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かま×なべ  作者: 涼御ヤミ
かま×なべ 2
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第一章『クラブ×担任』③

 相変わらず未来に生きる先輩の助力を仰いだ俺は、放課後、無人となった教室に宍戸(ししど)教諭(きょうゆ)対峙(たいじ)していた。

 無論濃野への声掛けは済ましてある。その辺のところは抜かりない。


「なんだ穂積、大事な話って」


 ぼさぼさの髪を掻きながら至極迷惑そうな声を出す。


「恋の話だとかイジメの話だとかは俺にしてくれるなよ。相談室に行け、相談室に」


 生徒の手本となるべき教師がそんなんでいいのか?


「実は先生にクラブのことで頼みたいことがありまして」

「クラブだぁ? まさかクラブの顧問になってくれとでも言うつもりじゃねえだろうな」


 前に同じ話をされたことでもあるのか先に釘を刺される。


「あー……そのまさかです」

「チッ」


 舌打ち!? 今舌打ちしたか!?


「そんなクソめんどくせえものをこの俺が引き受けるわけねーだろ。考えて物を言え」


 おいおいめんどくさいって言い切っちゃったよこの人。

 このまま頼んでも押し問答だろうと俺は感情的に物事を訴える方向にシフトする。


「目に入れても痛くない可愛い生徒の頼みじゃないですか!」

「女ならともかく男に媚売られても気色悪りぃだけじゃボケ」

「どうしても駄目ですか? こんなにも頭下げてるのに!」

「一回も下げてねえじゃねーか! とにかく駄目なものは駄目だ。何度頼まれようがな。穂積に俺の嫌いなものを教えてやる。それは面倒な事と金にならない事だっ!」


 漫画とかだと集中線が付きそうなくらいの勢いで口角(こうかく)(あわ)が飛ぶ。あんたなんで教師なんて割りに合わない仕事やってんだ!?

 確かに部活の顧問は特別金が出るわけでもなくそもそも残業という概念(がいねん)がないらしいからな。進んでどころか頼まれてもやる気のない気持ちが分からんでもない。


 だが、それじゃあ困るんだ。


 あまり使いたくはなかったが担任がこの態度じゃ仕方ねえ。俺は秘密兵器であるICレコーダーを後ろ手に持ち使用する。すると数瞬後、


『――ふぅー。仕事を抜け出しての一服は天にも昇る心地だぜ』


 この声は宍戸教諭か? 音が鳥の声が聞こえるくらい大分クリアだな。流石は最新型。


『ったくよぉ、人様を安月給でこき使いやがって。ここの校長はなめくさってやがんな。高給取りにはこの気持ちは一生分かんねーよな。こちとら何年もそれこそボロ雑巾のように働いてんのに』


 俺は宍戸教諭の顔色を(うかが)う。

 教諭はまるで何かに取りつかれたように一点をジッと見据えたまま無言だ。何を考えているのか分からなくもないが、俺もこの人に倣い引き続き黙っていよう。

 が、その後も担任の愚痴が延々と続き、何の前触れもなくぷっつりと音声は途切れた。

 自分の声を聞きなるほどと口に出し繰り返す宍戸教諭は笑みらしい笑みを浮かべると、やにわに俺に向かって飛び掛ってきた! 間一髪のところでそれを回避する。


「ちょっ、生徒を襲うなんてあんた正気か!?」

「じゃかしい! 教師を脅迫するお前にだけは言われたくねえ! 四の五の言わずにお前の持ってるそいつを寄越せっ!!」

「嫌に決まってんだろ!」


 そのまま水掛け論には発展せず力づくでねじ伏せようと宍戸教諭がじりじりと俺に迫るも、身の危機を感じた俺は脱兎の如く走り出す。つっても教室を出たら交渉もくそもないため、動き回るのは教室内だ。昔から運動神経だけは無駄にあるからな。机を()うのはお手の物だ。


 ICレコーダーを餌にちらつかせながら逃げ回ること数分、タバコを吸いすぎた弊害(へいがい)か宍戸教諭の動きが止まる。シンとした放課後の教室に男二人の吐息だけが聞こえるという何とも形容し難い絵面が生まれた。


「……穂積」

「何でしょう」

「少しだけお前の話に付き合ってやる」


 そう言うと誰のものかも知れない生徒の机にどかっと座り込む。これは少しでも休息を取りたいがために時間稼ぎしてると見ていいよな。それはこっちとしても同じだが。

 少しばかり頭を悩ませてから俺は口を開く。


「まずこのICレコーダーですけど、そもそも俺のじゃないんで取ってもらっちゃ困るんですよ」

「だろうな。それで、それの持ち主はどこのどいつだ?」

「それは口が裂けても言えませんね。守秘義務なんで。それからこの話にはまだ続きがあるんです」

「言ってみろ」

「これ以外にもビデオカメラでいくつか証拠映像は残してある。なおも拒否を続けるのであれば私の父に提示しよう――と」


 先輩から教えてもらった極め付きを口にした瞬間、焦りの色が瞳に浮かぶ。鳩が豆鉄砲を食ったように大きく目を見開き、食い入るように俺を見る。


「私の父、だとぉ? ……あ」


 何か気付いたことでもあるのか担任が間の抜けた声を上げる。それから俺が所持するICレコーダーに見るともなく目を向け、


「……まさかとは思うが、お前にいらん知恵を植え付けたのは神藤玲霞って女じゃねえだろうな」

「そのまさかですよ、教諭」


 主客転倒。今度は俺が決め顔を作り言い放つ。

 守秘義務とか言っときながらあっさりバラしちまったが、何やら勘付いてるようだったし今更隠す必要もないと思ったからだ。最高のカードを切るタイミングもここでいい。

 俺の言葉に、担任は思わずこめかみを押さえ溜め息を吐きそのまま天を仰いだ。これまた見事な三連コンボ。


「ああああ畜生神藤め! 一体いつまで俺を縛り付けるつもりだっ!」


 宍戸教諭の悲痛な叫びが教室中にこだました。

 そして逡巡(しゅんじゅん)とも取れる沈黙のあと、担任がやおら口を開く。


「……おい穂積。お前の言うクラブの顧問とやらになってやる」

「えっ、いいんですか?」

「なんでお前が驚いてんだ。無論俺としちゃ不本意極まりないが、またしても神藤に目を付けられちゃなす(すべ)がねえからな。くそったれ」


 悪態をつくのは依然(いぜん)として変わらないが、急に物分りがよくなったなこの人。つっても先輩なら安易につけこまれる隙を作る方が悪いとか言って退()けそうな気がする。

 何だかあっさり決まって拍子抜けだが、やってくれるんならもう何でもいいや。


「そんで穂積は何のクラブを作るつもりなんだ?」

「それが特殊(とくしゅ)と言いますか漫画とネト、あ、いや。漫研とパソコン部を組み合わせた画期的なクラブを作ろうと思いまして」

「漫画とネト、なんだ? 正直に言え」

「……ネトゲですはい」


 耳ざとい担任の有無を言わさぬ物言いに思わず口を衝いて出た。この人、眼力だけはあるから睨まれるとマジこえぇな。蛇に睨まれた蛙の気分。

 しかしネトゲと聞いた担任は思いもよらぬ反応で、ほうと興味を惹いたようにアゴヒゲに触れる。


「なんて名前のネトゲだ?」

「言えば分かるんですか?」

「まぁある程度はな。ネトゲはそこそこかじっちゃいる」


 やっぱりやっていたか。俺は《ラプソディ・オンライン》と正直に口にする。すると関心でもしたかのように教諭が膝を打つ。その理由もすぐに知れる。


「こりゃあ驚いた。傑作(けっさく)だ。まさかお前もラプソをやっていたとはな」


 セキセイインコのようにクククと喉を鳴らす担任。

 教諭がネトゲをやっているという俺の予想は見事に的中した。

 しかしまさか同じラプソだなんてな。顔にこそ出さなかったが正直驚いてる。まぁ知名度だけなら結構あるし、こういう偶然だってなきにしもあらずか。


「だがネトゲなら家でも出来るだろ。どうしてそこまで部活にこだわる」

「それにはそれ相応の理由がありましてですね」


 一体今日だけで何度説明すりゃいいんだ。濃野の漫画研究会のことも話しつつ割愛する。それを聞いた教諭がふむと呟き落とす。


「濃野め。教室の使用を許したのにまだ諦めてなかったのか」


 教室の使用……そういや濃野もそんなこと言ってたな。

 と、そこで俺は最後に先輩が言っていた台詞を思い出す。


「先の通り部員と顧問に関してはクリアですが、いかんせん部室の確保がまだなんですよね。先輩曰く教諭に訊けなんて言ってましたけど」

「俺に? んなこと言われても心当たりのこの字もねえぞ。授業科目で情報はあっからパソコン室自体あることにはあるが、授業以外での使用は認められちゃいねえからな。それ以外には……いや待てよ。あそこなら置いてあるか」

「どこですか?」

「同じ階の北校舎にあるパソコン部の部室だ。つっても元だがな。まだ撤去されたって話は聞いてねえからうまくいきゃあそこを利用できる」


 おお、なんだかとんとん拍子に話が決まっていくな。

 円滑に事が進み内心ガッツポーズをとる俺とは対照的に、創設の件含め校長に話しに行くのだりいなぁと頭を掻く宍戸教諭。

 尻込みする教諭に俺は後押しする。


「俺の名前を言えば多分大丈夫だと思いますよ」

「ハッ」


 鼻で笑われた。


「んなわけあるか。いくらなんでも過大評価だ。お前にはその価値があるってーのか?」

「ええ、まぁ。ここの校長とは接点があるんで。それと余計なお世話かもしれませんが、先生は人を小馬鹿にしすぎじゃありませんか?」

「そういう性分だ、割り切れ」


 無茶苦茶だ。

 鼻持ちならない教諭はまだ居座るつもりなのか、懐からタバコを取り出すと火をつけようとし、


「って、何教室でタバコ吸おうとしてんだよ!」

「ん? おっと危ねえ。話が弾んじまったからついナチュラルに吸うところだったぜ」


 空腹で腹の虫が鳴った女子高生が照れ隠しをするように教諭がはにかむ。可愛くない、全然可愛くないぞおっさん。


「そういやお前、ラプソのレベルはいくつだ?」

「レベルですか?」


 これまた脈絡のない質問に俺が答えようとすると、宝くじで十万円を当てたようなしたり顔で「因みに俺は五十六だ」と告げる。

 五十六て、まだ三次転職も済んでねえじゃねーか。よくそんなレベルを胸張って言えたもんだ。

 俺が正直に教えるべきか言いあぐねていると、人に言えないほどレベル低いのか? と。

 いいだろう。あんたのその安い挑発に全力で乗ってやる!


「俺のレベルですか? いやあまり言いたくないですね。なんたって八十三しかありませんから」

「八十三か。まぁお前にしては頑張ってる方、って八十三だとぉ!?」


 思い掛けない一言に担任が目を丸くする。中々いいリアクション。

 だが(ひね)くれ者の教諭は腕を組み口許を不敵に歪ませる。まるでお前の考えていることは全てお見通しだと言わんばかりに。


「……ったく。つい驚いちまったが、いくらなんでも鯖読みすぎだろうが。そんな話誰が信じる」

「ラプソの(さば)だけにですか?」

「そうそうサーバーと鯖をかけてってじゃかしいわ!」

「嘘じゃないですよ。現にレベルランキングにだって載ってます。何なら今日の夜んでも教諭に個チャ送りましょうか? 名前教えてもらえればの話ですけど」


 間髪を容れずに出した提案にいやいいと教諭が手を振る。目を合わせ俺の考えを読み取ったのか、


「そこまで言うからには本当なんだろう。ここで嘘を吐くメリットは何一つねえしな」

「信じてもらえて何よりです」

「そこでだ。ランカーであるお前に俺から一つ頼みがある」


 担任が俺の鼻先に人差し指を突き立てる。なんだ頼みたいことって。


「今月金欠だから金くれ、一千万」

「現実で教え子に金くれって気でも触れたか!? それに一千万なんて大金あるわけないだろ!」


 俺が声を荒げるとそりゃ早とちりだと哄笑(こうしょう)する。


「金欠ってのは現実を指して言ってんじゃねえぞ。あくまでラプソ内での話だ」


誤字脱字、感想等あればお気軽にどうぞ!

次回は短いので火曜日辺りに更新しようかと思います。

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