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ヤドリギ <此の黒い枝葉の先、其処で奏でる少女の鼓動>  作者: いといろ
第2章 アダプター1へ向けて
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第6話 アダプター1へ向けて (6) part-2

Y036部隊、マルセルと五葉と新たに出会った彼ら。

そこで報告を受けたアダプター1に存在した、幼樹と呼ばれる異形と化した丙型タタリギ。

その事実に愕然としながらも……差し迫る次の戦いの一助になるであろう、アガルタからの支援兵装に目を通そうとするのだった。

「……了解しました。 では、アダプター1は現在どういう状況に?」




 Y035部隊が散りながらも戦い確保した拠点に、ケチを付けてしまった様な感覚に襲われ、納得こそ出来ないものの。斑鳩は話を先へと進めようと口を開いた。


幼樹(オサナギ)発見、対処と並行して仮拠点の設営は行っています。 本日正午前までには、アダプター1すべての設備が稼働出来る様になるでしょう。 それを踏まえてY028部隊、部隊長斑鳩。 及び同部隊員、整備士一名は、本作戦会議が終了し次第アダプター1に出向して頂きたく思います」

『了解』


 五人はミルワードの言葉に敬礼する。

 やや遅れて一人、フリッツが慌てて敬礼の姿勢をとった。


「……いよいよ、だな。 やっとカラダが動かせるぜ」


 ギルは頷きながら、少し緊張した様子で両こぶしを胸の前で合せながら強く頷く。

 同じく斑鳩、アール、……そして詩絵莉とローレッタに加え、フリッツも同じく頷いてみせた。

 ミルワードは並ぶ六人に対し小さく首を縦に振って見せると、峰雲へと向き直る。


「その前に、峰雲先生。 アガルタから預かった兵装を彼らに」

「そうそう、ちょっと重かったけど……なに、アール君にも見て貰いたくってね。 ここに持ってきたんだ」


 峰雲は先ほど重そうに押し引いていた台車に載ったケースに手を掛けるが、どうやらそれなりに重量があるらしい。

 持ち上げようと四苦八苦する彼を見て、斑鳩はギルに「手伝おう」と目配せし、二人でそれぞれ一つずつケースを抱えるとミルワードに促され指令室中央にある大きな机の上へと抱え置いた。


「ふう、ありがとう。 一応、許可を貰って開けては見たんだけど……なにぶん取扱説明書が入っているわけじゃあなかったものでね。 僕も兵装には詳しくない。 是非ともアール君に見て貰って、話を聞かせて貰いたくてね」

「……ん、わかった。 見てみる」


 峰雲にそう言われると、アールは軽く頷くと机の前へ歩み出ると、おもむろにケースの一つを開ける。


 まず一つ目に開かれたケースの中には、篭手……だろうか。

 薄手だが頑丈そうな素材で出来たそれに何らかの小さな機構。

 そこから伸びるワイヤーの先には、何やら返しの着いた矢じりの様なものが固定されていた。


 それら同じ篭手の様なものが、鈍い光沢を浮かべ四つほど並んでいる。


「……なんだこりゃ?」


 傍らからギルがあごに手を添えながら覗き込む。

 同時に、後ろでその様子を見ていたローレッタとフリッツも机の前に歩み寄ると、開かれたケースに並べられたそれを興味深そうに眺める。


「小さい撃牙……みたいに見えるけど、なんだろう?」

「対タタリギ用の兵装にしては貧弱に見えるなあ……」


「うーん?」と首を傾げる二人に、アールはその篭手の一つをケースから取り出すと、慣れた手付きで左手へと装着した。


「これは……うん、便利なやつだよ。 ……グラウンド・アンカー」

「グラウンド・アンカー?」


 聞き返す斑鳩に、アールは「うん」と頷き、たどたどしくだが説明を始める。


「撃牙と逆の手につけて……トリガーは、撃牙と同じ手元にあるこのレバーを引くと……ええと……そしたらコレが発射されて、うん……」

『……』


 自分へと向けられる真剣に説明を聞こうする皆の視線に、言葉がだんだんしり尻すぼみになり、ついには彼女はゆっくりと目を閉じた。

 その様子に、詩絵莉はぽんぽん、と彼女の肩を叩いた。


「ど、どうしたの?アール」

「……せ……説明……むつかしい……ここじゃ、使って見せれない、し……」


 ううう、と小さく呻く彼女の傍ら。

 フリッツは徐にグラウンド・アンカーをケースから一つ取り出すと色々な角度からそれを眺め、触り、「ふんふん」「へええ」「ほおお」と仕切りに感嘆の声を漏らした後、アールに頷く。


「これはワイヤー状で繋がれたフックを射出するもの……だね。 このワイヤーは見た限り、撃牙の弦に使われているものをより細く編み上げたもの……撃ち出したあとは、もう一度トリガーを引くとロックが解除されて一気に巻き戻る構造になっているよ」

「なるほど、そうなのか?アール」


 代わりに解説するフリッツの言葉に頷くと、斑鳩はアールに視線を向ける。

 すると彼女は、うんうん、と何度か頷き返しながら「そう、そう」と肯定した。


「見たところ、ワイヤー部分の強度はかなり強そうだけど……どの程度の加重まで耐えられるんだろう?」

「100㎏くらいまでなら、引っ張れるよ」

「すると、例えばどこかにこのアンカーをフックした状態で……リフトの様に自分の身体を持ち上げたりも出来るのかな?」

「……持ち上げるのは難しい、けど……巻き取りと同時にジャンプすると、いいかも。 高いところまで飛べるよ」

「ふむふむ……!これ単体で飛んだりする事は出来ないけれど、跳躍の補佐的な事には使えるということか……!」


 アンカーを片手でいじくりまわしながのフリッツの疑問に、アールは次々と答えていく。

 その質疑の応酬に、斑鳩たちは交互に首を二人に向けながら聞き入っていた。


「つまり、これ自体は兵器……ではなく、動きの補佐を行うための道具ということか……面白いな」

「ふむ、なるほど……これは面白い兵装ですね」


 斑鳩は一通り二人のやりとりを聞き終わると、自らもアンカーを手に取る。

 机の反対側から、ミルワードも興味深そうにその様子を見つめていた。


 二人の会話から把握するに、アンカーの飛距離はおおよそ20m。

 トリガーを引くと発射され、もう一度引くと巻き戻る構造になっているそれは、100㎏程度までの重量なら耐えられる構造になっており、練度は必要だが発射し先端が飛翔する最中手元を振る事で着弾点の操作も可能になるとの事だ。


 ちなみに限界を超えた加重が掛かると巻き取る機構が空回りし、ある程度断線を防ぐ事が出来る様な仕組みにもなっているらしい。


「飛び道具ならあたしの出番、と言いたいところだけど……20mじゃあ、あたしにはちょっと使い道が無さそうねえ……」


 ふむ、と詩絵莉もアンカーを手にすると、悩まし気に眉をひそめる。


「……面白そうだけどよ、俺に扱えるか?これ。 ……すげえ難しそうだぜ」

「ギルやんは不器用だもんね」

「う、うるせえな。 飛ばすモンには邪念が入るタイプなんだよ、俺」


 それぞれ思い思いにアンカーを手にして感想を口にする。


「まあ、元々開いてる左手に装備するんだ。 このサイズなら邪魔になる事も無いだろうし……それに応用性がありそうな兵装だと俺は思うぞ。 ありがたく使わせて貰おう。 使い方は追々、だな」

「うんうん。習うより慣れろ、ってやつ。四つあるってことは……一応、タイチョー、ギル、シェリーちゃんにアルちゃん用、だね」


 ローレッタはそういうと、ギルの背中を叩く。


「地形利用だけじゃなくて、タタリギに対しても結構、使い道……あると思う。 使えたら、色々出来るようになるよ」


 アールはそう言うと、フリッツに頷きもう一つのケースを開ける。


「……アールさん、こっちは何だろう?」


 開かれたケースをフリッツは覗き込み、アールへと振り返る。

 そこには、革製のサスペンダーだろうか。例えるなら上半身に着けるガンホルダーの様な……丈の短いベストの様なものが入っている。


「あ、すごい。 これ……人数分あるなんて。 私もここに来る直前に初めて貰った最新の防具…すごく高価って聞いた」

「ぼ、防具……?こんな薄い、()()がか?」


 そう言うとアールは、斑鳩たちとは少し違う形状の自らの戦闘服……

 その胸元、脇あたりをめくって見せる。そこには確かに彼女の言う通り、この同様のベストの様なものを見に着けているのが見てとれた。


 言わずと知れてなのだが、彼女を含め斑鳩たちが身に着けている戦闘服は当然、防刃、防弾性の素材で編み上げられているものだ。

 対タタリギにおいて、彼らが今身に纏っている以上の防具は存在していない。何故なら、タタリギの攻撃はある意味"防ぎようがない"からだ。


 例えばヤドリギが成り果てた丙型タタリギが相手の場合。


 それが元式狼だった場合、四肢から繰り出される攻撃は非常に強力だ。

 無防備な状態にまともに喰らえば骨折どころでは済まない。仮にもし手にした撃牙を撃たれでもしたら?服はそれに耐えられる素材ではあるが、着た中身本人への衝撃まで緩和する事は物理的に難しい。


 前回遭遇したような、乙型を始めとする大型タタリギの場合はどうだろうか。


 この場合も機銃による掃射や、砲塔による打撃、轢き殺さんとする様な、本体による突進。

 一般人と比べて比較にならない程の強度を秘める"ヤドリギ"であろうとも、言えば人間。その直撃は、耐えられるものではない。

 なのでヤドリギたちの戦闘に置ける防御とは、回避を指し示す。被弾すれど致命傷を負わない様に、避けるしかないのである。


「そう、なんだけど……えっと、これはフリッツも多分わからないやつ……でも、これは説明する必要あんまりない、かも」


 疑問を口にする斑鳩に頷くとアールは防具と呼んだ自ら身に着けた、それに視線を落とす。


「見たところ、とてもタタリギの攻撃を防げるようなものには見えないけど……」


 その様子を見ながら、詩絵莉も首を傾げながら疑問を口にする。

 フリッツは、アールのその様子を食い入る様に見つめていた。


「ここの……右側についてるヒモを、引くよ。 みんな見てて」


 言うが否や、アールはそのサスペンダーから生える短い紐を右手で握ると「えい」と一気に引いた。


 パッシュウウウッ!!


挿絵(By みてみん)


『うおおおお!!?』


 彼女が紐を引いたその瞬間。一同は驚愕する。

 アールの背中側……後頭部から頸椎に掛けての位置に、圧縮された空気が噴き出すような音と共に、一瞬にして風船の様なものが現れたのだ。


「"リアクティブ・エアー"。 直接、攻撃を防ぐわけじゃなくて……衝撃で飛ばされたり、何かあったときにこれ使うと……致命傷、避けれるかも。 そういうやつ」

「な……なるほど……!」

「使ったらすぐに空気抜けちゃうから、しぼんだらもう一回……このヒモを今度は、止まるまで引けば元に戻るよ」


 そう説明しながら、今度はゆっくりと紐を長く引く。

 アールの言う通り、既に空気が抜けつつあるそれは引かれる紐に同調する様に背中側にある収納部分にするすると収まっていく。


「す、凄いな……。 アール、これは一度しか使えないのか?」


 収納されゆくそれを彼女の後ろに回り込んで斑鳩は確認しながら問うと、アールは「うーん」と宙を見上げる。


「何度でも使えるよ。 でも、一度使ったら5分くらいは多分、使えないと思う。 あ、()()に強い衝撃を受けても、勝手に開くようになってるよ」


 言いながら、先ほど引いた紐を再度引いて見せるが確かに反応がない。


「5分……か。いや、それにしても十分だな……これは確かに心強い装備だ」

「イカルガ、こりゃほんと……すっげぇな。 確かに前線で転がる俺たち式狼にとっちゃすげえ有用だぜ。 ……フリッツ、どういう構造になってんだこれ?」

「さ、さ、さっぱり分からない!!」


 ギルの問いかけに、それまで黙りこくっていたフリッツは頭を抱えて声を上げる。


「この薄い構造で、どういう仕組みであんな一瞬で空気を!?そもそも使い切りじゃなくクールタイムがあるとは言え、再使用が出来るなんて……!?こっちが聞きたいよ!ああ、分解してみたい……!!」

「そ、そうか……」


 くねくねと身をよじる彼から、一同はやや一歩距離を置いた。

 詩絵莉はそんな彼の様子にため息をつくと、ケースの中に仕舞われているリアクティブ・エアーの数を数える。


「いち、にー、さん……うん、確かに四つ入ってる。 ま、構造はともかくこれは単純に心強いわね。 人数ぶんあるし、これはありがたく使わせてもらいましょうよ」

「アガルタってやっぱり、すごいんだなあ……」


 その言葉に、ローレッタも感嘆の声を漏らしながら頷いた。


 同時に、少し恐ろしくもある。

 コンソールに使われている技術もそうだが、アガルタと前線であるこの第13A.R.K.……いや、このA.R.K.だけではないだろう。恐らく、アガルタの技術力とここを含む各A.R.K.では技術力、科学力、どちらも一線を画すものがある。どれほどの技術を、アガルタは今保有しているのだろうか。



 ――あのブラックボックスも、私たちが想像出来ないような"()()"なのかな……。



 ローレッタは皆の会話に相槌をうちつつも一人、頭の中で思考を巡らせる。


 そして、新しい二つの兵装を前に湧き上がる皆の傍ら。

 斑鳩もまた、近しい事に思考を巡らせていた。



 ――旧世代の技術が保存、実行される人類最期の砦……か。



 タタリギが発祥する以前の文明や技術を、アガルタは保存しているという。

 それは当然、前線から最も遠いとされる場所で人類滅亡を回避する為に日夜、今ある最高の技術で以てタタリギを研究しそれに打ち勝つ方法を模索し続けている場所。それがアガルタだ。


 だが、同時に疑問も残る。

 この二つの兵装にしてもそうだ。何故、撃牙の様に配備されないのだろうか?

 撃牙や詩絵莉たち式隼が扱う銃などよりも当然、複雑なものだろう。当然コスト面や製造難度にもあるのかもしれない。しかし全てのヤドリギに配備されないまでも、こういった新たな兵装が開発されている、配備予定があるかもしれない、などと噂ですら耳にしたことはない。


 そんな兵装をこの我々、現状Y028部隊にだけ配備される……正直、違和感を感じずにはいられない。

 現状、第14A.R.K.に対して解決すべく奮闘している別動隊に対してアガルタから兵装の供給や、人員の配備等は一切無いと言っていい状況にも関わらず……だ。


 では他の部隊と、このY028部隊の何が違うのか?



 ――当然、彼女だ。



 斑鳩は、ミルワードと峰雲を交えて皆と兵装の話をたどたどしく行う彼女に視線を向ける。


 ヒューバルト大尉のアール配属時の態度と言葉。…詩絵莉が揶揄した様に、まさに、"実験部隊"として扱われているのだろうか?

 第14A.R.K.で起きている問題を差し置いてもなお、彼女…式神の実証実験に、自分たちY028部隊が使われているのだろうか?



 ――それなら、それもいい。



 斑鳩は考える。


 もし自分たちを通した実験だったとしても、次世代のヤドリギ……"式神"が運用されるに至り。

 後世のヤドリギたち、そしてひいては人類がタタリギに打ち勝つ為へと繋がるのであれば、()()()()()


 本当にその可能性があるならば、見てみたい。


 この部隊の皆、そしてアールを加えた今ならば……

 自らの予見する人類の最期を、あるいは覆せる何かが"()()"にこそ、あるというのなら。



 ――本当に、アガルタの真意が……そこにあるのならば。








 ……――第6話 エピローグへと続く。

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