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光へ

気がつくと、暖かい部屋の中にいた。

毛布で包まれた僕の身体は以前に比べたら少し綺麗になっていた。

しかしここはどこだろう?

噂の『天国』というところだろうか。

あたりをキョロキョロ見渡していると突然ずいっとお皿が現れた。

その中には白い液体が入っている。

一体これはなんだ!?

お皿に恐る恐る近づき、ふんふんと匂いを嗅ぐ。

なんともおいしそうな匂いだ。

一口すすってみる。

口の中に広がるほんのりとした甘さに感激を覚える。

後はもう夢中になって飲んだ。

飲み終わって、生まれて初めてお腹いっぱいという気持ちがどんなのか分かった気がした。

「良い食べっぷりね。そんなにお腹減っていたのね」

と、その声でようやく一人の女の子が目の前に居て、僕のことを興味津々と言った顔で見ていることに気がついた。

思わず逃げようとしたが、身体が思うように動かない。

いくら今お腹がいっぱいになっても、動くための筋肉も体力もないのだ。

「驚かしちゃった?ごめんね」

割れ物を持つように、ちょっとでも力を入れたら壊れるかのように優しく僕を抱き上げた。

そしてゆっくりと立ち上がった。

驚いている僕を他所に、彼女はとことこ歩いていく。

たどり着いた先は、風呂場。

いや、その時の僕はそこが風呂場ということなど知らなかったけれど。

そんなところに来て何をするかといえば、考えられることは一つだけであろう。

身体を綺麗にすることだ。

温かいお湯に、良い匂いの石鹸。

汚れがどんどんと落ちていく。

雨で汚れが少し落ちたとしても、かなり汚れていた僕の身体はなかなか綺麗にはならなかった。

透明のお湯が、僕を洗い終わる頃には真っ黒の墨のような色へと変色していた。

そして最後に彼女はふわふわのタオルで優しく僕を拭いてくれた。

「本当はこんな色だったのね」

僕の本当の色。

漆黒の毛が本来の力を発揮するかの如く、光り輝いていた。

「夜みたいな毛色ね。そうね、あなたの名前は『夜一』。」

『夜一』

それが僕の名前。

初めての、僕の名前。

僕だけの、僕のための、名前。

その時、僕はこの世にいて良いんだと、生まれて初めて感じたんだ。

それから僕は彼女と一緒に過ごした。

僕の身体はみるみるうちに回復し、自由に駆け回れるようにもなったし、高いところから飛び降りることもできるようになった。

僕はあの雨の日に死ぬつもりだった。

いや、彼女が現れなければ死んでいただろう。

けれど、まだこうして生きている。

彼女の傍で生きている。

僕は身勝手な人間のせいで親と離され、身勝手な人間によって捨てられた。

人間全部そんな者ばかりと思っていたけど、そうでもないらしい。

人間の中には彼女のような心優しい人も居るんだって、思った。

でも、もしかしたら、またいらないといって彼女は僕を捨てるかもしれない。

やっぱり可愛がってくれるのは最初だけかもしれない。

そしたら今度こそ、僕は僕の命を絶とうと思う。

僕らだって生きているんだと、おもちゃじゃないんだと、気がついて欲しい。

僕達の信頼を裏切らないで欲しい。

僕は心の底から願う。

僕は、心の底から、そう願う。


END


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