第七話 窃視せよ! 桃源郷を 【前編】
「今日は最高の一日だったな」
シンが俺の(だと思う)部屋のベットにダイブして言った。図々しいやつだな、こいつ。クリスにとって悪い見本だ。教育上宜しくない。『慎み』を持て『慎み』をな。
……しかし、楽しかったのは事実だ。確か十七時から始めめて今は二○時だから…三時間か。
「よし! 女湯覗きに行こうぜ!!」
「誰が行くか、アホ」
突然戯言を言い出すバカが一名。そんな戯言を跳ね除ける腹黒。でも、覗きか……魅力的だな
「……行こうか」
「「!!!!!?」」
二人は尋常じゃないくらいに驚愕していた。…あれ? 冗談だったのか? ドン引きされた?
「よく言った!! 流石は我が親友だ!!」
慎太郎、いや心友『シン』は泣いて喜んでいた。どうやらこいつは超ど級の変態のようだ。
「……正気か? トオル」
一方こちら(ミッチー)はウジムシを見るような目でこちらを見てきた。どうやらこいつはそういう低俗な行為が嫌いらしい。
「そんなにおかしいことか? 女体を見たいと思うのは?」
「一般的な考えかもしれないが、昔のお前は絶対にやらなかったぞ」
ハッ! っと鼻で笑ってしまった。
知ったことか! 俺はその『沢渡透』とは関係ないからな!
「もう一度、訊くぞトオル? 覗きにいくんだな?」
シンが念を押してきた。愚問だな、だが確認しておこう。
「勝算はあるんだろうな?」
「成功の確率は低いだろう、だが諦めるつもりは無い」
ふん、変態のくせに中々のセリフだな。嫌いじゃないぞ。
「で? 一体全体、どうやって覗くんだ?」
「まず、男子寮を出た後に女子寮の屋根に昇る。そこから観測地点まで隠れながら進むだけだ。そんなに難しいことではない」
この変態はどうやら常習犯のようだ。まぁ構わないな、そんなちんけな事。
「お前ら……本当に行くのかよ……」
どうやらこいつは行かないらしい……
「なぁシン、こいつは本当に男なのか?」
俺はシンに耳打ちをした。
冷静に考えれば「瑞穂」なんてのは女性でも男性でもおかしくない。さらに言えば、同い年(18)とは思えないほどの低身長。
そこから導き出される結論は一つだ!
「確かにこいつが男である証拠は俺も知らない…確認してくる」
シンは瑞穂の近くにゆっくりと歩いた。
「……? なんだ?」
「ちょいと失礼」
なんとまぁ!? シンは瑞穂の股間を触った!! ロータッチである!
「!?!?!?!?」
瑞穂は凄く狼狽している。そりゃ、まぁ、誰だってなるわ。いきなり股間を触られれば。
「なにしとんじゃ!! お前は!!」
「ヘブシッ!!」
瑞穂の膝蹴りがシンの顎を蹴り上げた。おぉ! 良く飛ぶな!!
「もう知らん!! 勝手にやってろ!!」
瑞穂は部屋を出て行き、自分の部屋に帰っていった。
「やりすぎだろ…お前」
「いや、あいつの胸がまな板なのは知ってたから『何処で確認すればいいかな?』と思ったら竿の有無しか…」
こいつはバカだ。あの斎藤と同じ匂いがする。
「だが、ちゃんとあれは付いていたぞ?」
もはや、そんなことは俺にとってはどうでも良かった。
部屋を出て男子寮を出ようとしているとクリスが居た。…もう神出鬼没なこいつに驚かないよ俺は。
「二人とも 何しているの?」
さて、どうしたものか? いくらなんでも「覗きに行くんだぜ! ヒャッハー!!」なんてことは言えないし……
「俺たちはかくれんぼをしているんだよ、クリスちゃん。鬼はミッチー」
よくもまぁそんな上手い嘘をとっさにつけるんだろうなぁ? こいつは。
「かくれんぼ! 私もやるぅ♪」
「あぁ、構わないよ」
おい! なんでそうなる?
「仕方ないだろ? 融通の利く子じゃないんだから…こうやって誘った方が楽なんだ。それにもうすぐ寝るだろうし」
言われてみれば、クリスの頑固さは既に知っているから、その対応で合っているだろう。オマケに今は8時。幼児にはきついと思われる。
きっと、そのうち寝ちゃうだろうな。
男子寮を出て女子寮へ向かってる最中に案の定クリスは寝てしまった。
しかたなく俺はクリスをおんぶした。……なんかこいつをおんぶすることが多い気がする。
「これから屋根に乗るが、大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」
これでも、体力には自信がある。
「そうか、なら…待て」
どうしたのかと思ったが、見回りの女子が居た。先ほどの宴会で見なかったことから推測すると他クラスの生徒なのだろう。
「…おい、どうするんだ? 隠れながら進む『だけ』じゃなかったのか?」
「あまり声を出すな。気付かれる。対策ならすでにある」
ならば、見せてもらおうか。その対策とやらを。
シンは懐に忍ばせていたゴムボールを30mほど先の植木に向かって投げつけた。
「ん? なんだ?」
名前も知らない女子監視員さんはゴムボールに引っかかりそちらの方を見た。
その一瞬、シンは銃のような装置でワイヤーフックを打ち出し、屋根まで一気に昇った。俺もそのワイヤーを利用して昇る。
ワイヤーが自動で引き上げてくれたので登るのはそんなに大変ではないが、さすがに人を背負ってはキツイ。
こうして無事屋根の上に登ることに成功した。だが、見回りが居るとなると地上ルートよりもこっちの方が安全な気もする。
「油断するなよ、ここからが本番だ」
どうやらここからが本当の戦いらしい。生唾ごっくん。
「目的地はここから約三○○メートル先にある第二校舎三階だ。こうやって会話しているうちに……」
「間宮!! またアンタか!!」
「!!!?」
綺麗な女声の綺麗な罵声が聞こえてきた。まずい、非常にまずい…俺は危険予知能力をフル回転させた。バレればどうなるか…愚問だな。
内容から推測するに、バレたのはシンだけだ。ならば打開策は単純明快。
「すまない」
「へ?」
シンは素っ頓狂な声を上げたが、スルーして突き飛ばす。
「うわぉぉぉおお!!」
シンが落ちていった。
「!?」
俺は隠れて状況を確認した。…俺もクズだな、我が身がかわいいなんて。でもお前の死は無駄にはしない。
「ちょ!? あ……え!!」
声の主は落ちていったシンを心配していた。しかし、俺はその間に進む。目的地はたしか第二校舎三階だったな。
「……つぅ~ あのヤロウ……まさか俺を突き落として自分の危機を回避するとは。だが、それなら俺にだって考えがある。……奥の手を使うまでよ。クックック、この俺をトカゲのしっぽとしてしまったことを後悔するんだな。トオル!」