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未来復讐




 青年は今、目の前のボタンを見つめていた。携帯できるくらい小さなボタンには、「REALLY?」と書かれている。訳せば、本当?という意味だ。青年はそれを知っていた。

 これを押せば、彼の計画は成功。同時に、復讐も成功したことになる。彼にとってこの瞬間は、自分の人生をささげた、その結果なのだ。やっと、報われたのだった。

 青年を照らしているのは、研究室の蛍光灯だった。彼はここ数年は研究に没頭していた為、太陽の光は浴びていなかった。久し振りに、太陽を見たいと思った彼は研究室を出て、長い廊下を歩いていった。数メートル先に見える白い扉の向こうは、この研究所の屋上になっている。扉に近づいていくにつれ、この世が終わることを知っているからかなのだろうか、彼は昔のことを思い出していた。

 彼は北国で生まれた。一世紀くらい前までは「雪」という白くて冷たいものに覆われた街だったらしいが、今では、というより彼が生まれた時にはもう「雪」など存在しなかった。

 彼の知っている範囲でいえば、昔生きていた人間が地球を汚し、地球の生態系をめちゃくちゃにしたため、地球が温まってしまい、「雪」はなくなった、ということになる。

 そのおかげで、赤道に近い国から、どんどん伝染病が広がっていった。そして、逃げ出してきた難民などが、この街にもきた。

 そして、それから増えていったのは、温度と、人口密度と、犯罪だった。

 いろんな国からやってくるので話は通じないし、逃げるために金を使い切ってしまったり、そういう環境で生きていくために、彼らは非合法なやりかたで金をつくるしかなかった。どさくさにまぎれて、裕福で強欲な人間も犯罪をするようになってしまった。

 そして、三歳の時、青年の両親は強盗に殺された。知り合いに引き取られた幼かった彼は、五歳から仕事を始めた。知り合いに引き取られたといっても、寝床を与えてくれただけで、食べていくには、三つ上の姉の収入だけではとてもきついものがあったからだ。

 あるとき、道端に落ちていた科学の本を拾ったのが始めだった。それは運命だったのだ、と青年は信じている。それがきっかけで、収入が増えた十歳の頃から無理して教科書を買い、独学で勉強した。そのおかげで、彼は技術者になれて、収入も以前の倍以上増えた。

 でも、幸せというのは、長くは続かなかった。

 今まで自分のことを世話してくれた姉が、強盗に殺されたのだ。一番甘えたい時期に両親をなくした青年にとって、姉は母親代わりで、唯一愛していた人だった。

もう、これ以上我慢できない。両親を殺され、苦楽を共にした姉まで殺され、青年は復讐を決意した。

この世から人間がいなくなればいい。青年は自分の学んだ全てをつぎ込み、自分の力で地球の半分を破壊するような強力なミサイルを造った。発射装置は、まさに手中にある。

 青年が外に出ると夜だった。太陽の光を浴びたい、という青年の最後の願いはかなわなかった。でも、それも、もうどうでもよくなった。これから死ぬのだから。

 そして、青年は微笑みながらボタンを押した。




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― 新着の感想 ―
[一言] この小説を読んでいろいろと考えさせられました。短編ですが、長編にしてもよかったと思います。
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