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かま×なべ  作者: 涼御ヤミ
かま×なべ 2
26/28

第二章『ラプソ×始まり』①

 冷房完備。パソコンは部員が増えた時のために最低八台は欲しい。さらには重くもラグもない最新機種が望ましい。室内の広さは普通教室くらい。だがこんなことばっか言ってたら一向にできないだろうからこの際贅沢は言わねえ。この条件の半分、いや三分の二くらいで妥協してやる。とにかくパソコンのできる場所だ――



 そう思っていたのは昨日までの俺で、いざ部室が手に入るとそんな考えどうでもいいと思えてしまうあたり根性まで小市民なんだろうな俺は。


 次の日の放課後、北校舎の宍戸が指定した場所には、月、濃野、悠間、俺含めた四人が雁首を揃えていた。わざわざ俺が声を掛けて回り――全員同じクラスだけどな――暇人四人がここに集まったのが現状。


「へい大将。今日も一段と精が出るねえ。ひょっとして肩凝ってんじゃない?」


 もみ手すり手ですり寄る悠間が俺の返事を聞く前に肩を揉んできた。たった一日で学校でネトゲができる環境を手に入れたから俺に取り入ろうってハラか。長いものに巻かれるという今の世を風靡(ふうび)したような男だ。部下が上司にへつらう。そんな感じ。


「穂積くん」振り返ると目の前には濃野。「漫研についてなんだけど、いっそこのままパソコン部だけにしてもいいよわたしは。よくよく考えてもみると、漫研なんてなくても場所さえあればどこでだって絵は描けるしね。あ、家はあまりよろしくないけど。つまりわたしが言いたいのは、これ以上わたしのわがままに付き合う必要なんてひゃいっ!?」


 真面目なことを言う濃野の口止めも兼ねて俺は濃野のほっぺたをつまみぎゅっとする。柔っこいから実によく伸びる。まるでお餅のようだ。


「ひゃ、ひゃひふゆの?」

「連帯責任だって昨日言っただろうが。何度も同じこと蒸し返してんじゃねーよ」

「ほ、ほーひゃね。ほめんにゃひゃい」

「どうだい大将、あっしの肩揉みの技術は」


 未だに俺の肩を揉む下っ端根性丸出しの悠間と濃野の頬をつまみ続ける俺という奇妙な構図が出来上がっていた。どっちかってーと、肩が凝るのは濃野の方だろう。だってあの胸……げへへ。


「だぶらっ!」


 三者三様に存在感をアピールしている中、月の会心のチョップが俺の頭部目掛けて飛んできた。いってー。急になんてことしやがんだ月の奴。

 俺が苦言の一つでも呈そうと向き直ると、


「こぉら、濃野が嫌がってんでしょうが」


 あっ、さいですか。

 過保護な月の手によって俺という魔の手から救い出された濃野 だが、別段嫌がってるようには見えない。が、月が言うからにはそうなんだろう。暴君よろしくあたしが正しいと言ったら全て正しい的な。


「……にしても、あの宍戸がクラブの顧問ねえ」


 眉根を寄せて怪しいセールスマンを見るような目付きで月が言う。


「途中めんどくさくなって顧問や~めた、なんてこともあるんじゃないの?」

「いくら宍戸でもそこまでは…………普通にありそうだな」

「でしょ?」


 神藤先輩の呪縛があるといえど、開き直る可能性が一概にないとも言い切れない。それに、担任を信用してないわけじゃないが逆に信用してるわけでもないしな。生徒との信頼を全く築けてない担任の方に根本的な問題がありそうだな、この場合。


「――別にバックレたりしねえよ。こっちだって生活かかってんだから」


 階段の突き当たりからけだるそうに現れたのは、我が担任である宍戸。全身にだるいオーラを(まと)わせながら廊下を闊歩(かっぽ)し、例によって文句を垂れている。


「好き放題言いやがって。んなことでいちいち目くじら立てるような真似しねえけどよ。んなことより、穂積」


 俺のところまで歩み寄った宍戸が急に声を潜める。そして俺の肩を掴み窓際へ。真面目な顔が怖い。


「先生、俺にそんな趣味ないんでやめてもらえますか」

「俺にだってない。つうかお前、濃野と神宮寺なんて誘ってやがったのか」


 どこかで聞いたような台詞だ。


「何か問題でもあるんですか?」

「逆だ。むしろ華があっていい。こいつぁかなり上玉だぜ。お前も隅に置けねえなあおい」


 勝手に勘違いして勝手に一人盛り上がっている。どうでもいいけど、先生が手を出したら淫行で捕まるぞ。


「そういえば、あそこに内越もいますよ」


 声のボリュームを上げて悠間を指差すと、悠間の奴もこっちに気付いたようで「どしたの?」と口にする。


「野郎はどうでもいい、捨て置け」

「それもそうですね」

「えっなに、どういうこと!?」


 わけが分からないといった具合に悠間が過敏に反応するが、お前は知らぬが仏という言葉でも脳内でリピートしとけ。


「これで全員か?」

「いえ、まだもう一人います」

「なんだまだ他にいんのか。そりゃ誰のことだ?」

「私ですよ」


 急に降ってきた声にぎょっとして振り返る。担任の背後に神藤先輩が立っていた。音もなく忍び寄るのはマジ止めてくれ。心臓が飛び出るかと思った。


「やぁ華都君。話していた通り顔を見せに来てあげたよ」

「……神藤」

「これはどうもお久し振りです。宍戸教諭の嫌なことがあるとすぐ顔に出る癖、相変わらずですね。お節介かとは存じますが、直した方が懸命かと思いますよ。教諭自身のためにも」

「ほんと余計なお世話だな」


 見ると担任の顔が男同士でキスをしている現場を目撃してしまった時のように歪んでいた。額には玉のような汗がいくつも滲んでいる。


「何しにここへきた」

「これはまた随分な挨拶ですね。私も彼の作ったクラブの一員ですよ、れっきとしたね」


 そう言って僕に笑みを投げ掛ける。これまた意味ありげな。


「俺は認めたつもりはない。回れ右して今すぐ帰れ」

「つれないですね。(おご)る平家は久しからずと言うじゃありませんか。ですが、教諭のそういう淡々としたところ、私は嫌いじゃないですよ」

「俺はお前のこと好いてないがな」

「素直じゃないですね」

「誰が素直じゃないだ、誰が」


 にべない先輩ときさくな先輩。

 仲がいい……ってわけじゃなさそうだ。一体担任と先輩の間にどんな因縁があると言うんだろう。少し気になる。


「まぁそう邪険にしないでください。何せ私は教諭のことを高く買っていますからね」

「買うな。俺の株なんぞ今すぐ売れ。あるいは即刻捨てちまえ」

「土台無理な相談ですね。大変重要なアイテムなので捨てることは適いません」

「くそったれが!」


 宍戸の毒舌をのらりくらりかわす先輩。

 海千山千の先輩を敵に回すとほんと恐ろしいからな。俺はそれを身をもって体験した。味方だと頼もしいことこの上ないが。


「さて、私はこのくらいでお(いとま)することにしよう」

「もう帰るんですか?」

「先の通りここには顔を見せにきただけだからな。それに、彼女が部室は問題ないと名言していたから心配するだけ杞憂というものだ」

「あ、そうなんですか」


 ……って、彼女? 彼女って誰のことだ? 月と顔を見合わせるも心当たりの一つもないのか首を横に振る。

 これまた謎めく言葉を残し踵を巡らす先輩だが不意に立ち止まると「そうそう、宍戸教諭にお伝えすることがありました」と、月の両肩に手を置いた。やにわに先輩に肩を抱かれ毒気を抜かれたような面持ちを浮かべる月。


「これから三年間、妹のことよろしく頼みましたよ、せんせ」

「い、もうと?」


 区切り方のせいで、中国人の名前みたいになってんぞ。

 驚く宍戸を無視して今度こそ神藤先輩は去っていった。

 皆一様にこの場を後にする先輩の後ろ姿を目でなぞり、数瞬の後、担任が口火を切ることで均衡は破られた。


「神宮寺、お前本当にあいつの妹なのか?」


 キャパシティが限界を迎えた様子の月だったが、突如我に返ったようにハッとすると、やおら頷いてみせた。その動作を見て取り宍戸が力なく項垂れる。頭を抱え悪夢だと独りごつその姿が物悲しい。

 ひたすら悲しみに暮れる宍戸に俺は言葉を投げ掛ける。


「宍戸教諭は、その、先輩と何かあったんですか? 例えば確執を生むようなこととか」

「確執か。そいつは言い得て妙だな。その認識は強ち間違っちゃいねえ。奴には過去散々な目に遭わされた」


 急に語る気にでもなったのか、宍戸がどこか遠い目を浮かべる。あ、やべ、なんかスイッチ入ったっぽい。

 長くなりそうな気配を逸早く察知したのか悠間が扉を指差し、早く鍵をもらって入ろうとジェスチャーする。それに対し今は無理だと軍隊ばりのハンドサインで返してやる。

 俺達のやりとりに一切気付くことなく担任が腕を組み語り出す。


「――これは今から三年前の話だ。今と同じように俺が一年のクラスを受け持った時のな。生徒の中に一際異彩を放つ奴がいた。それが神藤玲霞という女だった。美人で頭もよく非の打ち所のない奴にはカリスマ性みたいなもんがあったんだろうな。いっつも沢山の生徒に囲まれていた。特待生且つ生徒の模範となる優等生ってことで、今とは異なり俺の手に余るなんてこともなかった。学級委員として率先してクラスの音頭をとっていたからな。お陰でかなり楽できたぜ」


 その頃から完璧超人だったわけだ先輩は。いや違う。違わなくはないが、月の話だと小学生の頃から大人びていたんだっけか。

 まるでタバコを吸うように息を吹き上げる宍戸は続けて、


「変化が起きたのは二年の修学旅行の時だ。午後の自由時間、俺が他の教員の目を盗みネットカフェを利用していた際に、」

「って、ちょっと待て!」

「……なんだ穂積。水を差して。ひょっとして旅行先が気になったのか? 因みに行った場所は東京だぞ」

「違う! そこじゃねえ! 確かに気にならないと言えば嘘になるが、何あんたは堂々とサボったこと自白してんだ!」

「サボったとは人聞きの悪いことを言いやがる。ただの息抜きじゃねえか。そうカリカリすんなよ」


 給料泥棒、という言葉がふと脳裏を過ぎったが、口には出さないでおいた。うっかり機嫌を損ねさせたりでもしたらそれこそ月の言う通り辞めるなんてことも有り得るからな。


「話の続きをすると、まぁあれだ。抜け出すタイミングを見計らいネットカフェを利用したんだ。ラプソをやるために二時間ばかしな。んで店を出ようとした時だ。神藤に見つかったのは」


 あー、なるほど。だから先輩は宍戸がラプソをやってたのを知ってたのか。

 つーか先輩に見つかるってパターン多いな。


「いや見つかったっつうと語弊があんな。ありゃ俺がここに来てたのを元から知ってやがった。そんで、あれよあれよのうちに俺の悪事、じゃなかった。息抜きしていた証拠をいくつも突き付けられ今日に至るまでいいように利用されまくってるってこった」

「それはなんというか、お気の毒ですね」

「だろう!?」


 宍戸はようやく俺の理解者が現れたと何やら頷いている。

 同調したはいいが大半は自業自得じゃないのかそれ。俺もラプソやるためにフケたことがあるから人のことは言えんけど、まず教師と生徒では立場が違う。何もかも。


「さらには運命の悪戯ならぬ嫌がらせが如く三年間あいつの担任を勤め、いざ卒業となったらまさかの留年! 加えて一年に戻ったら今度は妹の担任だあぁ? ラプソで例えるなら三連続くらい闇ってんぞ!」


 濃野を除く全員ネタが通じるから困り者だ。

 ビシリという擬音が付きそうな勢いで宍戸が月を指差す。


「だから神宮寺、事あるごとにつまんねえこと神藤に吹き込むんじゃねえぞ。とやかく言われんのは俺なんだからよ。そこんとこよろしく頼むぜ」


 獅子のように鋭い眼光を向け釘を刺す。しかし担任の高圧的な態度がよほど気に食わなかったのか月が露骨に眉根を寄せ、


「それはあんたの行動次第よ」

「な、オイテメ。教師に向かってあんたはねえだろ。仮にも年上だぞ。もっと慕え敬え、俺を」

「フンッ」


 大きく鼻を鳴らしそれを答えとした。俺はやれやれとこめかみの辺りを押さえる。一蹴すんのは是非もないが、せめてクラブ発足後にしてくれ。


「宍戸せんせっ」


 抑揚の付いた鈴を振るような声。その声に反応し濃野に目を向ける。


「もうこの話は終わりにして、よかったら部室に入りませんか? 時間がもったいないですよっ」

「む、それもそうだな」


 身の丈に合わない素早いレスポンス。鼻の下伸ばしてんのはただただ濃野が可愛いからに相違ない。この淫行教師め。気持ちは分からんでもないけど。

 すっかりやに下がった宍戸がポケットから鍵を取り出すと俺に向かって放り投げた。うまい具合にそれをキャッチする。


「オメーが開けろや代表。んで一番に跨げ。こういうのは何事も形から入って(しか)るべきだ」


 ここにきて少しだけ担任が格好よく見えた気がした。

 促されるままに俺は鍵穴に鍵をさし解錠。鍵の開く音を聞き届けてからいざドアノブを捻り俺はいの一番に中に――って暗っ! 真っ暗闇じゃねえか! 映研の部室でももう少し明るいぞ。

 電気のスイッチはどこだと探ろうとした矢先、入らないなら僕が先に行くよと団体行動を乱す輩がいた。例によって悠間だ。


「やったあ僕が一番乗りだぶしっ!?」


 よほど勢いがあったのか、ゴツンという鈍い音が廊下にまで響き渡る。無様にも背中から倒れる悠間。そしてぷるぷると震えながら宙に手を伸ばす。


「かっ、華都。気を、付けろ。この部室には、数多くのトラップが張り巡らされてい、る……」ガクリ。


 あ、死んだ。


「あっ、ええと、電気点けるね?」


 わざわざ悠間に気を遣ってか、濃野が入ってすぐのところにある明かりのスイッチを押す。点灯。


「うおっまぶしっ」


 と俺が目を(すが)めたのも一瞬、「おー」と我知らず感嘆の声が漏れ出る。

 入ってすぐのところに置かれた二つの長テーブルには、三台づつに分けて計六台のパソコンが設置されていた。室内が多少狭く感じるのはパソコンの数が多いからだろう。十分許容範囲だ。

 その他にも回転可能なパソコンチェアが人数分(来客用なのか予備まである)、背の高い収納棚、目線を上げた先にはエアコンまで完備されていた。

 室内がやけに暗いのは黒の遮光カーテンが掛けられていたからで、月が窓際まで歩み寄り一気にカーテンを開け放つ。室内いっぱいにより明るい光が満たされる。


「わぁ、この部屋すごく綺麗に管理されてるね」

「少し埃が積もっちゃいるが、乾拭きすりゃすぐにとれるな」


 縁をなぞり指に付着した埃を蝋燭を吹き消すようにフッと息で飛ばす。


「そういやさ、このクラブの名前はどーすんの?」


 痛みにはめっぽう強いのか、早々に責め苦から立ち直った悠間がそんなことを言ってきた。

 く、クラブの名前! やばい、それは盲点だった。何も考えてないどうしよう~~!

 ……なんて茶番はここまでにして、昨日徹夜で考えてきた名前が俺にはある。


「ネトマン同好会なんてどうだ? ネトゲと漫画の略称でさ。これなら部に昇格しても語呂とかいいし覚えやすい。ネトゲが入っちゃいるけど、そこは同好会ってことでごり押しすりゃいけるはず!」


 俺が身振り手振りを交え力説すると、誰からも反対意見はとんでこなかった。却下されなかったことに、ほっと安堵の胸を撫で下ろす。


「――無事クラブの名前も決まったことだし始めるとしますか」


 無駄にやる気に満ちた悠間が慣れた手付きでパソコンを立ち上げていき、五台目を起動させたところでパイプ椅子にストンと腰を下ろした。


「穂積くん。ここ、ここ」


 いつの間に腰掛けていたのか、出入り口付近を陣取る濃野が隣の椅子をパンパンと叩く。

 そこに座れってことか。無論いいとも。何一つ断る理由がない。


「それじゃ、あたしはここにしようかしら」


 そう言って俺の隣に座る。


「ったく、ガキどものお守りは疲れんな」と歳食ったアピールか首に手を当てながら腰掛けたところで全員が椅子に座ったことになる。

 入ってすぐ左の手前から順に、濃野、俺、月の三人。反対側の席には、悠間が真ん中、その右手に宍戸教諭と連続して座っている。

 パソコンはすぐに立ち上がり青いディスプレイ画面を映し出す。俺の家のものと違い、随分とファンが静かだ。

 俺はネットに繋がってるのを確認してから、検索エンジンを利用しラプソの公式サイトへと飛びダウンロードを開始した。


「穂積くん、ここからどうしよう」


 検索エンジンのところで手をこまねいている濃野に分かるように教える。この中だと唯一ラプソ未経験者だからな。濃野には色々と手解きする必要がある。つっても、一番頭もよく呑み込みの早い濃野のことだ。たちどころに俺達に追い付いてみせるに違いない。

 ふと気になって月の画面を覗き見ると、何も言わなくても勝手にダウンロードを始めていた。俺が口を出す必要はなさそうだ。


「おいおい十五分も掛かんのかよ。ただでさえ時間短いってのに」


 宍戸教諭が億劫そうに席を立ち扉の方へ。


「どっか行くんすか?」と悠間。

「タバコ吸ってくんだよ言わせんな」


 もはや隠す気すらないようだ。


「じゃあ僕もちょっくらトイレに行ってこようかな、因みに大の方」


 んなこといちいち報告せんでいい。

 退室。扉の閉まる音。


「……俺達は今のうちに新規登録済ましとくか」

「あー、そんなのあったわねえ」

「シンキトウロク?」


 片言濃野可愛い。


「ラプソをプレイするために必要なIDとpassを入手するのと引き換えに、株式会社リアルにあたしらの大事な個人情報をくれてやるのよ」


 合ってるけどもうちょいマシな言い方はできなかったのか。


「俺らはもう既にデータ一つ持ってるけど、性別戻す必要あるから改めて登録しようって感じだ」

「なるほどぉ」


 再度便宜を図り自分の登録もしつつ濃野に手順を説明。そして無事登録も完了。それから少しして悠間、次いで担任宍戸が戻ってくる。


「おっ、ダウンロード終わってんじゃねえか」


 痒いのか背中を掻きながら悠間の横、濃野の真正面の席に腰を落とす。


「先生やに臭いっすよ」

「ん、そうか? まぁんな細かいこと気にすんな」


 細かくはないだろ、と内心突っ込む。


「そういやこれからどうすんだ? みんなで仲良く狩りでもすんのか?」


 ラプソの起動音が音ずれのようにあちこちから聞こえる中、担任が核心を衝いた発言を切り出す。そういやこのおっさんには話したことなかったか。

 俺は立ち上がり全員の顔を見ると、おさらいも兼ねて改めて口にした。


「ここにいる全員でギルドを作るんですよ。それもお遊びなんかじゃないガチの」

「ガチだと? それで穂積はそのギルドを作ってどうするつもりなんだ? 最終目標は?」

「決まってるじゃないですか。雲の上の存在であるSランクギルドとそのまた上のSSギルドを倒して頂点をとるんですよ」

「……ほう?」


 興味を惹いたように担任がアゴヒゲに触れる。

 担任の目は何言ってんだこいつという人を小馬鹿にするようなものではなく、あくまで真剣そのものだった。

 だから俺も小っ恥ずかしいとは微塵も思わない。


「どこにも負けない最強のギルドを作るにあたり、俺と月の二人はキャラリメイクして一から臨むつもりです。とりあえずそれを今からやろうかと」


 因みに、ここにいる中で唯一ラプソに触れたことがないのが濃野で教えながらやっていくという旨を伝える。


「……ん? 待て。お前メインのレベル八十三あるとか抜かしてなかったか? ならそっち育てた方が明らかに効率いいだろ」

「あーええと、それにはやむにやまれぬ事情があると言いますか、先生が校内でタバコを吸うようにこっちにも理由があるんですよ、色々と」

「ほっとけ」


 宍戸は椅子にもたれかかると、校長にでもなったかのようにえらそうにふんぞり返った。


「なるほどな。お前達のやりたいことは十分分かった。中々に面白いことを企ててるみたいじゃねえか」


 口角を上げニヤリと笑う。その顔に卑しさはあっても不快さは感じられない。


「その件、俺にも一枚噛ませろ。嫌とは言わせねえぞ。俺をここまで付き合わせた上焚き付けたんだからな」


 焚き付けたかどうかはともかく、


「いいですよ」

「決断早いなオイ」

「別に少数精鋭を気取るつもりは毛頭ないですし、それに身内というか知ってる人間がギルドにいた方が心強い」

「そりゃもっともな意見だな」

「むしろ教諭の方こそいいんですか? そのレベルだとどこかしらのギルドには所属してると思うんですけど」

「構わん。つうか入ってるが抜けてやる。一応【暇人の会】なる人数もそこそこのB級ギルドに属しちゃいるが、最近はメンバーの大半IN率悪りぃしギルド活動もないに等しく完全に落ち目だからな。んなとこでくすぶってるよりお前らと組んでた方がよっぽど楽しそうだ」


 そう言ってにぃっと教諭なりの笑顔を俺達に見せ付ける。

 この人、一見何も考えてないようでいて実際のところすごい野心家なのかもしれない。考え方もみようによっちゃ合理的だし、伊達に教師はやってないってわけか。


「別にお前らが一からやろうが俺には関係のない話だしそれこそお前らの自由だが、先に一つ果たさなきゃならない大事な使命があるだろう――なぁ穂積」


 宍戸教諭は手のひらを上に向け親指と人差し指で丸を作ると、


「約束果たしたんだから先に金くれ」


お久しぶりです。お待たせしてすみません。

現在MF文庫Jに応募するための新作を頑張って執筆しています。

ですが、時間を作ってまた更新できたらな、と思います。


誤字脱字、感想等あればお気軽にどうぞ!

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