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部屋を借りたい

 そういえば住居もまだなかった。

 ただ千ペケもあれば当分暮らせるのは先ほどの話で理解した。どうにか金が尽きる前に自宅と仕事を確保しなくてはならない。


 俺はアパートらしきものを探した。

 しばらく歩いているとやっとそれらしきものを見つけた。

 俺は管理人室だろうと思われる部屋の扉をノックした。

 中から肌が黄色い男が出てきた。


「部屋を借りたい」


 俺はそう宣言した。

 男は俺の頭からつま先までを舐めるように見ると、困ったように口を開いた。


「身分証明書を見せてくれないかな?」


 やれやれ、ここでも身分か。しかし生憎俺はそんなものを持っていない。


「もしかして持ってないのか?」


 そんなくだらない事をわざわざこの俺が言わなくちゃならないのか。

 俺はこの察しの悪い男は見つめていた。

 やがてこの頭が鈍感な男も理解したようだった。ポケットから時代遅れなガラケーを取り出してどこかしらに電話をかけていた。


「今、迎えが来るからそこで待っててくれ」


 しばらく待つと車がやってきた。さすが未来の車両だけあって、車輪はなく、少し地面から浮いていた。

 中からアーマーを全身に装着した人間が複数人でてきて、俺を囲うように立った。

 そして車の方を指差して、俺を誘導した。やはり俺のような大人物は立っているだけで目立ってしまうらしい。俺は誘い通り車に乗ってやった。

 車内は暗かった。そして狭い腰掛けが三列になって並んでいた。俺はその中央に座ってやった。

 長い運転の末、車はどこかへ止まった。

 俺は車から降ろされて、大きな建物の中へ連れて行かれた。なかなか豪勢な造りの建物だ。ここでなら当分暮らしてやってもいいだろう。

 やがて牢獄のような部屋に連れて行かれた。中にはたくさんの人間がいた。俺はその中に入れられた。

 やれやれ、これではまるで囚人のようではないか。俺は近くにいた冴えない顔をした女に話しかけた。


「これはどういう集まりだ? このマンションに住む抽選者の待機部屋か?」


「何言ってんのよ。ここは次の競売まで奴隷たちが置かれる倉庫だよ」


 ふむふむ。それは災難なことだ。しかし奴隷はどこにいるのだろう。俺も興味があるのだが、それらしいものは見えなかった。


「一〇六番」


 天井に備え付けられたスピーカーから雑音が鳴った。

 どこかからか応じる声が聞こえた。顔をそちらへ向けると、一〇六というワッペンをつけた男が手を挙げていた。係員がやってきてその男を外へ連行した。

 これが奴隷なのか。そういえばそれらしい顔をしている。俺は惨めなそいつに冷笑をくれてやった。


「三〇八番」


 また雑音が鳴った。

 しかし誰も応じなければ、手も挙げなかった。三〇八番はどうやら気がついていないのだろう。間抜けな奴だ。


「アンタだよ」


 冴えない女が俺に声をかけてきた。俺はふと自分の胸元を見た。そこには三〇八と記されたワッペンがあった。

 おやおや、いつの間にか付けられたらしい。

 しかし俺は奴隷ではない。なので無視しておいた。すると厄介なことに隣で様子を見ていた男が、手を挙げてから俺を指差してきた。

 係員がやってきた。


「ちょっと待て。俺は奴隷じゃない」


 俺の言葉を無視して係員は俺を連れて行こうとした。

 寛容すぎる男の俺も、その態度にはムカついてしまった。俺は手を振り回した。手に当たった係員は卒倒した。

 すると係員の援軍が現れた。それぞれモップのような武器を持っている。

 他の奴隷どもはみんな驚いてざわついていた。やれやれ、落ち着いているのは俺だけか。

 緩やかな動きで繰り出される攻撃を避け続けた。すぐに係員たちは汗だくになり荒い呼吸をつき始めた。俺はというと、まだ準備運動にもならないといった様子だった。


「これで分かっただろう。お前らと俺との圧倒的過ぎる差を!」


 一喝してやると、係員たちは恐れをなして逃げ出した。臆病な奴だ。

 俺は悠々と牢獄から出た。遮るものは当然ない。俺の圧倒的力の前では全てが無意味だった。


「止まれー」


 しかし空気を読まないことを徹底しているのがこの世界だ。無駄なことに、機動隊のようなものが俺の進路を塞いでいた。今度は銃も構えていた。

 しかし全く怖くない。波は俺来ている。


「そんな玩具が俺に効くと思っているのか」


 俺は哀れな衆愚たちへ憐れみの冷笑を浮かべた。

 発砲音が轟いた。みぞおちに命中した。流石に少しは痛かった。だが出血もしていない。これなら大丈夫そうだ。

 おいおい、普通は警戒として撃つだけだから外すだろ。学校で習わなかったのか。

 俺は前進し続けた。

 機動隊は後退しながらしつこく銃弾を俺に当ててきた。痛みはないわけじゃないんだ。加減ぐらいしろ。

 仕方ない。そろそろ本気を出すか。

 俺が走り出そうと、大きく踏み込んだその時、大きな声が響いた。


「その奴隷! このマーカンド家が買ったわ!」


 振り向くと、派手なドレスを着た女が仁王立ちで叫んでいた。

 肌は白く、鼻は高い。髪はブロンドで毛先をカタツムリみたいにくるくると巻いた髪型だった。

 威風堂々と言っているのは大変結構だが、その奴隷とは俺のことだろうか。だとしたら大間違いだ。

 俺は女の様子を見た。やはり俺のことを奴隷だと勘違いしているようだった。

 出来れば訂正したいところなのだが、誰も聞く耳は持たないだろう。ならばこの場はこの女の奴隷ということで落ち着かせるのもアリかもしれない。

 幸い、顔も悪くないし、家柄も良さそうだった。後で機を見て、事情を話せば分かってくれるはずだ。

 そういうことで、俺は奴隷としてマーカンド家に連れて行かれることになった。


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