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ヤドリギ <此の黒い枝葉の先、其処で奏でる少女の鼓動>  作者: いといろ
第2章 アダプター1へ向けて
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第6話 アダプター1へ向けて (1)

ギルのコンテナで、ひと時の喧騒を終えた彼ら。

――それぞれアダプター1へ向けた準備をと…朝を、迎える。



 ――白い、部屋。




 白々しい程に綺麗なシーツに包まれたいくつかの簡素なベッド以外の家具は、見当たらない。

 彼女――アールはそのやや硬いベッドの一つに横たわり、天井を見つめていた。


「……」


 仰向けのまま、目をぱちくりさせる。

 ここはどこだろう、などと彼女は一瞬たりとも思い浮かべなかった。

 ……見慣れた景色。しみ一つない、わたしの部屋だ。アールはため息を付くと、また始まる今日を憂う。


 ああ、今日も一日がはじまる。一体いくつの今日を迎えたのだろう。


 繰り返す日々。いつしか一人になっていた。

 以前は他に並ぶ9つのベッドにはそれぞれ、誰かがそこで眠っていたように思う。

 だが、今見えるそれらはシワ一つないピンと張ったシーツに覆われ、その上で眠る者が居ない事を伺わせる。


『……D.E.E.D.(ディード)No,(エイト)。起床の時間です。繰り返します。D.E.E.D.(ディード)No,(エイト)。起床の時間です』


 唐突に、無機質な部屋にどこからともなく響く、無機質な男の声。

 彼女は寝がえりをうち、大きく真っ白な枕へとその顔を埋める。



 ――いいにおい……でも、わたしの、においじゃない。




 ――誰のにおい?





 誰の、におい?








「……アールさん……アールさん」

「……はい、起床、します」


 呼び掛けながら優しく揺さぶられると、アールはまどろんだ顔でその身をゆっくりと起こした。

 目の前に揺れる髪の向こうから覗く、少女の瞳……コーデリアだ。


「おはようございます、アールさん。よく寝れましたか?」


 目を覚ました彼女にコーデリアは、にっこりとほほ笑んだ。



 ……――夢……見てたのかな。



 アールは改めてぼんやりと自らの寝床を左手で触る。

 先ほどまで見ていた夢の中のベッドとは違い、柔らかい。年期を感じさせるごわごわの布団は、それでも心地よい手触りだ。

 彼女は頭を預けていた枕を手にとると、少し見つめたあと、ばふ、と(おもむろ)に顔を埋めてにおいを嗅いだ。



 ……――そっか……コーデリアのにおいか……。



「わ、わぁーっ!!?」


 そんなアールの様子を見ていたコーデリアは、慌てて彼女から枕を奪い取る。


「なななな、なにしてるんです!?……くっ……臭かった、とか……?」


 枕を両手で抱え、赤面する彼女。


 昨晩――細やかな宴を閉じた後、ギルは斑鳩のコンテナへ。コーデリアは自分のベッドをアールに提供し、自らは兄――ギルが普段使うベッドでそれぞれ就寝に着いたのだ。

 そのアールが起き抜けにまさかの奇行、とばかりにコーデリアの枕に顔を埋めて深呼吸。コーデリアは何事かと、視線を枕とアール交互に慌てる様に動かす。


「あ……ううん、ちがうよ。……コーデリアの、とても()()()()()がした」

「……ならよかっ……って、違う違う!……アールさん、恥ずかしいから今のはもう今後禁止で!!」



 ……――アガルタの夢……夢……って、久しぶりに見た気がする……いつぶり、だろう……。



 赤面したまま枕のホコリを照れ隠しの様にぽふぽふ、と叩き元の場所に戻すコーデリアを、アールはぼんやり見つめていた。


「こほん……さ、さあアールさんも着替えて着替えて。お兄ちゃんがそろそろ迎えに来る時間だから……!」

「あう……」


 アールは言われるがまま、彼女に借りた寝巻きを脱がされる。

 一応自分の服も持つには持つのだが、今は荷物の一切を医療部へと預けたまま。夜分にそれを取りに行くのも面倒だろう、と彼女が貸してくれていたものだ。年の頃は同じだが、ややコーデリアのほうが服のサイズは大きいか。


「おーいリアー、入っていいかー?」


 噂をすれば、と戸口から間延びしたギルの声。

 傍らのスツールの上に丁寧に畳まれ置かれていた彼女の服をアールへと手渡しながら、入口のドアへと向かって声を上げる。


「お兄ちゃんおはよう、もうちょっと待って、今アールさんが着替えてるからー!……ほらこれ、アールさんの服。一応今朝早く洗濯屋に出しておいたから、着心地いいと思うよ!」

「……ほんとだ、綺麗になってる……センタク、ヤ?」

「うん。うちの近くにあるの。短い時間で服とか……色々。洗って、乾かしてくれるところだよ。アールさんよく寝てたから、先に起きて出しといたの。さ、着て着て、その恰好じゃ風邪ひいちゃうからね」


 そう言うと彼女は、インナー姿の彼女を苦笑しながら急かす。アールは頷くと、綺麗になった自分の服へ袖を通した。

 程なくして着替え終わったアールを見て、コーデリアは「うんうん」と頷く。


「じゃあ、アールさん悪いんだけど入口のところにお兄ちゃんが居るから、部屋に入れてきてくれる?」

「わかった。……コーデリア。服、ありがとう」


 ぺこ、と頭を下げるアールにコーデリアは「気にしないで、ついでだったから」と笑みを浮かべると、戸口に向かった彼女が脱いだ寝巻きを畳もうと手に取る。


「……?」


 違和感。

 なんだろう……?一瞬考えるがすぐに、手に取った先ほどまでアールが着ていた寝巻きに温かさがない事に気付く。



 ――アールさん、冷え性……なのかな?それとも、前居たところと比べて、寒かった……かなあ……?



 今日の夜、もしうちでご飯食べるなら……暖かいスープね。彼女は心の中でうんうん、と頷くと手早くそれを畳み終え、枕元に綺麗に置く。同時にベッドに広がる布団を整えていると、ギルを連れたアールが戻ってきた。


「いやあ、イカルガっていつもソファーで寝てるって聞いてたが、マジだったとはなぁ」

「お帰りお兄ちゃん。イカルガさんって、そうなの?」

「ああ、だからベッド使っていいって言われたんだけどよ……流石になあ?でも意外と寝心地良かったぜ、あのソファー」


 ギルはテーブルの上に置かれたマグカップに水を注ぐと、ぐい、とそれを一気に飲み干す。


「……ギル、ありがと」


 そんな彼の後姿に、アールはやや申し訳ないといった面持ちで声を掛ける。


「なーに、ちょっと心配だったが仲良くやってたみてえだし。かまやしねえよ」

「そうそう。寝るまでの間アールさんに絵とかのお話してたの。ね、楽しかった!」


 屈託のない笑顔を浮かべる二人に、アールも「うん、すごく」と頷き笑顔をみせる。


「……そうだ、えと……斑鳩たち、は?」

「ああ、あいつら……イカルガとシエリは整備班だな。装備やら備品やらのチェックに向かってるぜ。キサヌキは用事が沢山ある、とかなんとか……一応、買い物してくるメモは三人から寄越されてるからな。俺たちは今から買い出しだ」

「……かいだし」


 昨晩別れ際に、今朝の予定を話し合った事をアールは思い出す。


 通達は今日にもあるはずだが、アダプター1への出向は間近に迫っているだろう。

 それを見越して今朝はそれぞれ出撃に向け、斑鳩と詩絵莉は整備班に武装や備品の申請や、要望を提出しに。ローレッタは、各方面で様々な所用や雑務を。そして、ギルとアール、加えてコーデリアは備品や配給品以外で必要になるものの買い出しと、それぞれ役割分担を行っていた。


「そうだよー、アールさんも何か必要なものがあったら言ってね。お願いしたら、お兄ちゃんが買ってくれるから」

「な、マジかよ……っつっても、そう言えば……アールお前……金持ってんのか?」


 ギルの言葉に、アールは「かね……」と呟くと、虚空を見つめ自らがアガルタから持ってきた荷物を思い浮かべる。首を傾げながら思い返すが、その中に、「かね」は含まれていなかった。


「……ないかも」


 申し訳なさそうに俯く彼女に、ギルは頭をぽりぽりと掻きながら「アガルタって意外とケチなんだなあオイ……」と小声で呟く。


「まあ、前回の任務の報酬もまだ昨日の今日で振り込まれてねえだろうしな。……いや、そもそも振込先とかどうなってんだろうな……しゃあねえ、後でイカルガに問い合わせて貰おうぜ。今回は俺が立て替えておくからよ」

「あ、ありがとう」


 アールはぺこ、とギルに頭を下げる。

 そんな彼女を見ながら、笑みを浮かべながらため息をつく。


「おいおい、頭下げたりしねえでくれよ、アール。俺たちゃもう仲間だろ。その……なんだ。困ったときはなんとやらだ。遠慮なんてするんじゃねえからな」

「お兄ちゃん、変わったねえ……イカルガさんに感謝だね!」


 ひと昔前の兄なら、自分以外の他人にお金を貸す、使うなんて事はしなかっただろう。コーデリアはくすくすと笑いながら「う、うるせえよ……」と照れるギルの横腹をつつく。


「そうだアールさん!お兄ちゃんに奢ってもらう魔法の言葉を教えてあげる!」

「まほうのことば」


 目をぱちくりさせる彼女に、コーデリアはその耳元で何やらこそこそと囁く。

 嫌な予感がするギルに、にっこりとほほ笑むコーデリアの横。アールの鋭い視線を受けながら、ギルはごくりとつばを飲む。


「……オニイチャン、オネガイー」

「……アール、お前意外と順応性、高えな……」


 お腹を抱えながら笑いを堪えるコーデリアに頭を抱えながら、ギルはぼそり、とそう呟いた。










「おーし、これで一通りメモの買い物は終わったか……予定より時間が掛かったな」


 ギルは片手に買い物した荷物を抱え、右手で斑鳩たちから言付かったメモを眺める。

 その後ろを露店で買った、茹でた万能ナッツに焼き目を付けた串焼きの様なものを片手に、アールとコーデリアが続く。


「……これあんまり、()()()()()……」

「ねー、ちょっとはずれだったね、初めて見たから買ってみたんだけど……」

「……おい、買ったのは俺だぞ、俺」


 ヤドリギ達が暮らす"積み木"と、一般人が暮らす"積み木"のちょうど中程にある、露店が並ぶ小さなエリアに三人は居た。

 店舗の様相にあつらえられたコンテナ。その間には露店の様な物がいくつか並んでいる。


 ギル達はそこで、アダプター1での仮住まいを想定し、様々な物を買い回った。

 と言っても、そう広くはなくむしろ10分もあればすべての店を見るだけなら見て回れるだろう規模だ。

 だが、アールにとってはその全てが珍しく、初めてみるものばかりだった。


 特に興味を引かれたのが先ほどコーデリアも言っていた、この商業場所入口にあった洗濯屋だ。

 ドラム缶の様なものを改造した洗濯機に、脱水機。何やら機械を再利用しているのだろうか。轟音を立て熱風を吐き出す大きな送風機の様なもので洗われた衣服やシーツ等を乾かしているその様は、何とも不思議な光景として彼女の目に映る。


 露店もまた、様々。


 何に使うのか見当もつかないような大小さまざまな機械の部品を売る店。

 コーデリアが目を輝かす、首飾りや指輪の様な手作りのアクセサリを売る店。

 どこから仕入れてきたのか、よくわからない古本や古雑誌を売る店。

 ひと際女性が多くみられた、衣服を取り扱っている店もあった。


 万能ナッツの鉢植えを売る店も見掛けたが、専用の施設で本来育てられるそれは、収穫に至り食べれるまであの小さな鉢植えで育てれるかどうかは運だそうであまりお勧めはしない、どちらかと言うと観賞用だとコーデリアは笑いながら教えてくれた。


 店舗の数こそ多くないが、それなりに行き交う人は多く、中にはヤドリギの制服を着た別部隊の隊員も見受けられる。



「……人、いっぱい居るね。こんな場所、初めて見た」


 手近なベンチに腰を掛け、ギルは横に座るコーデリアから押し付けられた万能ナッツの串をかじる。

 アールは立ったまま、目深にかぶったいつものフード越しに行きかう人や店を眺めていた。


「ま、この箱舟で買い物出来る唯一の場所だからな……ああ、一応本部内にも売店はあるけどな」

「アールさんが元居た場所はこういうところ、なかったの?」


 問うコーデリアに振り返り、軽く頷くアール。


「アガ……前、居たところは、こういう場所……は、たぶん……。わたしが、知らないだけかもだけど……でも、ここはなんだか楽しい感じ、する」

「うん、私もここ好きなんだ。よくわからないお店もたくさんあるけど、それもまた面白いよ」


 ほほ笑む彼女の横で、ギルは「確かにまずいな、これ……」と眉をしかめながら、もそもそと口を動かす。

 そんな彼に「ほら、あと二個じゃない、頑張って」と笑いながら応援するコーデリア。


「ギルとコーデリアは、ほんとに仲がいいんだね」

「……ま、ふぁぞふだあらあ」

「ちゃんと食べてからしゃべる、お兄ちゃん」


 ギルは目を白黒させながらなんとかそれを一気に飲み込むと、ぜえぜえと息を吐くと再び口を開いた。


「うっぷ……ま、まあ家族だからな……」

「家族……」


 アールはその言葉に、少しだけ首を傾げる。


「アールさんは、家族とか、兄弟とかは……?」


 コーデリアは苦笑いしながらギルの背中をさすりつつ、アールへ聞く。


「……」


 彼女の言葉に、アールは今朝の夢を思い出していた。

 あの真っ白い部屋のベッド。あの数だけ、誰かがあそこに居たのだろうか。寝起きを共にしていたのだろうか。


 ……それは、家族だったのだろうか。


 ……何故だろう、全てが濃い霧の中にある様な感覚。

 思い出そうとしても、誰かが居たかもしれない、という言葉以上の表現が出来ない。

 この場所へと歩く途中に落ちていた道端の小石の様に……小石は確かに沢山"あったかも"しれないが、その色や形までは……思い出せない。

 そんな感覚に、アールは囚われる。


「……よく、わからない……居たような気も……する」


 この気持ちが何なのか。悲しいのか、切ないのか。それとも何も感じていないのか。

 自分の気持ちながら、判断がつかない。アールは行きかう人々を呆然と見つめながら、そう呟いた。


 居たような気がする、という要領を得ないアールの言葉に、ギルとコーデリアはやや首を傾げる。


「……まあ、このご時世だからな……珍しい事じゃねえよ。俺たちも似たようなもんだ」

「お兄ちゃん……」


 アールは振り返り、ギルとコーデリアを見る。


 彼にとって妹……コーデリアはかけがえの無い、大事な存在なのだろう。昨晩からの二人を見ていると、それがよく分かる。

 ギルはそんな彼女の為に、必死で戦い抜いてきたと昨晩聞いた。それは、家族だからなのだろう。


 彼女は思う。自分には、家族と呼べる存在はひょっとしたら、居ないのかもしれない。少なくとも、あの白い部屋には。


 まさにタタリギと戦い、打ち勝つという価値しか見出されなかった自分。

 だが斑鳩たちは、それだけじゃない価値を自分に与えてくれると、今……この第13A.R.K.に来て、感じる。


 斑鳩たちだけじゃない。Y035部隊たち……クリフたちもそうだ。……意地と誇り。

 それは家族を守る為だったかもしれないが、きっとそれだけじゃない……もっと大きなものを守る為に在ったのだろうと。



 "――その背中にある、この第13A.R.K.を守る為に戦っているんだ――"



 クリフの言葉を思い出す。


 そうだ。ここ、第13A.R.K.を守るということは……そこに暮らす全ての家族を守るということ。

 ギルとコーデリア、そしてこの場所を行き交う人たち、自分たちの後ろにある命を、守るという事なのだ。


 ならばこそ。彼女は戦う意味をより強く見出す。

 ……彼らを守りたい。タタリギと戦う為に存在する自分は、その為に在りたい。


 病棟の廊下で決意した思いを、彼女はより強く心に刻む。


「……ギル、コーデリア。ありがとう」


 突然アールから発せられた感謝の言葉に、二人はきょとん、とベンチに座ったままアールの顔を見上げる。


「わたしに、家族はいないかもしれない。……でも、今は……斑鳩、ギル、詩絵莉にローレッタ。そして、コーデリアがいる。それがちょっとだけ、うれしい」



 ――そうだ。今のわたしがいる場所はあの白い部屋じゃない。この人たちは、わたしに意味をくれる。



 何かを思い詰める様な表情を浮かべる彼女に、ギルは立ち上がると笑いながらその背中を強く叩いた。


「ったく、"()()()()"かよ!……お前が何考えてるか、俺はイカルガじゃねえから、よくわかんねえけどよ。俺たちゃお前には期待してんのは確かなんだからよ!……これからも宜しく頼むぜ、アール」

「お兄ちゃん、そこは"俺たちがお前の家族みてーなもんだろー"って言うところじゃないの?」


 くすくすと肩を揺らしてその様子を見て、再び声真似をしながら笑うコーデリアに、ばつが悪そうに頭を掻くギル。


「き……気軽に俺たちは家族だぞ、なんて俺は言わねえよ!……家族ってなぁ、まあなんだ……言い過ぎかもしれねえけどよ……その……ああもう、こういう時イカルガなら気の利いたセリフをバシッと言うんだろうけどな……」


 そう言うとギルは腕組みをし、体を縮こませながら「うーん!」と頭をひねる。


「……うん、ありがと、ギル。……ギルの言いたいこと。なんとなく……わかるよ」

「そっ、そうか?」


 アールに真っ直ぐ見つめられ、ギルは少し照れくさそうに目をそらす。

 ……なんだかコイツ、いい顔してんな。彼は心の中でそう呟くと、はっ、と何かに気付いたようにコーデリアに視線を送る。


「そう言えばリア、今何時だ?」

「ん?えっと……さっき広場前の時計見た時は8時10分くらいだったような……」

「……ああ、やべえ!8時半に格納庫(ハンガー)集合だった!のんびりしてる場合じゃねえ!……またシエリに怒鳴られちまうぞこりゃあ……」


 ギルは慌ててベンチに置いた荷物を両脇に抱え上げる。


「コーデリア、こっちの袋はお前の買い物と……ええとこれはなんだっけか!」

「違う違う!お兄ちゃん反対に持ってるほうが私の買い物袋だよ!」

「わ、わたしも、何か手伝う……」


 三人はあたふたと荷物を抱えると、急いで小走りにその場を駆け出した。

 駆け出す二人を前に、ああ、本当にこの人たちと出会えてよかったと、アールは少し笑みがこぼれる。


 斑鳩も、ギルも。誌絵莉も、ローレッタも。そして、コーデリア。

 出会って日は浅いかもしれない。でもそれは、彼女――アールにとってさしたる問題ではなかった。



 ――誰かの命令じゃない。心から自分の意志で、戦える。わたしに、意味を……その場を彼らはくれた。



 それだけで今まで感じた事の無い程、彼女は力が湧き上がってくるのをふつふつと感じていた。


「……アール!笑ってるけどなお前もシエリに()()()()()かもしれねえんだからな!?」


 振り返り、彼女の様子を見た彼が荷物を片手にアールを指さし、声を上げる。


「……だいじょうぶ。……ギルのせいにするから」

「あはは、アールさんお兄ちゃんの扱い、だんだんわかってきたね!」


 真顔でそう言い放つ彼女とコーデリアに、ギルは「それ絶対あいつ信じるからなああああ」と悲痛な叫び声を上げながら。




 格納庫への道を、三人は急ぐのだった。







 ……―――第6話 アダプター1へ向けて (2)へと続く。

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