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第5話 来たる、乙型壱種 (5)

遂にアール…式神の少女がその力を彼らの前に示す。

彼女は事も無げに撃牙を装填し、いつでも、と言わんばかりに構えるアール。


果たして乙型に対して、彼女はどうその力を見せるのか――。

 ――二人を頼んだわよ……!




 "狼"特有の初速から最速で駆け出すアールの後ろ姿を、詩絵莉は引き金に指を掛けたまま見送る。

 式神――、か……。彼女は心の中で小さく呟くと、すぐに視線の焦点を乙型へと戻した。


 遠くのものを観る様に意識を集中させやや目を細めると、まるで周囲の景色が後ろへと流れ往く様な感覚に囚われる。

 これが式隼(シキジュン)()の一つだ。

 それはまるでスコープや双眼鏡を覗くが如く、視界に在るものを自在に捉える。



 ――そこ!



 彼女は捉えた機銃の一つに引き金を容赦なく、(はじ)く。

 空気抵抗、高低差、転向(コリオリ)力。遠距離射撃に必要な複雑な計算を、感覚一つでものともせずに撃ち放ち、そして――



 ギャィィンッ!!



 耳障りな音を立てながら、斑鳩を狙う機銃の一つ。その銃身に弾丸を命中させ、その射角をずらす。

 詩絵莉の主な仕事は遠距離からの狙撃による、前線で展開する狼達のフォローが第一の仕事になる。

 本来ならば部隊内の通信によって事前に射撃する旨を周知する行程を必要とするが、この部隊――Y028においては()()は必要がない。



 ――こんな真似、他に誰が出来るっていうんだ?



 詩絵莉は一射毎に斑鳩の言葉を思い出す。


 実際、彼女が今やってのけている……まさに今前線で展開する戦闘の中へ銃弾を正確に放つその行為は、隼の中でも真似出来る者は少ないだろう。

 本体に向けた複数での隼による一斉射撃で一時的にタタリギの気をこちらの逸らしたり、周囲の障害物を撃ち抜き、崩れ落ちる瓦礫片を利用した攻撃等が隼が行う支援狙撃の代表的な戦術だが、それらは確認が必要な上に前線で展開する彼ら狼にとっても、思う様に動きにくくなる可能性がある。


 だが彼女はそれらを全て無視して、躊躇なく、確実に、そして狼達の連携その一切を邪魔する事なく弾丸を戦場へ差し込む。

 それは数居る隼の中でも特異と言って差し支えが無い才能だ。


 ――任せて(アキラ)。……あんたが信じてくれるなら、私はどんな(まと)だって外しはしないわ。


 バックパックに控えるデイケーダーを心の隅で思いつつ――

 彼女はそのか細い指で、引き金を容赦なく弾き続けた。






『……斑鳩』


 ローレッタのオペレートと詩絵莉両名の支援により、斑鳩とギルは付かず離れず乙型を牽制しながら互いにその牙を浅く深く突き立て続けるも、特に芯核(しんかく)が守られているであろうその触手で纏った装甲板――左側面側に対しては、未だ決定打を撃ち込むに至っていなかった。


 何度目かの機銃掃射を掻い潜り、手頃な瓦礫へと滑り込んだ斑鳩の斜め前方。

 アールが詩絵莉の元から予想より早く到着し、彼と同じように瓦礫を影に待機しているのが見える。


「よし……!アール、俺達にお前の"()"としての動き……その力を見せてくれ」

『……うん、わかった。……わたしは、どうすればいい?』


 斑鳩はチラリとギルを確認する。

 彼は砲塔の旋回による打撃を見事に避けながら、装甲板を狙わんと奮闘していた。


「……今回は俺とギルが先行し、右舷に展開する。お前はタイミングを計って左舷のあの派手な装甲板を頼む!」

『……ん、了解。……斑鳩とギルの後に……わかった、いつでもいいよ』


 合わせてみせる、と言わんばかりに深く頷き彼女は手早く撃牙を装填すると、斑鳩に頷いて見せる。


 装甲板を掲げる乙型の左側側面は、掲げた装甲板が影響してかやや攻撃が甘い。

 だが、それを理由に装甲板へと悠長に攻撃を加えようとすると、その板の隙間や上部から機銃の的になる。それを嫌い間合いを取ると今度は砲身による旋回打撃。弱点と思しき場所を意図的かそうでないかは不明だが、()()()の様に使っているのではないか。


 ローレッタからの報告と、斑鳩自身が接敵しての感想だ。


 今回斑鳩が提示する作戦は至極単純であった。

 彼とギル、二人で右舷へと攻撃比重を傾ければ、左舷の装甲板を狙う事自体は容易いはずだ。

 しかし、装甲板への攻撃に気付き乙型が反撃を試みるまでの時間……右舷に集中させていたとしても、時間にして数秒といったところ……。



 ――その数秒でどこまでやれるか。これで、彼女の実力……おおよそが見えてくるはずだ。



 三人での前線展開はこの部隊において初めてだが、彼女の力次第では今後様々な戦い方が出来るだろう。

 斑鳩は大きく期待を寄せていた。


『兆し、機銃右後方!……ったくもぉ……!』

『……イカルガ!次の機銃を処理したら仕掛けてくれ!』


 後部に生い茂る黒い蔦からしつこく機銃を引き抜き、狼達へと向ける乙型にローレッタが珍しく苛立ちを見せる。

 その言葉を聞いてギルが叫ぶ。その声に呼応する様に乙型は、その上部から後方に掛けてを車体を覆う異様な蔦からさらに機銃を()り出すと、彼に(いびつ)な動きを経て、ひたり、と狙いを付けた。


「……よし!!」


 斑鳩はアールに応える様頷くと、一気に駆け出す。

 同時に詩絵莉の放った弾丸が、ギルに向けられた機銃の一つを乾いた金属音を響かせながら貫き破壊する。

 触手の様な蔦が生い茂り不気味にうごめく後方へ斑鳩は一気に追い縋ると、手近に転がる瓦礫片を拾い上げ……


「……ギル!回り込め!!」


 彼はそう吠えると同時に手にした瓦礫片を前方、乙型の背面へと放りあげ――それを撃牙で撃ち抜いた!



 ッバガンッ!……ガガッガッガガッガガガッ……!



 撃ち抜かれた瓦礫の破片が散弾銃の様に乙型の後部へと派手な音を上げ、その装甲へと撃ち注がれる。


 紛いなりにも相手は戦車()()()()()

 この程度では当然ダメージにすらならいが、その気を向けさせるには十分だった。

 瓦礫片を浴びた乙型は器用にギルへ対して詩絵莉に破壊された機銃を勢いよく捨てる様に投げつけると、視線を動かすが如く斑鳩へと砲塔を旋回させつつ履帯を稼働させる。


 注意を引けた事を確認した斑鳩は、後方より地面を削る様に駆け抜けながら右側面へと回り込む。

 同時に正面……砲身の下へと回り込み全面へ打撃を試みるギルと一瞬目を合わせた。


 お互いその刹那に、やるべき事を把握する。

 彼ら狼は乙型の注意を正面、そして右側面に集中させるべくそれぞれ撃牙をその装甲へと同時に撃ち放った!



 ズッギャアアァッッ!!



 装甲を撃ち剥がさんとえぐる様に撃ち込まれたその牙に、痛みを感じるとでもいうのか。

 乙型は軋む金属音――まるで怒りと痛みを現すかの如く、咆哮の様に鳴らす。


『……!!兆し、後方上部――』

「……!?イカルガ!後ろだッ!!!」


 瞬間、右側面で撃ち込んだ牙を引き抜ぬかんと硬直していた彼――斑鳩の後方から、全く想定していなかった攻撃が彼へ繰り出される。

 ローレッタとギルの声も空しく、黒い蔦……機銃を操るその異様な植物の蔦が、斑鳩の体を捉えていた!


「……ぐッ!?」

『タイチョー!?嘘、この乙型……もう()()が……!!』


 ローレッタは叫び、唇を強く噛んだ。

 当初その姿から彼女は、一般的な乙型壱種に比べて深度が深い個体であると判断はしていた。

 より"タ()()()()()()()()"と言える黒い根とも、蔦とも言える部分は上部に展開するものの、機銃を操る程度だったはず。


 ――この短時間で、式兵を掴みあげるなんて!もう、あれは乙型のそれじゃない……()()()()()()()()()()のでは……。


 どす黒い蔦……それは伸縮を繰り返しながらうねりつつ、斑鳩の右肩から左脇へ高速で巻き付き彼を軽々とその空中へと持ち上げる。

 驚きと締め付けられる激痛に、斑鳩は表情に苦痛の色を浮かべる。


「こ……こいつは……!!……イカルガ!!……ンの野郎ッッ!!」

『――暁!!』


 それを目の当たりにしたギルは乙型の右側面へ駆けようとするものの、その進路を阻むかの如く乙型の上部から機銃が掃射される。

 ちいいい、と大きく舌打ちしながら(きびす)を返すように横へ飛び、瓦礫の盾で一旦それをやり過ごす。


 詩絵莉も彼を持ち上げる黒い蔦に対して即座に反応し狙撃を試みる――が。

 放たれた弾丸は黒い蔦を捉えるものの、見た目に反し強靭な硬度を持つそれに弾丸は鈍い音と共に空しく反れ、弾かれる。


『……くそッ……()()()()()()()(先端が丸い弾頭)じゃ駄目だ、ギル!!!』

「時間稼げってんだろ!!わかってらぁ!!」


 詩絵莉は叫ぶと同時に銃身を折り開くと、装填されていた弾丸を素早く排莢させ腰に装備した様々な弾丸が収められた巻き鞄を、ざあっ、と前方へ投げる様に広げる。すぐにそれを察したギルは再度、斑鳩の救出を試みようと瓦礫から飛び出したその時――


「……いやッ……これでッ……()()!!」


 斑鳩は中空で大人の手首程はあろうかというその蔦に締め上げられながら、視界でそれを捉えていた。

 乙型に持ち上げられ、中空に捕えられた斑鳩を見た彼女――アールが駆け出す瞬間を。


 その光景を上から見ていた斑鳩と、ローレッタ。

 そして持ち上げられた彼を解放しようと巻き鞄から抜き出した新たな弾丸を込め、黒い蔦を狙撃しようとしていた彼女、詩絵莉。

 三人は状況を一瞬忘れ、その光景に圧倒されていた。



 ――は、疾い!!!



 駆けるように、跳ねるように……彼女のその様を、どう表現すれば正しく伝えられるだろうか。

 もはやそれは駆ける、ではなく、まさしく"()()"様に。

 凄まじい速度で一気に乙型後方から左舷へと潜り込んだ彼女は、まさにその側面を撫でる様に。乙型に対して並行にその身体を入れると――



 ッザガガガガガ……!


 仰け反る様に天を仰ぎながら彼女は、(かかと)で受け止め減速しつつ乙型左側面……装甲板の真下を沿う様に。


 ッガァァン!!!



 撃牙を放つ。

 そしてインパクトした杭が一瞬、張り詰めた弦から解放され重力によって杭自体の重みでその鞘……銃砲身(バレル)へと戻ろうとする力を利用し――



 ッズッガァアン!!!



 "戻り"を利用した凄まじい速度で装填を終え――



 ッズガァアアン!!!



 まるで撃牙の"早撃ち"と言わんばかりに三連撃を、正確に。装甲を接続するウィークポイントへと撃ち込んだ!

 彼女はそれを終えると仰け反った身体を器用に前方へ戻すと、振り返り様、軽く飛び上がると。


 おまけ、と言わんばかりに装甲板の内側から外側へ向けて、もう一撃。



 ッツガァァンン!!!



 合計、()()()()()()。その猛攻に、乙型に貼り付けられていた装甲板は――



 メギ……メキメキメキッ……ッドォゴォォオォン…!!



 綺麗に、撃ち抜かれた箇所から中心に折れる様地面へと落下し、轟音と共に周囲に砂埃を巻き上げる。


「なっ……なんだあ……!?!」

『……すっ……凄い……!!!』


 ()()()()()で撃ち込まれた撃牙の音。

 そして装甲板が折れ落ちる音を聞いて、ギルは瓦礫から身を乗り出し間抜けな声を上げた。

 ローレッタもしばし自らの役目を忘れその光景に思わず感嘆の声が漏れる。


『……暁!!()()()()()()()()!!』

「詩絵莉ッ……」


 それを見届け、最初に我に返ったのは詩絵莉だった。

 彼女は通常使用する中でもデイケーダーとは比較にこそならないものの、それでも高価な"()()()()()"の弾丸を斑鳩を拘束する黒い蔦へと撃ち込む。



 ッズバァンッ!!



 通常とは全く違う射撃音をけたたましく(かな)で抜き放たれた弾丸――その反動に彼女の銃が空を仰ぐ。



 ズァッ……パァァアン!!!



 見事着弾したそれは、見事に硬質なその蔦を軽快な音と共に撃ち千切る。

 同時に斑鳩は空中へと投げ出され――何とか体勢を整えるとズダアァン!!と派手な音を鳴らし、それでも無事地面へと着地を果たした。


「げほっげほっ……し、詩絵莉……助かっ……た」


 咳き込みながら斑鳩は顔を上げると、駆け寄るアールに肩を借りながら立ち上がる。

 その様子を"()"で捉える詩絵莉は次弾を装填し乙型に狙いを定めたまま、斑鳩の無事な姿を確認すると心の中で胸をなで下ろした。


 アールは彼の肩の下へ身体を入れると、自らの肩で持ち上げ事も無げな表情で斑鳩の顔を覗き込む。


「……だいじょうぶ?……往くの、遅かったかな……ごめん、斑鳩」

「い、いや……げほっ……いいんだ、しかしアール、お前……」



 ギイイイイイイイイイィィィイ……



 斑鳩の台詞を遮る様に周囲に木霊する、金属をこすり合わせたような、それでいて獣じみた咆哮。

 それは装甲板を撃ち剥がされた苦悶、苦悩の現れなのか。履帯をバラバラに動かしながら悶える乙型の姿――。


 そして、その剥がれた装甲板があった場所。本来戦車の内部が露わになる程の空洞……そこには――


『――梟より各式へ!破壊された装甲箇所より乙型の芯核が出現……!!アルちゃん、ホントに凄いよ!』


 ローレッタが喜びと驚嘆、その両方が混ざり合った声を上げる。


 そう、たった今アールが離れ業としか言いようのない攻撃で破壊せしめた装甲板があった箇所に開いた大穴には。

 鼓動する様に鈍く明滅を繰り返す、美しい樹脂の塊の様なそれ――間違いなく、"芯核"が露わになっていたのだ。


 斑鳩は咳き込みながらその体に残るタタリギの脅威を改めてその身に感じつつ……

 それでも尚――それを凌駕する複雑な感情に襲われていた。



 ――当然、彼女――()()()()()()に対して、だ。



 乙型が完全に右舷、そして拘束していたであろう自分に対して意識を集中させていたのは確かだろう。

 ……だが、あの装甲板をいとも容易く、おそらく()()()()()()、というポイントを刹那に見切り撃ち崩したその力。


 隼の眼を以て距離に左右されず正確に状況を捉え、梟の観察力と洞察力を以てウィークポイントを見極めるに至り、狼の身体能力を以てして破壊に至る。


 ……そしておそらくそのどれもが、まさしく既存の式兵に迫る水準――

 いや、撃牙の扱いに至ってはあんな運用は……見た事もない。


 当然その装填の速度は攻撃回数にも直結する為重要ではある。

 だが基本ヒット&ウェイの戦い方を行うのが式狼だ。しかしあれは……最後の一撃を除けば一回の攻撃チャンスに対して、恐ろしい事に三回。三回撃牙を叩き込んだ。斑鳩は感嘆よりも寒気が背中を(はし)る。



 ――一体アガルタで、アールはどんな訓練を……



 あんな真似は考えた事もない。

 ――というかそもそも、今自分達が持つ撃牙はあんな連打に耐えられるのか?

 肩を貸すアールに「もう大丈夫だ」と声を掛け、離れつつ彼女の撃牙に目をやる。

 ……外装は特に問題ないようだが、戦闘が終了したわけでもないのに()()彼女が装填を行っていない。


「アール、撃牙は……」

「あ……うん。ごめん、最後のいっぱつ、余計だったかな……壊れてない、ケド。ちょっと不安、変な音する」


 装填を行う為のレバーを、かしかし、と動かして見せる。

 恐らく内部、使用されているあの強靭な弦が緩むか(たわ)むかしたのだろうか。……無理もない。


 しかし、今は悠長にしている時間はない。こうしている間にも追い詰められた乙型はその"深度"を増す可能性があるのだ。


 デイケーダーを撃ち込むためには、外装甲を破壊しそれを露出させる必要がある。

 だが順序としてはいささか非効率的にも映る。先に足回りを破壊して、その後外装甲を破壊すればよい。そう考えるのが普通だ。



 しかしこのタタリギという存在に対し、それは逆効果に近い結果を生む事になる。


 何故なら戦闘中にも深度――つまりより脅威として、人類を滅する"タタリギ"たろうと深度を深めて行くその存在。

 窮地に追い詰めれば追い詰める程、より…タタリギとしての純度が増して行くのだ。


 つまり、先に足回りを破壊し移動を封じ、追い詰めると()()なるのか。

 答えは単純、深度経過―つまり、進化とも呼べる、"()()"を促す事になる。


 そうなってしまってはもう、そこから先――この乙型壱種であれば――"戦車"のそれではなくなる。


 破壊された足回り――履帯の代わりに、まさに"脚"と言わんばかりに木と蔦、根の様なものでそれらを構築し、再行動に至る例も確認されている。

 つまり、"()()()()()()()"から"()()()()()()()()()()"という別の存在になってしまうのだ。


 類別も、()()なってしまったものはより上位種…"甲型タタリギ"として分類される事になる。


 脅威度もまさに桁違いに跳ね上がる。


 何しろもはやそれは兵器としての予想や予測が一切つかない存在へと果ててしまうからだ。

 先に説明した通り、乙型はある程度対処がしやすい。だがこうなってしまうと、"兵器"としての知識は一切通じなくなる危険な存在へと変わる。


 そうならない為にも、より進化を促す可能性がある足回りの破壊は最後に行うのが通例とされていた。



『タイチョー、時間があまりない!この乙型……既にもう、半分甲型と言える深度に近付いてる……急いで!!』

「……了解だ!斑鳩より各式へ、これより俺とギルで対象の足を奪う!!同時にデイケーダーの開封、認可だ!」

「おっしゃあ、仕上げだな!!」


 ギルは瓦礫から駆け出すと、履帯を無茶苦茶に駆動させながら暴れる乙型にすれ違いざま、撃牙をその履帯へと叩き込む。

 鋭い炸裂音と共に、履帯を構成するいくつかの車輪がその一撃によって弾け飛んでゆく。

 装甲板を撃ち剥がされ芯核を露出したことにより錯乱状態にあるのか。先ほどまで機銃を器用に操っていた上部を覆う黒い蔦とも根とも言えるそれらも今は悶えるばかりだ。


『――梟より隼へ通達、終撃に備えデイケーダー開封を隊長及び式梟(シキキョウ)、承認!……一発ずばっと頼んだよ、シェリーちゃん!』

『……――隼、了解。左右の履帯が破壊されたら即、準備に入るわ……!!』


 ローレッタの声に、詩絵莉は大きく深呼吸を一つ――そして意を決した様に力強く答える。


「……斑鳩、わたしも行く?」

「……その撃牙じゃ不安があるだろう。デイケーダーの事もある。念には念を入れよう、アールは詩絵莉の援護にもう一度着いてくれ!」

「うん、わかった。……詩絵莉はまかせて」


 アールは素直に頷くと、すぐさま誌絵莉の元へ。

 その様子を見届ける事なく、斑鳩は自らの撃牙を装填し――乙型の足を破壊する為駆け出した。



 ――履帯の破壊なら俺とギルだけで十分間に合うだろう……あとは詩絵莉に任せるのみだ……!




 この間、時間にして僅か数分。

 アールを加えたY028部隊の戦闘は、ついに佳境へと突入を果たそうとしていた。







 …………――――――第5話 来たる、乙型壱種 (6)へと続く。

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