族が調査に訪れたことから縁が始まり、今では森を中心にして町が広がっている。


森の中にある泉の側には、双子と家族が住む大きめの館と、小さな神殿が造られていた。




 今日は双子をはじめ、幾人かの獣人の子供たちがその神殿で勉強をしていた。


神殿で教えるのは祈りの言葉としても使われる古代エルフ語だ。


「今日はここまで」


エルフの女性の姿をしている風の最上位精霊の声で子供たちが立ち上がる。


「ミキ、帰るよ」


「うん。ヴィキサ、またね」


「またね。ユイリ、ミキリア」


双子と仲の良い白い狐獣人である女の子が手を振る。




 季節は秋の終わりを迎えようとしていた。




「ギード様、収穫祭の日程ですが」


森の中にある館の中では、双子の父親でエルフの商人であるギードがいつものように仕事に追われていた。彼はエルフにしては珍しい黒い髪をしている。


 大きな町程度の規模の商国は森の中心にある泉に住む神を国主としているが、ギードは事情により、その神の代理もしていた。


「ああ、もうそんな時期か」


この国では冬を迎える前、農作物の収穫が終わり、出荷もひと段落した頃に祭りが行われる。


元荒れ地であったこの土地での収穫に感謝する祭りだ。


まだ建国から間もない若い国ではあるが、ギードはこの祭りを毎年継続させる事に決めている。


「ありがとう、コン」


ギードは眷属である土の最上位精霊のコンから、予定を書き連ねた紙を受け取った。相変わらずの過密な予定にうんざりする。




 実をいうと、商国というのは国の名前でありながら、一つの商会の名前でもある。


ギードはその商会の長だ。


そしてコンは、精霊でありながらギードの片腕として商会の管理を担当している。


「ズメイ様とユラン様には確認した?」


ギードの言葉にコンが答えた。


「いえ、これからです」


 商国の隣にはドラゴンの領域がある。


そこには雪のドラゴン・ズメイと炎のドラゴン・ユランという兄妹が住んでおり、この町とは友好関係にある。


祭りは、荒れ地だったこの土地に魔力を取り戻してくれたドラゴンたちに感謝するためのものなのだ。


いわば、ドラゴンが主賓しゅひんなのである。祭りの日程は彼らの都合が優先されるだろう。


「子供たちを呼んでくれ」


「かしこまりました」


最上位の精霊であるコンは、そこらへんにいる風の精霊に伝言を頼む。




 エルフであるギードの妻は人族の魔法剣士で、二人の間には三人の子供たちがいる。


長子であるユイリとミキリアの双子は神殿から戻り、子供部屋で着替えているところだった。


精霊からの言伝を聞き、ユイリとミキリアがギードの仕事部屋へ入って来た。


双子は次の冬で八歳になる。


「ギドちゃん、呼んだ?」「なあに?」


異種族間の婚姻で生まれる子供は、必ずどちらかの種族として生まれる。


両親双方の血は流れているが、兄のユイリはエルフ族として生まれ、妹のミキリアは人族として生まれた。


「今年も収穫祭の準備が始まった。またドラゴン様のご機嫌伺いを頼むよ」


子供好きのドラゴンたちを招待するのは子供たちの役目なのだ。


「はあい」「わかったー」


父親からの依頼に二人は軽く返事をして、コンと打ち合せに入る。



 

 この双子はつい先日まで、王都にある母親の実家で暮らしていた。


森や辺境の町しか知らない子供たちに人族の普通の生活を見せようと、しばらくの間預かってもらっていた。


双子は両親が実力者として有名なため、王宮からは注目されている。まだ三歳の王女の遊び相手に、と誘われているくらいだ。


「子供の将来は子供自身に決めさせたい」


ギードは王宮からの勧誘を断っているが、それでもいつか自分の力が及ばなくなる恐れがある。


その時のためにも、子供たちには王都を見せておく必要があったのだ。




 そして先日、王宮での王女のお披露目会に呼ばれ、双子はやはり目立ってしまった。


正統派エルフの美しい容姿に、風の守護精霊による強化された弓の腕を持つユイリ。


脳筋の母親に鍛えられたミキリアは、炎の精霊が守護している。腕力が上昇する加護があり、大人顔負けの剣技を見せた。


お陰でその日から、祖父母の家に上流貴族や王宮から取り込もうとする打診がひっきりなしに来始めることになる。


「これ以上はご迷惑になります」


ギード夫婦は早々に双子を王都から引き揚げさせた。


祖父母や同居の家族からは非常に残念がられたが仕方のないことだった。




「ミキリアー、どこだー」


小さくはない館の中に大きな声が響き渡る。


「ヨデヴァス、こっちよ」


廊下に顔を出してミキリアが返事をしている。


たたたと軽い子供の足音がして、暗赤色の髪の六歳くらいの男の子が顔を見せる。


「あ、ギードのおじさん、こんにちは」


「お、おじさん……」


確かに子供から見ればおじさんかも知れないが、ギードはぴくぴくと顔を引きつらせる。



 エルフという種族は、成人すると外見は何年経ってもほとんど変わらない。


ギードはおじさん、などと呼ばれたことは滅多にないので驚いていた。


身近にいる商国の子供たちは商会の従業員でもあるので、ギードのことは『ギード様』か『旦那様』と呼ぶ。おじさんなどと呼ぶのはこの子ぐらいであった。


「ヨディ。僕たち、これからドラゴン様のところへ行かなきゃいけないんだ」


ユイリは割と不機嫌が顔に出る。


「ごめんね。鍛錬の相手はまた今度」


ミキリアは不愛想ながら小さな子には気遣いを見せる。


双子はヨデヴァスと何か約束をしていたようだった。


ヨデヴァスはむぅと顔をこわばらせた後、「俺も行く」と言い出す。




 ヨデヴァスは人族の勇者・サンダナの息子で、母親は元近衛騎士のヨメイアである。幼いながら、ばりばりの脳筋だ。


今は一家でこの商国に滞在している。


助けを求めるように双子がギードの顔を見た。


「あー、ヨディ。悪いけど、ドラゴン様のところへ行くならご両親の許可がいるよ」


ギードの言葉にヨデヴァスは「わかった」と頷いて、どこかへ走って行った。




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