第9話 エピローグ Part-1
13A.R.K.を後にした斑鳩とギル、そしてフリッツ。
3人はアダプター1へと向かう装甲車に揺られていた。
次第に近付くかの地。だが、記憶にあるアダプター1の姿は、大きく変わっていた。
Y028部隊が奪還し、確かな拠点として機能しつつあるアダプター1。
幾度めか、彼らは降り立つ。再び、皆と合流する為に。
「おお……?! 見ろよイカルガ、防壁出来てんぞ、防壁」
装甲車に設けられた小さな覗き窓から見える光景に、ギルは思わず声を挙げ斑鳩の肩を叩く。
アダプター1……Y028部隊が乙型壱種を退け確保した拠点跡。その入口には、装甲車が一台通れる程の門が設けられ、その左右からは様々な廃材や資材を利用した簡易的な防壁が設けられていた。
「……本当だ。 凄いな、これは」
ギルに促された斑鳩は、覗き窓から見える光景に大きく頷く。
アダプター1全域、という訳ではないが、以前駐留した仮拠点を中心に大きく取り囲む様設置された防壁に二人は目を見張る。防壁の外には未だ倒壊し放棄された建造物が立ち並び、当然死角も多い。タタリギの侵攻を防ぐには物足りない壁ではあるが、簡素ながら3m半程はあろう防壁は、破ろうとすればどこから侵入があるかは一目瞭然、素早い対処へと繋がるだろう。
それに、ただ壁がある……それだけで、ここはある程度の安全が確保されていると、おのずと中で活動する人たちの心も落ち着くものだ。
資材物資を積んだ斑鳩たちが乗る運搬用の装甲車は、門の上から手を振るA.R.K.の隊員……恰好からして、どこかの部隊に属するヤドリギだろうか。彼の合図で開いた門を潜り抜けると、以前アダプター2攻略時に作戦室や居住場所として用意されたコンテナハウスがあった場所へとゆっくりと進み、停車した。
「到着しました、斑鳩さん、ギルバートさん。 お疲れ様でした……道中、タタリギの襲撃が無くてホッとしましたよ……」
斑鳩とギルの横、同席していたA.R.K.の整備士の一人が斑鳩たちへ向けて一礼する。
斑鳩は同時に彼が差し出したボードに載せられた書類に数か所サインを行いながら大きく頷いた。
「セヴリン……また貴方と仕事が出来て嬉しかった。 すぐにA.R.K.に帰投するのか?」
やや長い茶色い頭髪を揺らし、セヴリンは以前と変わらず人懐っこそうな笑顔を浮かべ、サインされた書類を確認すると斑鳩へと頷いた。彼は以前、Y028部隊が使用する兵装を管理する立場にあった男だ。斑鳩たちがあたるより以前に展開されていた、多数部隊を投入しての14A.R.K.奪還作戦。その別部隊の兵装管理へ招集され、Y028部隊の担当を外れていた。今回、期せずして資材運搬の為装甲車の運転を担当するのが――彼だったのだ。
「ええ、ここにはまだ浄水設備も簡易的なものしかありませんからね……。 そういった排水などのタンクや、他にも兵装管理に必要な工具も交換しなければ……そうですね、諸々搬入と搬出を終えれば、2時間後には……」
笑顔ながら、どこか疲れた様子で一息付く彼に斑鳩は小さく頭を下げる。
道中聞き及んだが、現状どこの部署も今、圧倒的に人手が足りてないらしい。彼は本来整備士としてA.R.K.内で勤務しているが、こうして資材の回収や運搬員としても駆り出されている様だ。先日は二度、A.R.K.とこのアダプター1を往復したらしい。
「セヴリン、状況が状況だが貴方の様な縁の下が居てくれるからこそ、俺たちは戦っていられる。 本当に頭が下がるよ。 帰投時は別のヤドリギが護衛に就くだろうが……どうか気を付けて」
斑鳩は本心からそう言うと、右手を差し出す。一瞬きょとんとした彼だったが、直ぐに右手をくたびれた作業着の裾で拭くと、斑鳩の右手を握り返した。
「……斑鳩さん、ありがとうございます。 いやはや、貴方たちの撃牙を診ていたのが懐かしい。 とてもじゃないが、それは私には荷が重そうだ……こちらこそ、フリッツを宜しくお願いしますよ」
彼が視線を向けるのは、斑鳩とギルが装着している螺旋撃牙。
あの14A.R.K.の戦いを経たとは思えない程、二人が装備するそれは完璧に整備されていた。道中、彼は言った。曰く、「とても真似して造れるような構造じゃない」らしい。
「彼が働いているところは私も初めて見ましたが……正直、妬けましたよ。 今のY028部隊に必要なのは間違いなく、彼でしょう」
言いながらどこか誇らしそうに笑うセヴリンに、斑鳩は申し訳なさそうに笑みを浮かべる。
Y028部隊が細々とながら成績を収め続け、今の評価を得たのは彼の助力があってこそだった。斑鳩もギルも、二人ともそれを重々理解し、改めて感謝を示す様に彼へと頭を下げる。
ギルは振り返ると、傍ら――
運搬される資材の隙間、埋もれる様に眠るフリッツの肩を揺らした。
「おい、フリッツ! 起きろ、着いたぞ。 ……つうかお前、そんなもん抱いて寝てたら風邪ひくぞ」
「ああッ……うう……大丈夫だよ……これはアルミだから……熱伝導率は結構……いいんだ……」
「……よくわかんねえけど、お前ちっと後でちゃんとベッドで寝て来いよ。 いいな?」
金属で出来た一抱え程あるタンクに抱き着くよう眠っていたフリッツは、揺するギルに寝ぼけながら言葉を返しつつ起きると、慌てて胸ポケットから歪んだ眼鏡を着ける。ギルは差し出された彼の手を掴むと、資材の隙間から彼を一気に引き抜いた。
「……も、もう着いたのかい? 僕、結構寝てた?」
「資材搬入してる時から寝てたからなぁ、お前。 一緒に積んでやったよ、俺が」
「ええ!? そ、そうか……通りで、乗り込んだ記憶がないわけだ……迷惑掛けたね」
言うと、口元をごしごしと拭いながらフリッツはばつが悪そうに眼を閉じる。
「大丈夫か、フリッツ?」
「あ、ああ。 斑鳩隊長……もう大丈夫だよ」
その様子を狭い装甲車の中、ギルの背中から覗き込むように声を掛ける斑鳩に、フリッツは親指を立てる。だが、その表情には疲れがありありと浮かんでいた。
14A.R.K.から帰投後、斑鳩が眠っていたその間――
彼もまた、他の仲間たちと同じように働き詰めていたのだ。Y028部隊が使う兵装のメンテナンスや、今後遊撃部隊として活動する際の備品の調達、さらにはローレッタが使う木兎の改修に加え、N31式兵装甲車の解析や修理……。
今やあの暗い通路の奥、引き籠って腐っていた頃の面影は彼にはない。あの時間を取り返すように、彼は必死にその能力を余すことなく、部隊へと注ぎ込んでくれている。その彼もまた、今の斑鳩から見て他の仲間と同様に眩しく映っていた。
セヴリンと別れの挨拶を交わすと、斑鳩とギル、そしてフリッツの三人は開かれた装甲車のサイドハッチから外へと出て、辺りを見渡す。
乾いた地面。地面を撫でる風にうっすらと舞う砂。
その向こうからこちらへと大きく手を振る人物が駆け寄ってくるのが見える。
「いーかーるーがーっ、たいちょおー……ッス!!」
頭頂部で結び上げた黒髪を揺らしながら駆ける小柄な女性――Y036部隊の五葉つかさだ。
「五葉さん。 久しぶりだな」
「いや~、皆さん久しぶりッスね! ギルやんもフリッツさんも……と、あれ? 斑鳩隊長、ちょっと雰囲気、変わったッスか?」
駆け寄るや否や、ギルとフリッツへとの挨拶もそこそこ顔を覗き込んできた五葉に、斑鳩は少し背筋を伸ばし、ひと房白髪が混じった髪の毛を手で解く。
「あ、ああ……これか。 そのまあ、何というか……色々あってね」
その様子に五葉は僅かに首を傾げると、続けて首を小さく横に振った。
「うんにゃ、髪ではなくてこう……全体的に? 何て言うのかなぁ……ねえ、ギルやん」
「あのなあ、俺に振るなよ……っつうか、ギルやんと呼ぶな前も……」
ギルは言葉とは裏腹に再会を喜んでいるのか――
少し笑いながら、身長差のある彼女に向けて軽くチョップを放つが、彼女はそれをヒラリと躱しながらフリッツの前へと躍り出る。
「やあ。 君も元気そうで何よりだよ」
「フリッツさんは相変わらず不摂生そうッスねー、いい感じッス! でもフリッツさんも思いません? 斑鳩隊長、何か変わった気がしないッスか?」
「……男は戦いを潜り抜けたぶんだけ成長するもんなのさ。 なあ?」
フリッツに寄った彼女の傍らから聞こえた、唐突な声。
斑鳩たちは一斉に声の方へと向き直ると……そこには、Y036部隊の隊長。以前作戦も共にした、マルセルと、見慣れぬ黒髪の少女が立っていた。
「……マルセル隊長」
「よう。 久々だな、斑鳩隊長殿。 どうやら元気そうだ……体調はもういいのか?」
オールバックでまとめた茶髪と、相変わらずバッチリと整えられた顎髭。
マルセルはニヤリと笑いながら歩み寄ると、斑鳩と握手を結ぶ。斑鳩は「ああ」と頷き、力強く右手を握る彼の手を握り返す。
「掻い摘んで状況は聞いている、また無茶をしたらしいじゃないか。 だが……」
斑鳩の右手を強く握ったまま、マルセルは細い瞳を少し見開くと、斑鳩の黒い瞳を真っ直ぐに見つめる。
「……なるほど。 一段とまたいい男になった、ってところか。 五葉、嫁に行くならこういう男の所へ行けよ」
「ええーっ!? 斑鳩隊長がダンナだと、マルセル隊長とは違った意味でスリリングな毎日が送れそうッス……」
振り返りニヤリと口元を上げるマルセルに、五葉は両手を上げる。
そのやり取りに斑鳩は苦笑すると、握っていた手を解く。
「マルセル隊長……そちらの近況も道中聞いたよ。 実際に目にしたこのアダプター1の変わりよう……凄いな。 タタリギからの襲撃も何度かあったと聞いているが」
斑鳩たちは改めて当たりを見渡す。
防壁だけではなく、以前は4つ程しかなかったコンテナハウスは今、12棟まで増えていた。行き交うヤドリギや整備士、回収班の姿も多い。仮拠点とされていた頃より時間はそれほど経っていない筈だが、大きく変貌を遂げたアダプター1に驚きを隠せない。
「まあな……どれもギリギリの戦いではあったが。 何しろ急ごしらえの護衛部隊だっただろう。 うちには梟が居なくてな。 一応13A.R.K.から入れ代わり立ち代わり、派遣して貰って何とか……ってところだな。 彼女もその一人さ」
言うと、マルセルは傍らに少し距離を取ったまま、無言で立っていた少女の背中を押す。
彼女は強く背を押された勢いで数歩たたらを踏むと、斑鳩の前へ。ぼさぼさで不揃いな黒髪に、大きな眼鏡。俯いたままなのでその表情はうかがえないが……。
「…………」
斑鳩の前へと突き出され、無言のまま俯く少女に斑鳩は違和感を覚える。
「……んん?」
「どうした、イカルガ? 知ったヤツか?」
何かを感じた斑鳩が目の前の少女の顔を覗き込むさまに、ギルとフリッツも何事かと横に並ぶ。三人囲まれるような形になった黒髪の少女は、顔を背け、より一層深く俯いてゆく。
「……お……お前……」
「「?」」
何かに気付いたように大きく目を見開く。
「もしかして……アール、なのか……!?」
普段聞き覚えの無い素っ頓狂な声を上げる斑鳩に対して、少女はびくん、と大きく体を震わせる。
傍らの二人、ギルとフリッツも彼の声に驚いたが、それ以上に斑鳩の言葉に思わず身を屈め、少女の顔を覗き込む。
「……ええ!!?」
「は、はあ!? 何言ってんだイカルガ、だってこいつ黒髪……」
三人の驚きに、傍らでマルセルと五葉はクック、と笑いを堪える様に腹を抑えると――黒髪の少女の肩をぽん、と叩いた。
「本当に気付かないもんなんだな、アール、賭けは俺たちの勝ちだな!」
「もう、隊長! アールさん、可哀想ッス! アールさん、もういいッスよ!」
その言葉を聞き、肩を叩かれた少女は顔を上げ……眼鏡越しにやや不満そうな表情で、見慣れた紅い瞳に斑鳩の姿を見上げ写す。
「……斑鳩」
「な……え、ええ!? ど、どうしたんだ、お前その髪……!!」
名を呼ばれた斑鳩は思わず、アールの髪の毛に両手で触れる。
「あっ、だめ……」
「のわー!! 斑鳩隊長、お触りはうちのお店では厳禁ッスよ!!」
「……なんの店だ、何の」
驚きながらも冷静に突っ込み返すギルの傍ら、斑鳩の手が触れた黒髪が頭部を撫でるようにずるり、とずれる。その端から覗くのは、いつも通りの白髪……。
「かつらだよ、か・つ・ら」
五葉とアールが必死で黒髪……いや、かつらを着け直す横で、からからとマルセルは笑う。
「お、驚いた……。 ! 確かにアールが式梟として派遣されたと聞いていたが……」
斑鳩はハッと周囲を見渡す。規模が大きくなり、マシラの出現により厳戒態勢が敷かれているこのアダプター1、当然マルセルたち以外の部隊も駐留している。
「そうさ。 ここに居るのは、お前さんらと作戦行動を共にし、ある程度事情を把握しているY036部隊だけじゃない。 流石に彼女の白髪は目立つからな……いつもフードを被っているのも違和感だろう?」
「うう……」
アールは頭部を抑えると、上目遣いでちらりと斑鳩たちを見上げる。
その目には、恥ずかしさ……も、あるだろうが、今まで気付かなかった事に対する、どこか批難するような表情が浮かんでいる……ような気がしなくもない。
「いや、アール! 気付かなかったのは悪かったけどよ……! 流石にこいつは気付けねえぞ……なあ?」
「あ、ああ。 僕も全く気付けなかった……制服もいつもと違う式梟のものだし、その眼鏡も……いやはや、こうも印象が変わるものなんだね……ア、アール、ごめんよ」
掛け慣れていないのか、それともサイズがあっていないのか。
彼女が付ける眼鏡、よく見るとレンズが入っていない。確かに今のご時世、眼鏡もかなりの貴重品ではある。もっとも、レンズのないフレームだけのものを僅かばかりのお洒落、と身に着けているものも居るには居るが……。
「しかし、かつら……ウィッグというやつか、初めて見る。 これは……」
「……マルセルたちの、孤児院の子たちの髪の毛……で、作ったんだって」
斑鳩がまじまじと見つめる中、アールが小さく呟く。
「そうッス! 集めた髪でもって自分がパパパっと作ったんスけど……これがまた効果てきめんってやつッスよ! 彼女が式神って事んモガァ?!」
どやどや!とばかりに胸を嬉しそうに張り声を上げる五葉の口を、マルセルの手が慌てて塞いだ。
「まあ、そういう事だ。 これならこれからの活動もある程度、彼女をいたずらに目立たせる事もないだろう? ……まあ、それはそうとして……斑鳩。 彼女と話したい事があるんじゃないか? アールも、な」
こんな空気を作った一任はあんたにもあるだろう、とややジト目を向ける斑鳩とアールの視線をマルセルは受け流す様に笑うと、五葉の口を押える反対の手でアールの背中をポン、と再び叩く。
「あ……」
「……!」
距離が近まる、斑鳩とアール。
彼女は黒髪のウィッグを抑えたまま、斑鳩を見上げると――大きな紅い瞳を、何度か瞬かせる。
「……斑鳩、大丈夫? ほんとに……ごめんなさい」
「謝らないでくれ、アール……むしろ、謝るのは俺の方だ。 無茶をさせてしまった……が、アールが力を貸してくれたからこそ、あの窮地を切り抜ける事が出来たんだ。 それに、お前が俺を助けてくれたのは……覚えているよ。 お前の方こそ、その……大丈夫なのか? ……あの力を使って、何か、身体に変わった事は、ないか?」
深過解放、そして深過共鳴。
あの戦いの前夜、何かしら体調に異変を抱えていたであろう彼女。何かしらの更なる副作用はなかったのか、とばかりに心配そうに優しく両肩に手を載せ顔を覗く斑鳩へ、アールはふるふると小さく横へと首を振った。
「……あれだけ長く深過解放していたのは初めてだったけど……ふしぎ。 どうしてか、分からないけど……今は全然へいき、だよ」
「そうか……なら、良かった……」
心底安心した様に胸を撫で下ろす斑鳩の黒い瞳を、アールはじっと覗き込む。
斑鳩の内側で触れた、彼の感情。そして、そこへと現れた何か……。斑鳩は、どこまで覚えているのだろうか?……話したい事は沢山ある。だが、流石にこの場では、と、アールは喉まで出掛かった言葉を飲み込む。
「……うん。 でも、その髪……」
アールは踵を僅かに浮かし、ひと房白髪となった斑鳩の頭髪に手を伸ばす。
「これ……ごめん。 きっと、これ……あのせい……だよね」
「あ、ああ……目が覚めるとこうなってたんだ。 いやでも、気にしてないぞ」
苦笑する斑鳩の横腹を、傍ら会話を眺めていたギルがつつく。
「安心しな、アール。 むしろ気に入ってるっぽいぞ、イカルガ。 鏡見ながらずっと髪の毛弄ってたしな……いてえ!」
言葉尻、「余計な事を言うな」とばかりに斑鳩のヒジがギルの脇を捉える。
二人のやりとりに驚きながらも、彼らの後ろ――笑顔で小さく手を挙げるフリッツに応えるよう頷くと、アールは脇腹を押さえるギルへと向け、視線を仰ぐ。
「……ギルも。 ありがとう、斑鳩を……見てくれていて」
「あ? ああ、当たり前の事しただけだからよ、礼なんざいらねえって」
当たり前の事。そう言いながら事も無げに手をぱたぱたと振るギルに、アールは僅かに笑みを浮かべる。もし深過し、斑鳩がヒトでなくなってしまったら。もしそうなれば……斑鳩を、"処分"する。14A.R.K.から帰投した直後、下された命令を一人、ギルは誰よりも早く受け入れていた。
……ギルにとって、斑鳩とはどういう存在なのだろうか。一番信頼を置く仲間の一人であることは間違いないだろう。だが、そんな仲間を自ら手に掛ける役目を彼は迷わず引き受けた。
――「スッ転がってる立場が逆だったらよ。 ……斑鳩も同じ事を言うと思うぜ」
昏睡する斑鳩の前であの時の彼の表情……そこに確かに感じた、意地と誇り。ギルにとって斑鳩は、それ程に大きく……そして対等な存在なのだろう。アールは静かに頷く。
――その時だった。
遠巻きから、砂煙をあげつつ門をくぐる一台の装甲車。
どこかの部隊が乗っているのか、それとも補給物資の搬入だろうか。こちらへとゆっくりと向かって来るその装甲車に、皆は一斉に視線を向ける。
「時間より早い到着だな。 ……さては誰かさんが急かしでもしたか?」
マルセルは車体横に描かれたナンバーを隼の目で確認すると――
一人、ニヤリと笑みを浮かべ両の腕を組んでみせた。
……――第9話 エピローグ (2)へと続く。