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第4話 "R"との邂逅 (1)

指令室へと赴く四人。

緊張の中任務報告を終える彼らに、上官は今後より厳しい戦いが始まると匂わせる。

そんな中、呼び出された本来の目的の前に隊長斑鳩は、局長にある忠告にも似た言葉を告げる――。


※この物語は連載中の【ヤドリギ】第4話(1)になります。

※宜しければ第1話からお読み頂ければ光栄です。

※第1話はこちらからどうぞhttps://ncode.syosetu.com/n8027ek/

『――アガルタの装甲車!?』





 斑鳩が住まうコンテナ内――。


 テーブルを挟み、二つのソファーが並ぶ他には、小さな本棚と食料棚にクローゼット。

 他にはベッドすら無く、見るにソファーの片方にクッションと毛布が乱雑に置いてる事から、彼はここで寝起きしているのだろう。


 極端に物が少ないそんな彼の部屋は、その広さから度々部隊の集まりの場として利用されていた。


 それぞれ思う場所に腰を掛ける四人。

 格納庫での話を切り出す斑鳩に、思わず詩絵莉とローレッタは復唱し、見事にハモる。


「そ……それは確かに驚くねえ……」


 提案通りシャワーを浴びたのだろうか。ローレッタはすっかりと復活していた。

 その横で詩絵莉は足を組んでソファーに背中を埋めながら眉間にシワを寄せる。


「普通なら結構なニュースよね、それ。こんな辺鄙な前線拠点にあのアガルタから誰か来るなんて」

「これは事件のにおいがしますねえ、シェリーちゃん」

「そうねー。視察……だとしても、アガルタの人達が直接……っていうのは違和感あるわよね。ロールも初耳なんだよね?」


 二人は斑鳩が用意した合成品のコーヒーが注がれたマグカップを手に取り、口を付ける。

 こく、とノドを潤したローレッタはカップを両手に持ったまま、コーヒーの水面に写る自らの目を見つめながら口を開く。


「……実際のところ、アガルタの視察だとか納品だとしても拠点内でそれらしい噂は聞いたことないねえ……例えば新型の木兎(ミミズク)とか装甲車の導入だとか、新型の兵装のテストだとか、配備だとか……おそらくそういったモノでもなさそうだよね」


 ローレッタの言葉に3人は「そうか」「なるほど」と納得する様に大きく頷く。

 それもその筈、彼女の言葉には説得力があった。


 式梟(シキキョウ)(フクロウ)として再び活動を再開した彼女は、その優秀さから故か木兎の整備担当班からもやはり知名度が高く、今でもそれなりに顔が効くのだ。例えば新型、改良型の木兎なんてものが配備される、なんて噂があれば必ず耳に入っていた。


 他にも式兵関連の兵装知識を持つことは戦術の構築等にも必須……故にそういった情報に関して彼女は常にアンテナを張っている事を他の3人も知っていたからだ。


「ローレッタも聞いた事がねえって事は、いよいよ分かんねえなあ……」


「お、ちゃんと呼べたねえ」とローレッタはギルに乾杯を求める仕草。


 ギルはややむくれながらチラリと詩絵莉にも目をやり、「今日はもうあんまり怒られたくねえ気分なんだよ……」とその乾杯を受ける。

 詩絵莉はそんなやり取りをぼうっと見ながら、はたと時計に目をやる。


「あと15分か……そろそろ向かう?……(アキラ)、隊長って立場上色々考える事はあるんだろうけどさ、大丈夫よ。私達に落ち度は無いんだから、堂々としとけばいいのよ、でっしょ?」

「あ、ああ……そうだな。いや、確かに詩絵莉の言う通りだ、すまん。別に不安を煽ろうとか思って話をしたわけじゃなかったんだが」

「そんな事、私もロールも解かってるわよ。ほら上着」


 詩絵莉は自分が座っていた側の背もたれに掛けられていた上着を掴み、斑鳩へと投げる。


 ――(アキラ)は間違いなく優秀な隊長なんだろうけど、考え"過ぎる"のが良くない癖ね、誰かが止めないとずっと()()()()してそうだもの。

 詩絵莉は肩の力を抜こうとしているのか、上着を片手に腕を肩口から回す彼を眺めながら苦笑したのだった。




・・


・・・



 ――10分後。


 軍事施設の上層、階段を登り切った先の廊下の突き当り。重厚そうな司令室の扉の前に四人は到着していた。殆ど足を踏み込んだことのないその場所に、ギルは「ほお~……」と周囲を見渡しながらなんとも間抜けな小声を発する。


「……ちょっとギル、静かにしてなさいよね」


 詩絵莉が隣で、待機姿勢を崩さぬまま目線だけギルへ向け、上目遣いに小声で一喝する。


「い……いや……ここに来るの初めてでよ……他の階層と違ってやっぱり、少し小奇麗というか、なんというか……」

「うう、緊張してきたあ……また真面目にしとかないとだなあ……」


 おしゃべりは伝播するのか…今度はローレッタが待機姿勢のまま、ふるふると震えながら汗を一筋垂らす。詩絵莉は小声ながらも「はぁあ……」と息を付いたその時。意外な程軽い音で、ドアノブがガチャリ、と開く。


 四人に一斉に緊張が(はし)る――が、そこから出て来た人物は、先ほど出会った教授――峰雲であった。


「やあ、四人とも良く来たね。さあ入りなさい入りなさい」


 にこやかな表情で手招きする彼に若干緊張が解れた四人。彼は扉を開いたまま奥へと姿を消す。

 それに続くように、斑鳩達は待機を解いてドアへと歩みよる。


「部隊識別番号Y028、斑鳩隊・隊長……式狼、斑鳩 暁。入ります」


 斑鳩ははっきりとした声で、所属と式種、加えて名前を告げる。

 間髪入れず、中からは威厳と重圧に満ちた、男性――局長の声で入室の許可が下る。


「入れ」


 斑鳩はそれを受けると「失礼します」と一礼を行うと、局長室に足を踏み入れた。

 彼に続くように、残りの3人も同じく入室するために声を張る。


「同部隊。式狼、ギルバート・ガターリッジ。入ります」

「同部隊!式隼、泉妻 詩絵莉!入ります!」

「ど、同部隊、式梟……木佐貫・ローレッタ・オニールです、入ります!」


 3人もそれぞれ入室の許可を受け、局長が座る目前に配された大きな机を挟み横一列に整列した。

 それを黙って見届けた局長は(おもむろ)に椅子を引いて立ち上がる。


「これが君の部隊か……斑鳩隊長。()()()()()()()()()()()()、などと聞いてはいたが……こうして四人を実際に見ると、とてもそんないい加減な式兵達には見えんな」

「あ、ありがとうございます……局長」


 彼――局長は立ち上がったまま四人それぞれを一瞥(いちべつ)すると、フ、と笑みを湛えながら斑鳩の目を見据えた。局長の放った最初の言葉が意外だったのか、斑鳩は珍しく一瞬言葉に詰まる。


 ウィルドレット・マーカス局長…… 今斑鳩達の目の前に立つこの彼こそ、この第13A.R.K.の最高責任者を努める男である。


 齢50歳を越える彼は、ヤドリギが誕生する以前からタタリギと戦い生き延びた、今はもう数少ないまさに歴戦の勇士であった。


 現在は前線から退き管理職に身を置く彼だが、くすんだ金髪の奥から覗く、鋭く光る青い瞳や湛えたその逞しい髭よりも、顔や首に印された数々の古い傷後が彼の歴史を荘厳に語っている。

 この前線拠点を任されているのも頷ける人物だと、若いヤドリギ達からも尊敬の声が上がる事も少なくない。斑鳩自身も局長の過去の戦歴は資料室で閲覧したことがあったが、彼が知る人物の中でもこの局長は数少ない"()()"と言える存在だ。


「さて……まずは今回の任務報告から先に済ませてしまうか……ああなに、これはついでというヤツだな。作戦指揮代行の彼女もここに同席している。それならついでにここで済ませてしまった方が君達も彼女も二度手間にならんで済むと思ってな」


 そう言うと斑鳩達が並ぶ横……峰雲の隣で凛とした待機姿勢のまま直立不動だった、美しいと表現しても過言ではない女性が一歩前に踏み出す。


「局長もお人が悪いですね。局長の前で任務報告なんてそうそう実戦部隊の子達は経験などありませんよ」


 肩口まで伸ばした、ややふんわりとした美しい赤毛を揺らしながらその女性は局長たしなめる様に苦笑する。


「む……そうか?……どうにも机に縛られる仕事が長く続くとその辺の配慮がおざなりになるな……すまんな、斑鳩隊長」

「いえ……配慮ありがとうございます」


 突然局長から軽く頭を下げるような姿を見せられ、またも内心たじろいでしまった。

 しかし局長をたしなめるとは――斑鳩は緊張からか小刻みに揺れるローレッタに今回の中継局設営に関する報告書と付随する資料を提出するように促しながら、その彼女に目を向ける。


 彼女はラティーシャ・ミルワード……第13A.R.K.作戦指揮代行の肩書を持つ上官の一人だ。


 詳しい年齢こそ知る由もないが、見るに年の頃20代後半~30代手前といったところか。

 背負う肩書にしては異例の若さと言える。


 だが彼女はその美しい外見と丁寧な物腰とは裏腹に、数年前までヤドリギとして前線において素晴らしい活躍をしていたという実績をもっている事で有名だ。


 何でも、「紅のミルワード」等という二つ名を冠する程優秀な式狼で、その動きはまさしく狼のそれ、同僚の式狼ですら彼女の動きを眼で追う事が出来ず、辛うじて目視出来たのは揺れるその赤毛の軌跡だけだった……等という逸話が現世代の若いヤドリギ達の間でもまことしやかに噂されていた。


 現在は前線から離れ後続の指導にあたる教官の立場も持ちながら、大規模な作戦時は各部隊間の連携を取り持ちつつ作戦立案や承認等、この箱舟における戦闘事業を総括する立場としてその敏腕を奮っている。


 斑鳩は彼女が実際に戦う姿を見た事こそ無かったが、彼女が出席する作戦会議や報告で幾度となく顔を合わせており、その効率的な作戦内容や、報告から得た情報を元に次の任務の構築等を行う姿を見て、なる程優秀であるとその肌で感じていた。


「こっ、これが今回の報告書になります……南東区域における中継局設営で、このエリアが新たに相互通信可能な区域に……」


 局長を目の前しての戦果報告は、ローレッタを緊張させるには十分だった。

 だが斑鳩、そしてギルや詩絵莉のフォローもあり、彼女はいつもとは勝手の違う雰囲気で行われた任務報告を滞りなく終了する。

「これで今回の報告は、以上になります……」そう告げたローレッタに、3人はやや安堵を得て思わず深くため息を付く。


「うん……うん……ありがとう、木佐貫。大型タタリギが出現する可能性があった区域でしたが……今回は()も良かったようです。よく四人で無事に果たしてくれました、感謝します」


 ミルワードは受け取った報告資料をぱら、ぱら、と一枚ずつ再び頭から目を通しながら四人へ賛辞を贈る。一通り目を通し直すと、手にした書類封筒に収めながらミルワードは続ける。


「……現在、南東区域は頻繁に(ヘイ)型以上のタタリギが散見される言うまでも無く危険指定区域。今回設営に至った中継局が生きているうちに我々は事を運びたい……しかし現状、2ブロック先の南西区域で没した第14A.R.K.で大量の(テイ)・丙型タタリギが発生……こちらを放っておくわけにもいかず、断続的に中規模部隊を派遣し制圧、奪還を試みているのが現状です。距離が近いぶん、こちらを手薄にすると今度は我々が守るこの第13A.R.K.にも危険が及ぶ可能性があります」


 確かに彼女の言う通り、(さかのぼ)る事1ヶ月程前……南西区域において一つの拠点がタタリギの侵入を許し壊滅してしまったのだ。


 そこの住む人々――そしてヤドリギ達は全滅。

 命を落としただけでは足らず、無残にも寄生され大量の丁・丙型タタリギを生み出す結果となる。

 生存者が()()()()()ため、不気味にも襲撃された経緯や状況は不明であり……それらを解明する意味でもこの第13A.R.K.の面々は躍起になっていた。


「そちらの制圧は、いわば丁・丙型によるヒト型タタリギが相手……つまり物量対物量の図式になりやすい為、君達の様な少数規模部隊の投入は不利が目立つ……けれども逆に大型タタリギに対して、君達は一定水準以上の戦果を上げている事を考慮した結果として、危険な南東区画に振り当てた……そしてその事を承諾して貰えて本当に助かっています」


 そう説明すると彼女は、ス、と(こうべ)を垂れる。


「いえ……打算的な言い方になりますが、俺達は与えられた任務内容を達成出来るかどうか内々で話し合う機会を貰った上で、正式に受諾するかを決めさせて貰っている……その処遇については本当にありがたいと思っています」

「ええ。もちろん君達の実力に沿った任務内容をこちらも提示出来る様に配慮を……と言いたいところですが。今後展開を予定しているさらなる南東区域の攻略……それに関して君達を主軸に据えようと考えている現状、そういった配慮はいずれ出来かねる状況になりえる可能性もまた……()()()()として、覚悟しておいて欲しいのです」



 ――それはつまり……部隊の総力を上回る、死地に赴く様な任務も今後あり得る、ということか……



 四人は彼女、ミルワードからの言葉から鈍い重圧に近いものを感じ取る。


「まあそう脅す事もあるまいよ、ラティーシャ」

「局長……ですがこれは事実。ですがこの彼らの実力、そして伸びしろを信じているが故に今正直に伝えたのです、それに――」


 言葉を続けようとした彼女を局長は右手でそれ制す。


「……そろそろ本題に入ろう、斑鳩隊の諸君。今回お前達を呼び出したの他でもない。ある特殊な任務……とでも言うか。とにかく少々、賜って欲しい事柄があるのだ」


 それぞれ思いを巡らしつつ、その様子を黙って見ていた彼らにヴィルドレッドはひたと視線を向ける。



 ――今後南東区域を中心とした厳しい任務が増える、その通達かと思ったが――特殊な任務、だって……?



 斑鳩を始めとした四人はその特殊な任務、という言葉に眉をひそめた。


「特殊――任務、ですか……」

「うむ……いや、そうだな……」


 そう言うとヴィルドレッドは視線を横にそらしつつ、腕を組みその整えられた髭を開いた手でなでつつやや(うつむ)く。しばらくして顔を上げると、彼――局長は、居た事をすっかり四人に忘れられていた峰雲に声を掛けた。


「……あの二人は応接室に?」

「ええ局長……斑鳩君達の後にすぐ。今は隣の応接室で待機して貰っているところです」

「そうか……では彼らを呼ぶ前に斑鳩隊長、少しいいか」


 呼ばれた斑鳩は「はい」と返事を返しつつも、疑問を顔に浮かべたまま一歩前に歩み出る。

 ヴィルドレッドも一歩前に出ると斑鳩の耳元に顔を寄せ、こうささやき始めた。


「……実は本部――つまりアガルタから使者が今日到着した。何故かお前の部隊をご丁寧に指名してな」

「……俺達の部隊を?」


 小さく頷くヴィルドレッド。斑鳩は一瞬目を丸くし聞き返す。


「アガルタは我々の上部管轄組織でもある。各箱舟に所属する部隊を提出された戦闘ログから把握しているのは当然だが……」

「……経験の浅い俺達を指名したというのが、腑に落ちないと?」

「最前線拠点、アガルタから言えば辺境の末端とも言える箱舟に事前通達も無しに突如として今日未明、来訪の連絡が入った。こちらの受け入れ態勢なんぞ()()()()()()()()()な……今はまだ各地にその名を馳せる強部隊、とうわけでもないお前達をご指名、だ。……()()()()とは思わんか、斑鳩」


 局長の言葉に、斑鳩は心の中でなるほど、と呟く。


 ヴィルドレッドの言う通り、何ともおかしな話だ。

 ログ等があったとしても隊が出来たのは1年半前。成績らしい成績を挙げ始めたのがおおよそ半年前……確かに彼ら斑鳩達の部隊は少人数にしては優秀な戦果を上挙げているのは間違いなかったが、それでもこの箱舟には部隊構成員に差はあれど、自分達以上の戦果を挙げている部隊も当然存在するのだ。


 そこで斑鳩に、ふと考えが(よぎ)る。構成員――部隊に所属する人数――数か……?

 この少数だからこそ指名されたのだろうか。――ではその理由は……?

 何かに気付いたかの様に考えを巡らせる斑鳩の様子を感じ取ったヴィルドレッドは、彼の肩にぽん、と手を置いた。


「……とにかく、これからの事に気を払え。"俺"が今言えるのはそれだけだ。いいな、斑鳩隊長」


 そう告げると数歩、(きびす)を返し――局長は自らの椅子へ歩むと静かにその腰を下ろした。







 ……――――――――第4話 序章 ―R― (2)へ続く。

※第4話は内容が大きくなるため、分割して投稿致します。

※続きとなる(2)を、宜しければお待ち下さると幸いです。

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