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第7話 この力、誰が為に。(6) Part-5

訪れた窮地から脱し、体勢を立て直したY028部隊―

束の間、この人類に対する脅威、タタリギ純種を前に斑鳩は思考する。

―勝利へ至る道を、疑く事なく―。

 斑鳩は、純種が振るう前足に前髪を焦がしながら――





 詩絵莉のカバーを終え、こちらへと気迫十分に駆け寄るギル――

 そして上空からひたりとその銃身を純種へ向け、狙いを付ける詩絵莉を視界に入れると、その口元を不敵に歪ませる。



 ――手間取りはしたが、皆がそれぞれ力を発揮出来る形にようやく……。



 純種との闘いはこれからが本番ー。


 とは言え、彼――斑鳩は、この純種との闘い……敵の実力全てを引き出させ、計る……などという思惑は一切無く。

 戦闘を長引かせるつもりは、欠片ほども無かった。彼の中に渦巻く黒い感情の全ては、自分たちがこの純種を、迅速に、確実に……如何にすれば(たお)せるのか――すべて、その一点に集中していた。


 もとより、タタリギとの戦闘を長引かせるのは得策ではない。


 もちろん個体の深過を経た強化に対する危惧、味方の消耗――語るまでもない話だが……それは言わば撃破の方法が確立されている相手なればこそだ。

 通常の相手……乙型や甲型、所謂大型のタタリギならばその外皮外装を破壊し、芯核(コア)を露出させ……デイケーダーを以て撃破へと至る。果たしてこれが、初の対峙となるこの純種へと通用するのか、否か。


 通常の相手ならば、式梟、つまりローレッタの観察眼がタタリギの弱点――芯核の場所を分析、解析する。

 その材料となるのは、タタリギ自体の姿形――つまり、芯核がある場所はやはり守りを固める傾向にあるという通例と、タタリギそのもの動きを経験と知識により見極める事によって成立する。


 だが、今回の相手は全くの未知。


 兵器としてでなく、まるで生物――さながら獣の如く四肢をしなやかに駆る今までに対峙したことの無い相手だ。

 しかし、生物ならば……タタリギが獣を模しているならば、その弱点である芯核がある場所に対する攻撃を無意識に守っている可能性は高いだろう。


 やはり、彼女――ローレッタの言う通り……狙うならば、頭部しかない。

 アールの連撃により瞬間体勢を崩した純種のあらゆる箇所にその螺旋撃牙を差し込んだ斑鳩は、やはり頭部への攻撃を嫌う純種へその思考を確信に変える。


「……ローレッタ! 今から俺が言う配置へ至る様にアールとギルを誘導してくれッ!!」


 斑鳩は胴体への飛び込むような一撃と共に、加勢に加わったギルと入れ替わる様に大きく後方へと跳び退り――。


『! 梟、了解!!』

「初手はお前にも協力して貰う、一機木兎(ミミズク)を俺の前へ待機させろ! 詩絵莉、炸薬榴弾はまだ手持ちにあるな!?」

『……!? 炸裂榴弾、残り2発! 隼、装填後待機するッ!』

「……よし!」


 ローレッタは『了解!』と声を張り――

 援護射撃に徹していた詩絵莉は、斑鳩からの初手で効果が観られなかった炸薬榴弾のリクエストに一瞬疑問を浮かべるものの、すぐさま広げられた巻き鞄からそれを引き抜くとマスケットへと迷いなく装填を果たす。


「アール!! 俺が合図を出したら、下半身を叩いてヤツの動きを止めろ! ……()()()()()――出来るか!?」


 続け様、斑鳩は螺旋撃牙を装填し、左手のアンカーの状態を確認しながら叫ぶ。

 その声に、純種に対して一撃一撃重ねる様なヒットアンドアウェイの最中――


『……まかせて、斑鳩――()()、だね』


 アールは激しい動きを熟しているとは思えない冷静で、息切れも感じさせないその声色で応える。


「ギル!! ――俺とアールがヤツの動きを止めたら、額を穿て!! なるべく傷口を上に確保しろ!!!」

『――ああ、任せろッ!!』


 血と泥に汚れながらも懸命にアールが作った攻撃チャンスを見極めながら、純種の側面へ回り込む様に激しくステップを繰り返しながら撃牙を叩き込み続けるギルも、斑鳩の声にすぐさま叫び声を以て応える。



 ――よし。



 斑鳩は大きく頷くと、最後にローレッタへとインカムを通じて作戦の旨を皆に伝え――その機を伺う。


 2秒――あの純種の動きを、2秒止める……。


 斑鳩は切り結ぶアールとギルの動きをその眼を見開きながらつぶさに観察する。

 ……やはり、俺とギルでは……アールの真似事を行うのは無理だろう。何度か彼女の闘う姿を見てきたが……この純種との戦闘で、斑鳩は彼女が魅せるその実力に、感動すら覚えていた。


 ()()が――まさに()()が、式神としての力なのだ。


 隼の瞳を持ち、梟の理論的な思考と観察力が、彼女の近接戦闘におけるその精度を別次元へと引き上げている。

 距離感、空間把握能力――それらが複合となり、あのまさに付かず離れずのヒットアンドアウェイを可能にしているのだ。しかも、そこから繰り出される攻撃は、正確無比の一言……純種が繰り出す四肢、その激しい攻防の中、彼女の撃牙は寸分違わず同じ場所を撃ち抜いている。


 あれが……恐らく、可能性――……。

 大げさではなく、人類の瀬戸際……この先を()()()()()()()()()の、式神が俺に魅せる可能性――。


 2秒……。


 ……彼女は任せろと言った。アダプター2では、信じろ、と。

 あの純種から、2秒の時間を奪え。――考えるまでもなく無茶な命令だ……方法すら、丸投げの――



 ――――だが、彼女はきっと、"()()"。



 彼女の、式神の力を魅た斑鳩は身勝手ながらもそれを、一切疑うことはなく。

 彼がそう心に呟いたまさにその時――インカムをローレッタの声が揺らす。


 ローレッタは上空から見下ろす眼――木兎で俯瞰(ふかん)する光景により、正確にアールとギルを純種と交錯させながら巧みに誘導し――

 純種の位置に対し、アールは一撃と共に左後足近くの位置へ滑り込み――彼女の攻撃により、純種が一瞬気を後方へ向けたその瞬間、大きく間合いを離すように跳び退ったギルは、斑鳩が位置する場所の近くへ着地する――。


 そして木兎の位置……彼が脳内に展開する連携作戦の、全てがベストとなる配置となったその瞬間――!


『状況確認、展開完了!! タイチョー!!』

「各自備えろッ!! ―往くぞ!!」

『――木兎二号機、展開ッ!!』


 斑鳩の号令と共に、上空で待機していたローレッタの操る木兎の一機――。

 それが彼の目の前に落下する様に降下した後、地面すれすれのところでローターを一気に駆動させ――

 土煙とけたたましい駆動音を上げながら純種へと真っ直ぐに突進する!


 その土煙に隠れる様、斑鳩は木兎の後方へと身を隠したまま低い姿勢……まるで飛び往く木兎の影なる様に駆け追い縋り――


『二号機上昇までカウント2! 1! ――今ッ!!』


 純種は急接近する木兎を叩き落とさんとその右前足を大きく振り上げ、そして振り下ろすその直前――

 ローレッタは真上へと、見事な操作で木兎を停止させる事なく急上昇を果たし――



 ――ズバァンンッ!!



 風に舞い上がる木の葉の如く、木兎が姿を空へと消したその場所へ純種の右前足が叩き付けられ――同時に、土煙の中から斑鳩が躍り出る!

 黒い瞳に渦巻く闘志を湛えながらも、彼は振りかぶった右腕の螺旋撃牙……それを腕へと固定する、()()()に冷静に手を掛けながら――!


「――うおおおッ!!!」



 ズギャアアァァンッ!!!



 渾身の一撃――!

 斑鳩が叩き付ける様に放った螺旋撃牙は、木兎を狙い打ち下ろされた純種の右前足を、まさに地面へ繋ぎ止める杭が如く深々と穿ち撃ち貫く!

 そして即座に――純種のその右前足を貫通し、地面へと繋ぎ止めた螺旋撃牙から――斑鳩は身体を反転させる様に、()()()()()()()――!


挿絵(By みてみん)


『――なっ……!?』


 その光景に、上昇させた木兎からの映像でその瞬間を目視したローレッタは思わず驚愕の声を上げていた。



 ――タイチョー、()()()……()()()!? 杭……純種を拘束する為に――!?!



「アーーーールッ!!!」


 斑鳩は純種の動きや反応など一切確認することなく――螺旋撃牙から抜いた身体を放ちながら、彼女の名前を叫ぶ。

 同時に左手に装着されたアンカーを、次の狙い――左前足へと絡みつかせる様に放ち――!


「……2秒」


 アールは斑鳩の声と同時に、そう呟き駆ける。

 どちらか左右の後ろ足一本を狙って連打を叩き込めば、一瞬のひるみは得れる。

 では、2秒――。斑鳩の命令……2秒を得るにはー……



 ――()()



 彼女は、迷うことなく――凄まじい速度で駆けながら、後左足へとアンカーを射出する。

 パシュウッ、と軽快な音で射出されたワイヤーに繋がれた矢じりは後足へと正確に飛来し、同時に彼女の機微な操作により幾重にも巻き付き……アールはそれを確認すると――


「んっ……!」


 一気に、アンカーを巻き付けたと()()――()()()へとその身を凄まじい速度で滑り込ませ――!



 ズガァッンッ!! ――ズガァンッ!! ――ズガァアンッ!!!



 緩んだワイヤーをそのまま。

 撃牙による三連撃を叩き込み、三段目を撃ち込んだその瞬間――彼女は僅かに身体を浮かせ、アンカーを()()()()()

 キュイイイィ、という小気味良い音を立て――彼女の軽い身体は先ほどアンカーを巻き付けておいた後右足へと瞬間、引き寄せられ――


「……んんッ……!!」



 ズガァッ!! ――ズッガァンッ!! ――ズッガアンッ!!!



 間髪入れず左右の後ろ脚へと、グラウンド・アンカーを利用した高速移動を介する、撃牙の六連撃――!

 それを受けた純種は、ぐらり、とその下半身を揺らし――アールは巻き付けたアンカーを離脱の勢いを乗せ引き絞る!

 ずしん、と重い音を上げ……初めてその左後足を、地面へと膝を着くように崩れる――!


 同時に斑鳩が巻き付けたアンカーを払いのけようと上げた右前足は、ひるんだ下半身につられるようバランスを崩し空を切り――斑鳩はその瞬間を見逃さず、離脱と同時に力の限りアンカーが繋がれたワイヤーを身体に巻き込む様に引き絞る!


「行くぜぇええぇえ!!!」


 その刹那――斑鳩の号令を聞くまでも無く、ワイヤーを引き絞る彼の後ろからギルが駆ける!


「ギル!俺の背中を蹴れッ!!」

「!!」


 その身体全身で純種を拘束するアンカーを引き絞りながら叫ぶ斑鳩に、ギルは即座に反応し――そして疑う事無く、走り込むと同時に斑鳩の背にその右足を乗せたタイミングに合わせ、斑鳩は右胸に備えられた紐を引く!



 ――バシュウゥッ!!



 彼が引いた紐で起動したのは、リアクティブ・エアー……

 本来、衝撃や防御に使用するそれは、爆ぜる様に膨れ――一気にギルの身体を空中高くへと押し上げる!

 ギルは想定していなかった斑鳩の跳躍への補助に一瞬驚きの表情を浮かべるが、空中へ飛びあがるその瞬間それを理解し、瞬時に体勢を合せ――



 ――往け!!!


 ――ああ!!!



 跳躍の瞬間、斑鳩とギルは瞬間にも満たないその時間、瞳を交え意志を共有する――。


「ッオラアァアァッッ!!!」


 右手に握り込む螺旋撃牙を大きく振り、気合いの咆哮と共にギルは空を高く駆け――

 上空から、斑鳩とアールにより拘束された純種の頭部へ、渾身の牙を撃ち込む――!!



 ズッ……ギュッアアァァァアアアッ!!!



 深々と――

 深々と上空からその螺旋撃牙を額へと穿ったその瞬間。



 ッイ"ィィイイイイイイイイィ――!!



 純種は戦闘が開始から今まで――一度も上げなかった、傷に対して悲鳴とも取れる耳を劈く様な悲痛とも取れる咆哮を甲高く上げると一瞬、びぐん、と拘束された四肢を震わせる――!


「――シエリィイィーッ!!!」



 ――ッズッバアァアアンッ!!!



 ギルは詩絵莉の名を叫びながら――

 撃ち込んだその牙を、純種の横っ面を蹴り付ける様に引き抜き――想定より早く、鼓膜に響くその射撃音に驚くと同時――上空の詩絵莉を振り返ったその瞬間。


 頬の横――数センチの空中、自らの頬をかすめる様に――

 飛び退く己とすれ違う様に飛来する()()()()()()を、式狼のその卓越した反射神経を以て、目撃する。



 ――うおおおおぉ……ッ!?


 ――トロいわよ、ギルッ!!



 既に――斑鳩が描いた作戦通り。

 ギルが螺旋撃牙で貫いた純種の頭部に穿たれた貫通痕……そこへ詩絵莉は既に――

 装填を果たしていた炸裂榴弾が込められたマスケット銃の引き鉄を、隼の能力を最大限発揮せんと凄まじい集中力を以て、弾いていた――!


 詩絵莉は射撃による反動で跳ね上がる銃身越しに、自らが放った弾丸の行く末を、式隼の瞳で見送る――。


 彼女の計算通りの射線を描き、驚く表情を見せるギルの頬をかすめるように、一直線にその弾丸は寸分たがわず貫通痕へ滑り込む――!!


 斑鳩は刹那、力の限り純種を拘束するアンカー引き絞りながら――

 陣形を形成する様立ち回りを指示したローレッタ、アールの目を疑う様なその六連撃、そして体勢を崩す事なく純種へ飛来したその瞬発力、そして詩絵莉のこれ以上無いタイミングで放たれたその弾丸に、その口角を思わず上げる。



 ――ギュァッ……ドオォッバァァアンッ!!!



 斑鳩が浮かべる歓喜に歪んだ表情――それを照らすように。


 貫通痕へと滑り込んだ詩絵莉が放った炸裂榴弾が赤い爆風を吹き出し弾け――純種の頭部を内部から千切り飛ばす――!!

 白煙、そして黒い外皮と多量の漆黒の肉片を散らしながら――純種は大きく両前足を地面へと力なく沈める。


 そして、顎より上部を吹き飛ばされた様な大きな傷口。

 そこに光るのは――てらてらとした不気味な紅い光を明滅させる様に湛える、塊――!


『――!!! 純種、芯核の露出を確認……ッ!!!』



 ローレッタの歓喜に打ち震える声が、皆のインカムを震わせた――!!






……――第7話 この力、誰が為に。(6) Part-6へと続く――。

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