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第7話 この力、誰が為に。(6) Part-1

斑鳩が呼ぶ声に全てを理解し、引き金を弾いた詩絵莉。

遂に、正体不明の"黒い獣"との、戦いの火蓋が切られた―!

――ズガァァンンッ!!!





斑鳩の声に反応し即座に詩絵莉が放った大型の弾頭は、地面の塵を巻き上げながら真っ直ぐと空気を割き……今まさに生れ出た"黒い獣の様な何か"に着弾すると同時に、凄まじい爆炎を周囲にまき散らした!


耳を(つんざ)く様なその音と、遅れてくる衝撃風。

それが、唐突な戦いの幕開け――戦闘開始の合図となった。


「イカルガ、何なんだ、あいつは……!?」

(フクロウ)! データベースを参照、過去に()()との戦闘記録が無いか当たってくれ!」

『りょ……了解……! 直ぐにあた、当たります!!』


斑鳩の声に、やや上擦った声で答えるローレッタ。

ギルとアールはいつでも動き出せる様に……"黒い獣"を睨み付けると、その重心を低く落とす。

詩絵莉はその三人の後方で排莢を済ませ新たな弾薬を取り出し装填すると、射撃の体勢を整える。


榴弾が着弾したことにより巻き上がった爆炎は、程なくして黒煙へと変わる。


フリッツがアガルタの弾丸を模倣し精製した炸裂榴弾の衝撃と炎……そして、周囲を燻らせる煙をものともせず……それは、"黒い獣"はゆったりと……その姿を現した。



――黒い、獣……。



そう表現する他が無い、その容姿。

四肢で地面をゆっくりと食む様に煙の中から現れたそれは、まさしくタタリギの群生が成した、異形の獣――。

背中をはじめ、あちこちから兵器の残骸取り込んだのだろうと伺わせる複数の砲塔や、今や刃物のような鋭さを見せる鉄の板を覗かせ――。


とても現実として目の前に存在するとは思えな様なその立ち姿。

植物でも、動物でも、そして今まで見たどのタタリギとも異質の存在――。



――ルロロロロ……



大きく裂けた口に並ぶ牙とも針とも言える様な鋭利な影を見せると、喉を鳴らすような不吉な鳴き声を漏らし、眼前の斑鳩たちを値踏みするように……本来、獣の目があるであろう場所に刻まれた、血の様な紅い裂傷を四人へと向ける。


ローレッタは装甲車のコンソール内のデータにある、過去の様々なタタリギとの会敵記録を必死に参照している最中……木兎のカメラによって映し出された黒い獣、その様子も同時に、つぶさに観察していた。



――乙型でもない、そして甲型(コウガタ)……とも、違う……! 甲型は、兵器型のタタリギが深度を増したもの……あれには、そのどちらの面影が無い……!



彼女は木兎(ミミズク)から送られてくる画像に、寒気を催す。


確かに体――外皮を形成するそれは、タタリギのものだ。木兎の映像を拡大するまでもなく、太くしなやかな根で編み上げられた様なその容姿。しかし、ローレッタの記憶にあの様なタタリギは存在しない。



――ああ……まさか、そんな……でも……!!



「――みんな!!」

「……! 詩絵莉!!!」


黒い獣と対峙し、互いに機を伺うように睨み合う事、幾秒(いくびょう)……

アールは、そしてやや遅れてだが――斑鳩は見逃さなかった。

緩やかに見えたあの黒い獣の動きが止まったその瞬間、僅かに身を沈め、その前足に力を溜めた瞬間を。


「散開するッ!!」


斑鳩が吠えると同時。


彼とギル、そしてアールはそれぞれ三方向へ地面を蹴り、標的を絞らせないように全速力で散る。

すかさず開いたその射線――間髪入れずに詩絵莉は、黒い獣の()を逸らすべく――完璧なタイミングで再び榴弾を併せる様に、その射線へ銃口を寸分たがわず載せると同時に、その引き鉄に掛けた細い指に、迷わず力を込めた―!



ッズッバァアアンッ!!



強い衝撃。

そして派手な射撃音と共に再び放たれたそれは、真っ直ぐに黒い獣へと迫り――



――こいつ……ッ 避けようともしない!?



ッズドォガァッッン!!



「――(アキラ)ッ!! あたしは射撃ポジションを確保する!!」

「バックアップは任せる、必要に応じて指示は出す!」


着弾、そして炸裂。

詩絵莉はその瞬間、そうインカムに叫ぶとすぐさま排莢と同時に立ち上がった。



――二発目の榴弾……そもそも避けるそぶりすら見せないなんて……生意気なヤツね!!



着弾の爆破で辺りに撒かれた黒煙から視線を逸らす事なく、彼女は心の中で舌打ちをしながら――振り返らず走り抜く斑鳩からの声に、自らも小さく頷きながら駆け出す。



―詩絵莉の榴弾……その黒煙を煙幕に、狼と式神はそれぞれ三方向……

黒い獣の左右、そして正面へとまさしく疾風が如く速度で駆けながら展開を見せていた。


仕掛けようとしたその()をそらされた黒い獣は、榴弾のダメージを振り払うかの様に、やや五月蠅そうに首を何度か振りながら周囲に僅かに残る炎と、黒煙を()()()


その僅かな瞬間――

振り払われ、宙へと流れ消えゆく煙に紛れる様に。

アールは黒い獣の正面、やや左側から全く臆する事無く、その懐に飛び込んだ!



ズッガァァンンッ!!



まさに、"飛ぶ"と表現するに相応しく。

彼女は凄まじい速度と飛距離を見せる一足飛びの踏み込みから、黒い獣の懐に入り込み――

その顎めがけ、右手に纏った撃牙を躊躇なく叩き込んだ!


撃ち込まれたその衝撃に、黒い獣の顎が高く斜めに跳ね上がり――


「!!」


その刹那。

視界の外――察した気配に、アールは自らの体を極限まで地面へと低く伏せる!



―ボッ!!



その頭上を、カウンター気味に放たれた丸太の様な黒い獣の右前足が先程までの彼女の体の位置を、空気が、まさに爆ぜたのかの様な轟音と共に凪いだ。


僅かに触れた頭髪が薙がれ、散り、焦げる。

だが彼女はすぐさまその体勢から四肢全てを駆動させ、跳ね起きつつも素早い所作で撃牙の装填を終えると、目の前に残る左前足に向かって撃牙を―!


「……っ!!」



ドッガァッ!!!



まさに寸でのところ―攻撃に転じようとしたその刹那。

更なる攻撃を察したアールが飛び退いたその場所を、黒い獣は先程振り抜いた右手を返すように振り下ろすとそのまま派手に硬い地面を深く、鋭く――やすやすと穿ってみせる!


その衝撃で舞い上がる土埃に、前髪が躍る様に揺らされた彼女は僅かに目を細めると――

心の中で、ここ数日鳴らされていた警鐘に、改めて納得していた。



――嫌な感じと、予感……してた、ずっと――。 やっぱり、こいつ……!!



撃牙は間違いなくクリーンヒットだった――が。


ちらりと先ほど攻撃した場所――顎を見るに、確かに外皮をめくり上げるような傷を負わせてはいるものの、大したダメージでは無いだろう。それは瞬間の反撃でも物語っているだけでなく……恐らくすでに、回復し掛かっている。



――斑鳩……。



アールは次の攻撃に備えるように身を屈めると同時に。

何を思ってか……悲痛な表情を浮かべ、今まさに飛び込もうとする斑鳩を、目で追う――。


「イカルガッ!! 行くぜぇッ!!」

「――任せろッ!!」


右前足によるアールへ対する二連撃の後――

地面に突き刺した右前足のせいか、僅かに体勢を崩した黒い獣に対し狼たる二人はその呼吸を合わせ。

装填していた螺旋撃牙を左右から同時――黒い獣の両側面腹部へと撃ち込んだ!


「らあああアァァッ!!!」

「はあッ!!」



――ズッ…ギャイイイィンンッッッ!!!



二人の裂迫の咆哮と共に渾身の力で放たれた螺旋撃牙は、しなやかながらも硬い樹の根を彷彿とさせるその外皮をやすやすと撃ち貫き――その牙を根元、限界まで深く、突き立てた!


「――よっしゃあ!! 手ごたえあっ……」


ギルは右手から伝わる感触と光景に、歓喜の表情を浮かべたその瞬間――



――ゴッ!!!



黒い獣は、穿たれたその痛みを感じた様子すら微塵も見せず――

無造作に、その太い右前足をギルへと叩き付けるように振り払った!


「――グッ!?」

『――ギルッ!!?』


その光景を木兎を介して一番に目の当たりにしたローレッタが悲痛な声を上げる。

振り払われた右前足の直撃を受けたギルは、まるで人形の様に体重を感じさせる事無く真横へと吹き飛び――!


――バシュウッ!!!


地面に叩き付けられる寸前――。

彼の背中から勢いよく風船の様な球体が飛び出し、地面に直接叩き付けられそうになった彼の後頭部を守った。今回の戦いから装備したリアクティブ・エアー……攻撃による衝撃を緩和する防具の一つである。


地面への直撃は避けれたものの、地面を跳ねる様に勢いよくギルは後方へと転がる最中――何とかその右手の撃牙を突き立て、地面を削る様に食らいつく――。


「……かはっ……」



――や、べえ。 貰っちまっ……たッ……!!



何とか体勢を整えたものの、がくり、と力無く膝を着くと。

彼の口から溢れた少なくない量の血が、たぱぱ、と音立ててその地面を赤く濡らす。


「……ローレッタッ!!」


同じ様に振り払われる左前足――

撃牙を引き抜きながら、すんでのところでそれを避け叫ぶ斑鳩に、ローレッタは慌ててコンソール脇……部隊員のバイタル情報が別個表示されている独立したモニターへと目を向けた。


『……! ――ギル、バイタル低下……ながら正常値範囲内……!』

『――ッ射撃に専念出来る場所が無い……! 隼、ギルの回復までこのまま平地で射撃援護に移る!!』

『……斑鳩!』

『詩絵莉、頼む! アール、俺たちでこいつを引き付けるんだッ!!』


飛び交う、あの異形の獣と対峙する四人の仲間の逼迫した怒号が混じるその交信――。

ローレッタはデータベースの検索を行いながらも、黒い獣の動き――その兆しを掴もうと、必死に目を凝らしていた。



――だめ……! こいつの動き……初動が、分からない……!!!



彼女たち式梟(シキキョウ)は、その観察眼と知識を武器にタタリギの行動を読み、伝えるのが戦闘時の大きな仕事の一つ。

しかしそれは、相手が"通常のタタリギ"であればこそ――つまり、人間から鹵獲(ロカク)しその身に宿す兵器を看破し、それらの動きを捉える事により成立する。


例えば、その身に宿した機銃や、砲塔――。


人間の兵器を駆るタタリギなればこそ、彼女たち式梟はその知識と経験からそれらを見抜き、前衛で戦う彼らの第三の眼としてそれを伝えるのだ。


だが、この黒い獣が操るのは自らの躯体――。


それも、静から動へと転ずるその攻撃……それも恐ろしい速度で繰り出されるそれは、式神であるアールはその能力、そして小柄な体格の恩恵もあってか、僅かな隙に攻撃を挟む余力が見えるものの……

油断していたとはいえ、ギルは直撃を受け。あの斑鳩でさえその攻撃を避け、いなすのに精いっぱいといった風に見える程の攻撃所作と、その威力――!



――やっぱり普通じゃない、このタタリギは……このタタリギは……!!



ヒトに宿り、ヒトを基とした丁型(テイガタ)丙型(ヘイガタ)タタリギ。

兵器に宿り、兵器を基とした乙型(オツガタ)タタリギ。

そして、その乙型タタリギが深過を経て成る、甲型(コウガタ)タタリギ。


世界各地で発生した母体たる、"祟り木"と呼ばれたそれら……そして産み落とされた異形――これらに敗北を喫した人類は後年、後に四つに区分されるタタリギにより、ヒトの兵器を駆る彼らによって徐々に追い詰められる事になった。


ここに生まれ出たこの黒い獣は、記録に残る最初の脅威、最初の異形……。

遭遇例はもう、何十年と無いとされていた……それとしか――。


ローレッタは、刻一刻と不利な状況へと転ずる戦況と、皆のバイタル、検索するデータベースを震える瞳で観する中――。

額に、背中に、首筋に、今まで感じた事の無い程の冷たい汗を一筋、二筋と流す。



――あれが……何十年も前に、人類最初の脅威として現れた――……純種(ジュンシュ)のタタリギ……!!?



ヒトが駆る兵器、兵装――そのあらゆるものをその身に喰らい。

我が身として成していったという、純種タタリギが、何故今になって……そして、こんな場所に!


ローレッタの思考がピークを迎えた、まさにその時だった。



――ヴン



「……!?」


N33式兵装甲車のコンソールに収めれらた、過去の作戦を綴るローカルデータ。

その中からあの黒い獣の特徴と符合するものを検索に掛けていた画面に、突如として文字が浮かぶ。ローレッタは、見た事の無いその状況と文字に、一瞬目を疑った。


「……ON LINE……おん、らいん……?」


……そんな馬鹿な。


ここは完全に通信が途絶されたエリアだ。それは作戦前も、そして作戦中の今も変わらない。

弾かれる様に顔を上げ、確認しようと彼女の目に映った計器は現に、紛れもなく通常の通信が不可能なレベルの数値を示している。



――計器の故障!? いや、そんなはずはない……通信回線は開いていない!


――それにこんな表示は、見た事がない……!!



混乱する彼女をよそに、「ON LINE」の文字は、無機質に。

他の各種モニター、戦闘を中継している木兎から送信される画面、バイタルデータ、地図、メインコンソールの右隅に次々と伝播する様に表示されていく。


「な……っ、に、これ……!?」


挿絵(By みてみん)


立て続けに起こる、今まで遭遇したことの無い状況に、彼女は――……!








第7話 この力、誰が為に。(6) Part2へと続く。

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