貴族限定の店
俺は目に付いた店に入った。
中には黒人ばかりがいた。客から店員まで肌の色は黒かった。ただ店長のみが白かった。
俺は適当な席に座ると、店主を呼んだ。
店主は迷惑そうに顔をしかめながら、俺に近寄ってきた。
「貴方、平民ですよね?」
またその話か。平民がどうしたというのだろう。
「平民がどうした?」
「ここは貴族限定の店ですので」
「ほう。では教えてくれ。貴族と平民の違いとはなんだ?」
丁度いい。ここで平民とは何なのか知っておこう。そう思った俺は親切丁寧にそう尋ねた。
しかしこの非常識な店主は、俺の問いに答えなかった。
「そういう話をしているんじゃないです。ここは貴方にふさわしくないので、出て行ってください」
ふぅ、やれやれ。
俺は袋から硬貨を一枚握ると、店主に投げつけた。
「これは……百ペケ硬貨!?」
「端金だ。それより俺の質問に答えろ。貴族と平民の違いとは何だ?」
「は、はい! えー、平民と貴族の違いは貴族権を持っているかどうかです」
やっとまともに会話する気になったか。
「貴族権とは何だ?」
「はい。えー、貴族省から渡される勲章のようなものです。えー、総資産三十万ペケ以上の富豪が、貴族省から認可証を貰うことによって、えー、貴族として認められます」
「つまりその貴族省とかいうところから認可証を貰えば貴族になれるのか」
「そういうことです、えー」
何だ簡単なことじゃないか。こんな低脳しかいないこの世界なら優れた俺が貴族になれるのもすぐだな。
まあ、俺はそんなものに興味はないのだが。
そんなことを考えていると背中を小突かれた。全く、この世界には空気が読めない奴ばかりだな。
俺が振り向くと、そこには肌が黒い男がいた。
「平民の分際でこの店に何の用だ?」
「食事をしにきた」
「ここは、貴族様の、店なんだよぉ! お前みたいな汚い平民が来るところじゃない!」
なんだこのハゲゴリラは。どうせ雑魚のくせに調子に乗った奴だ。
「お前は貴族なのか?」
念のため確かめると、男は高笑いをしながら答えた。
「俺は大貴族のメント・ロワロワ・ガシナ。お前ら平民どころか、並み居る小貴族とも、位が違うんだよぉぉ!」
「おい。大貴族と小貴族の違いを教えてくれ」
俺は店主に青い硬貨を投げた。
「えー、基準として総資産二百五十万ペケ以上で大貴族となります。貴族と平民ほどの差ではありませんが、大貴族とは小貴族とは一線を画す存在です」
つまりこのデコ広男はお偉いさんなのか。しかし馬鹿そうだ。馬鹿が地位だけで粋がるのはどの時代も同じなのだな。
しかしここらの貴族で有力な大貴族、メントなんたらと喧嘩するのは厄介かもしれない。
俺はメントなんたらと穏便に済ませることにした。
「失礼したな。俺は店を出る。これは詫びの印だ」
俺は赤い硬貨を指に乗せると、それを弾いた。硬貨はメントなんたらの額に当たった。
メントなんたらの顔がみるみる紅潮していった。
「許すわきゃ……ねーだろ!!」
やれやれ、短気な男だ。なんでこうも馬鹿で短気な人間しかいないのか。どうやら人類は俺が知らぬ間に退化したようだ。
しかしこのメントなんたらは俺より背が高い。今度は苦戦するかもしれない。
だが、現在、波は俺にきている。今逃げたら確実に俺は昔と変わることはできないだろう。
俺はメントなんたらの攻撃に構えた。
「ふふふははは。そんな身構えてどうした? んん? 誰が直接報いを受けさせると言った? 後で部下を送って始末するに決まってんだろ!」
言うが早いが、メントなんたらは店から飛び出した。
自らやらずに、口ばっかりで逃げるとは卑怯な奴だ。今度会ったらただではおかない。
不愉快になった俺は食欲も失せて店から出た。