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第九話 窃視せよ! 桃源郷を 【後編】

 何が起きたのか数瞬理解できなかった。ミッチーが撃ったのか? しかし撃つ理由が分からないのだけど?

 と思っていると誰かがこちらに近づいてきた。


「!!」


 すかさず隠れようとしたが、ここは屋上。隠れられそうな場所なんて無い。

「安心したまえ、今日の私は淑女だ」

 近づいてきた若い女声が俺の耳に入ってくる。声から察するに女子生徒か? いや、この声確か……

「……チサト?」

「イエス! アイアム!(訳:はい! 私です!)」

「なんでここに? というかなんで撃ったの?」

「覗き魔に対する制裁としては妥当かと思うけど?」


 やっべ、何も言い返せねぇわ……といってもそこには何にも問題はないから別に構わん。


「制裁ということは分かる。じゃあなんで俺を見逃す?」

 俺だってヘンタイ同様に覗くつもりである。

「まぁ、早々に借りを返しておこうかと思ってね。また死なれたら困るし」

 何があったんだろう? 俺とこのヒトに何があったんだろう? 覗きを助けることが恩返しになるような何かがあったのか?


「というか、こういうことしないとカナちゃんに勝ち目なさそうだし(ボソッ」

 勝ち目って恋愛のことか? というかそういうのを聞こえるか聞こえないかの声で言うのズルイ。だって俺は難聴じゃないし、人の好意にはそれなりに気付く方だし。


「どうかしたのかね?」

「いやなんでもないよ。それじゃあ厚意に甘えさせてもらおうか」



 遂に、遂にここまでやってきた。そう、俺はまさに女子クラスメイトの目の前で性犯罪者になるという空前絶後の状況に立たされている……あれ? 俺がしたかったのは本当にこんなことなのか?


「なんか……落ち着かないんだけど……」

「ん? 男って見られて興奮するんじゃないの? エレクトするんじゃないの?」

 エレクトとかそんなことをナチュラルに言っちゃダメよ! そんな性癖はない。断じてない……きっと、ないよね?


「ふぅん……やっぱ気まずいの? やましい気持ちあるの?」

「そりゃあるさ、俺を何だと思ってるんだ?」

「聖人君子? いや、元聖人君子かな?」

 どういうイメージなんだよ……聖人君子って……


「仕方ない、ここまで来て君が覗かない○○○だとは……」

 おい! さすがにそれはアウト!! ピー音入るから!! そんなこと口走っちゃダメ!! ダメ、絶対!!


「冗談は置いといて、私も覗くか……おぉーカナちゃんめ、またおっぱい大きくなったな」

 ピクリ


「ほぉーゆずポンずはちょっと太ってないか? ウエストがちょっとこぅプニプニぃ~っとした感じに」

 ピクリ


「あ、あの子は無駄毛の処理怠ってるなぁ…えっとあの子の名前は……」

 生唾ごっくん。


 まずい、エレクトしそうだ……もう無理、我慢できない。

 と俺はチサトの隣に陣取った。



 そこは感激的な光景であった。比喩すれば桃源郷とか百花繚乱とかと言えばいいのだろう。素晴らしい! 俺は今猛烈に感動している!!

 十五~十八の女子高生の一子纏わぬ肌色状態、この展開を脳髄に焼き付けるために全神経を集中する。

 目以外の器官なんてどうでもいい!この光景を少しでも多く、少しでも長く記憶するのだ!! 呼吸? 血液循環? 知らぬ、そっちにエネルギー回すくらいなら全て記憶に回せ!!


「しっかし、カナちゃんは本当に大きいねぇ。ねぇねぇ何カップ? 何カップなの? 触っていい? あとついでにスリーサイズも教えて?」

「!? いやちょっと! ま、待って!!」


 そんなやり取りが見えてきた……グッジョブ!! 何ですか? これは? これは天国ですか?

 たゆんたゆんに揺れる胸。あの娘、本当に何カップあるの!? ボンキュッボンと只大きいだけではなく美しい形をしている。ウエストも綺麗に引き締まっている。ザ・パーフェクトボディ!! ギリシャ彫刻のように完成した美しさだ!! どうかそのまま美しさをキープしてください!!


「いいなぁ……私もあれくらいにならないかなぁ……」

 と小柄で華奢な娘が自分の体と比較しながらあのパーフェクトボディを見ていた。彼女は気付いてないのだろう、つぼみには蕾の美しさがあることに……

 ふぅ……


「だ、だったらゆずちゃんだって結構良い体してるじゃん!」

「ふぇ! ち、違う。私は最近お腹周りが出てきて……出てきてない! 断じて太ってないもん!!」


 ゆずさんが自分のお腹を少し絶望に満ちた顔で見てから悲観する……でもそんなに太ってる? むしろそこそこ肉感があって良い感じだ。そしてそれを恥じる女の子……ぐへへ……たまりませんねぇ……眼福眼福……



「!!!? そこに居るのは誰だ!!」

 マズイ!! 気付かれた!! このままじゃ死ぬ、社会的に死ぬ。女性にこんなことしてるとバレたら死ぬから(隣のこれは異常ということで片付ける)


「えい」

 チサトが肘で俺を突き落とす……ほぎょずゅん!?

 十メートルくらいから落下した衝撃と言うのはかなり痛い……骨折れてない? 大丈夫? と俺が俺の心配しているとコールが入る。相手はチサトからだ。


「もしもし?」

 電話に出るが返事が返ってこない。不審に思っていると、

『よっ! 私だ』

『……こんな所で何やってるの?』

『いや、覗きを少々』

『開き直るな!』

 ピシっと効果音が響く。どうやら叩かれたようだ。

『叩かないでよ、女の子が女湯を覗いて何の問題が?』

『じゃあ、どうどうと入ればいいでしょ』

『分かってないなぁ…………覗くから良いんだよ』

『なんでアンタが悟ったように言うのよ……』

 ここからの会話は少し聞き取りにくい、というよりもこれで終わったのか? ということはなんとかなった? と思っているとメッセージが入る。


「これで貸し借り無しな」

 いやだからどんな貸しを作ってたんだよ……この世界の俺は。

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