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第4話 "R"との邂逅 (2)

四人の前に現れる、人類最後の砦と称されるアガルタよりの使者――。

影の様な黒い制服を纏った男、そして彼の後ろには目深にフードを被った小柄な人物が一人。


斑鳩達に告げられる任務とは――。


※この物語は連載中の【ヤドリギ】第4話(2)になります。

※宜しければ第1話からお読み頂ければ光栄です。

※第1話はこちらからどうぞhttps://ncode.syosetu.com/n8027ek/

「……さて局長。内緒話が終わったのなら……彼ら、お呼びしてきましょうか」




 ひとしきり斑鳩との会話を終えた局長が椅子へと座る様子を見届けたミルワードは局長にそう促す。

 ヴィルドレッドは「ああ、頼む」と一言返すと、ミルワードは扉を開けたまま外へ。

 すぐに別の扉が開く音が聞こえ一言二言、内容こそ聞こえないが言葉を交わす気配の後、彼女に続く様に二人の人間が放たれた扉を(くぐ)り、その足を斑鳩達の横でピタリと止めた。


 ギル、詩絵莉、ローレッタは先ほどの斑鳩と局長の会話が気になりながらも待機姿勢を保っていたが、真横に並ぶ2人に姿勢はそのままに横眼でチラリと視線を向ける。


 一人はシワ一つ浮ばぬ様な、漆黒の軍服を身に纏う背の高い男……。

 この辺りではあまりお目に掛かれない様な上品かつ細かい刺繍や金属の装飾が所々にあしらわれており、否応なしに身を包む者の階級の高さが伝わってくる。

 年齢は30代半ばといったところか……黒々とした長い頭髪を後ろに流し、黒ぶちめがねの奥で光る瞳は異様な威圧感を放っていた。


 もう一人は、長身の制服男と並ぶと只でさえ小柄そうなその姿がさらに小さく見える。


 160cm弱のローレッタと同程度の身長に見受けられる。斑鳩よりも頭一つ以上小さい背丈に、目深(まぶか)にかぶった体ごと覆うフードを纏っておりその顔は見えない……が、伝わるシルエットや雰囲気は女性のものだろうか。


 二人を確認すると、ヴィルドレッドは頷き口を開く。


「……紹介しよう。本部……最終防衛拠点アガルタより派遣された、ヒューバルト大尉だ」


 ――やはり、アガルタ……。3人はあの格納庫で見た装甲車の話が頭によぎる。

 黒服の男は、ヴィルドレッドに紹介されると隣の斑鳩に静かに向き合い、無造作に右手差し出す。


 男が放つ威圧感からか、それとも先ほどの局長との会話をその頭の中で巡らせているのか。

 一瞬間を開けて、彼もゆっくりと右手を差し出しその手を結ぶ。


「……ヒューバルトだ」

「……斑鳩です」


 二人はややぎこちない挨拶を交わすと、互いに手を引く。

 その様子を見ながら局長は本題を切り出してきた。


「実は斑鳩隊長。先ほど触りだけ伝えたが……アガルタより大尉は、昨今優秀な成績を見せるお前の部隊に依頼したい内容があると、態々(わざわざ)この第13A.R.K.へ来訪されたそうだ。お前の部隊――そして我々にも協力して欲しい事がある、とな」

「……ええ。そこからは私がお話しましょう」


 そう言うと黒服の男――ヒューバルトは再び斑鳩達の方へ体を向け、その口を開く。


「現在でもアガルタではタタリギと対抗する為の技術、そしてその研究が日々行われているのはご存知だと思うが……君達をヤドリギへと"覚醒"させた"A.M.R.T.(アムリタ)"もまた、常に改良が試みられている」


 A.M.R.T.――それは正式名称、Ability(アビリティ) Material(マテリアル)Rouse(ラウズ) Traitor(トレイター)の頭文字を取って通称される特殊用薬である。


 "目覚める反逆者"と名付けられたこの特殊用薬…それは、人類が研究分析の末にたどり着いたタタリギに対抗する手段として――"回収したタタリギ"から抽出・精製されたものを原料とする、何とも貪欲で、皮肉めいたものだった。


 その用薬を投与された人間は、適合した者の身体能力を大きく向上させた上で、さらなる特殊能力を得ることになる。


 大きく3つに分類されるその能力の発現、それは直接兵種へと結びつく。


 神経伝達能力や筋力の大幅な向上、そして自己回復力、代謝が強化される者は、式狼(シキロウ)として。

 視力の大幅な向上、そして空間把握能力に加え、第六感とも表現される感覚力に秀でた者は、式隼(シキジュン)として。

 視覚や聴覚を代表とした、五感から得られる多角的な総合情報処理力の大幅な向上が見られる者は、式梟(シキキョウ)として。


 投与、能力が発現した者――。


 つまり"ヤドリギ"として覚醒を果たした状態の人間は"後天性時限型式宿木(こうてんせいじげんがたしきやどりぎ)"と呼ばれ、その文字通り様々な要因からヤドリギで居られる時間は現状限られており、一定の任期を果たすとその能力は失われる事になる。


 A.M.R.T.より与えられた、ヤドリギで在る時間の中で、彼らは命を賭してタタリギと戦うのだ。


 当初は様々な副作用があったこのA.M.R.T.だが、長期に渡る研究の成果でそれらをほぼ抑えることに成功している。

 現在では志願さえすれば適応年齢であれば誰でもヤドリギへの試験として、これを受ける事が出来た。

 投与による能力が発現しない者も多く存在するが、その(こころざし)故、彼らはヤドリギを支える職業に就くケースが多い。



 ヒューバルドの話に耳を傾ける斑鳩達に、彼は咳払いをした後続ける。


「そして近年、我々アガルタはついに……"新型A.M.R.T."の精製に成功したのです。この"新型"は現在の式兵運用例を覆す目的で研究が行われてきたもの……それは、極小規模部隊による大型タタリギの殲滅。つまり――斑鳩隊長。まさに貴方の部隊の様な構成を理念として掲げられている」

「……極小規模部隊」


 それまで黙っていた詩絵莉がつぶやく様に繰り返すその台詞に、ヒューバルドは軽く頷く。


「現在、実戦に投入出来ると言える段階に到達したものの……運用に至る実績が全くない状況でもある。そこで――斑鳩隊長。貴方の部隊にこの彼女――"新型ヤドリギ"を配備させて頂き、その実戦データのフィードバックに協力して頂きたい」


 そう言うと彼は、目深にフードを被った"彼女"の肩へ手を置いた。

 置かれた手にも変わらず微動だにしない"彼女"を挟んで、斑鳩達はその言葉にあっけにとられる。

 そんな彼らを見て、机の脇で冒頭を切り出した後黙ってその会話を聞いていたヴィルドレットが動く。


「……斑鳩隊長。先ほど伝えた通り、今後君達を南東区域の攻略の主軸に据えたいと考えている……が、それに伴い本来ならば部隊の増員等の処置が筋なのだろう、だが現状それも難しい状況だ。そこへ渡りに船と言うべきか……かの地より複雑な事情を抱えるも戦力補強の人材がこうしてやってきたというわけだ……これは確かに願ってもない事であるとも言える」

「つまり新しい隊員を迎え入れろ、というのが"任務"になる……と……」


 流石の斑鳩、そして3人もやや混乱気味、といった様子で答える。

 雲の上の存在とも言えるアガルタからの使者、そして初耳となる"新型A.M.R.T."を投与された、新型ヤドリギを隊に加える――。


「斑鳩君。もしこの彼女――新型君の実力を懸念するならば、そこは私が保証します。先ほど提出された資料を拝見させて頂きましたが……実戦ではなく、戦闘シミュレーションの結果とは言え……そうですね……貴方達それぞれにも引けを取らない実力をお持ちの様です」


 "宿木"、アガルタのエンブレムが刻印された資料を片手に、ミルワードはそう告げる。

 "それぞれにも引けを取らない実力"……?妙な言い方をする、と斑鳩は一瞬疑問が沸きあがるが、まずはその言葉を飲み込むと、斑鳩はしばし考え込むように俯いた後、その口を開いた。


「……我々4人はある意味他の部隊とは違う在り方、何と言うか……青臭い理屈と思われるかもしれませんが、個々の実力うんぬんよりもこの1年余りで共有した経験を経て、他の隊よりもより信頼関係を重視し構築してきた上で、いち"部隊"として現在の成績があると俺は考えています」


 斑鳩は3人にそれぞれ目線を送りながら言葉を口にする。

 3人も斑鳩の言葉に、同じ思いであるといった風に強く頷いてみせた。


「確かに今後の事を考えると……戦力の増強と言う意味では願っても無い申し出ですが。我々の部隊は他とは良い意味でも悪い意味でも()()()()()()()()()。故に大尉……貴方が望む"彼女"の実戦データ、フィードバックを得る、といった理由では受け入れる事は出来ません。……――ですが」


 否定的な言葉を並べる彼にミルワード、そしてヒューバルトは意外そうな表情で話を聞く中、対してギル達3人は彼がこの事に対してどう思いを描き考えているか。何となく解かっているように互いに顔を見合わせ、ほんの少し顔を緩める。それは皆の視界から外れた部屋の隅で様子を伺っていた峰雲もまた同じだった。少し笑みを浮かべ目を閉じつつ、彼の言葉の先を待つ。


「ーですが、とは?」


 そう聞き返すヒューバルトに対して、斑鳩は先ほどの混乱より一転し、自信満々といった面持ちで凛として答える。


「俺達の部隊へ()()()()()()()()()()()、という命令ならば。喜んで我々は協力させて頂きたい。それは部隊4人の総意だと思って頂いて結構です」

「……なる、ほど。――斑鳩隊長、君は……変わった男の様だな」


 握手したときとはまるで別印象だな、とヒューバルトは考えるように自らの顎に手をやり、表情を変えずに目だけを細め、彼にその瞳を向ける。


「よろしい。では"()()"を改めてそちらの部隊へと迎え入れて頂きたい。無論、単純な部隊員として、だ。……フィードバックうんぬんはこちらが勝手に行う……それに対して我々から君達へ何か要求を求めたり作戦行動等に干渉することは無いと約束しよう。それでどうかな、斑鳩隊長」

「……青臭い理屈を押し付ける様な形になってしまい申し訳ありません、ヒューバルト大尉。ご理解感謝します」


 改めてそう提案し直した彼に、斑鳩は頭を下げる。


 しかし斑鳩は態度とは裏腹にやや自らの頭に血が登っているのを感じていた。

 彼にとって、特殊任務としてデータのフィードバックを得るために"新型"を加える、という話が既に冒頭から気に入らなかったのだ。

 実力よりも何よりも隊員同士の信頼関係を重視する彼にとって、まるで"彼女"を新型兵装の稼働テスト、と言わんばかりのヒューバルトとのその物言い。物を扱うが如くといった言葉に対し、少なからず苛立ちを覚えていた。


「なに、大いに結構だ。もとより"新型"が既存の部隊へ配属された際、その部隊と上手く関係性を構築出来るか……そのあたりにも我々は()()()()()()()()()()()()()でもある。受け入れて貰える様でなによりだ……是非可愛がってやってくれ」


 ――徹底して"モノ"扱いというわけか。

 続ける彼の台詞に斑鳩は危うく表情に出そうになったその感情を、静かにため息を付く事で何とか心から逃がす。


「……という事だ、これで隊長の承認も得た。ヴィルドレッド局長……正式な手続きは後ほど。一旦失礼して装甲車へ戻らせて頂いても結構かな?顛末を本部へ伝えておきたいのでね」

「ああ……では彼女の扱いはどうする?」


 ふと、斑鳩に目を細め斑鳩に視線を送るヒューバルト。


「正式な手続きは未完ではあるが、現時刻より既に"()()"は斑鳩隊長の指揮下に入っている。私が指示を出す必要はないだろう」


 ――なるほど。こちらの感情もある程度把握している、と……結構だ。


 一瞥(いちべつ)を受けて斑鳩は表情を変えずに「了解しました」と一礼を返す。

 大尉は「それでは後ほど……」と言い残すと、凛とした足取りで司令室を後にした。


 遠のく足音……階段を下る音にやや緊張が解れる室内。

 ローレッタは「……ふううう」と大きく息を吐きながら両手を膝に落とす。

 ギルと詩絵莉も同じく安堵の表情を浮かべながら天井を仰ぐ。


「……さて、聞いた通りだ、斑鳩隊長。現時点を以て彼女を君の配属とする。本当にいいのだな?」

「ええ、勿論構いません。新たな仲間を俺達は歓迎します――と、その前に、少しいいかな」


 斑鳩は新型の"彼女"の正面に立つ。


「君を預かることになった斑鳩 暁だ。宜しく頼む……と、良かったら名前と……そろそろ顔を見せてくれないか?」

「……それは、上官命令?」


 発した第一声。やや気怠そうとも、気弱そうとも、どちらにも取れるような小声の一声に斑鳩は首を横に振る。


「いや……お願い、だな。全く新しい環境だろうし緊張するのもわかるが……まずはお互い目を見て話をしたいなと思ってね」

「……大丈夫だよ、新入りさん。うちのタイチョーは取って食べたりしないから!」


 ローレッタも斑鳩の背中からこそこそと声を掛ける。詩絵莉は「ロール司令の前だよ!」と思わずつつきながら(たしな)め、一方ギルはその様子を唯々伺っていた。


 そして彼女は一瞬の間があった後、徐にその両手をフードに掛ける。


『――!』


 続け様、胸元のフックを外しマントの様に全身を覆っていた布をくるくると丸めて小脇に抱える彼女を見て、その場の全員が息を飲む。その理由は、単純に彼女の姿を見てのものだった。


 まず驚かされたのは、A.M.R.T.の適応年齢である18歳よりも幾分下にすら見えるその容姿……それこそ15~6歳程度に写るその姿。

 そして何よりも全員が息を飲む事になった理由は……フードの中から現れた彼女の()()――それは銀……いや、白髪だろうか。無造作に散らしたその髪は、艶やかな真っ白。そしてその揺れる白髪の隙間、精鍛だが幼さが残る顔に見えるは血の色を湛えたかの様な深い赤色の瞳……。


 非現実的な存在、とでも言うべきか。


 どこか人間離れした様な雰囲気を纏うその少女に、全員が見惚(みと)れるのも無理はなかった――。





 ……――――――――第4話 序章 ―R― (2)へ続く。

※第4話は作中内容が大きくなるため、分割して投稿致します。

※続きとなる(3)を、宜しければお待ち下さると幸いです。


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