第10話 Y028部隊 (19) Part-1
Y028部隊は無謀とも言える作戦の末、タタリギと堕ちた戦車の躯体を貫き、満身創痍の中ついにはデイケーダーを着弾させる事に成功した。
広場に響く芯核崩壊を告げる鳴動音。
だが、芯核が砕けてもなお純種は崩壊する事なく――そして。
アールによって返された砲弾により穿たれた傷痕から、突如現れたのは――真っ黒なヒトの……女性の姿、だった。
否定された勝利と、予想だにしなかった光景。
一同は、それを見届けながら――この瞬間、凍り付く他無かった。
純種に穿たれた砲撃痕より突如姿を現した、空間を切り取ったかのような黒に染まった人影。
両の手で首元を掻きむしるよう夜空を見上げながら、それは悲鳴のような、怒声のような――
聞く者が思わずとも耳を覆いたくなるような、さながら表現しがたい苦痛を謳うように奏でられる声に晒されながら、Y028部隊は身動き一つ取れないでいた。
視界に焼き付くそれが、何なのか。
ヒトの形を成したまま黒き異形へと堕ちたそれが、誰だったのか。
途切れることなく広場に響き続ける、既にヒトが発するものとは思えぬ声。それでも常軌を逸脱したよう響く声に交じる面影に、その場にいる誰もの脳裏へ浮かんだのは……。
「リッケルト……」
乾いた唇を震わせぽつりとそう呟いた詩絵莉の声に、斑鳩は瞳を細める。
純種より現れた、黒に染まった女性の影。それは見紛うことなく、タタリギへ取り込まれた戦車に登場していた式隼――リッケルト"だったもの"と皆は確信出来ていた。
タタリギへと堕ちたものは、二度と元に戻ることは叶わない。
彼女は戦車と共に堕ちた……いや、あるいは堕とされたその瞬間からヒトにとって、ただただ"討つべき存在"へと果てたのだ。
斑鳩は細める瞳と同時に、アールを抱えた手に思わず力を込める。
これまで幾度タタリギへと堕ちたヒトだったものを、あるいは仲間だったものを手にした撃牙で貫き討ち果たしてきただろうか。
見知ったかつての仲間を、あるいはどこかでその帰りを待つ家族を持つものを討ち果たすとき、ヤドリギは常に心を凍らせ、その一撃を放つ。それは先ほどまで相対していた純種に対しても同じだった。あの黒い躯体の内側には"何もない"。芯核を捉え崩壊させる事が叶えば、それは灰と散り風吹かれ霧散する存在……ただ、それだけの物言わぬ自分たちの敵である、と。
だが、今半身を穿たれた純種より現れた"彼女"の悲痛な声に、Y028部隊はその表情に無念とも取れる厳しい表情を浮かべていた。
ここにいる誰もが、理解していた。
ヒトが搭乗した戦車が、目の前で余すことなくタタリギへとその存在を堕とす――前例などなくとも、その中に居たリッケルト、シール、そしてセヴリンの三人が無事であるはずがない、と。
だが、心のどこかに僅かながらの救いを、希望を求めていた事も否定は出来なかった。
あるいはあのタタリギを討つ事が出来れば、灰と化した純種の躯から三人が現れるのではないか。
しかし目の前の光景を前に、それは易々と打ち砕かれた。
広場に響くこの世の絶望全てを孕んだかのような絶叫に交じる、確かなリッケルトの面影。
理解しながらも誰もが麻痺させていた認識、彼女が……いや、彼女たちが生還する事はもはや決してないという事実と同時に――その声が告げる、この戦いがまだ終わってはいないというこれ以上ない現実。
彼女の絶叫に呼応するよう、アールが、Y028部隊が穿った傷跡がざわめき黒い蔦根をうごめかせる光景に、部隊の――いや、その顛末を見届ける全ての者が氷付いていた。
――どうしろと言うんだ。
ぎり、と斑鳩は奥歯を噛み結ぶ。
目の前の敵は、未だ健在。それどころかより恐怖と絶望を以ってじき、再び動き出すと確信出来る。今、自分たちが置かれている状況で、打開出来るのか。
数分か、あるいは数秒か――斑鳩は広場に響く絶叫に感覚をひりつかせながら思考する。
芯核を砕く事が出来る唯一の武器、デイケーダー……その残段数は、僅か一発。
外す事すら許されない最後の一発を、一体どこへ、どう撃ち込めばいいのか。本部棟には恐らくデイケーダーの予備はある筈だが、この急襲に対して解凍を行われていたとしても……果たしてそれが間に合っているかどうか――補給に期待する線は、そもそも現実的ではない。
確かに先程、やっとの思いで露出させる事に成功した純種の芯核を、詩絵莉の放ったデイケーダーは見事に崩壊せしめた。
だがしかし、それを可能にした代償は大きい。
ローレッタの木兎は4機中3機が砲撃によって砕かれた。中でも詩絵莉を守る盾としての四号機を失った今、純種が放つ矢を防ぐ手立てを失ってしまった。平地かつ遮蔽物の全くないこの広場において、それは致命的だ。
前衛を務めるギルもまた、負傷こそ目立つものはないが砲弾へと差し出した撃牙は砕け、再使用は不可能……いかなギルとは言えど、生身で太刀打ち出来る相手ではない。
そして、アールだ。右腕は既にその形をヒトのものとして取り戻してはいるが、支える肩に力がない。息を荒げてなどはいないが、抱える手から無意識にも伝わるのは、右腕から波打つように全身を貫く重く鈍い痛み。あれほどのタタリギとしての力を解放しそしてそれを見事制御した――その代償は言わずもがな、ありありだ。
仮に、デイケーダーの予備があり補給があったとしても……もはや戦力も、時間も――Y028部隊には残されてはいない。
秒にも満たない、結論までの時間。
皆を一瞥した斑鳩は立ち上がり、迷わず撃牙を装填する。
「おい……イカルガ?」
「……」
片膝を着いたまま見上げるギルに、斑鳩はリッケルト"だったであろうもの"を見据えに睨みつけたまま頷いた。
――そうだ、どうするもこうするも無い。 今は俺に出来る事をただやるだけだ……そう、Y028部隊がただ、そうしてきた様に。
頭の中で激しく警鐘が鳴り響く。
たった一人で、この撃牙で、"あれ"を相手に一体何をするつもりなのか、と。
大きく抉り穿たれた傷、一度は破砕された芯核。
それでも純種はなお身を震わせ、全身を覆う漆黒の蔦根をざわつかせ――その上でもがく"彼女"の声は、既に悲鳴というよりも咆哮へとその質を変えつつあった。生半可なダメージを受けたタタリギは、より強くその性質を発現させる。それは目の前に相対したあの純種とて例外ではない事を容易に計らせる。
それでもなお――斑鳩は一歩前へと足を静かに踏み出す。
結末を望んでいた。ヒトは、タタリギに打ち克つ事は出来ない……あるいは、こうすれば勝てただろう。あるいは、こうすれば生き残れるだろう。そういったあがきをも超えた場所に立てれば、立つことが出来れば……納得して死ねる。そう、思っていた。
――だが、今は違う。
斑鳩はもう一歩踏み出す事が出来た自らの足先を一瞬視界に入れると、少しだけ口元を緩めた。
このどうしようもない絶望的な状況で、自らの意志で"死"へと向き合う事が出来る。抗おうとうする意志が自らに在る事を、今は誇りに思う。全てはY028部隊を生かし明日へと繋げるため。恐怖よりも、長く根底にあったであろう死へ対する切望すらも今は後ろへ置いて……前へと足を踏み出す事が出来ている。
部隊長としての責務を果たすことが出来る事ならば、と踏み出す一歩に迷いはない。
黒髪に交じる白く染まった斑鳩の頭髪が、わずかにざわめく。
随分昔にすら感じる、アダプター2で同じく絶望を前に膝を着いたとき。
アールに信じると言ってやれなかったあの日の自分から、どれほど俺は変われただろうか。自信も、勝算も、命を置いてもなお前へと踏み出せるこの足は、それを証明してくれているだろうか――。
『――いかるが……』
残された木兎一号機でその背を見続けるローレッタは、斑鳩のその後ろ姿に、アダプター2で見たアールの姿を見ていた。
継続戦闘が可能なのは、斑鳩のみ。武装を失ったギル、盾を無くした詩絵莉、満身創痍のアール……斑鳩は、時間を稼ぐつもりなのだ。部隊の皆が撤退する、僅か数秒を作る気なのだ。
指示を出さなければならない。式梟として、撤退の指示を……他の皆に……!
ローレッタは震える指で、インカムの通信を起動させる。
「…………ッ!」
だが、言葉が出てこない。僅か数秒の沈黙が、永遠にすら感じられる。
ギルも、詩絵莉も、ヤドリギとして"間違っていない"斑鳩の背中に、声を掛けれないでいた。斑鳩が今からやろうとしている事は、誰の指示などなくとも容易に想像がつく。
万が一所属するA.R.K.がタタリギによって襲撃を受け、その内側へ侵入を許してしまった場合。
タタリギ撃破が敵わず、事体の収束が不可能だと判断された時――壊滅的・危機的な状況が発生しうる場合、全ヤドリギは本部棟へ撤退し、以後指令室の指示に従い民間人の退路を確保すべく、戦う。
つまり、A.R.K.撤退・放棄のプロセス――斑鳩は、それを想定しているに違いない。
だからこそ問答を行っている時間はない。彼女が現れてから数十秒――いつ、あれが動き出すとも分からない。
――暁、みんな、ごめん。 あたしは……。
詩絵莉は絶望の表情から一瞬まぶたを閉じ――再び大きく開かれた瞳に闘志を宿す。
暁を一人で逝かせる事は出来ない。させてたまるものか。自分の居場所は、暁の傍以外に、無いのだから……!詩絵莉は心でそう吠えると、デイケーダーのパッケージを口に咥えると、腰に備えたバックパックから大型の弾丸を取り出していた。そして凄まじい速度でそれをマスケット銃へと滑り込ませると同時、薬室を閉じると銃口を彼女へ向けた――刹那。
その所作に気付き止めようとしたギルよりも一瞬早く、アールが黒い右腕で詩絵莉の銃口を制す。
「……ッアール!?」
「……し……詩絵莉、待って……! 斑鳩も……!」
おぼつかない足取りで立ち上がり告げるアールへ皆の視線が集まり、斑鳩も肩越しに振り返った――その瞬間。
斑鳩は自らの意識と視界に、ずぅん、と重くのしかかるありえない"何か"。
それはめまいに似た感覚、だっただろうか。突如訪れた違和感と不快感にまぶたを細めた彼が次に感じたのは、言いようのない息苦しさと――遠くなっていく辺りに響き渡る咆哮、そしてギルの、詩絵莉の声。
「――!?」
――純種からの、攻撃!?
何が起きたか理解が追いつかない――が。
それでも身構えるよう、瞬時に純種へと向き直った斑鳩の動きが止まる。
(……な……)
次の瞬間、斑鳩は纏わりつくような空気の中で、ゆっくりと――大きくその瞳を見開いていた。
時間という感覚が引き伸ばされたような――そんな光景、だろうか。純種……彼女が奏でる咆哮に舞う土煙が、まるでスローモーションのように地面をゆっくりと舐め、その上空で飛行するローレッタの木兎、最期に残ったあの一号機プロペラ部分が、普段は目視する事など出来ない高速で稼働しているはずのそれが、指で容易につかむ事が出来そうな速度で……極々、緩やかに回転を刻んでいる。
――そして。
その全てが異様な光景の中で……まるで何者にも制約される事なく、その真っ白な髪を、輝く白い服をたなびかせる少女の姿が、見開かれた斑鳩の黒い瞳に写る。
(なん……だ、あれは……!!?)
喉元を押さえ咆哮を上げ続けているであろう彼女の横に突如現れる、タタリギが湛える黒と対になるような、真っ白い少女の影。彼女は苦しむように天を仰ぐリッケルトだったものを一瞥すると、その首をゆっくりとこちらへ向け、肩を竦めてみせた。
「私の力を共鳴てあげてたとはいえ、この程度のオモチャに苦戦するなんて……嗚呼、私の可哀想なアール。 あなたが全部委ねれば、こんなゴミクズ、秒すら持たないはずなのに……」
――少女……!? 一体、いつから……いや、どこから現れたんだ……!?
唐突に現れた、まるで現実感の無い光景。
その少女が紡いだ言葉が自分に向けられたものではないに一拍遅れて斑鳩は気付く。
アールの名を呼んだその少女、その姿をようやく正面から見据えると、斑鳩の口が小さく自然と開いていく。毛先を渦巻かせた真っ白な髪に、凛々と揺れる、紅い瞳。それが深過解放を遂げたアールの姿と瓜二つである事は、一目瞭然だった。
そして、どこかで確かに聞いた――あの声。
通常の感覚を逸脱した時の中、斑鳩の脳裏にこの状況の答えが浮かぶ。
――この空間は、感覚は……深過共鳴に寄るもの……!
そう確信させるよう、僅かに振り返り向けた視線の先。
斑鳩の横に、少女と同じく長い白髪を揺らすアールが無言で立ち並び、純種の上の白い少女を鋭い眼光で睨み付ける。
「……あなたは、だれなの。 ……どうしてこんな事をするの」
「どうして? どうしてって……うぅん、どうしてかな? だってアールが悪いんだよ! そんな出来そこないたちと、いつまでオママゴトをするつもりなの? 私たちには、もっと素晴らしい未来が待っているのに!」
――アールはあれと面識がある……? なんだ? 一体、何を話ている……?
疑問を言葉として発そうとするも、強い眩暈と耳鳴りに思わず顔をしかめる。
少女の声も、アールの声も、遠い様な近い様な――その声の出所さえつかめないようにすら感じながら、斑鳩は現状に対する思考を巡らせていた。これがあの14A.R.K.であったような深過共鳴による意識共有だとするならば……あの白い少女とアールとの意識共鳴に、不完全な状態で自分は交じり入り込んでいるのではないか。
恐らく、その推察は正しいだろう。何故なら白い少女と相対するアールは、斑鳩がこの瞬間を共有している事を認識していないように映る。計らずして彼女たちの"会話"に今、自分の意識が混じってしまったのかもしれない。
それでも混乱する斑鳩の横、アールは真っ黒な右腕をゆっくり上げると、白い少女を指差した。
「あなたがだれなのか、わからない……どうしてこんな事をするのかわからない。 シールの気配は……消えてしまった。 でもリッケルトはそこにまだ、いる。 だから返して、リッケルトを。 ……今、すぐに」
"シールの気配は、消えてしまった"。
アールが発したその言葉に、斑鳩は無念に拳を強く握り締める。だが、"リッケルトはそこに居る"……確かにそう言い放ったアールの横顔は、強い意志を感じさせる。深過共鳴の一端か、戦闘中に純種へと触れた際――それを感じ取っていたのか。
だが、少女は迷う事なく首を横に振り、即答する。
「いやよ、アール。 このオモチャは、もう私のモノなの。 それに……これはお仕置きなのよ、アール」
「……」
「いつまでもお寝坊さんなあなたを、優しく仕置いてあげる……それが、私の役目だものね? 家族が悪い事をしたら、ちゃんと叱らなきゃだめなの。 わかる? 私の可愛いアール」
相対する白い少女の表情は斑鳩の位置からは視て取る事が出来ず、その感情を計り知る事は出来ない。
だがその声は――まるで、駄々をこねる子供を諭す母親の様な暖かさすら感じられる。そしてそれが何より……余す事なくヒトではないと確信出来る、あの少女の口から紡がれている事に……斑鳩は、背筋に冷たさを覚えていた。
――この感覚……あれは、あれは……タタリギ、なのか……?
「私の家族は、部隊の皆だけ。 ……もう一度言うよ。 あなたじゃない。 ……あなたは、だれなの」
長い髪を揺らし、アールは少女を指差したまま小さく首を横に振る。
「ふぅーーん、そぉ……」
アールの言葉に、白い少女は仰け反りながら暗い空を見上げ――同時、周囲の空気がより禍々しく粘度を増してゆく。
指一本すら動かす事が出来ない、呼吸すら困難に感じる威圧感の中、斑鳩は何とか意識を保っていようと、下唇を強く噛んでいた。
「嗚呼、嗚呼……そうか、そうだね。 私が間違ってたんだね、私の可愛いアール。 アールにも大事なモノはあるんだもの……私も思い出したよ、アール」
暗闇を見上げたまま、白い少女はさらに言葉を続ける。
「あの研究棟で、私はガラス玉を拾った事があるの……今思えば、割れてたし、欠けてたし……ゴミ同然のものだった。 でもそれを宝物だと信じて、大事に、大事にしまってた。 ふふっ、おかしいよね、今はそんなものちっとも欲しくないもの」
(研究棟……?)
少女の言葉に、斑鳩はゆっくりと傍らのアールへと視線を落とす。
ゆらゆらとなびく白い長髪に見え隠れする彼女の瞳が少しだけ揺れたように、斑鳩には見えていた。
「だからアールにも、分かって貰えると思うの……今、アールが大事だと勘違いしてるのは、ただのゴミだって。 時間が経てば、そう……おとなになれば、それがわかるの。 うふふっ……ねえ、アール」
言うと、白い少女は空を見上げていた首をがくんっ、と落し――その視線を"リッケルト"へと向ける。
「――ッ!! 何を……!!」
「さあ、私の可愛いアール。 はじめよう? 目を覚まそう? 悲しいのはきっと最初だけ……でも、安心して? アールなら大丈夫……あなたは賢い子だもの。 すぐに、すぐに分かるの……私たち以外は、全部全部ただのゴミだって。 アールなら、気付けるからね?」
白い少女は緩やかな動作で、咆哮を上げ続けているであろう黒く染まったリッケルトを背後から細い腕で抱きしめ――そして。
「……やめて!!」
「大丈夫だよ、私の可愛いアール。 その悲しさも、あなたが忘れるまで――私が慰めてあげる……!!」
――ずっ……
(―――ッ!!!)
目の前の衝撃的な光景に、斑鳩は大きく目を見開く。
黒く染まるリッケルトの胸元を這っていた少女の真っ白で華奢な細い腕が、容易く彼女の黒く染まる胸へと突き立てられる。びくんっ、と一瞬跳ねるリッケルトの黒い身体。
その、瞬間だった。
――ぁアアあァァアァア"ァァぁぁア"ァァアア"ア"ッ!!!
刹那、広場に先ほどよりもなお絶望を秘めた悲痛な声が響き渡る。
それと同時、先ほどまで深過共鳴がもたらしていたであろう息苦しさをも感じる程の粘性の空気は、彼女――リッケルトが上げる絶叫によって打ち消されるよう払われ、突如として斑鳩の世界に音と時間が戻る。
「なっ……お、おい……あれは!?」
「そんなッ……!!」
直後、拘束から解かれたように数歩たたらを踏んだ斑鳩の後ろから聞こえる、ギルと詩絵莉の叫び声。
二人の声に弾かれる様その顔を上げた斑鳩の眼に写ったのは……先ほど、まさにあの白い少女が腕を突き立てた場所。黒く染まったリッケルトの胸元を突き破るよう、その内側から赤黒い液体と共にせり出す、紅く不気味に明滅する結晶……それは紛れもなく、タタリギが持つ、芯核だった――!
……――次話 Y028部隊 (19)Part-2へと続く。




