第六話「赤の他人の友達」=赤の他人? それとも……
状況を確認しよう。まずこの世界の事だ。
この世界はおそらく地理的には俺の世界と違いは無い……。違うのは歴史か? 科学が発展しているのだから……二・三○年くらいなんだろうか、気になる。
次はこの世界の俺の事だ。
名前は俺と同じ「沢渡透」であり、性格は……調査中、故人で死因は沈没事故らしい。
家族構成で現在判明しているのは父親の「沢渡宗一」と(自称)娘の「クリス」だ……クリスのことをもうちょっと聞いておくべきだったかな? クリスとは本名なのか? 実子なのか? 年齢はいくつなのか? とかetc
あと残る問題は……交友関係か……
と考えていたら、
「よぉ! 久しぶりだな!! 元気か? 元気だよな?」
長身で陽気な男が入ってきた。金髪のウルフカットで耳にはピアスを着けている。学生服が全く似合っていない。年齢は十八くらいだろう。「沢渡透」の友人ってところか?
「電波教師のオッサン」改め沢渡宗一のおかげで俺は記憶障害の影響で対人関係をほとんど忘れているという設定になっている。ということで、こいつらのことを知らなくても不自然でないはずだ。
「ど、どちら様で? 自己紹介をしてもらえると有り難い」
「親友の顔すらも忘れてるのか…まぁいい、俺の名前は間宮慎太郎。アダ名は「シン」だから気軽に呼んでくれたまえ。んでこっちが」
と間宮慎太郎の影に小柄で無愛想な少年が居た。年下に見える。後輩か?
「島村瑞穂だ、よろしく」
「以前のお前は「ミッチー」と呼んでいたが、あいつは気に入っていないらしい。余談だが彼は俺達と同い年、早生まれでもないから身長にツッコんじゃダメだぞ?」
と間宮慎太郎がそう言ってきた。島村瑞穂は不服そうな顔をしながら慎太郎の脇腹を肘で攻撃しており、無愛想な顔がよりいっそう無愛想になっていた。どうやら身長にコンプレックスがあるみたいだ。
「じゃあ、よろしく」
日本人らしくないが、とりあえず握手で親密度をあげておくかな。…あげたところで今日一日の付き合いなのだが。
「ああ!」「ふん、よろしく」
慎太郎は笑顔で握手を返してくれたが、瑞穂は俺の手が空いてないので握手できず仏頂面で返事をした。……まさかと思うけど握手できないから仏頂面なんじゃないよな?
「いや~、良かった良かった。トオルが生きていたんだからな! ところで皆の事はどれくらい覚えているんだ?」
俺は慎太郎に部屋から連れ出され廊下を歩いていた。
「少し黙ったらどうだクズ。父親の顔すら忘れていし、恋人のことも忘れているんだから」
恋人!? 羨ましい! この野郎! 俺より幸福な高校生なんて……いや、待てよ? 考え方を変えたら俺って容姿は良いってことじゃないか? 人は見た目は八割って言うし……あれ? もしかして俺ってイケメンなんじゃね?
「そういえばそうだったな、ゆずさんもそう言ってたし」
……ほほぅ、なるほどなるほど。俺がゆずさんの恋人だとしたらあの反応も理解できる……っていうことはだ、この状況を利用すれば……いや止めよう、それはゴミの発想だ。
『沢渡透』にとって、こいつらは親友なのだろう。ということは『沢渡透』の交友関係も十分把握しているかもしれない。
「なぁ、慎太郎。ひとつ質問しても良いか?」
「なんだ? というか『シン』で良いって。というかこの名前気に入ってないんだ」
ん? 気に入ってない? そんなに酷い名前か? 『慎太郎』って。
むしろ男なのに『瑞穂』と言う方が子供の頃にからかわれたりしたのではないか?
「なんだ、まだ気にしていたのか?」
と自分の名前にはコンプレックスを持っていないように見える瑞穂が割り込む。
「良い名前じゃないか。『慎みを持ち、力強く、そして健康な男児』というお前には勿体無い良い名前だ。『慎み』という部分が完全に名前負けしている。」
「おい! 止めろ! 名前負けとか言うな!! 気にしているから嫌いなんだ」
「はっはっは、愉快愉快」
と楽しそうに雑談する二人を見て俺はデジャヴを感じた。何だろう? 何と被っているのだろうか?
「大体テメェだって名前負けしてるだろうが! 何が『瑞穂』だ! お前の人生そんなに恵まれた人生か?」
「俺はこの人生にそれなりに納得している。嫉妬するなよ?」
「クァーーーー!!!! トサカに来たぞ!!」
あぁ、分かった。きっと俺と斉藤ってはたから見るとこんな感じなんじゃないか。
「っと、脱線しちゃったな。で? トオル何かな?」
「いや、俺の交友関係について聞いておこうかなと思って」
「そんなことか、その点に関しては手を打ってある。心配するな。」
胸張って慎太郎が言ったのだが、どうしてだろう? 心配だ。激しく心配だ。心の底から不安感が滲み出てくるのはなぜだろう?
「目は口ほどにものを言う…」
と瑞穂が答える。マズイ、目が語っていたのか。
「問題ない、あのバカはそういうのに鈍いから」
邪悪な笑いをしていた。この男、かなり黒いんじゃないか?
「さて、ここだ」
慎太郎がとある教室で立ち止まる。どうやらここが目的地のようだ。
「やはりやめないか? 今のトオルには酷じゃないだろ」
ここまで来てなぜか瑞穂が静止しようとする。なんだ? 何か不味いことでもあるのか?
「もう遅い!」
と勢い良くドアを開けた。……はて? 何が始まるんだ? とのん気に待ち構えていると、
パンパンパン
「!?」
「「「「お帰り! 沢渡透!!」」」」
クラッカーの音の後ろに三○人くらいのクラスメイトと思わしき男女が居た。状況を理解する前に慎太郎がが
「ささ、主役さまはこちらへどうぞ」
片膝付いて紳士的に対応してきた。顔がそれなりに良いから様になっている。逆に嫌だ。すごく嫌だ。
だって俺はホモじゃないから! ノンケだから!! 女の子大好きだから!!
「はぁ、お前らいい加減にしろ! トオルが困ってるだろ!」
瑞穂が怒鳴りながらが割って入り助けてくれた。サンクス!
「おいおい、これからのプログラムは色々決まってるんだ……そんなことできるか! なぁ皆!!」
「「「サー!!」」」
すでに男子女子全員がテンション高かった。……やはりあれか? 生還祝いってここまで盛り上がるものなのだろうか?
しかしプログラム?宴会でも開くのか? ……と思い、今日室内を見渡してみると予想は的中しているようである。部屋には立食パーティーのようにドリンクや料理が盛り付けられていた。が
「「「「ブー! ブー! ミズホ引っ込め!引っ込め!」」」」
……最低な奴らだな。だが、こいつらがどれだけ『沢渡透』のことを大事に思っているか分かった。……とはいえ分かった所で……
「このクズ共めっ! 勝手にしろ!」
瑞穂は不愉快そうに捨て台詞を吐いた。
「よ~し♪ 邪魔な頑固者は消えた。ささ、主役様。こっちへ、こっちへ」
慎太郎含め多くのクラスメイト(?)が俺を囲む。しかし、まぁ……
「……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおう…かな」
誰かに注目されるのは嫌いじゃない。
「では続いてはエントリーナンヴァー17番!! 小崎と奈倉のマジックだ!!」
「「「イェア----!!」」」
司会進行を勤めているノリの良さそうなクラスメイト(い)が高らかに叫び、クラスメイト(ろ)(は)(に)がそれに続く。
しかし宴会って楽しいものだな。こんなに楽しいのは何年ぶりかってくらい楽しい。
けど、これが俺の生還パーティじゃなきゃもっと楽しいだろう。
誰一人として知り合いは居ないのに他人の気がしなかった。……あれ? ゆずさんは? なぜ彼女がハブられてる?
「やぁ、気分はどう? 楽しんでる?」
茶髪の女の子が話しかけてきた。クラスメイトにしては身長は低い。百五○くらいか?
「……君も俺のクラスメイト?」
「デリカシーないなぁ~、あのトオルとは思えないね」
思考を読まれたのか? 顔に出ていたのか? いや、単純に忘れていたことへの返しだろう。
その証拠に女氏はくりくりと顔に指を押し付ける。……地味に痛い。
「悪いけど、ほとんどの人のことは覚えていないんだ。ゆずさ……大原さんのことも何故覚えてたのか自分でも疑問だから」
ここで「ゆずさん」というのはもう止めよう。ややこしいことになりそうだから。
「そういえばそんなことになってたね、わっすれってた♪ あたしの名前は小早川千里、チサトでいいよ。敬称はいらない。アダ名もやめてね☆」
小早川千里ね。記憶した、ついでにどうやらあまり頭の良い方では無いということも備考しておこう。
「ところでチサトさ……コホン、チサト、大原さんの姿が見当たらないけど、彼女はクラスメイトじゃないの?」
「彼女は医者だよ? より正確に言えば、医学士官? 今回のパーティーには呼んでないよ。二次会には呼ぶつもり」
医者なんだ……って二次会までやる予定なのかよ!?
「? クリスちゃんをハブるのは良くないんじゃないかな? あの娘のことは覚えていると聞いたけど?」
なるほど、つまり二次会は身内のみでやるのか……身内? 自分で言っておいてなんだが身内ってなんだ?
「他のメンツはあの三人と司令に私かな?」
チサトが慎太郎と瑞穂を指して言った。どうやら、本当に仲の良い人たちでやるのか……三? 司令?
司令というのは誰なんだろうか? ……そういえばあのオッサンは俺の父親という設定じゃなかったか? ……嫌だそれは。
っとよく見れば、シンは一人の女の子と話していた。雰囲気は凛としていて綺麗な人だ。もしかして、あいつって彼女居るのか!? くっ! 彼女持ち多くないか?
「そういえば、カナちゃんと話した?」
「? いや」
(というか、誰?)と言おうとしたのだが、言う前にチサトはカナ(?)の方へ行き、呼んできた。
「さぁ、カナちゃん♪ 自己紹介して」
「あ~、どうも紹介されました桜田佳奈です。よろしく」
嫌々自己紹介された。まるで他人行儀だな? 本当に友人だったのか?
「ちなみにカナちゃんはトオルのことが……」
「!!!? チィちゃん! 何言い出すの!?」
顔を真っ赤にしてカナさん。
あぁ……はいはい理解理解。……そういうことなのね。
なるほどなるほど、『沢渡透』は随分と幸せな奴だな……この世界の俺は。
「トオルゥ♪ 楽しんレるぅゥう?」
かなりのハイテンションでクリスがやって来た。結局、最初から参加してんじゃねぇか!?
……つか、こいつ酒臭いぞ?
「……酒飲んだろ?」
「 のんでない、 のんでないよ? (ヒック) チィちゃんさんに貰ったオレンジジュースしか のんでないよ?」
ろれつが回ってない、誰だ! 子供に酒を盛ったのは!!
無法地帯過ぎるだろ!
……ん? オレンジジュース? ……チィちゃんという呼び名には聞き覚えがあった。
「……………チサト?」
「てへ☆ やっちまいましたぜ♪ 許してピョン」
このアマ、確信犯だ!! 反省するつもりが無い!!