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ヤドリギ <此の黒い枝葉の先、其処で奏でる少女の鼓動>  作者: いといろ
第2章 アダプター1へ向けて
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第6話 アダプター1へ向けて (3) part-1

兵站管理部の窓口で案内された男、"変わり者の整備士"、フリッツ・クラネルト。

その彼が住まうと聞いた管理棟地下へと、斑鳩と詩絵莉の二人は薄暗い階段を下っていく――。

「……なんだか寂しげなところねえ……本当にこんな所に居るのかしら……」




 格納庫に隣接する、兵站管理部棟の地下へと続く階段を下った先。

 兵站部の窓口で聞いた11番倉庫は、この通路の最奥らしい。


 薄暗く続く廊下に灯る心もとない明かりを頼りに、二人はそこへ向かっていた。

 壁や天井に備え付けられたそれらは数こそあるものの、今は節約の為だろうか。点灯しているのは三つ四つに一つ。無機質な通路を点々と照らすそれが、また寂しさを増して感じさせる。


 聞くに、一昔前までこの地下は整備員たちの寝床として使われていたそうだが……現在はここに住まうものは殆どいないらしい。現在は壊れた兵装や使われなくなった備品等が収めらる場所……と言えば聞こえはいいが、いわゆるガラクタ置き場の様な場所になっている、との事だ。



 斑鳩と詩絵莉は怪訝そうな顔つきで、もくもくとその通路を進む。


 上では整備員たちが忙しそうに右往左往し喧噪を醸し出していたが、一歩階段を下ったこの場所はしん、と静まり返っていた。

 当然、すれ違う人の気配も全くない。


「確かにな……しかしまあ、もともと居住区として作られた場所だ。住めないわけではないんだろうが……」


 流石に暮らす場所などに対して無頓着な斑鳩も、あたりを歩きつつもあたりを見渡すと、やや辟易といった感じで肩をすくめる。

 地下に降りる階段を下って、2分程歩いただろうか。いくつかの扉を過ぎて行ったその先――通路の行き止まり。

 今まで見た扉より一回り大きな扉が姿を現した。


(アキラ)……見て」


 詩絵莉は扉の横を指さす。

 本来そこには、他の扉と同じく部屋番号を示すプレートがある場所なのだろうが……

 そのプレートの上に、「用事の際は必ずノックすること」と、雑な手書きで書かれた紙が貼りつけられていた。


「……ここで間違いないようだ」


 斑鳩は頷くと、躊躇する事もなく扉を叩く。

 重い金属を叩く、ドン、ドンという音が二回、通路に響く。


「突然失礼、自分はY028部隊に所属する、部隊長……式狼(シキロウ)の斑鳩だ。上の窓口で紹介されてここに来た。少し伺いたい事があるんだが、いいだろうか?」


 ノック音が収まると同時に、斑鳩は扉に向かい声を上げる。

 反響するノック音が遠く消える中、二人は扉の前に無言で立ち尽くすと、顔を見合わせた。

 留守なのだろうか……?斑鳩は念のため、ともう一度ノックしようと手を挙げると同時に、中からようやく返事が返ってきた。


「Y028部隊……?……ああ、カギは掛ってないから、勝手に入っちゃっていいですよ……」


 若い男の声。……それも、かなり気怠そうな。


 再び顔を見合わせる斑鳩と詩絵莉。

 彼女はやや怪訝そうな表情を浮かべると、無言で斑鳩に「どうぞ、どうぞ」と両手でジェスチャーする。

 その姿に斑鳩はやれやれ、といった風にため息を付くと、扉に手を掛けた。


「……失礼する」


 開かれた先には、想像よりも広い部屋。

 しかし部屋の中は薄暗く、様々なものが放り込まれる様に積み重ねられ……元居住空間だったとは思えない程だ。

 元は二段ベッドだったのだろうか。鉄パイプで組まれたそれは今や資材置き場と化し、憩いの場だったかもしれないテーブルの上には、何やら撃牙や、銃……他にも様々なものがうず高く積み上げられている。


 そんな中……ガラクタ、といっていいものが散乱する床に一筋の道。

 その先に、複数の照明に煌々(こうこう)と照らされた机に、一人の男が背を向けて座っていた。


 斑鳩はその細い道をゆっくりと歩む。詩絵莉も彼の陰に隠れる様に……というか、そもそも二人が並んで歩けるスペースでも無いのだが、とにかく彼の背中について進んでいく。


「……やあ」


 近付いてみると、やはり気怠そうな声で男は机の上で何やらカチャカチャと機械いじりをしながら、振り返りもせず挨拶を口にする。照明に照らされる、伸び放題の金髪を無造作にくくっただけ、といった後頭部に、斑鳩は言葉を返した。


「君がフリッツ……フリッツ・クラネルトか?」


 ぎいぃ、と派手に軋む音と共に、彼――フリッツは振り返った。


「……初めて見る顔だね。こんにちは……いや、今はおはようかな?」


 そう言うと、机の脇にある時計にチラリと視線を落とす。

 度の強そうな大きな眼鏡に、眠そうな茶色の瞳。やや不健康そうに痩せた顔に、無精ひげ。

 身を覆う服こそ整備士のそれだが、その上には、少々くたびれた革製のエプロンを着けている。


 斑鳩よりも年齢が上に見えこそするが、それは不摂生そうな見た目がそう思わせるのかもしれない。


「ああ。朝早くから訪れてすまない。しかしどうしても君と会って話したい事があったんだ、許してくれると嬉しい」


 斑鳩はぶしつけな訪問を謝罪すると、彼はぽりぽりと頬を手にしたレンチでかいた。


「……かまやしないよ、どうせ今の僕には昼も夜もない、気楽なもんさ」


 やはりどこか気怠そうに、自嘲するように笑うフリッツ。


「で……部隊長さんが、何の用だい?……って、聞くまでもないか。どうせ上の人たちに僕が暇そうにしてるから、手伝う様に説得しにきたんだろう?だったら折角訪ねて来て貰って申し訳ないけど……第14A.R.K.を担当している整備士ならあの人数で十分、足りてるはずだ。僕が何かする必要はないよ……」


 そう言うと、手にしたレンチを器用にくるくると胸元で回す。

 斑鳩は彼の言葉に首を横に振った。


「……いや、俺たちは第14A.R.K.を担当する部隊じゃない。別の作戦に向けて今、準備をしているところなんだ」

「……第14A.R.K.担当、じゃない……?……いや、そんな馬鹿な。今はあそこを奪還する為にここのヤドリギ達は躍起になってるんじゃあなかったのかい?」


 フリッツはレンチを回す手を止めると、座ったまま斑鳩の目をそこで初めて見た。


「確かに部隊の殆どは今、第14A.R.K.奪還に向けて……」

「……ああ、ちょっと待って!そこの……隊長さんの後ろに居る、君……!()()()()のものを勝手に触ら……ない……で……」


 唐突にフリッツは立ち上がると、照明の具合でよく見えていなかった斑鳩の背後――。


 詩絵莉が散乱するあたりのものから、銃のらしきものを取り出し眺めている姿を見て、彼女に速足で歩みよるが……彼女の姿を眼に写すと、動作と共に語尾を弱め……最後には彼女を見つめたまま、ピタリ、と動きを止めてしまった。


「あっ、ご……ごめん!ちょっと珍しい銃があったから、つ……い……?」


 厳しい権幕で突然詰め寄る彼に驚いた詩絵莉は、思わず謝るが……依然固まったままの彼の様子に、両手を上げたまま首だけを向けて、斑鳩を見る。


「……あ……暁?……彼、どうしちゃったの?」

「い、いや……俺に聞かれてもさっぱり……」


 話を突然折られたかと思うと、完全に停止してしまったフリッツを覗き込み疑問を口にする斑鳩。

 すると、ようやく……彼の唇が震えながら、ゆっくりと動く。


「……ぁぁ……ぁあぁ……ぁぁあ、り、あり……」

『……え?』


 小刻みに震えるフリッツの口がぼそぼそと何かを呟くその言葉に、斑鳩と詩絵莉は首を差し出すようにして聞き耳を立てる。


「ゥゥアアアアア!()()()()()()()()()()()()ちゃんじゃあないですかあぁぁアアァァッ!!!!」


 歓喜と驚愕。

 フリッツはその両方を両手いっぱいに抱えたと言わんばかりに大声を上げると、詩絵莉に向かい両手を広げて飛びついてきた!


「ヒッ!!?!」


 あまりの彼の変貌と、抱き着つかんばかりのその勢いに、詩絵莉は思わず蹴りを繰り出していた。

 ずっどぉ、と鈍い音を立てて思い切りフリッツの左わき腹にめり込んだ詩絵莉の右足は、彼をガラクタの海へと吹き飛ばす。



 どがっしゃーん!ぐわらぐわら……



 止める事すらままならなかった展開と様子に斑鳩は、口をあんぐりと開けて一連を眺めていたが……。

 ガラクタに埋もれるフリッツをに目をやると、は、とようやく我に返る。


「おっ、おい!フリッツ、大丈夫か!?」


 兵器や様々な機械の残骸やパーツ、果ては洗面器や箒などに埋もれ未だ動かない彼を救おうと瓦礫と果てたそれらを手でどかしながら、斑鳩は詩絵莉を振り返った。


「し、詩絵莉!今のは一体……!?アーリー……アーリン?って……誰かとお前を見間違えた、のか……?」

「アーリンじゃない、()()()()()()()()()()()()!」


 詩絵莉は斑鳩の言葉にすぐさま反論するかの様にそう口にしたかと思うと、思わず突いて出た自分の言葉に軽く仰け反り斑鳩から視線を外し、明後日の方向を向く。


「……いやその、うん。なんかアーリーンなんちゃらーって、いってぇたよおなあ……あは、あは……ああぁあ、あたしは全然なんの事だかッ!?」


 なんだろう、()()()()()()()()()()()()()。斑鳩は明らかに動揺し誤魔化そうとする詩絵莉をじと目で見つめるが、今は蹴り飛ばされた彼……フリッツが心配だ。瓦礫をどかし終えると、幸せそうな表情で伸びている彼の肩を担ぎ、椅子へと座らせた。


「お、おい……」


 斑鳩はフリッツの頬を軽く平手でぱしぱし、と叩く。


「う……うぐぐ……げほっ!げほっ……!……あ、あぁ……だ……大丈夫です。ぼ、僕こそすいません、つい……興奮して、しまって……」


 脇腹を抑えながら言葉を吐く彼に、ほっと胸をなで下ろす斑鳩。それも束の間、詩絵莉に振り返る。

 詩絵莉は彼の視線に、バツが悪そうに肩を落としながら小声で「ご、ごめん……」とうなだれる。


「……で。何から話せばいいんだ……この状況は」


 斑鳩は、うなだれる詩絵莉。

 げほげほと咳き込みつつも、不可解な事に幸せそうな表情を浮かべるフリッツ。


 二人を交互に眺めると、大きくため息をつくのだった。






 ……――第6話 アダプター1へ向けて (3) part-2へと続く。

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