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ヤドリギ <此の黒い枝葉の先、其処で奏でる少女の鼓動>  作者: いといろ
第5章 進むは深く、示すは真価
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第9話 進むは深く、示すは真価 (2)

キース・ミルワード…

アガルタへと出向した妻、ラティーシャに代わり司令代行を務めるその男は、14A.R.K.を渦巻く現状を静かに、そして詳細に語り始める。


それは、彼が彼女と夫婦という驚きも冷める事実と現状が、Y028部隊を待っていたのだった――。


「……さて、では本題に入りましょうか、っと」





 彼――キースは、資料を片手に、よどむ事無く作戦の概要を語り始めた。


「今から約9時間前……(くだん)の第14A.R.K.(アーク)において、作戦行動中のY015部隊が未知のタタリギ1体と会敵。 同時刻、戦闘にも発展しました」


 どこか気怠そうではあるものの、その姿と雰囲気は前線から長く離れていた人物とは思えない程に()に入っている。それを感じさせるのは司令代行という重職にも関わらず、どこかひょうひょうとした態度――そしてそれと相反する、あの鋭い目付きがそう感じさせるのだろうか。


 態度とは裏腹に先程までの柔和な色は消え、鮮やかな青い瞳に浮かぶ迫力――

 それはどこか、ある種の大物感すら斑鳩たちに感じさせる程だった。


「奪還作戦遂行中の同部隊に随行する回収班、Y030部隊が制圧エリアの残留物資を確認していたところ、食糧庫内で対象を発見……との事ですねえー」

「……食糧庫内?」


 そんなキースの説明に真剣な面持ちで耳を傾けていた斑鳩は、思いがけない場所での会敵を耳にすると、眉を僅かに跳ね上げた。


「ええ。 食糧庫内で……です、斑鳩隊長」

「……」


 事も無げに頷くキースを見ながら、斑鳩は口元に手をやり、目を細める。


「……どうかしたの、暁?」


 その様子に、詩絵莉は首を傾げた。


「ヴィルドレッド局長……いえ、キース司令代行。 我々が南東区域……アダプター1、2出向の間に展開されていた第14A.R.K.奪還作戦の進捗について、まずは現状を伺っても宜しいでしょうか」


 斑鳩は詩絵莉に一瞬視線を向け、小さく頷く。

 真剣な面持ちでの質問にキースはぽりぽりと頬を掻きながら、机の上に積まれた別の資料を手に取った。


「っと、これは失敬失敬……戦況の共有が先だった。 いやあ、やっぱり現場から離れると駄目だねえ……っと、えーと現在の作戦進捗状況を整理すると……」


 キースは苦笑すると第14A.R.K.奪還作戦の進捗が記載された資料を手に取り、読み上げ始める。


 第13A.R.K.に所属するヤドリギ部隊の斑鳩たちY028、そしてマルセル率いるY036部隊を除く大半が動員された作戦である。キースは復習してみましょうか、などと軽い口調で説明し始めるが、浮かべる表情は口調と裏腹に厳しい。

 何しろ13A.R.K.より小規模だったとは言え、少なくない人間が暮らしていた拠点がまるまる一つ、タタリギによって陥落しているのだ。


 彼は自らも現状を改めて確認する様に、時折ヴィルドレッドからの注釈も得ながら、他のヤドリギたちがラティーシャの指示により展開した作戦内容を資料に沿って丁寧に、そして淡々と読み上げていく。


 フェーズ1では、第14A.R.K.の周囲に包囲網を敷き、それを狭めながらかの地から漏れ出たヒト型タタリギ……(ヘイ)丁型(テイガタ)に対する討伐を敢行。

 フェーズ2では、区画制圧を目的とし内部へと侵攻、接敵した人型、ならびに乙型などの大型タタリギを陽動、及び平地での排除。

 フェーズ3では、制圧した区画に対する重点的なクリアリングと同時に、回収部隊を随行させ再利用可能な物資の確認と、可能であればこれを回収。


 かつての同胞が敵の大半という、まさに地獄の様相を呈していると言っても過言ではない第14A.R.K.の奪還作戦。


 当然無傷とは行かず、多数の死傷者を含む損害こそ出ていたものの――継続的な兵力の派遣により、作戦自体は何とか成功と言える形で佳境を迎えていた。


 斑鳩たちは、キースが語る自分たちがアダプター1、2へと出向していた間の状況を神妙な面持ちで耳を傾ける。


「……以上が、未知のタタリギが発見される直前までの状況説明、といったところですねえ」

「犠牲こそ出てるものの、14A.R.K.の奪還は間近だった……と」

「そうだ」


 キースの結びに対し複雑な表情を浮かべるローレッタの言葉に――机を挟んだ、向こう側。

 ヴィルドレッドは大きく頷いて見せる。


「原因不明の陥落を果たしタタリギの巣窟となった第14A.R.K.……その奪還は、目前だった――だが」


 ヴィルドレッドはそう言うと、苦虫を噛み潰した様な渋い表情を浮かべると、キースに視線を向ける。


「そこで現れたのが、正体不明のタタリギ――と、いう訳ですねえ」


 局長からの視線にキースは肩を竦めると、改めて資料に目を落とす。

 同時に細めた瞳……その右目だけをいぶかし気に開くと、ふむう、と吐息を漏らした。


「現在の第14A.R.K.の現状と、この資料を見て……皆さん。 何か気付く事はありますかね」


 何かを期待する様な眼差しで、ちらりと皆の様子を資料越しに伺うキース。

 その視線に、斑鳩は大きく頷いた。


「ええ……資料の――ここ。 "確認出来た物資倉庫のほぼ全てが荒らされており、再利用可能な物資の回収は現状、期待値の12%未満"……」


 斑鳩が読み上げる一文を皆が目で追う中、ギルは首を傾げてみせる。


「A.R.K.内が戦闘区域になったんだろ? 物資に対する損害も不思議な事じゃねえと思うけど、何が引っ掛かるんだ?」

「……資料によると、複数の乙型タタリギとの交戦もあった様だ。 当然、戦闘被害による損失もあるだろう――だが、問題は次の行だ」


 ギルの言葉に視線を受けてもなお、資料に落としたまま。

 斑鳩は目を細めて資料に並ぶ文字を再び読み上げる。


「……"中でも、食料貯蔵庫における被害は著しく、万能ナッツの苗木や保存されていた種子までも何者かにより酷く荒らされており"……()()だ」


 斑鳩の読み上げた一文を耳にすると、キースとヴィルドレッドは互いに視線を合わせ、頷く。


「……え、ほんとだ、ちょっと待って。 タタリギが食糧庫を荒らした……ってコト?」


 詩絵莉は一通り関連する項目を読み上げると、信じられない、と言う様に声を上げる。その隣では、ローレッタも複雑な表情を浮かべ、両手で持った資料を食い入る様に見つめていた。


「んん? ……何かおかしい事か?」


 一人、何の事だと首を傾げ続けるギルの脇で、アールが横目でギルを見上げる。


「……タタリギは、ヒトみたいに()()()()()()()()()()()……。 水分と日光があれば、活動出来る……から」

「――そうだ。 ギル、教授が居なくてよかったな。 また小言を言われるところだったぞ」

「うぐ……! あ、ああそう言えば、そうだったぜ……。 って事は、あれか。 食糧庫を荒らしてるっつう事が、そもそもおかしいって事か……確かにな」


 背中に詩絵莉とローレッタの厳しく突き刺さる様な視線を感じながら、ギルは振り返る事なく何度も頷いてみせた。


 そう……タタリギは基本、いわゆる"食事"を行う事は無いとされている。


 それは寄生される元……いわゆる素体が一般的な民間人、またはヤドリギ――つまりヒトであった(ヘイ)丁型(テイガタ)であっても同じだ。

 タタリギ発生から現在において、外部からエネルギーを直接摂取した、している、といった記録は()()()()()


 タタリギの生態論文――アガルタが発表した論文を信用するのであれば、ではあるが……その実生態は、植物のそれに近いとされている。


 つまり、日中、光合成によりエネルギーを得て行動し、消費する。


 必然的に夜間、大型タタリギが活動を弱めている事からもこの論は当たらずとも遠からず、と言ったところなのだろう。加えて水源地や湿地帯などでは、タタリギが活発になっているという研究報告もある。


 反面、人間を素体とする丙・丁型タタリギに関してはやや事情が違う。


 タタリギに寄生された直後――恐らくはタタリギとの融合率……深度経過率が低いヒト型タタリギは、夜間でも日中とさほど変わらず活動している。


 これは、体内に蓄えられたエネルギー、カロリーを消費する事で活動しているのではないか、というのが一般的な推論だ。苦手とする夜間活動を補うため――ヒトに寄生する理由の一つとしてもこれらは論じられている。


 余談ではあるが、斑鳩たちヤドリギは、A.M.R.T.によりヒトである事を保ちながらタタリギに一時感染している状態。あくまでも生物上の基礎はヒトであるため、食物によるエネルギー摂取は常人と変わらず行える、という訳だ。


「食糧庫を中心に物資が重点的に荒らされている……当初作戦に当たっていた部隊員は、"野良"の関与を疑ったらしいけれどねえ」


 キースはそう言うと、机の上から新たな資料を一枚手に取り、斑鳩へと手渡した。


「"野良"……A.R.K.……アガルタに属さない"離反したヤドリギ"たち……ですか」


 その資料には、昨今確認された"野良"とされる者たちの活動報告が纏められていた。


 "野良"……元々はヤドリギとしてA.R.K.、またはアガルタの関連施設などで働いていた者たちが、ヤドリギとしての職務を放棄し、独自の利益の為に奔放した存在だ。内地などで非合法の積み荷の運搬の幇助や、各地に放棄された基地跡の非合法な探索や物資を回収、その品々をアガルタの管理を掻い潜り、市場などに下していると言われているイリーガルな存在である。


「そう。 けれどまあ、第14A.R.K.は普通の状況じゃない。 まして、"野良"が小規模で活動出来るようなヌルい場所でもないだろうしね。 彼らの関与は今回に限って無関係である――と、こんな所ですか、局長」

「ああ。 野良は野良で、我々が放置すべきではない問題の一つではある。 ……だが、今は()()()だ」


 言うと、ヴィルドレッドは渋いを浮かべながら一枚の写真をファイルから抜き出し、斑鳩たちへと写真を差し出す。 斑鳩は机の上に静かに置かれたその写真を手に取ると、思わず目を見開いた。


()()()……」


挿絵(By みてみん)


 白黒の写真……そこに写されていた、"黒い影"。

 目を凝らさずとも明らかに今まで見てきたタタリギと比べ異質な存在が、そこに写し出されていた。


 背丈は周囲の光景から対比するに、2m強……といったところだろうか。

 瓦礫が散乱する部屋の中、明らかに二足を以ての出で立ち。その身には、渦巻くように乱れた頭髪……いや体毛……だろうか。それともタタリギ特有のあの黒く強靭な黒い蔦なのか……。


 なびく黒い影を纏った肥大した上半身。長く、太い前足……いや、腕部はやや右の方が肥大している様にも見える。


 恐らく咄嗟に撮影したものなのだろう。

 光量自体も少なく、ピントも甘いためその細部を伺う事は出来ないが――。


 驚きの表情を浮かべたまま固まる斑鳩の手元、皆も写真を彼の背後から覗き込み、初めて目にした異様なタタリギを確認すると一様に眉をひそめ、怪訝そうな表情を浮かべる。


「なんだあ、こいつは……こんな奴、確かに見た事ねえな……」

「……我々も通信で報告を受けた段階では、丙型亜種(ヘイガタあしゅ)の類だろうとある意味楽観視していたのだがな」


 ヴィルドレッドは複雑な表情を浮かべるY028部隊の面々にゆっくりと視線を這わすと、大きなため息を漏らす。


丙型亜種(ヘイガタあしゅ)……長い時間、深度経過を経て通常の丙型(ヘイガタ)個体よりも戦闘力を増したヒト型タタリギ……か。 でも、とてもこれは()()には見えないわね……」

「ヒトの姿に似てはいる……けど。 こんなタタリギは、私も見た記憶がない……」


 写真を呆然と見つめながら口にした詩絵莉の台詞に、同じく写真に視線を向けたままのローレッタは気味悪そうに眼を細めた。


「そう――これが今回、Y028部隊(きみたち)に調査、及び可能な場合討伐して貰いたい対象……ちなみに、この正体不明のタタリギは便宜上、以後"マシラ"と呼称……正式な名称が決定されるまでは、ね」

「……マシラ?」


 キースが発した聞き慣れない単語に顔を上げた斑鳩に、ヴィルドレッドは「ああ」と頷く。


「全身を覆う体毛……肥大した上半身に、長い腕――いわゆる、"猿"だな」

「サル、ですか……なるほど」


 写真に頷きながら「……それっぽい」と小さく呟くローレッタに、"猿"――いや、動物自体になじみの無いギルと詩絵莉は思わず目を向ける。

 その視線を受けると、彼女は、ぴ、と人差し指を立ててみせた。


「昔、山々に居た動物の一種だよ。 古雑誌で見た事があるなぁって。 確かに、こんな見た目だったと思う」

「ああ、サル……猿ね。 あたしも見たコトあるかも、本で。 ……人類の祖、なんだっけ?」

「所説あるらしいけどね、とりあえずその認識で間違いないと思うよ」


 思い出したという風にゆっくり何度か頷く詩絵莉は、改めて斑鳩が手に持つ写真へと興味深そうに視線を落とす。そんな彼女に続くように隣でギルは、「よくわかんねえけど、わかったぜ」と何故か得意気に首を縦に振っていた。


「……仮にただの丙型亜種(ヘイガタあしゅ)ならば、深度にもよるが通常部隊でも対処は出来る。 だが、想定外の奇襲を受けたとはいえ、タタリギ一体相手に襲撃された回収部隊は半壊。それに気付き交戦に入ったY015部隊も翻弄され、突破されたのだ。 ……こいつの左手を見てみろ」


 言うと、ヴィルドレッドは顎で皆に促す。

 斑鳩は言われるがまま、写真のマシラの左手を注視すると――確かに、光量が少なく分かり辛くはあるが、何かを手にしている。


「何か袋……の、様なものを持っている様に見えるな……」

「これ、レーションが入ってた袋だと思う。 ……装甲車の中で、見た」


 ぴくり、と片眉を上げる斑鳩の隣、アールは彼の手元をカカトを浮かせ覗き込むと自信ありげに頷き、ゆっくりとした動作で視線に掛かる前髪をかき分ける。


「この場所はヤドリギに卸す食料品が加工・貯蔵されていた場所でして。 恐らくアールさんの見立て通り軍用レーションが詰められた袋……と見て間違いないでしょうねー。 つまり――」

「……本当にこのタタリギが食糧庫を荒らしている、という事か……しかし食事をしない奴らが、何故そんな事を……」


 頷くキースの言葉に、斑鳩はマシラが写る写真をゆっくりと机の上へと戻した。

 顔に浮かぶ解せないといった表情の色を濃くする斑鳩に、ヴィルドレッドは厳しい表情を浮かべると、ゆっくりと口を開く。


「他部隊からの報告では、万能ナッツのプラント内も相当に荒らされている様だ。 被害規模の詳細は分からんが、もしタタリギが……マシラが食料を求めた末、破壊して周っているとするなら。 種子や苗だけではないくプラントとしての機能面に対するダメージも深刻と言う他ない……間違いなく、第14A.R.K.再建にも影響するだろう」

「……そんな、()()()()まで!?」


 ローレッタはヴィルドレッドの言葉に思わず声を上げる。


 そもそもタタリギは、命あるもの――ヒトを襲い、蹂躙し、殺すだけ――の、存在である。

 そしてヒトが作り操る兵器に対しても、それは同様。 破壊し、その身を宿らせ、我が身とし……ヒトを襲い続ける。


 それを本能――。

 根底に満ちた性質だとするのならば、この点においてはタタリギの思考は単純かつ、明快なものだ。


 ヒトが住まう場所を襲い、文明を襲い。

 動くものが消え完全なる沈黙が訪れるまで――頑なに、執拗に()()繰り返す。


 だが、逆を言えばそれ以外の行動――例えば、無人と化した街に対して継続した破壊活動や、思うがまま目に着くもの全てを破壊する様な事は無い。


 アダプター2がいい例だろう。かの地は十余年前に陥落した対タタリギの為の要塞であったが、通信塔はメンテナンスを行う人間が消えたことにより一部崩壊こそしてたものの、要塞としての外壁……そして非戦闘用の機器類に関しても、当時のまま残されていた。


 だが、タタリギの巣窟に堕ち果てたとはいえ、()()()()()()()が居なくなったA.R.K.を破壊し、あまつさえ食料を奪うタタリギ――この様な存在は、未だかつて観測された事例はない。


「この前例の無いタタリギ……獣じみた姿からも、従来のヒト型でも無ければ、兵器寄生型でも無い……つまり、純種の可能性もある。 そこで貴方たちをこうして呼び揃えた、と。 ……純種を討伐せしめた実績を持つ、貴方たちを……ね」


 キースはゆっくり頷くと、皆を見渡した後――改めてアールへとその視線を向ける。


 彼女は一瞬その視線にうっすらと困惑する表情を浮かべ、やや俯きキースからの視線を外す。

 斑鳩はアールと、その視線に気付くが……彼の視線に悪意の様なものは感じられない。むしろ、含ませているのは期待と興味……だろうか。



 ――ミルワード……いや、ラティーシャ司令代行の夫、か……



 初めて見る人物ではあったが、どこか底が知れない雰囲気を持つ男だ。

 だがヴィルドレッドの態度、表情から見てもキースはそれなり以上には信頼を得ているのだろう。そして彼の口ぶりから察するに、当然アールの事も、ラティーシャからの引継ぎの事案に入っているのは確実だ。


 それを踏まえて、アールへ向けられたあの表情。


 状況における理解も深いのかもしれない。そして、今では極めて稀な存在でもある"純種"という存在に対する態度を見ても、タタリギに対する造詣も深そうに見受けられる。


 いや、だからこそラティーシャ……あの紅のミルワードと呼ばれた彼女の推挙……なのかもしれない。


「……ええ、事態は把握しました。 確かに、前例の無いタタリギ……ましてや純種の可能性が僅かでもあるのならば、Y028部隊(おれたち)の仕事――というのも納得です。 ……早速、出撃の手続きを」


 斑鳩は表情を引き締めキースに向けて敬礼を行うと、その隣――無言で小さく頷くヴィルドレッドの瞳を真っ直ぐ受け止める。二人は誰に悟られるでもなく局長室で交わした会話をその胸に思い浮かべると、視線を以て、それを交差させる。


「第14A.R.K.奪還最終フェーズに向けて、こいつの正体を知る事……そして排除は必務だ。 未知数の相手となるが……くれぐれも、頼んだぞ。 斑鳩隊長――そして、Y028部隊よ」

『……了解!』


 斑鳩――そしてアール、ギル、詩絵莉、ローレッタはヴィルドレッドの声に敬礼を以て応える。

 その様子にキースはどこか懐かしむような、何とも言えない表情を浮かべ――



 一つ一つの動作を噛みしめるかの様に。

 同じく、ゆっくりと――斑鳩たちへ向けて、敬礼の執って見せるのだった。






 ……――第9話 進むは深く、示すは真価 (2)へと続く。

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