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第7話 この力、誰が為に。(4) part-2

アダプター2へ向けてのブリーフィングは佳境を迎える。

作戦机に広げられた周辺の地図を囲み、緊迫の面持ちを浮かべる面々―。

そんな中、ローレッタは一歩前に歩み出る。

「では、改めて概要を説明します」




 ローレッタはマルセルの言葉に頷くと、表情を引き締め、背筋を伸ばす。

 やや緊張の面持ちだが、真剣な様子の彼女につられる様に、皆も表情を引き締める。一気に場の空気が、緊迫に包まれた。


「今作戦、アダプター2侵攻の目的は、二つ。 一つは言わずもがな、アダプター2内部に存在するであろうタタリギの種別、個体数の確認、把握……及び、可能であればこれをY028部隊で掃討。 そしてもう一つは、内部施設の調査、ならびに通信塔の損害状況を調べ、復旧が可能かどうかの調査です」

「アダプター2の当時の施設資料は僕も見せてもらったが……修理が可能ならば、是非流用したい。 あそこにある電波塔を復旧する事が出来たなら、南東区域の通信帯を広くカバーする事が可能だと思う」


挿絵(By みてみん)


 フリッツはローレッタの脇に歩み出ると、第13A.R.K.の作戦室で配られたアダプター2が軍事施設として稼働していた当時の資料を数枚、丁寧に地図の横へと並べた。そこには細々とした文字と共に、高い防壁の内部にそびえ立つ通信用と思しき鉄塔の古い写真が数枚、添付されていた。


「もしこの通信塔使えそうだった場合はどうするんだ? ここに設営した中継局みてえに俺たちで復旧すんのか?」


 ギルは彼らの上から地図、そして広げられた資料をひょいと覗き込む。


「……いや、十数年放置されていたんだ。 一朝一夕での復旧は、恐らく無理……だろうね」


 覗き込む彼に、フリッツは否定する様に小さく首を横に振った。


「今回は全体像と、記載した必要な箇所を木佐……ローレッタに、木兎(ミミズク)で撮影してきてもらえれば十分だよ。 タタリギの掃討が終わったなら、それらを確認して……直接、僕が復旧に必要なものを本部に打診するつもりだ」


 そう言うと、彼は広げた資料の上……鉄塔が写った幾枚の写真、その一枚を指差してみせる。


 そこには彼がマーキングしたのだろう。鉄塔の損害状況を確認をする為の見極めとなる場所が分かりやすく赤い丸で囲われ、小さな文字で留意点等も丁寧に書き出されている。


「ありがたい、フリッツ。 こういった施設に精通している人物が同行してくれているのは、やはり心強いな」


 資料を見詰めながら、斑鳩はフリッツの働きに小さく頷いた。

 その様子に、「ち、力になれているといいんだけど」と照れ謙遜するように、彼は目の前で手振ってみせる。


「ふんふん、なるほどね。 んじゃ今回はいつかみたいに余計な機材を詰め込んで出発しなくてもいい、ってワケね」


 このアダプター1に設営した中継局を運んだ時の事を思い出し、詩絵莉は組んだ両の手を前へと体を伸ばすように突き出す。機材に気を使いながらの道中が余程酷だったのだろう。だが、それも今回必要無いと分かると、安心したような表情を浮かべた。


「そもそも……ここに設営されている中継局と同規模のものだと、あの高い防御壁に阻まれて機能しないだろうからね。 皆があの場所を確保出来たなら、そこからは()()()()だ……鉄塔さえ無事なら、何とかして見せるよ」


 真剣な面持ちで地図上を見詰めながら力強くそう言う彼は、先ほどまでとはどこか別人の様な雰囲気を浮かべている。

 これが本来の、整備士としてのフリッツ……彼の一面なのかもしれない。



 ――ふーん……とてもあのコミック(ギルティア)を引き合いに出して問い詰めてやったヤツには見えないわねえ……。



 その姿に、詩絵莉は第13A.R.K.の地下室で出会った彼を思い出し、思わず鼻をふふん、と鳴らす自分に気付くとそれを誤魔化すように慌てて咳き込む。


「ん? 大丈夫か?」

「な、何でも無いわよ」


 咳き込むその様子に、きょとんとした表情で覗き込んできたギルへ詩絵莉は慌ただしく手を振って見せる。


「……とにかくよ。 (アキラ)の言う通りね。 ここに同行するって聞いた時は色んな意味で心配したケド……ま、頼りにしてるわよ、フリッツ」

「……!! ……あ、ありがとう、アーリー……」

「ん"ぇ"ッヘン"ン!!」


 彼女のニヤリとした視線と共に…頼りにしている、という言葉を受けてフリッツは、嬉しさのあまり例のコミックヒーローの主人公である"アーリーン・チップチェイス"、彼女にそのひとコマを重ね見てしまい、思わずその名を口走ろうとしたところ。詩絵莉は間髪入れずに派手に咳き込むと、何とか煙に巻いた。


「ままま……ま、まあそう言う事、だよ、うん。 とにかく、そっちは任せてくれ! ……その為にも皆、どうか無事に任務を……頼むよ」


 フリッツは激しい視線を向ける詩絵莉をなるべく視界に入れない様、冷や汗を流しながらそう締めくくった。

 彼の様子に「……ふん」と、やや不機嫌そうに腕組みをして見せるその脇で、アールはゆっくりと瞬きをすると、その口を動かす。


「わたしたちの任務は……あそこに居るタタリギを、倒すこと。 ……みんなを守る為に……戦う……」


 作戦概要を聞き終えたアールは、ゆっくりと……静かに。

 誰に言うでもなく、そう呟く。その言葉に、一同は小さく頷いた。


「……()()()()、アール」


 どこか不安げな雰囲気をその台詞に感じた斑鳩は、彼女の肩にそっと手を置き彼女の横顔を見つめる。

 彼女は昨晩の彼との会話、そして巡った思いを再び胸に灯すと、目を閉じて小さく頷いた。


「……きっと、だいじょうぶ。 ……任せて、斑鳩」

「……ああ、頼りにしている」


 斑鳩は彼女の様子に深く頷くと、皆を振り返った。


「これから先、前情報の無い戦い今作戦の様な戦闘が増えるだろう。 この作戦は、Y028部隊の…………いや、"ヤドリギ"が"タタリギ"に対して()()()()()()()()()()()…………本当の意味でそれを見極める戦いになると、俺は思っている。 ……だからこそ、往こう。 ……皆、宜しく頼む」


「了解だぜ!」

「了解、タイチョー!」

「了解……斑鳩」


 斑鳩の言葉に、ギル、ローレッタ、そしてアールが敬礼の姿勢と共に言葉を返す中……

 詩絵莉は一人彼の言葉と表情に再び、先ほど彼とマルセルとの会話にもほんの僅かに感じた違和感を再び覚え、思わず返答に詰まっていた。



 ――なん、だろう……。 今……また、暁に、違和感……?



「……詩絵莉?」


 斑鳩は、やや戸惑う表情を浮かべた彼女に声を掛ける。

 彼の声に、はっ、と弾かれた様に顔を上げる詩絵莉。


 確かに、どこか……何かに感じたその違和感を、彼女は振り払う様に小さく首を何度か横に振る。

 気のせい、なのかだろうか。……柄になく、自分自身がこの作戦に、どこか不安を感じているせいなのかもしれない。


 詩絵莉は改めて、斑鳩を真っ直ぐ見つめ返す。


「……ごめん、何でもないわ。 ……了解よ、暁」


 彼女の返事を得ると斑鳩はマルセルと無言で頷き合い、ロビーコンテナを後にする。

 その彼の後ろを、ギルとアール、そしてフリッツが続く。


「……シェリーちゃん? どうか、した?」


 先程の彼女の様子を見て、少し心配そうにそう声を掛けるローレッタに、詩絵莉は苦笑しながら手をぱたぱたと振ってみせる。


「な、何でも無い何でも無い! ごめん、ちょっとぼうっとしてた……のかも」

「そ、そう? ……そうだよね、今回の作戦でもデイケーダーの携帯が通達されてるし、色々……気苦労も多いよね、シェリーちゃんも……うん!」


 ローレッタは踵を僅かに浮かすと、「よしよし」と彼女の髪の毛を優しく撫でる。

 そんな彼女に詩絵莉は「ありがとう」と笑みを浮かべながら、ロビーコンテナの開かれた扉の外、アールと何やら言葉を交わしている斑鳩の背中を目で追っていた。


「……さあ。 あたしたちも行こう、ロール」



 ――きっと、気のせいよね……暁。



 詩絵莉は心の中でそう改めて呟くと、マルセルにローレッタと共に一礼を見せた後、部屋を後にする。


 部屋を出ていく二人の背中を見詰めながら、マルセルは作戦机の片隅に置かれた今はもうすっかり冷めてしまったマグカップを手に取ると、きゅ、と勢いよく一口含んだ。


 冷めてもなお美味しく感じるよう入れてある、五葉が入れたお茶をゆっくりと口の中で転がすように喉の奥へと流し込むと、彼はマグカップの水面に映る自らの顔を眺める。


「泉妻 詩絵莉……か。 ……やれやれ、斑鳩隊長。 お前の事をよく見ている子が居るじゃないか、なあ」


 ゆっくりと視線を上げるその先には、アダプター2へといよいよ出撃する……彼らの背中。


 戦地へと向かうY028部隊の後ろ姿に目を細めながら……何とも言えない厳しいとも、寂しいとも見てとれる様な複雑な表情を浮かべつつ。



 マルセルは彼らの、その後姿を、何か含んだような表情で――。



 ――長らく……見詰めていた。







 ……――第7話 この力、誰が為に。 次話へと続く。

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