第5話 来たる、乙型壱種 (1)
前任務で設営した中継局の近郊で発見された乙型壱種タタリギ…。
いよいよ戦闘を前に、指令室で作戦会議が展開される。
アールを加えた言わば新生Y028部隊の戦いが、いよいよ始まろうとしていた。
※この物語は連載中の【ヤドリギ】第5話(1)になります。
※宜しければ第1話からお読み頂ければ光栄です。
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「――それでは、作戦内容を改めて通達します」
作戦指令室――。
斑鳩部隊の面々五人はミルワード作戦司令代行を正面に、重厚な机へ置かれた作戦区域の見取り図を囲んでいた。
「前回君達が設置に成功した電波中継局は、ここですね」
彼女――ミルワードは指揮棒で見取り図上の赤点を指す。
アールを除いた斑鳩、ギル、ローレッタ、詩絵莉の四人はその棒先を見詰めながら頷く。前回の任務に関して、アールは当然同行していないがここ、指令室へと至る前に四人から概ねの説明を受けていた。
「この中継局が設営された場所……今作戦成功の暁には、南東区域への足掛かりとする簡易施設を設営する予定になっています。便宜上今後この拠点跡を以後"アダプター1"と呼称しますが、このポイントを君達斑鳩班に死守して貰いたいのです……ウィッダ」
「……はい、代行」
ミルワードはそう説明しながら、ウィッダと呼ばれた自らの脇に立つ大柄な女性から追加の資料を渡され、机の脇へと広げる。
広げられた資料には斑鳩達が住まう"積み木"と同様のコンテナが2つ。他には簡易施設を運営する為の発電機関を搭載した特殊車両や、それに付随する様々な物資が掲載されていた。
「……なるほど。では今後この……アダプター1を確保出来れば、ここを仮拠点として俺達は南東区域の攻略に当たるというわけですか」
斑鳩は資料にざっと目を通すと腕組みをしながらふうむ、と一声。
続いて他の隊員も同じくそれに目を通す。
「しかし、中継局を設営したとはいえ……丁・丙型タタリギなんかも今だ見られる場所で寝泊まりとはゾッとしねえな……」
ギルはそう言いながら両手を腰に当て、眉間にシワを寄せる。
しかし彼の言い分は最もだ。確かに先の出撃でこの地点を制圧、そして今回収班が洗ったとは言え、ここは最前線の更に先。
言わば完全に戦闘区域と呼べる場所であることには変わりない。
「その点に関しては我々も重々承知しています。当然、君達をここで完全に居住させる様なつもりはありません。ただ、今後さらなる南東区域攻略に出向して貰う際、どうしてもこの13A.R.K.から移動するには距離も時間も掛かります。一時的なセーフハウス、といった扱いでしょうか。滞在時間は最大でも12時間。当然君達が滞在、休養を取る際には13A.R.K.から歩哨、警備班を派遣するつもりです」
「要は補給を行う為の借り住まい、ってやつね。完全に安心とは言えないケド……丸裸のN33で車中泊、ってのよりは断然いいわ」
その言葉に詩絵莉は納得した様に腕組みをしてみせる。彼女の言葉にミルワードも大きく頷いた。
「でも、それも今回の任務が無事に果せたら……が、前提条件だよねえ」
ローレッタは事前に手渡された式梟用の資料に忙しなく目を通しながら、目線はそのまま言葉を挟む。
そこには現在、回収班と共にアダプター1で待機中のY035部隊在中の梟からの索敵情報等が記載されている。
「……これを見る限り、現在確認されているのは乙型壱種のみ。でもでも、素体となっている兵器の確認も取れていないし……丁・丙型が随行してるかどうかも未だ不明。木兎高度上空から撮影したこの画像じゃ粗くてよくわかんないなあ……砲身をアダプター1へ向けてる様には見えるけど……もう少し詳しい情報が無いと作戦の事前提案は難しいぬ……」
資料をにらみながら彼女はむむむ、と頭を抱える。確かにその資料にはY035部隊が木兎で撮影した敵影が写ってはいるものの、距離が遠く画素数も粗い。
「木佐貫、解かっているとは思いますがY035部隊は元々回収班付きの護衛を主とする班……丁・丙型の警戒を主軸とする彼らです。今回乙型の発見に至っただけでも良しとしてあげてください」
「あ、ああえっと!違うんです文句があるとかではなくて!」
ミルワードの言葉に思わず慌てて頭を下げるローレッタ。
確かに、今回彼らY035部隊が遠方に座する乙型の発見に至ったのは運が良かったと言えるだろう。
前任務で事前報告にはあったものの、その発見に至らなかった残り1体の丁・丙型タタリギの索敵中、全体的な索敵をと木兎を限界高度に飛ばした際たまたま捉えた怪しい影――それがこの乙型壱種であったのだ。
「ま、とにかく現地入りしてみないことには分からないという訳か」
斑鳩は彼女たちの話を聞きながら口元に手をやる。
実際問題現在得られてる乏しい情報では、現在この作戦室で言葉を交わしていてもどうしようもない事も事実だ。
アールの運用についての事もある。なるべくならもう少し組立てが出来ればよかったのだがと、斑鳩は心の中でため息を付く。
「しかし幸運と言えるのでは?その乙型はその地点から動いていないのであれば、中継局が巻き込まれないポイントで早めに叩いてしまえば問題はないだろう」
ふいに、彼らの後ろから冷たく重い空気を纏った言葉が投げ掛けられる。
作戦司令室の入り口、そこには黒い制服姿の男――ヒューバルト大尉がピンとした姿勢で立っていた。
その隣には「やあ、ごめんごめん」と両手を合わせて謝る姿の峰雲の姿も見える。
「……失礼ですが大尉。現在この部屋は作戦関係者以外立ち入り禁止です。峰雲先生、貴方がご案内したので?」
怪訝そうな表情を浮かべてミルワードは彼に視線を送る。
その言葉にヒューバルトは悪びれる様子も無く鋭い視線で応える。
「記念すべき"新型"の実戦初投入となる作戦会議だ……私も全くの無関係ではないと思うが?」
動ぜずそう返す彼に、峰雲が間に割って入る。
「いや、いや、ミルワード代行。彼をここに案内したのはちゃんと理由があるんだ。というのも先ほど彼からアガルタから運ばれたそこの……アール君に関するデータや、医療器材の受け渡しに立ち会ってね。そんな折、作戦の一助になるやもと言う話をしたいと伝えられてね……!」
「……作戦の一助?」
返すミルワードにヒューバルトはため息を付きながら一礼をくれる。
「いや、失敬……一刻前に局長室で作戦等について一切口出しはしないと言ったばかりの私だ。ぶしつけだったのは謝ろう……だが内容を立ち聞くに大した相手でも無さそうだと思い、つい……な」
「……大した相手でもない、とは?」
彼はちらり、とアールに視線を送る。
先ほどから黙って皆の会話を聞いていたアールは、その視線に気付いてか「ん……」と声を上げる。
「……"式神"の力、余程信用されてないと見える。元々斑鳩君、君達の部隊の成績は把握してるつもりだ。そこへこの新型……古い言葉だが、"鬼に金棒"と言ったところか……今後南東区域を攻略して往くのならば、単騎の乙型等にこのような大仰な会議をされていては少々拍子抜けだと思ってね」
「――ッ!なん……」
ヒューバルトの物言いにギルは体を前に乗り出すが、それよりも素早く斑鳩が手で彼を制止していた。
彼はギルに軽く首を振って見せると、その口を開く。
「……ヒューバルト大尉、俺達を高く買って頂いているのは光栄です。ですがこの人数だ、我々はこうやって"万が一にも"の事態に備え、そして戦ってきた。その結果が今、大尉が評価されている成績にも繋がっている。今回の作戦は初同行となるアールの事もある……俺達に彼女を預け、任せるおつもりならば。より慎重に、真摯に事に当たりたいという俺達の気持ちを理解して頂きたい」
斑鳩はこの男に感情を立てるのは無意味だと、自らにも言い聞かせるように冷静な物言いを徹底する。
そんな彼とヒューバルトの間に緊張した時間が流れる。
――その束の間の緊張を破ったのは、アールだった。
「大尉……わたしは、みんながどういう戦い方をしてるのか、しりたい。今日から……ひとりで戦うんじゃないから……だから」
たどたどしくも自らの意思表示を行うアールを見て、ヒューバルトはやや意外そうな表情を見せた。
まじまじと彼女を見ると、
「……ほう、"R"……お前がそんな言葉を吐くとは……なるほど……興味深い……」
と、小さく呟き彼は少し考え込むように俯き、視線を外す。
「……ラティーシャ・ミルワード作戦司令代行殿、そして斑鳩隊長とその部隊員殿。……重なる非礼を改めて詫びよう」
態度を一変させ、今度は申し訳ない、といった趣が感じられるように深く頭を下げる彼に一同はやや面食らった面持ちを浮かべる。
「……そして非礼の詫びついで、と言ってなんだが……。式神の配属を迎え入れてくれた君達へささやかながら兵装を提供したいと思っていてね。本来はその事を告げにここへ参じたつもりだったのだが」
「……ア、アガルタ製の兵装……!?」
ローレッタはその言葉にやや目を輝かせる。
無理もない。アガルタ直製の兵装……ここ、末端の拠点においてはまずお目に掛かる事がない高級品とも言えるものだ。
その稀少性はもちろん、兵装としての性能・精度も間違いなく一級品。恐らくこの第13A.R.K.においてアガルタで製造された兵装、と言えば式梟が使用する装甲車に搭載された解析用のコンソール、またそれに付随する設備くらいのものだろう。
実戦で配備されていること"武器そのもの"となると、ローレッタですら昔資料で目にした程度である。
余談だが、木兎をリンクさせ、高度な処理を行う"それ"は非常に高価なものであり、他に代用が効かないため基本的に装甲車に問題があった場合はコンソール部分だけを抜き出し、他の装甲車へと載せ換える作業が慎重に行われていた。高度で精密な機器故、外装的な修理は出来ても内部的な修理はかなり難易度が高い代物でもある。
しかしミルワードは彼のその破格とも言える待遇の申し出に対しても、あくまで冷静に言葉を返した。
「……いえ、こちらも失礼しました。そして大変ありがたい申し出感謝します、大尉。しかしその兵装ですが、今回の作戦に流用出来るかどうかは……」
「勿論運用の方法や時期については、私は関与しない。承諾を得れるならばこの後アガルタへ帰還する前に兵装を管理する部署にでもそれらを提供させて頂く……それだけのことだ」
「……そうですね。今作戦に限って言えば、乙型がいつ動き出してもおかしくない状況……その提供して頂ける兵装のチェックやテスト等を満足に行う時間は無いでしょう……私はそう考えますが、斑鳩隊長」
そう言うと彼女は斑鳩へと視線を流す。
ローレッタからのやや期待に満ちた視線を背中に感じつつも、斑鳩はミルワードの言う事は最もだと頷く。
「ええ……俺もそう考えます。現状は今ある兵装で……それこそ、ヒューバルト大尉の仰る通り。単騎乙型に対しては現状の俺達の兵装と、その力で解決するのが望ましいでしょう」
「ま、お楽しみは後に取っておきましょ」
詩絵莉もそう斑鳩の言葉に添えるとローレッタの背中を慰める様にぽんぽんと叩く。
ギルは未だに腹に据えかねる、と言った面持ちで憮然とした表情でヒューバルトを睨み付けていた。
「さて、では私は兵装提供の手続きもある。ここでお暇しよう。邪魔をして申し訳がなかったな……斑鳩隊長」
「いえ……ご助力感謝します」
「……また君とはそう遠くないうちに顔を合わせるだろうが……それまでくれぐれも。……では、いいデータが録れる事をを期待している」
斑鳩の一応の感謝の言葉にそう返すと、ヒューバルトは彼の返事を待たずして、背を向けると靴音を響かせながら部屋を後にした。峰雲も申し訳なさそうに頭をミルワードに下げると、彼の後に続く。
ドアが閉まると同時にギルは軽く舌打ちをすると怒りを鎮める様に深くため息を付いた。
「はぁ~……ったくよぉ……どうにもいけ好かない野郎だぜ、あの男……」
そう思わず愚痴を吐き出すギルにローレッタはヒジで突つきつつ、「いちおー上官だし、言葉選び言葉選び……」と小声で彼を諫めながらチラチラとミルワードの表情を伺う。
「いいんですよ、木佐貫君。私も……どうにもあの男は好きにはなれません」
「……ミルワード代行もそういう事言うんだね、なんだか意外」
返す詩絵莉に彼女は笑いながら「私だって人間です、好き嫌いはありますよ?」と少し笑ってみせる。
だがすぐに表情を引き締めると、左手で机の上にある乙型の影が映る写真を手に取り口を開く。
「さて……では話を戻しましょう」
その言葉に一同は緊張を取り戻し、再び彼女の前に整列を組んだ。
「今作戦におてい現状、木佐貫君が先ほど発言した通りの状況であり、これ以上の情報を待つのは得策ではないと判断しします。……やはり"出たとこ勝負"にはなりますが……斑鳩隊長以下Y028部隊は準備が完了次第、発達。現場に到着次第、Y035部隊と直に現状の確認を行った後、同現地で作戦立案、行動に推移して頂きたく思いますが……斑鳩隊長、如何ですか」
「問題ありません」
彼は即座にそう返す。
斑鳩の返答にアールを含む面々も軽く頷いてみせる。
「そして、アール……」
同様に頷く彼女にミルワードはひたと向き、まっすぐに彼女の紅い瞳を見据える。
アールはその様子に「ん……」と少し首を傾げるよにその視線を受け止める。
「現時刻を以て、正式に貴女を斑鳩隊へ配属するものとします。彼らの隊で存分にその新型としての力を奮ってください。……書類上でしかあなたの力を把握してないのは正直、アガルタお墨付きといえ不安は残りますが……いきなりの初実戦の相手が乙型というこの状況……くれぐれも無理はしないように」
「……だいじょうぶ、ありがとう」
ミルワードの言葉に頷き返す彼女。
しかし本来ならば初実戦が乙型という事実を目の当たりにすれば新兵ならば卒倒する事実だ。だが彼女――アールは事も無げにそれに答え、そればかりかどこか余裕がありそうな表情すら浮かべている。
「斑鳩隊長。ではアールの扱いについてですが……我々も今まで経験がない事なので定例化出来ておらず申し訳ないのですが。彼女の扱い……つまり、"式神はどの兵種をも担える"、という前提で――今回はどの兵種を担当させる予定ですか?」
ミルワードはやや、たどたどしい態度でアールの資料を見ながら斑鳩に問う。
元来"出来る事"が決まっているといって差支えが無い式種……狼、隼、梟。しかしアール……新型の彼女は違う。作戦によってどの式種すらも担える存在だ。斑鳩は今回が初実戦となる彼女の運用を、既にここへ来る前に決めていた通りにミルワードへ伝える。
「事前に少々、今回の任務に当たり彼女の運用について考えたのですが。……今回、彼女には式狼として動いて貰おうと思っています。しかし、前線展開ではなく……あくまで今まで俺達の部隊で出来なかった"後衛"として、ですが」
「後衛を担う狼……なるほど」
ミルワードはすぐに察しが付いた、といった雰囲気で詩絵莉に視線を向ける。
「ええ。……相手が乙型ならば、今回、隼……詩絵莉は"崩壊弾"を所持する事になる。 しかし今任務では索敵が浅い為、丁・丙型との遭遇も無いとは言い切れない状況。以上の理由から彼女、アールを詩絵莉の護衛として運用します」
詩絵莉は「ってワケ。宜しくね、騎士様!」とアールの肩をポンと叩く。アールはそんな詩絵莉に目をぱちくりとさせながら「な……ないとう?」と頭上に疑問符を浮かべる様に首を傾げる。
「ま、シエリはお姫様って柄でもねえけ……いってえ!!!」
ギルが小声でぼそりと言うが否や、詩絵莉の踵がギルの足の甲を踏み抜いていた。
そんな二人のやり取りに気を取られる様子もなく、斑鳩は続ける。
「今回この配置が機能すれば、より詩絵莉は積極的に攻撃支援が可能になり……」
「同時に今まで泉妻の安全確保の為に割いていたローレッタの領域が開く事により、より敵の分析やオペレートに興じる事が可能……という訳ですね」
斑鳩の言葉を代弁するミルワードは、何度も頷く。
「それでは今回の兵装は追加で撃牙をアールのぶん、手配しておきます……ウィッダ、すぐに手続きに……ああその前に泉妻、先ほど崩壊弾の話題が出たので併せて通達しますが。今回、崩壊弾の支給は"2発"です」
「……2発かあ……りょ、了解……ふう……」
詩絵莉はアールの肩に手をやったまま、露骨にがくり、とその首を落とす。
そんな様子にローレッタは詩絵莉の肩を抱きながら励ましの言葉を掛ける。
「大丈夫だよ!シェリーちゃんなら2発あれば十分、十分!」
「き、気軽に言ってくれるわねえロール……このデイケーダーだけはね……ほんッとに緊張するんだからあ……」
詩絵莉にしては珍しく弱気な態度。それには理由があった。
"崩壊弾"。
それは、ヤドリギを覚醒させるA.M.R.T.と双璧を成す人類の切り札と言える"弾丸"であった。
丁・丙型以上の大型タタリギには通称「芯核」と呼ばれるいわゆる、ヒトの心臓に相当する部位が存在する。
これは、タタリギにめぐるエネルギー供給を司る器官として考えられており、当然そこは同時に弱点でもある。これを破壊されたタタリギは例外なく、朽ちて塵になるのだが……この芯核を、例えば式狼が持つ撃牙等の物理的な力をもって破壊するのは非常に困難極まるのだ。
現状、異常な硬度を誇る"それ"を戦場において迅速に破壊せしめるには、A.M.R.T.と同じく――タタリギから精製した、稀少で特殊な弾丸である崩壊弾――デイケーダーを撃ち込むしかない。その役割を式隼は担っていた。
しかしただ闇雲に打ち込めばいいという訳ではない。
芯核は外装や外皮によって守られており、まずはこれを破壊し、芯核を露出させなければならない。その役割を担うのが式狼というわけである。
式狼がデイケーダーを所持しない理由は、タタリギの特性である寄生に起因する。
もしデイケーダーの所持者が寄生されてしまったら……そしてそれを逆に撃ち込まれてしまったら……。
デイケーダーを撃ち込まれたヤドリギもまた、例外なく"朽ち果てる"しかないからだ。
その為デイケーダーを所持するのは安全性の観点から、前線から一歩引いた式隼が担う。
大型タタリギとの戦闘において前線で戦う狼が敵の外装に牙を突き立て、これを破壊。まずは芯核を露出させる。そして、理想としては敵――つまりタタリギの"足"を止める。
そののち、満を持して隼はその銃で以てデイケーダーを撃ち込み、タタリギを崩壊させる――。
これが現在の大型に属するタタリギに対する戦闘の図式である。
つまりこと大型との戦闘に置いて、隼が担うは有限の必殺の一撃……この詩絵莉をしても緊張が伴うのも無理はない。
「詩絵莉、だいじょうぶ?……わたしが撃つ?」
アールは詩絵莉の顔を覗き込むが、彼女はガバッと顔を上げるとグッと拳を握り決意を見せる。
「大丈夫!!……今回が初めてって訳じゃないし!今回はアールも居てくれるから、今までよりむしろ周囲に気を払わずに撃てるってもんよっ……」
「ああその通りだ、詩絵莉。俺もギルも、今回はアールのおかげで前線に集中する。成るべく早く仕事を果たして見せるさ。なあ、ギル」
斑鳩はギルに視線を移すと、彼もそれに応える様に大きく頷く。
「おおよ。乙型は何かと因縁がある相手なんでな……ウサ晴らしに徹底的にやってやるぜ、外装は任せとけ!」
「……あんたの任せとけはイマイチ信用に欠けるのよね……」
自信満々に親指を突き立てるギルに、詩絵莉はジト目で返す。
「……ギルバート、信用できない?」
アールはそう言いながら彼を指差すと、ローレッタが耳元で「前回の任務でもね……」とひそひそとささやき始める。
「シ、シエリ、キサヌキ!アールに変な事吹き込むんじゃねえよ……!」とギルはアールの視線に頭を抱えるのだった。
「君達の強さは……この雰囲気にこそあるのかもしれませんね」
そんな様子を遠巻きに眺めていたミルワードは、斑鳩の横に並ぶとそう誰に言うでもなく呟いた。
彼女の言葉に斑鳩は「そうかもしれませんね」と苦笑する。
「……アールの事は任せてください。今回の任務で、俺は俺で彼女を見極める必要がある」
「……ええ、宜しく頼みます、斑鳩」
「そうだ、ミルワード代行。一応彼女の兵装ですが……隼が使う銃に空きがあれば所持の許可を願いたいのですが」
「……いいでしょう、手配しておきます……ですがくれぐれも無理は禁物ですよ、斑鳩」
ええ、と頷くと彼は談笑を続ける彼らに声を掛ける。
「よし。では皆……いよいよ出撃だ。ギル、詩絵莉、ローレッタ、そしてアール。宜しく頼むぞ」
「おお、やってやるぜ!」
「……ま、大丈夫。ちゃんと隼としての本分は果たして見せるわ」
「よぉーしっ、頑張ろうね!」
「ん、わかった……斑鳩」
引き締める彼の声に、皆はそれぞれ思い思い、決意と意気込みを孕んだ言葉を返した。
いよいよ、新しい仲間……式神、アールを加えた斑鳩の部隊が実戦へと赴く。
出撃の準備へと向かう為、一礼し作戦指令室を去る彼ら――
その背中を、ミルワードはその姿が見えなくなるまで、見送っていた。