第5話 来たる、乙型壱種 (2)
乙型壱種を迎撃する為の任務を受領し、その出撃準備を整える斑鳩班。
アールの式神としての"力"を垣間見た斑鳩はその活躍に期待を寄せる――
だが、そんな折。新たな情報が彼らに届く事になる。
※この物語は連載中の【ヤドリギ】第5話(2)になります。
※宜しければ第1話からお読み頂ければ光栄です。
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「さっきは済まなかったね、斑鳩君」
――格納庫内。
出撃する為の準備に勤しんでいた彼らに、教授――峰雲が申し訳なさそうに語り掛けてきた。
斑鳩は携帯食料や水、その他備品が詰まった段ボールを運び込むギルと詩絵莉に「ちょっと頼む」と声を掛けると、彼の元へ小走りに寄る。
「教授……ヒューバルト大尉は?」
「ああ、彼なら整備部に例の兵装が収められた箱を届けさせた後、もうここを後にしたよ」
周囲をちらりと確認しながら問う斑鳩に、彼は肩を竦めながらそう答える。
「例のアガルタ製の武器……ですか。箱の中身は?」
そう問う斑鳩に彼は軽く首を横に振ると、格納庫内を行き来する他の部隊員に聞かれてはまずい、という様に斑鳩に近付くとそっと耳打ちをする。
「……内容物が記載された納品書等が入った封筒は局長当てでね。僕もまだ見た訳じゃあないんだが……なにぶん、どうやら本当に君達に誂えたものらしい。他の部隊員に聞かれると今はまだマズいだろう。箱自体にもロックが掛けられていてね。おそらくあの封筒の中にその鍵が入っているのか……まだ整備部の子達も確認は出来てないんだ」
なるほど、と斑鳩は頷く。
言われてみればそうだ、と彼は納得する。
アールという"新型"……式神という新たな式兵を迎えた事実も、未だこの第13A.R.K.では共有事項に上がっていない。むろん、アガルタからの来訪者が来た事を知るのもごく一部の人間だろう。そんな中で、アガルタ製の兵装が急に自分達の様な少数部隊に回されたとなると、一部から反感の声が上がってもおかしくはない。
斑鳩は荷物が運び込まれるN33式兵装甲車に視線を向ける。そこにはやはりあのフードを目深にかぶったアールが車体前方でローレッタと何やら会話を交わしていた。
その向けられた視線に気付き峰雲は続ける。
「彼女の事は……新たに別のA.R.K.から君達の部隊に合流した新卒の式兵、という扱いになっているみたいだ。"式神"の事を知るのは、君達の部隊、そして司令、ミルワード代行と専属補佐のウィッダ。加えて僕くらいのものさ」
「……彼女の事は今後も秘匿扱いに?」
峰雲に再び視線を戻し問う斑鳩に、彼は一歩下がりつつ「うーん」と首を傾げたまま答える。
「どうだろう?……実際"新型"なんてヤドリギが誕生してから初めての事例だ。司令も扱いに困っている部分はあると思うけど……例えば今後君達……彼女が活躍したならば、大々的に新たな式種……式神の存在を徐々に認知させていくつもりなんじゃないかな、マーカスは」
そう言うと胸ポケットから眼鏡拭きを取り出すと、眼鏡をはずし丁寧に拭きながら彼は続ける。
「……恐らくだが、このご時世だ。マーカスはこの箱舟のヤドリギ達に希望見せたい気持ちはあるだろうが……まだ実力が定かではない彼女を大々的に祭り上げる程安直な男じゃあない。それに……今回の配属は君も承知の通り異例中の異例でもある。彼は彼なりに……君と同じく、彼女――いや、アガルタを見極めようとしているのかもしれないね 」
ふっ、と吹き終わった眼鏡に息を吹きかけると峰雲は「僕の勝手な予想だけどね」と付け加えはにかんだ。
彼の言い方から察するに、この教授。峰雲という男はヴィルドレット局長と旧知の仲らしい。
斑鳩は彼の言葉に再び納得する。今回の彼女の配属に関しては、何かしらひと悶着あったのだろう。あの慎重なミルワード代行、そしてヴィルドレッド局長がアガルタ直属とはいえ、ヒューバルトの申し出通りに急な配備……そしていきなりの実戦配備だ。想像に難くない。
「ところで……医療部預かりになっている彼女の私物についてなんだけど……一つ気掛かりになる物があってね」
「……気になる物?」
「衣服や身の周りの物は箱一つに収まる程度しかなかったんだけどね……それとは別。見た事も無い"飲料物"と思わしきボトルさ。それもかなりの量だ」
峰雲は懐から写真を一枚取り出すと、斑鳩に見せる。
物資搬入の記録用に撮影されたものだろうか。そこにはプラスチック製と思しき格子の様な箱の中に、ラベルの無い飲料と思しきボトルが大量に収められていた。
「……確かにこれは……アガルタの飲料?……彼女の好物とか?」
写真を見ながら、斑鳩は自分でも間抜けだなと思う感想が口を突いて出る。
彼はその言葉を笑うでもなく、もう一枚の写真を懐から取り出し彼に見せる。それはヒューバルトと彼女が搭乗していた例の特殊な装甲車に連結されてる貨物車両の一つ。その後部ハッチが開けられたところが撮影されていたものだった。
そこに写るのは、先ほど見た飲料がさらに7~8ケース程積み上げられている様子だ。
「二つあった貨物車両の一つをほぼこのボトルが占拠しているんだ……搬入記録によると、全て彼女の私物、らしい」
「……」
斑鳩はその量に驚く。
サイズを見るにボトル一本の容量は1リットル程度だろうか。1ケースにざっと見たところ3ダース……36本は少なくとも確認は出来る。それが7~8ケース……。好物だとしても、明らかに異常な量だ。
「まあ、実際君が言う様にこの末端の箱舟では手に入らない……アガルタのそれはそれは美味な飲料なのかもしれない。だがこの量だ……アール君に直接聞いてみたいと思う気持ちはあるが、なにぶん彼女の私物、それに年頃の女の子だ。ここに来てすぐに色々と問い詰めるのも宜しくないだろうからね」
そう言うとまた、彼はにこりと笑みを浮かべるが、それも一瞬。直ぐに真面目な顔付になる。
「どちらにせよ、"彼女"に関しては不明な点も多い。医療機材と銘打たれたものも一見何の事はないものだが……いや、今はこの話は止そうか。とにかく斑鳩君。"式神"とは僕達にとっても未知の存在だ……君も十分気を払ってくれよ」
「暁ー、物資積み込み終わったよー。兵装配備の確認するから、来てくれってー」
峰雲の言葉が切れると同時に、詩絵莉が手を振りながら斑鳩を呼んだ。
斑鳩は振り返り「ああ、すぐに行く」と同じく手を挙げて答える。
「心配して貰ってありがとうございます、教授。……確かに気になる部分は多いでしょうが、今回の任務である程度彼女の事が理解出来るかもしれません。勿論聞きたい事は沢山ありますが……徐々に関係を築いていくのがお互いにとっていいかな、と」
「ああ、勿論その通りだ……いやなに、すまないね……どうにもこう、僕はこういった視点で物事を見てしまう。一応彼女の専属医を仰せつかった事もあってね……いや、彼女を悪く言うつもりはないんだ、そこは解かってくれると嬉しいよ」
斑鳩は「ええ」と彼に苦笑してみせると、「ではまた後ほど」と加えると一礼し、出撃準備にあたる仲間の元へと踵を返した。
その彼の背中を眼で追いながら「教授じゃあない……んだけどなあ……」とポリポリと頭を掻きながら、彼もまた医療部へと戻っていくのだった。
・
・・
・・・
「教授、何だって?」
「……ああ、指令室では悪かったってね。……あとはまあ、教授なりの激励だな」
戻り様、ギルから聞かれた斑鳩は一瞬どう説明したものか考えるが、すぐにそう返すと整備班と資料を見ながら会話する詩絵莉にも声を掛ける。
「すまない詩絵莉、で、ええと……」
「暁、後はあんた達の撃牙の引き渡しだけだからね。んじゃ後は宜しくお願い、私はちょっと……マスケットの仕上がりを見ときたいから……あ、そうだ」
彼女はそこで思い付いた様にローレッタと会話しているアールに声を掛ける。
「アール、アールーっ!……こっちこっち!」
詩絵莉はアールに手招きしながらそう呼ぶと、彼女はローレッタと頷き合うと軽やかな足取りでこちらへやってくる。
「……詩絵莉。なに?」
「えーっとね……あんたが使う撃牙の引き渡しがあるから。斑鳩とギルと一緒にこの人の話、聞いてね」
「うん、わかった」
そういうと詩絵莉はいそいそとその場を後にし、開かれたN33式兵装甲車の後部ハッチへと乗り込んでいった。
アールは斑鳩とギルの横に並ぶと、興味深そうに資料を手にした整備班の男をまじまじと見つめる。
「……彼女が"新入り"の式狼さんですか。……また随分と若いですね、斑鳩さん」
「ああ。まあその……年齢は若く見えるかもしれないが、大丈夫だ、気にしないでくれ。……アール、彼が俺達の兵装を管理してくれている、セヴリンだ」
「兵站管理部のセヴリンです。宜しくお願いします、アールさん」
斑鳩よりやや年上か。やや長い茶色い頭髪を揺らし、セヴリンは人懐っこそうな笑顔を浮かべてアールに軽く会釈する。
「……よろしく、セヴリン」
ちらりと斑鳩を見たのち、頷いて見せる彼を見てアールも少し頭を下げる様に挨拶を返す。
「ところでセヴリン、前回の任務でちと気になったんだが……俺の撃牙、ちと"弦(げん)"の巻きに違和感があったんだが」
軽い挨拶を済ませたの見届けると、ギルはセヴリンにそう伝える。
彼が言う"弦"とは、撃牙の動力部を指していた。
撃牙は鋭い杭を射出する、いわゆる原理はそのまま"杭撃ち機"なのだが、撃ち出す力は火薬等ではなくさらに原始的な構造……簡単に言うならば、限界まで張り詰めさせた"弦"を一気に解放する力で、その杭を撃ち出す機構を採用していた。
イメージ的にはクロスボウのそれに近い。
撃牙を装着していない方の手により、レバーを引き上げ固定する事で"装填"とし、装着した腕の手のひらにある引き金を弾く事でその力を解放、射撃を行うのだ。
度重なる改良の末に片腕に装着する規模のものとしては破格の破壊力を生み出す事に成功していたものの、対価としてその重量も引き金も当然の様に相当な重さが伴う。これを満足に扱えるのはA.M.R.T.によって筋力の強化が施されている、まさに"式狼"ならではだろう。
「ええ、やや弦に疲弊が見られましたので交換しておきました。斑鳩さん、そしてアールさん。あなた達が使う撃牙も全て厳重に調整と整備をさせて頂いてますので、ご安心下さい」
「了解だ、毎回すまねえなセヴリン」
「いえいえ、仕事ですからね……当然の事ですよ。しかし今回の相手は乙型と聞いています……毎度ながら四人……あ、アールさんを入れると今回から五人ですね。皆さんの実力を疑う訳ではありませんが、くれぐれも気を付けて。あ、通例ですがこの後仮装着したら必ず一度実働テストしておいて下さい。ではここに斑鳩さん、サインを……はい、確かに。それでは後はいつも通りお願いしますね」
斑鳩は彼が語りながら差し出す書類にペンをはしらせる。それを受け取ったセヴリンは確認すると「ご武運を」と付け足しその場を後にした。
彼の言葉に斑鳩とギルは顔を合わせて神妙に頷くと、装甲車後部ハッチ脇に置かれた撃牙の前へ。アールもそれに続く。
「っよ……と」
ガシャ、と撃牙を利き腕の右手に装着すると関節部の駆動や細部のチェックを行う。
アールはしばしその二人の様子を眺めていたが、徐に撃牙を手に取り「よいしょ」と一声上げるや否や、子供一人分以上はあろうかというその重量を、ひょいと軽々と持ち上げた。
自分達より小柄なアール。その彼女が見せた"式神"としての力の一端……式狼としてのその純粋な"力"、その様子に斑鳩とギル二人は初めてそれを目の当たりにした。
「……いや、そうだよな。全ての式種を兼ね備えるってんなら……確かにこれぐらいのモンは持ち上げるのに造作もねえよな……」
ギルは撃牙を装着しながらまじまじと彼女を見つめる。
「……この撃牙、ちょっと古い?」
アールは持ち上げたそれを色んな角度から間近に眺めると、少し首を傾げた。
「いや、ここでは至って普通の撃牙だけど……そうか。アールはアガルタで?」
「……うん、練習で使ってたやつと……ちょっと違う。けど……たぶん、へいき。着けてみてもいい?」
「ああ、あれなら一度動作確認しておいてくれ」
斑鳩の言葉に彼女は頷くと同時に、流れるような動作で撃牙を見る間に装着する。その姿にまたも斑鳩とギルは驚かされた。
何気なくやってのけた彼女だが、その装着する一連流れや手順は驚くほど流麗だった。
幾度となく撃牙を装着してきた斑鳩やギルよりも、確実に無駄がなく素早いその所作は、二人に彼女――アールの凄まじい練度を感じさせる。
そんな二人の視線を露ともせず、彼女は様々な箇所のチェックをこれまた手早く済ませると、装填まで完了させる。
「……撃っていい?」
「ああ」
斑鳩の許可を得ると、アールは頷き彼らから数歩距離を開け、立ち止まると同時に無造作に引き金を弾いた。
ッズッガァン!!
彼女の右手に装着された撃牙は鋭い音を奏でながら杭を撃ち出し、中空を貫く。
それを確認した彼女は「……うん」と呟くや否や、手慣れた手付きですぐさま再び装填を果たすと二回目の引き金を引く。
ッズッガァン!!
「……おいおい、すげえな」
「……ああ」
三度、彼らはそのアールの姿に驚く。
なぜならほぼ直立した姿勢で射撃したにも関わらず、彼女の体幹はほぼブレることが無かったからである。
筋力が強化されている式狼と言えど、その体格差で筋力にはやはり差が出る。アールの様な小柄な式狼は他にもこの第13A.R.K.には在籍しているが、撃牙の反動にやはり身体を程度はあるが、流されるのが当然の光景だ。
しかし彼女は事も無げに、その反動に耐えているのだ。これは二人にとってはかなり奇異な光景にも映った。
頷きながらアールはテスト終了とばかりにそのままの姿勢で少し背を伸ばすと、今度はゆっくりと右手に装着された撃牙を左手でツツツ、と撫でながら二人の元に戻る。
「……うん。大丈夫そう。わたしが使ってたやつより、ちょっとだけ……うるさいけど」
そう首を傾げながら彼女はゆっくりと撃牙をその腕から解きながら感想を口にする。
その言葉に二人は少し苦笑しながらも、同時に彼女の狼としての式神の片鱗を見れた事に満足していた。
「いや、いいモン見せて貰ったぜ、アール。なあ、斑鳩。こいつは期待出来るんじゃねえか?」
「まったくだ。アール、今回は狼として詩絵莉に着いて貰うが……ギルの言う通りだ。期待している、頼んだぞ」
「……?うん、わかった。詩絵莉を守るのが、今回のわたしの任務……まかせて」
二人の意図はつかみ損ねたものの、彼女は大きく頷いてみせる。
「……おっかしいなああぁ……タイチョー、タイチョー!ちょっと手が空いたらこっち来てくれるー?」
そんな中、前方のハッチからローレッタが上半身を乗り出し困惑した声と表情を挙げて斑鳩を呼ぶ。
「どうしたローレッタ、何か問題か?」
「それがねタイチョー、回収班と通信が途切れたんだよね……アールに通信してるところ見せてたときは繋がってたんだけど……何か問題が起きたのかな……?」
「……なんだって?……ギル、すまないが俺の撃牙のチェックをアールと頼む。道中自分でも一応チェックはするが、終わったらすぐにN33に搬入を。詩絵莉にもマスケットの調整とデイケーダーの受領を急ぐように伝えてくれ」
「……穏やかじゃねえな、了解だ。アール、聞いた通りだ……急ぐぞ」
「あ…うん」
斑鳩は二人にそう任せるとすぐにローレッタの元へと短い距離ながら走り、それを見た彼女はコンソールルームに引っ込むと、すぐにそこへ斑鳩か身を突っ込んでくる。
「……直前の内容は?」
「アールがそっちに撃牙の事で行った後すぐに、回収班の子へ出撃準備中っていう旨を伝えたんだけど……それっきりだよ、返答がない」
「……マズい予感がするな。Y035の連中とはどうだ?」
「あっちの梟は30分前に哨戒中っていう信号受け取ったけど、現在においてその信号に変更は無し。……たぶん、限界まで木兎飛ばしてる可能性があるよ。通信優先度の序列が今、作戦指令室を上位に設定してるっぽい……このN33……つまり別働の梟との通信は遮断してるかも」
左手にキーボード、右手には円形の入力デバイス。忙しなくそれらを操りながら情報を表示するローレッタ。
斑鳩は映し出される情報に目を通す。
「……通信優先度の設定は通常哨戒任務においては全チャンネルオープンになってる筈だよな?」
「まあね。……でも梟の処理能力ギリギリまで木兎を飛ばして索敵やらなんにゃらにあたる時は、指令室以外をクローズする事もあるし……なんとも言えない、かな」
斑鳩はふうむ、と息を付いた。
何とも判断しかねる状況だ。やはりこの状況を一度ミルワードに連絡を入れて確認すべきか……。
「ローレッタ、指令室に繋いでくれ。現状を確認しよう」
その言葉に、彼女は頷くとその処理を踏み始める。
――乙型の情報をより得ようと木兎を限界稼働させている、それならいいんだが……。
斑鳩は口に手を添えながら指令室と通信が繋がるのを待とうとしたその時だった。
「暁!」
彼の後ろから先ほどまで姿が見えなかった詩絵莉が小走りに駆け寄ってくる。
その手には崩壊弾――デイケーダーが封入された小さな専用のアタッシュケースのような鞄が手にされていた。
「デイケーダー!……はぁ、はぁ。受け取っ……てきた。はぁ……あとすぐ連絡入ると思うけど、例の乙型が動き出したっぽい!」
『泉妻が今伝えた通りです、斑鳩隊長』
彼女のセリフと同時にコンソール上部のスピーカーからミルワードの緊迫した声が流れる。
タイミング良くローレッタが司令室に通信を繋げ、それをスピーカーに出力する。こちらの声も拾っている様だ。
「やはり……手短に聞きますが代行、現状は?」
『現在、非常に遅い速度ではありますが、アダプター1へ乙型が進路を取りました。まだ射程に入るまでには猶予があるとは思いますが、いつ速度を速めるか分かりません。いいですか、斑鳩隊長。速やかに出撃し、現地に向かって下さい。このまま彼ら――Y035部隊が会敵する事態にでもなれば……分かりますね』
「了解。Y028部隊、物資搬入、兵装動作確認及び搬入現時刻を以て終了。続く出撃行程7から8を急務につき省略を申請」
『行程7から8省略、受領します。Y028部隊、出撃。ご武運を』
「……よし、行くぞ!二人は!?」
「ギルとアールは搬入終わって搭乗してる!」
斑鳩はコンソールルームより飛び出すとそう答える詩絵莉と共に後部ハッチへと駆ける。
後の兵室へと飛び込むと同時に、ギルがその様子を見届けすぐさまハッチを閉じた。
「通信、こっちでも、聞こえてた……斑鳩、間に合う?」
「……わからん、が……今は急ぐしかない」
「よっしゃキサヌキ!出してくれ!」
『りょっかい!……ちょっとトバすから、揺れると思うけど我慢してね!』
「あうああぅうぁ、ちょちょっとまってデイケーダー固定するから……!!」
そういうとローレッタは一気にアクセルを吹かし、アダプター1へとその進路をコンソールに表示しながら格納庫を抜け、一気に第13A.R.K.の外へと続くゲートへとN33式兵装甲車を走らせる。
「……アダプター1から迎撃に向かう予定が一気に防衛戦……か。……間に合ってくれよ」
斑鳩は激しく揺れる車内で誰に聞かせるでもなく呟く。
その彼の横顔を、アールは神妙な面持ちで見つめていた――。
…――第5話 来たる、乙型壱種(3)へ続く。




