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第2話 序章 (5)

引き続き任務に努める彼らは、前回発見に至らなかった1体の丙型タタリギに注意を払いつつ、斑鳩、ギル・詩絵莉・ローレッタはそれぞれ合流地点へとその足を早める。


そんな中、任務の隙間にふと、詩絵莉とローレッタは部隊結成当時の事に思いを馳せる――。

それぞれ役割をこなしながら、任務を終え様とする彼らは、無事帰還の途に就く事が出来るのか。


※この物語は連載中の【ヤドリギ】第2話になります。

※宜しければ第1話からお読み頂ければ光栄です。

※第1話はこちらからどうぞhttps://ncode.syosetu.com/n8027ek/


 ――先ほどの戦闘が行われた区画からやや外れ。


 緩やかな勾配を登った先には、かつて各所に水を送っていたと思しき給水タンクが静かに佇んでいた。



 その(たもと)合流地点(ランデヴー)に最初に到達したのは斑鳩とギル。程なくして、息を切らしつつ詩絵莉が到着する。

 先に着いた二人は改めて彼女の無事を確認すると、安堵交じりに「よ」と片手を挙げた。


「とりあえず……はぁ……はぁ……言いたい事は沢山あるけどぉ……はぁ……」


 銃以外の装備をその場にガチャガチャと乱雑に置きながら、詩絵莉は汗ばんだ栗色の髪の毛を掻き上げ、ぎろり、と二人を交互に睨み付ける。


「今回の設営は……ギルが全部やるなら、はぁ……お説教は無しにしてあげるわ……」

「……ああ、甘んじて受けさせて貰おう」


 息を整えながら小さめのバックパックの中から水筒を取り出す詩絵莉に、バツが悪そうにギルは答える。斑鳩はそんな二人のやり取り越しに視線を丘のふもとへと移す。

 程なくすると、遠巻きに大きな車体ながら意外にも静かな走行音でこちらに近付いて来る装甲車が見えた。


「よし、ローレッタも無事の様だな」


 条件付きでお説教は無し、と言いつつも水筒に口を付けつつ軽い叱責に興じていた詩絵莉、そしてギルもそれに気付く。

 装甲車は3人に寄せる様に静かに停車する。同時に車体前方のハッチが開き、黒髪の少女がその半身を乗り出すように見せた。


「はいほーみんな~。無事で何より!」


 言わずもがな、(フクロウ)のローレッタだ。彼女は愛嬌のある笑顔でその手を挙げる。


「みんなお疲れ様~」

「ロールもお疲れ様!」


 身を乗り出した彼女は詩絵莉と互いに笑みを浮かべ軽いハイタッチを交わす。

 斑鳩とギルにも「無事で何より」とそれぞれに軽く拳を突き出すと、彼女は再び車内のコンソールへとそそくさと戻って行った。

 詩絵莉は開閉部に設けられたタラップに足を掛け、車内に少し体を入れコンソールへ向き合う彼女と映し出されるモニターを見つめる。


「良くも悪くも、合流地点まで残り1とされてる丙型との会敵はそれぞれ無し、か……」

「正直、ほっとしてるぜ……シエリ、改めて危険に晒して悪かった」


 開閉部に上半身を突っ込んだ詩絵莉にギルは再度謝罪の言葉を投げ掛けた。


「全くよ。あたしがもし丙型になったりでもしたら……ギル、最初にあんたを撃ち抜いてあげるわ」


 肩越しに振り返り、冗談めいた口調でそう言いながら、詩絵莉は「BANG(バン)!」と指でギルを弾く真似をする。


「おいおい、縁起でも無い話は止してくれよ。……ローレッタ、ここまでの索敵の結果はどうだ?」

「うん、一応今は1機この合流地点周辺を巡回索敵、フリーになった残りの2機はもう少し離れた位置を索敵させてるけど、相変わらず目標の影すら発見出来ないねえ」


 コンソールの上部から垂れ下がる、3機の木兎(ミミズク)からの情報がリアルタイムに投影される、大型のヘッドマウントディスプレイに顔を埋めたままローレッタは答える。

 同時に右手はボール型の入力デバイスの上で、忙しなく踊るように跳ねながら、各木兎のコントロールを行っていた。その右手の動きに感心しつつ、詩絵莉はパタパタ、と首元を扇ぎながら斑鳩の方に向き返る。


(アキラ)、索敵はロールの木兎に任せてあたしと二人で万が一に備えて迎撃態勢。ギルが設営ってことで、いいよね?」

「……そうだな、空もいよいよ怪しくなってきた、急ごう」

「よし了解だ、設営機材を下す……後部ハッチを開けてくれ」


 索敵に集中してるのだろう、それでも彼女は「んー」と生返事を返しつつ、左手で足元のスイッチをぱちんと弾くと同時に、ゴウン、と重い音を立て車体後方のハッチが開いていく。


 それを合図に3人はそれぞれに動き出す。斑鳩は撃牙の装填を行い車体の右手へ。詩絵莉は愛用の狙撃銃を小脇に抱え、車体の左手で膝射(しっしゃ)姿勢を執りつつ装填を行う。

 ギルは開かれた車体後方内部、兵員スペースを占拠していた中継局の設営に必要な機材や道具を慣れた手付きで運び出す。


「それにしてもやっと中継局の機材、下せるわね……道中ほんっと、狭いし危ないし……コンディションにも影響出ちゃうってもんよ、ほんと」


 詩絵莉は"隼"として、視線は鋭くそのまま当然周囲を警戒しつつその機材を運び出す音を聞きながらため息を付いた。


「今回の機材は……どうにも、わりと旧型のヤツみてえだし、な……っと」


 重たく大きな機材を運び出しながら仕方がない、といった面持ちギルは答える。


 今回の作戦でここへ向かう道中、只でさえ乗り心地抜群、とは言い難いN33式兵装甲車(くるま)の待機スペースを圧迫、尚且つ無理やり押し込んだ形になった機材が走行の振動で倒れてきそうにもなり――


 とにかく。3人ならば比較的余裕がある言えるスペースに押し込まれた"それ"に、任務前、特に神経質になると言われる式隼(シキジュン)としての性格か――詩絵莉はメンバーの中でも一段と歯がゆい思いをしていた。


「仕方がないさ、この南東区域は他の区画と違って危険指定区域だしな……新しい通信機材なんて本部も設営したくないんだろ」

「……確かに仕方ないけどさぁ……今回みたいな南東区域方面の設営任務が続くなら、今度申請して運搬用のキャリア――借りるの提案するわ、道中疲れるのなんの……」

「……でもまぁ、これでも俺達の経歴からすりゃこのN33(ハコ)充てられてるのもすげえ事だと思うっ……ぜ……っと」


 斑鳩の説明に納得出来ないと愚痴る詩絵莉に、ギルは地面に設備を固定するため、鋼鉄製のタープ(杭の様なもの)をゴム製のハンマーで打ち込みながら口を挟む。


 確かにギルの言う通り、通常"ヤドリギ"の小隊は8~12人という数字に対して、斑鳩達は圧倒的に少ない4人という構成の部隊である。

 現在所属する拠点において最小数部隊とされるその彼らに、最新に近い解析機材を積んだN33式兵装甲車を充てられているという事実は優遇と言って差支えの無い好待遇だ。


 しかしそれは、ある意味彼らが勝ち取った待遇でもあった。


 元々、彼ら――斑鳩、ギルバート、ローレッタ、詩絵莉の4名は元々別の部隊に所属していた。

 だがそこで様々な問題や環境を抱え、実力を発揮出来ないで居た――それを纏め、最少数部隊として形にしたのが斑鳩であった。

 彼もまた、別部隊にいち式狼(シキロウ)として配属されていたものの、上官との意見の差――言えば、作戦過程や任務過程に折り合いが付かず奔放され――


 その先で同じような経歴を持つ、言わば他部隊より「爪弾(つまはじ)き」とされた者同士で拠点所属部隊の規定数合わせの為に結成された、書面上にしか存在しなかった小隊……それが今の4人なのだ。


 当初、そこは「弾かれた」程には個性的で尖ったメンバー同士、衝突も多々あったのだが――。

 個々の能力の高さを確信した斑鳩は、何とか皆をまとめ上げ、調達、設営、斥候、救助、そして戦闘……あらゆる仕事を、悪く言えば上から横から、(てい)よく「押し付けられた」ものでもあったのだが、一つ一つ黙々とこなしていった。

 だが逆にそれは、彼らにとって実力を証明する機会を得るまさしく好機となった。それこそ小間使いの様な雑務であれ貪欲に消化し、次第に大きな任務も預けられる文字通り少数精鋭と言わんばかりの部隊へと成長を遂げたのだ。



 ――結成から1年半。



 現在ではその実力が大いに認められ、その能力を買われる事になった結果、任務は前線に展開するものが殆どとなった彼ら。

 だが元々人類に仇名す"タタリギ"と戦う、人類に宿る木――"ヤドリギ"になると自ら志願した彼らにとってそれは本望である。


 この隊で結果を出す以前は考えられなかった、拠点の同僚達……つまり他ヤドリギ部隊内からも一目を置かれる存在となるにつれて当然待遇も改善され、装備や配給の面でもそうだが自拠点内に4台しか存在しないN33式兵装甲車の使用許可が下りたのは、まさに実力の象徴だった。


「これでよし、と……こっちは設営完了だ……キ……ローレッタ、テストを頼む」


 ギルは額に浮かぶ汗を左手袖で拭いながら車体前方のハッチへと歩み寄る。

「今キサヌキって呼ぼうとした?」と怪訝な表情を浮かべる彼女に「い……いや……」と軽く手を振る仕草。


 ローレッタは木兎等を制御するコンソールから少し体をずらし、そちらにも注意を向けつつ左手で別端末のキーボードを軽快に叩き、通信強度の確認に入る。

 映し出される数値をチラチラと横目でチェックした後、再び木兎から送信される情報にも目を通す。


「うん……うん、大丈夫そう。それにしてもギルやん、設営早くなったよねえ、お疲れ様!」

「ああいう設備をいじるのはまあ、嫌いじゃないしな……こんだけやってりゃ、慣れもある」


 ――というか事あるごとにシエリに設営やらされてたからな。喉まで出掛かった言葉を飲み込むと、ギルはうんうん、と一人で納得したように頷いて誰に向けてでも無く誤魔化すことにした。


「よーし、うん……タイチョー、シェリーちゃん~」


 ローレッタの呼び掛けに覗いていた単眼望遠鏡をしまうと、詩絵莉も同じく銃を肩に背負い直し車体前方のハッチに集まる。


「いちおー、今回の目的は達成と言っていいかも。中継局の問題なく稼働開始、機能確認終了~だよ」

「ギル、設営ホント得意になったじゃない、お疲れ様!」


 詩絵莉はギルの腰をトン、と拳で叩くと彼は「お、おう……」と複雑な表情を見せた。

 それを見逃さなかった彼女と、「なによ」「な、なんでもねえよ」とやり取りが始まる彼らを斑鳩は片手で制しながらローレッタに問う。


「やっぱり残り1体は発見出来ず、か」

「そうだね、正直なところそう広い拠点跡でも無いから……一応、丁寧に探ったつもりなんだけど……」


 ローレッタはやや申し訳なさそうに再びコンソールに映し出される情報に眼を落とした。

 その様子を見ながら斑鳩は首を横にふる。


「いやいいんだ、よくやってくれた。今回は事前の情報が間違っていたんだろう……事前哨戒に加え、詩絵莉の銃声にも反応せず、こうして見晴らしのいい場所である程度時間経過もした。加えて木兎3機集中索敵でも見つからない。これ以上の捜索は無意味としよう」


 斑鳩の言葉に詩絵莉も深く頷きながら答える。


「あとは回収班に任せようよ、回収班にもヤドリギの護衛ちゃんと着くんだしさ」

「そうだな……今回の事前報告と、1体発見に至らなかったという点を添えれば普段より護衛人員を増やしてくれるだろうさ」

「賛成だ、ミスしといて言うのもなんだが……あとの事はこの後の部隊に任せればいいんじゃないか。俺達は十分仕事をこなしたと思う」


 続くように頷いてギルも言葉を挟む。

 ローレッタは、「うーん!」とモニターから眼を離さず腕組みをして眉間にシワを寄せた。


「よし、わかったよ~。そだね……発見してからのロスト、じゃなくて索敵自体にまず引っかかってないんだし」

「ああ。じゃあ作戦はここまでにしよう。よし、撤収だ」


 うんうんと自分を納得させる様に頷く彼女の様を見て、斑鳩は作戦行動終了を告げた。

 その言葉に他の3人も改めて頷くと、斑鳩とギルは撃牙の装填を外し、詩絵莉は銃身を折り曲げ未使用の弾丸を排莢させる。

 同時に、3機の木兎が車体前方ハッチに、1機ずつ滑り込む様にその機体を器用に折り畳みながら帰着させてゆく。


 ローレッタはそれを確認すると、ハッチを閉じた。


 後部ハッチからそれぞれ詩絵莉、ギル、斑鳩の順に乗り込み……斑鳩は最後に振り返り安全を今一度確認するよう、身を乗り出して周囲を確認した後、ハッチを閉じた。


「ふぁ~……ああぁ、ああぁっ……」


 座り込むと同時に銃を傍らの収納部に立て掛け、詩絵莉は妙な声を上げつつ大きく背伸びをする。

 その様子に斑鳩とギルは互いに顔を見合わせた。


「えらくお疲れだな、詩絵莉」

「……さっきも言ったけど道中荷物が倒れてきそうだったから……作戦前に仮眠したかったンだけど、ね」

「ま、今回も無事に任務を終えれた事を皆に感謝だな」


 斑鳩は安堵のため息交じり、兵装――、撃牙を右手から外しながら詩絵莉に答えた。


「そうだよーギル、うちは4人しか居ないんだからさ、注意してよね、ホント」

「ああ……」


 ギルは詩絵莉の言葉に頷きつつも、先の丙型が知った仲だったかもしれないという事を改めて思い出していた。

 以前、斑鳩達と組む前に所属していた部隊――思い返せば、あれから彼らとはしばらく交流が無い。

 確信はないが、もしかすると――という気持ちが、やはりどうしてもその事が頭の中を巡る。


「……ギル?」


 表情からそれを感じ取ったか。詩絵莉は斑鳩に向き直り口を開く。


「ひょっとして、あの丙型」

「……ああ、その事なんだが……」


 斑鳩はギルにどうする、と含んだ視線を送ると、彼は目を閉じたまま軽く頷く。

 よくあることさ、と言わんばかり自虐的にギルはあの時、身が一瞬竦んだ理由を詩絵莉に語った。


「……ふゥん、そう」


 彼女は顛末を一通り聞いたあと、興味ない、といった態度で腕組みをしながらぶっきらぼうに答える。


「なるほどね。でももし……あれがギルの知り合いだったとしても私謝ったり、まして慰めたりなんてしないからね」

「……シエリ」


 正論だ。

 だが、詩絵莉の言葉にギルは複雑な気持ちに苛まれた。

 この手の事柄は今まで無かった訳ではない。だがやはり、そうだとしても受け入れがたい部分がギルにはあった。頭では十二分に解かっていたはずなのだが、やはり目の当たりにすると……


 ――正論だとしても、受け止めるには重い。


「私はタタリギには容赦しないし、この眼を向けた先が敵である以上、何が相手でも平等に引き金を弾くわ……それがその……仕事だもの」


 詩絵莉は厳しい表情を浮かべながら、続け様にそう言い放つと乱暴に水筒を取り出し口を付けた。

 斑鳩も黙したまま。その言葉に、狭い兵員室に一瞬訪れる静寂。


『えー意訳しますとぉー、「何を差し置いても隊のみんなを守りたい」んだよねシェリーちゃんは』

「ッぶふぉ」


 唐突に流れる車内に設けられたスピーカーからの気の抜けた声に、思わず詩絵莉は飲んでた水を盛大に噴き出した。


「ちょっばっ……ローレッタ!そんなんじゃないってば!!」

『んもぉ~素直じゃないんだからぁ、シェリーちゃんは相変わらずぅー』


 顔を赤らめて反論する詩絵莉をくすくす、と笑いながら陽気に受け流す。

 詩絵莉は「ああもうっ」と口元をぬぐいながらギルの方へ視線を向けると、やや口角をひくつかせながら目を閉じるギル。そして隣に座る斑鳩もややニヤついた表情を浮かべていた。


「だーっもぉ!ちょっと違うけど、もおそれでいいわよ!!4人しか居ないんだからさ!解かるでしょ!?しょーもないミスで万が一の事があったら後悔してもしきれないんだからね!!」


 矢継ぎ早に捲し立てると彼女は「もう寝る!」と言うが否や、傍らにあったブランケットを乱雑に頭からかぶり黙り込む。


 そんな詩絵莉にギルはブランケットの上から改めて頭を下げ、「すまなかった」と声を掛けると―ばつが悪そうに、斑鳩からの視線を遮る様に手をかざすのだった。




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