第三章『友達×友達』⑤
夕食後、ラプソにログインするとメルト――もとい月がいた。いや言い直すほど間違ってもないか。
お互い割りと近い位置にいたため、そのまま出会って話すことにした。
場所は人通りも皆無な海底洞窟。レベル七十以下は入ることの許されない制限区域だ。
挨拶もそこそこに早速本題へと移る。
議題はどうすれば先輩と仲直りできるかについて。
正攻法じゃまともに取り合ってもらえない。それは先週の結果で痛いほど分かった。
『奇を衒ったものにしたらどうだろう』と俺が案を出すもそれまでで、結局有効な打開策は見出せない。意見を出すって存外難しい。
考えれば考えるほど答えは出ず短絡的思考に陥り唸っていると、ひょっこりジャスティス――悠間が姿を現した。
『やぁ華都。暇してるだろうから遊びに来てあげたよ』
そう口にした瞬間、俺の隣にいるメルトの存在に気が付き、おっかなびっくり足を止める。俺とメルトを交互に見比べ、防衛的腕組みをしてみせると、
『すまねえな、今のはタイプミスだ』
今更取り繕っても遅い。それに誤魔化すにしたって下手すぎんだろ。
だがこいつからキッカケを作ってくれたのは好都合だ。
『こいつが俺達と同じクラスの内越悠間だな』
『なにいきなりリアルの名前バラしてんのっ!?』
『まぁ落ち着けよ。今更慌てたってどうなるもんでもないだろ?』
『華都は落ち着きすぎだよっ!』
お前だって俺の名前出してんじゃねえか。
『言われたところであたしクラスメイトの顔と名前なんて覚えてないわよ』
『へっ? クラスメイト?』
間の抜けた顔をしてようやく悠間が反応した。これはバラし甲斐がありそうだ。
『ああ、何を隠そうメルトの正体は現実で超絶美人であるあの濃野だったんだよ』
『な、なんだってー!?』
両手を上げて外国人ばりに驚く悠間。
それを路肩の小石でも見るような目で――ラプソの表情バリエーションの豊かさにはつくづく感心させられる――眺める月。その矛先が俺にも向いた。
『華都、あんた遊んでるでしょ』
『いやぁついな』
『え? なに、どういうこと?』
『さっきのは嘘で、マジなこと言うと、こいつはあの渦中の人である神宮寺月なんだよ』
『な、なんだってー!?』
いきなり爆竹を投げられたように悠間が驚きを露にする。
それを遠いともし火のような冷たい目で見つめる月。さっきよりもバージョンアップしている。すごい。
『なにこの茶番。あんたらほんとはグルなんじゃないの?』
『それはない』
かくかくしかじか、俺は月と悠間にお互いの関係性について話をした。
それから助けになるかもしれないと、月に許可をもらってから姉と仲直りしたいという重要な部分だけを悠間に説明。
一部始終を聞いた悠間は口元に手を当て柄にもなく真剣な表情を浮かべると、
『それなら僕も協力するよ。他ならぬ華都の頼みってのもあるけど、僕個人としても困ってる人は放っておけないからね』
『ジャスティス……あんたいいやつじゃない』
『今頃気付いたのかい?』
『本音を言うと頭の弱い残念なやつかと思ってたわ』
『今までそんなこと思ってたのっ!?』
知り合ったばかりだというのに何だか賑わしい。やっぱりラプソ効果様様だな。
間もなくして話は月の仲直りの件へと転化する。
早速悠間が意見を出した。
『取り合ってもらえないなら、取り合えってもらえる状況を作り出せばいいだけの話じゃん。そんなに難しいことでもないよ』
『あのなぁ。簡単に言うが、それができたら苦労してないっての』
『否定から入るのは華都の悪い癖だよ。現実的な範囲で言うと、放送室を占拠して先輩を呼び付けるんだよ。これなら否が応でも先輩の耳に入ってくるでしょ?』
『だからそんなのがうまくいくわけ……いや、待てよ。これぞ正しく奇を衒ったものだ。ワンチャンあるな』
『ジャスティス……あんたって、実は頭いいんじゃないの?』
『その疑いから入るのもいい加減止めようよ!』
『ふふ、みんな楽しそうね』
声のする方に一斉に目を向けると、師匠がいた。一体いつからそこにいたんだろう。MAPを見てなかったから全く気が付かなかった。
『こんなところで秘密の会談中かしら』
『まぁそんなとこです。師匠は何か用事でもありました?』
海底洞窟にはA級BOSS『海底王ポセイドン』がいるのを除けばこれといって目ぼしいものはない。
そのボスも特にいいアイテムを落とすわけじゃないから、悲しいかな不人気の烙印を押されてるわけだ。
『ううん違うわ。みんなが集まってたから私も遊びにきたの』
そういや悠間もそんなこと言ってたな。
『え、なに。あんた秋ぇるさんに男だってことバラしたの?』
月が面食らったと言わんばかりに口にする。ああ、いつもは二人でいる時にしか素じゃなかったから知らなかったのか。
『割りと出会ってすぐに見破られたんだよ。つかそういうお前も師匠の前で素曝け出してんじゃねえか』
『あたしも出会って半年経たないうちにバレたのよ』
『実は僕も秋ぇるさんの前だと素なんだよね』
言われてもないのに勝手に悠間が打ち明ける。お前はネカマでもネナベでもねーだろ。
全くお互い様っつうか、師匠の凄さを再認識しただけじゃねえか。
『あ』と何かを思い出したように悠間が『そういえばポセイドンが落とす海底王の証がスキル《モード八王》修得にいるのを忘れてたよ』
『それならみんなでパーティーを組んで狩りと洒落込むのはどうかしら』
そう師匠が切り出すと、時間もあるしとこくり頷く。月の件は一旦保留だ。悠間からまともな案も出たことだしな。
『いやぁ助かるよ』
『困った時はお互い様だからな』
俺がリーダーとなりパーティーを組む。ラプソのパーティーは四人が最大だからここにいる面子でちょうどいい。
《ラプソディ・オンライン》はチャンネル制だ。十チャンネルあるから手分けして探し、沸いてるところを発見次第報告する。
この流れで移動しようとした矢先、画面が暗転し青白いデスクトップ画面へ。おいおいおい、今からやるってタイミングで落ちてんじゃねえよ。
ネットは繋がったままだから鯖落ちか? ったく、しょうがないな。俺は再びラプソを起動しパスを打ち込みエンターを押すも、うんともすんともいやしない。
その後苛立ちを募らせながらマウスをカチカチ鳴らしていると、画面中央に緊急メンテナンスのお知らせが表示された。
あーなるほど。これが落ちた原因か。
……ファッキュー、運営。
どうせ三日前に実装されたレヴィアタンの不具合とかだろうが、この時間に緊急メンテとかマジ止めてくれよ。
そろそろ悠間から苦言の一つでも来るかと思いきや、いくら待っても何の音沙汰もありゃしない。いつもなら即行でメール送ってくんのに悠間にしちゃ珍しい……あ。
思い出す。
そういや屋上からスマホを落としたばかりだったことを。
流石に後半に差し掛かってます。
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