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第4話 "R"との邂逅 (4)

――アールはその白い髪を揺らし、赤い瞳に第13A.R.K.を写す。

彼女が知る世界、アガルタとは何もかも違うこの場所は、彼女に何をもたらすのか。


今、その序章とも言える邂逅を経て、彼らの物語が始まろうとしていた。

「さて、それでは……皆さんに次の任務をこの場で通達しておきます。よろしいですか」





 場を締める一言。ミルワードは再び作戦司令代行としての表情を取り戻し、新たに一枚の資料を取り出し皆に緊張を促した。


「次の任務……」


 斑鳩はチラリとアールに視線を向ける。先ほどから口も黙したまま、その表情から様子を窺い知る事は出来ない。


「前回の任務……君達が中継局を設営した、南東区域の小規模拠点跡ですが……回収班から先ほど報告が上がりました。同行したY035部隊の斥候部隊が拠点よりさらに南東、4km地点にて(くだん)の小規模拠点跡へと進軍する乙型タタリギ……乙型壱種(オツガタイチシュ)の存在を確認しました」

「乙型……」


 ギルはそれを聞いて苦い思い出が頭をよぎる。


 乙型(オツガタ)とは、タタリギを種別する上で過去存在した兵器に寄生しそれらを無人のまま操るタタリギ全般の呼称だ。

 乙型の後ろに着く数文字は、さらに細分化する記号の一つ……この場合壱種とは、主に地上を自走する兵器……戦車や装甲車、またはそれに相当するものに分類されるタイプのタタリギを指す。


「回収部隊は報告時刻を以てその任務を完了し待機。Y035部隊は現在帰路の安全確保、現場に残る斥候部隊で距離を保ちつつ観測に当たっています。随時報告を受けていますが、現在、敵総数及び深度等、それ以上の情報は上がってきていません。どちらにせよ……タタリギが拠点跡へ到達するのは時間の問題……迎撃の為、遅くとも夜明け過ぎ明朝0800に君達は現地へ向かい、これを排除して頂きたいのです」

「明朝8時……あと丁度12時間……」


 ちらり、と詩絵莉は左手に巻く腕時計に目を落とす。


「改めて今回の君達への作戦依頼は二つ。中継局設営ポイントへ侵攻の可能性がある乙型タタリギの排除。そして設営した中継局の防衛となります。より詳しい任務説明は峰雲よるバイタルチェックを受けた後、招集があるまで待機をお願いします」

『了解しました』

「尚、急ではありますが、アール……。赴任早々、疲れもあるとは思いますが……貴方の随行も命じます。斑鳩隊長の指揮の元、新型としてのその実力を我々に提示してください……期待しています」

「ん……了解した」


 四人は彼女の言葉を最後まで聞くと同時に応え、続いて呼びかけられたアールもまた、ぼうっとした表情で受け流す様に返事を返す。

 帰還後12時間以内の出撃。そう珍しい事でもなかったが相手が乙型ともなると話は別だ。丁・丙型と違ってより直接的な脅威を纏うタタリギの発見は放置すれば大きな損害を引き起こす可能性がある。

 何より、ようやく設営に漕ぎ着けた中継局付近……早急な対応が求められる事態であると彼らもまた納得していた。


 斑鳩は出撃予定時間から逆算し、既に頭の中で準備等に必要な行動に対する時間割り当てに思考を巡らせていた。

 12時間の間に休養も取らなければならないが、気掛かりなの当然、()()――アールの事だ。


 部隊編入直後の初陣の相手が乙型。タタリギ全体の区別の中での脅威度だけで言えば、中程といったところか……。

 単騎であれば彼ら斑鳩隊が全力で挑めば制圧は苦戦さえすれど不可能な相手ではないだろう。

 現に今まで機会こそ少ないが、2体の乙型を制圧したという実績も彼らは持っている。


 しかし今回は新たな仲間を加えての出撃となる。彼女がどれほどの実力を持つのか実際に確認するのは時間的に厳しいだろう。

 相手が相手なだけに休養は必須。そして何より実戦に備えて彼女の能力よりも、彼女の事を知り自分達の事も知ってもらう方が優先か……。


「ああそうだ、ちょっと口を挟ませて貰ってもいいかな?」


 アールの返事を聞き、やっと峰雲は声を上げる。


「ヒューバルト大尉から、アール君の私物や兵装の荷卸しの許可が出ていてね。中には彼女…新型に纏わる医療関連の機材も含まれるそうだ。僕はそちらに一度顔を出して対応してこようと思う。いいかな?」


 ミルワードに視線を向けられたヴィルドレッドは頷き、了承を出す。


「アールが居住する場所等は任務終了後までに進めておきます。ごめんなさいね……急な事で貴方の私室を用意する準備がまだ出来ていないの。……私物に関しては一時的に医療施設で預かってもらう形でも?」

「しぶつ……ああ、うーん……あったかな、そんなの。あっても服とか下着とかだと思うし。好きにしてもらっていいよ」


 アールはミルワードの問に首を傾げると興味なさそうにそう答えた。


「私室が決まるまでの時間は、彼らと過ごすといい。幸いこの第13A.R.K.は()()()()の規模だ。斑鳩君達との親睦を深める為にも、ここはお約束といった風だが施設の案内なんかを休養がてらしてみるといいんじゃないかな?前回の任務では負傷等は無さそうだし、医療部には顔を出さなくてもいいからね。ああ、でもローレッタ君。後で皆のバイタルチョーカーのデータだけ転送しておいてくれるかい?」


 峰雲は首をとんとん、とローレッタに叩いてみせる。


 バイタルチョーカーとは、ヤドリギ全員が出撃時に首に装着する黒く薄いチョーカーだ。

 隊員達の呼吸や脈拍等、バイタルデータを得る目的でその装着が義務付けられており、そのデータは任務中においては梟に送信され、皆の状態管理に。作戦終了後は戦闘ログと合わせて体調報告を兼ねて作戦司令部と医療部に提出する事もまた、同様に義務とされている。


「了解しましたあ、ではあとで提出しておきまーす」


 ローレッタは峰雲に返事をやると、ぴっと敬礼してみせた。

 その様子を見届けた後、「じゃあ、宜しく頼んだよ」と言い残し彼は司令とミルワードへ軽く会釈すると部屋を後にする。


「よし、では長くなってしまったが……招集までの時間は自由に過ごしてくれ。任務開けというにすまなかったな」


 そう声を掛けるヴィルドレッド局長に斑鳩達全員は改めて向き直り、一礼。


「では解散とします。引き続き難易度の高い任務を任せる形になりますが……彼女の事は斑鳩隊長。君に一任します、が。何か問題が発生した場合は遠慮なく報告をお願いしますね」

「了解しました、ミルワード司令代行。お気遣い感謝します。では……」


 斑鳩はミルワードの言葉に大きく頷くと彼女と局長へ一礼の後、アールを加えた隊員達と共に指令室を後にした。


 ――斑鳩達が扉を閉め、その気配が遠のいた頃。


 ミルワードは局長の机横に設けられたやや背の高い椅子へ、ふう、と吐息を付きながら着席する。

 同時に表情を曇らせたまま、局長――ヴィルドレッドへと視線を向けた。


「あの大尉の申し出を()()()()()()()()()()()()とは言え……彼らに押し付ける形になってしまいました……本当によかったのでしょうか」

「……」


 その言葉に彼は眉間にしわを寄せ、やや俯く。


「あのアガルタからやってきた小僧……足元を見てくれる。俺も長くこの立場で上ともやりとりはしているが……”()()"のヤドリギなんぞそれこそ噂すら聞いた事が無い……そしてこの前線に対し、降って沸いたようなその"新型"を物資人質に強制配備、だ」

「……確かにやり方がいささか強引過ぎます。彼女はいったい何者なんでしょうか。あの髪、そして瞳の色……」

「"()()"、か……」


 ヴィルドレッドはアガルタの刻印が刻まれた、机の上に置かれる黒いファイルを手に取るとため息を付きながらそのページをめくり、彼女の項目でその指をぴたりと止める。


「名前も階級も、そして顔写真すら()()()()()。あの新型……見た目もそうだが経歴も不明とは、()()()()だろう」


 末端にとってアガルタは"絶対"である。


 人類最後の砦として、そしてヤドリギを生み出し、今も尚タタリギによる侵攻から人類を守る為研究を続ける存在――。

 当然、その末端に当たるA.R.K.はそれぞれかの地の庇護を受けて戦線を維持している。

 拠点を運営するための産業ではその全ては賄えないもの、例えば新たな食料の一部や兵装や装甲車、医療に関する物資。


 それらの優先供給と引き換えに提示された"新型"の配備を、局長はタタリギと一進一退を繰り返すこの地域を受け持つヴィルドレッドは断ることが出来なかった。第14A.R.K.の件もある。加えるなら"表向き"は"式兵の増員"の申し入れだ。拠点、組織、そしてそこに暮らす人々を守らなけばならい立場の彼にとって、受けざるを得ない話だったのだ。


「様々な部分に目をつむれば、これを見る限り"彼女"の力が本物ならば。これ以上ない人材がこの箱舟に来たとも解釈出来るだろうが……何故斑鳩達の部隊をアガルタが直々に選んだか……」

「ですが局長――彼らは確かにあの少数構成で現状凄まじいとも呼べる戦績を挙げているのは事実です。斑鳩の統率力の下、各々が最大限の力を発揮して任務に当たっています。そしてまだ伸びしろを感じさせるのもまた事実……本部の目についてもおかしくはないのでは……」


 ミルワードは、与える任務与える任務を最低限の動員数で達成してきた斑鳩達への評価が高い。

 しかし、局長は「そうだといいのだがな」と頷きながら、胸では別の思惑を巡らせていた。



 ――少数、か……仮に"新型"に何か問題が起こっても……少数()()――いや、考えすぎか。



「とにかく、斑鳩には借りが出来たと言っていい。新型の事もある。彼らの事は随時別枠として俺に報告を挙げてくれ、ラティーシャ」

「……了解しました、ヴィルドレッド局長。それでは私も一旦失礼して……作戦司令部へ一度戻りますね」


 局長へ一礼を済ませると、彼女は赤い髪を翻し部屋を後にした。

 閉じる扉の音を背中に受けながら、ヴィルドレッドは窓に視線を向ける。

 すっかり日が暮れた空に、光を好むとされるタタリギからその身を隠すよう、最低限の明かりが点々と灯る拠点。


「……"()()"、か……さて。()を超えて"()"を名乗る式兵……鬼が出るか蛇が出るか、願わくば杞憂であって欲しいものだ」


 窓に映る自らを鋭く睨み付け、彼はそう呟いた。




・・


・・・



「とまあ、今案内したのが大まかな拠点の内部施設だよ、アール」


 ローレッタは彼女、アールに振り向きながらにこやかに言葉を掛ける。


 第13A.R.K.、つまり箱舟はこの地域において最大の規模とされてはいるが、案内しながらゆっくりと巡ったとしても一時間程度のものだ。格納庫からはじまり待機室、整備部、医療部、作戦司令部、食堂等。日が暮れた現在は外にある設備は明かりが落ちている為、後日また時間があるときに、と伝えつつ彼らは一通り屋内の重要な施設を案内して歩いた。


 アールは再びフードを被って、時たま四人に質問等を口にしながらも、共に箱舟内の施設を順繰り巡っていた。


 そんな中、彼女はその容姿から他の局員や部隊員の目に留まると間違いなく人だかりが出来る事になるだろう。

 もちろん白髪や赤い瞳もそうだが、その若さや淡麗な容姿――。


「時間もないことだし、今はね。……私達だけがアールちゃんを()()()のだよ……えへ、えへ」


 手をわきわきと動かしながら、大きな目をキラキラさせてそう迫るローレッタに「ち……ちかい」とアールはたじろぎながら、言う通りフードを身に纏い、今に至る。その判断に斑鳩やギル、詩絵莉も理由はともあれ賛成したのは言うまでもない。


「さて、一通り案内終わったケド……何か他に質問とかある?」


 詩絵莉も歩きながらのたわいもない話でやや打ち解けたか、アールに気さくに問いかけた。


「うーん……質問とかは……ないけど。初めて見るもの多いから……楽しかった?うん。……特にええと、食堂。ヒトが一杯ならんで食事してる処が面白かった。いい()()()。」

「楽しかったか、なら結構じゃねえか……しかし食堂なあ。()()()はともかく味は美味くねえからな、がっかりするなよ?」

「あ、ギルやん好き嫌いは駄目だよー、頭脳ちゃんに良くないんだよお」

「う、うるせえな……」


 そう言いアールに苦笑して見せるギルに、ローレッタはギルの頭を背伸びしてポム、と叩く。彼女はギルの言葉に「うまくない……」と俯きながら答え、


「うまくないやつ、皆もあそこで食べたりするの?」


 と斑鳩に問う。その言葉にうーん……と腕組みをし考え込む斑鳩。確かに食堂が提供する食事は美味いか、美味くないかで言えば……後者か。


 というのも、世界に根を張るタタリギの影響から全世界の土地は程度はあれ、作物が育ち収穫出来る環境とは程遠いのだ。

 もちろん、完全に作物が育たないという訳ではない。だが、拠点内すべての人々に対する供給を満たす事など、特にこの前線――タタリギの影響区域が近いこの場所では不可能に近い。


 その為、箱舟全般では基本的に品種改良した万能ナッツを工場の様な施設において水耕栽培し、それを原料に様々な加工を施し……肉、野菜、その他食材を再現した、いわゆる加工食品を食材の中心に据えていた。


 この万能ナッツは発育も早く水とわずかな肥料のみで育ち、収穫量もそれなり。そして何より栄養価が高く完全栄養食という触れ込みで各地に供給されている。斑鳩達が出撃の際に持つ携帯食料も、これを原料としている。


「まあ、アールも一度食べてみたらわかる……食べられない程、というわけでもないさ」

「たまーに、食べられない程のヤツも出てくるけどね」


 斑鳩の言葉に詩絵莉が横から、口から舌をべ、と突き出して「まずい」といった表情で笑う。アールもそれを見て舌を突き出し「うえー」と真似て見せた。その姿に、四人一同は歩きながらしばし笑いあう。


「でも……うん……なんとなくわかった。この13A.R.K.のコト、みんなのコト」


 彼女はふと素の表情に戻り足を止めると、周りを見回した。

 そこは最後に案内された場所。斑鳩達がどうしても連れて着たかった場所でもある。


 拠点施設の北、屋外へと続くやや長い廊下を抜けた先。


 灯りは落とされ、周囲は闇に包まれてはいるものの……地面に置かれた缶や瓶から伸びる燃芯に灯る小さな炎が、風に揺られて弱々しく明滅している。その揺れる光に照らされる長方形の石群が、彼れらの足元に広がっていた。


 ここはヤドリギ達が最後に眠りに着く場所――墓地。


 びゅう、と吹かれた風にアールのフードがふわりと泳ぎ、その白髪と紅い瞳を晒す。

 しかし彼女はそれに気を取られる事もなく、周囲を見渡すように首を左右にゆっくりと動かしていた。


「アール。見ての通り……ここは墓地だ。俺達ヤドリギが(たお)れると、ここへ名前を刻まれる事になる。本来ならば墓参り以外の目的で足を運ぶ場所じゃあない。だが、ギル……詩絵莉……ローレッタ。彼らと組むと決めた時も俺達はここに来たんだ」


 この墓地には、ヤドリギとして散った者達の名前こそあれどその遺体は埋葬されてはいなかった。

 二次寄生や二次感性を憂慮されるタタリギによって(たお)されたヤドリギのその遺体は、回収されたのち完全に焼却される事になる。


 だが、命を賭して戦う彼らに敬意を払い、忘れぬ様。また残された者がその思いを()()()場所として、ここは存在している。


「少数部隊である俺達はひとりひとりの責務が大きく、重い。一歩間違えれば……何かが(たが)えれば、ここに名前を刻まれる事になるかもしれない。だからここで俺達は誓うんだ。この墓石を増やさない為にも、自らが名前を刻まれない為にも、部隊として共に戦う事を……アール、いち配属兵としてだけではなく、仲間として俺達と共に戦ってくれるなら――その覚悟をここで一緒に誓ってくれるか?」


 そう問う斑鳩に、アールはひとしきり墓地を見渡すと静かに振り返る。

 足元に並ぶ小さな炎に照らされた彼女の髪は、風に揺れつつもその炎の色を写し、神秘的な姿として彼らの目に映る。


 "式神"――彼女はゆっくりとその顔を上げると、その唇を動かし。


「……斑鳩のいうことは、むずかしい」

『!?』


 予想外の返答に斑鳩は「……ううん?」と本人も思わず情けない声を上げ、その様子に先ほどまで斑鳩の言葉に部隊結成当時を思い出し感傷に浸っていた3人も一瞬きょとんと間の抜けた表情を晒したあと、盛大に噴き出してしまった。


「あははは、あはは!」


 詩絵莉とローレッタは我慢できないといった風に声を上げてわらい、ギルも「……クック……」と何とか笑いを堪えながら斑鳩の肩を抱える様にばんばん、と叩く。


「ひ、酷いなお前ら……俺は真面目にその……」


 珍しく顔を赤らめる斑鳩に、詩絵莉はお腹を押さえながら肩を預ける。


「はあ、アハハ、はぁおっかし……!アールの言う通りだよ、(アキラ)のいう事は難しいよね、ぷ、くくく……」

「アールちゃんてばもう素直すぎて、可愛いなあもう、ひいフウ……うくく……」

「まあまあイカルガ、アールのいう事も一理あるとは思うぜ」

「お……お前らなああ……」


 拳を震わせながらわなわなと震える斑鳩、そしてその仲間達をアールはどこか遠巻きに見つめて続ける。


「わたしはタタリギと、戦えって、ここに連れてこられて……他のコトは、よくわからなかったけど……」


 アールの言葉に、皆は一転。静かにアールを見つめながらその続きを待つ。


「……アガルタじゃみたことなかったもの……()()()()()のは、みんなも"()()"なんだ」

「……?」


 その言葉に一同に疑問が浮かぶが、彼女は気にする様子も無く言葉を続けた。


「戦う……って。今まであんまり、考えたことがなかった。けど……みんなを見てたら、ここのヒト達を見てたら。みんなが戦う理由は……わたしにもなんとなく、だけど……たぶん、()()()()。……うん」


 自信なさそうにそう続け、少し間を置いた後。

 紅く小さな炎をその目に写したまま、斑鳩達四人の前へゆっくりと歩み寄り、右手を差し出す。


「だから……わたしはみんなと一緒に戦おうと、思う。……むずかしいことはよくまだわからないけど……うん」


 不器用ながら、今自分が持つ精いっぱいの言葉で、アールは皆に思いを伝える。

 斑鳩達は偽りのないその気持ちを、差し出された彼女の小さな右手をから感じた。


「……ああ、改めて宜しく頼む。アール」


 斑鳩はその冷たい手を握り返し……その手に重ねるように、ギル、詩絵莉、ローレッタは二人の結ばれた手の上へ、それぞれの手を預ける様に被せ、それぞれアールの瞳を見て、


「難しく考えるこたぁねえよ。……ま、精一杯暴れてやろうぜ」

「宜しくね、アール。新型としての実力、見せてもらうわよ」

「サポートは任せてね!……ってアルちゃんのがオペレーターとして上だったらどうしよう!?」


「えっと。しゃべるの、あんまり得意じゃないから……」とローレッタにフォローを入れるアールに皆は笑う。

 手を解くと、詩絵莉は照れ隠しと言わんばかりに伸びをひとつ、ついでと掲げた手にした時計に目をやる。


「……やば、もうこんな時間かぁ。じゃあ、まずは食堂でご飯でも食べて……次の出撃に備えて皆で休養とろっか」


「ああ、そうだな」と斑鳩は応える。

 新たな仲間を迎えたことに喜び、それぞれ言葉を交わしつつ墓地を後にする中。

 斑鳩はそんな四人の背中を見つめつつ……廊下へ吹き込む風の冷たさを背に感じながら、自らのが抱える戦う理由に対し思いを巡らせる。



 この先も与えられる任務をこなし、さらに先の任務へ――。彼は()()()()()()()



 ――彼女が"俺の"理想とし得る"式兵"足りえるならば……あるいは結論が出ない俺の考えに、示してくれるかもしれない。


 ――生きる為、そして自らを証明する為の戦い……幾多の任務のその()にあるだろう、その答えを。



 "式狼"、斑鳩 暁。ギルバート・ガターリッジ。

 "式隼"、泉妻 詩絵莉。

 "式梟"、木佐貫・ローレッタ・オニール。


 そして加わった、"式神"――R。



 墓地に供えられたその(ともしび)が。

 これからの彼らの運命に恐れる様にひとつ、またひとつと風に消えゆく中――。





 彼ら五人の戦いは今まさに、その幕を開けようとしていた――。

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