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第五話 世界情勢

 目が覚めると知らない部屋だった。自室でも保健室でもない。殺風景な部屋だった。これほど表現に困るほど特徴のない部屋も珍しいだろう。プレハブ倉庫でももうちょっと個性がある。ベットすらも安物で凄く寝心地が悪かった。

「なんだよ……随分扱いがぞんざいだな……」

 案の定自室でなかったのだがここまで残念なおもてなしとは思わなかった。部屋を見渡してもここが何処なのかが分かるものは存在しなかった。するとあの危ないオッサンが入ってきた。


「気分はどうだい?」

 開口一声がそれか……

「……良くないな、眠いから寝させろ……このヤロー。あと俺と会話するつもりなら自己紹介の一つでもしやがれバカヤロー」

 不愉快極まりないので二度寝しようと思った。寝不足感が抜けてない。

「そういえば自己紹介がまだだったね。コホン、私の名前は沢渡宗一」

 自己紹介しやがった。ということはオッサンは俺と会話するつもりらしい。知らん。どうでもいい。アンタは黙れ、そして寝かせろ。


「悪いが、君を寝させているほど我々は平和じゃないんだよ」

 ……? オッサンが何を言っているのか訳が分からなかった。そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、オッサンは部屋の壁に映像を映した。


 俺はその映像に絶句した……


「……なんだよ……これ」

「これがこの世界の現実さ」

 最悪の物だった。まるで空爆でもされたのかのように街中が炎で満ちていた。建物はゲリラ戦でも起きたのかと錯覚するような悲惨なことになっており、道路には中破、大破した自動車などの中に血だらけになった人が死んでいた……

 一言で形容するならば『恐怖』だ。まともな感性の持ち主ならばこの光景を目にすれば同じようなことを思うだろう。


「現実逃避したい気持ちも分かる……だが真実だよ」

 信じがたい、と無意識に生唾を飲み込む。ただの推測だが、これはテロというレベルではない。もはや戦争だ。第二次世界大戦の頃に現代のような高性能のカメラがあればこのような災厄が後世に伝わっていたのかもしれない。

「…………因みにこれは何処なんだ?」

「沖縄さ。一応言うとここは鹿児島」

「鹿児島!? 俺は本州を出たこともないんだけど!」

 その発言に度肝を抜いた。全てが俺の常識を超えていた。自分を取り繕う余裕がなくなった俺はもうオッサンに敬語を使うのをやめた。


「ああ、君が居た元の世界とこの世界は色々違うようだが、そんなことは大した事じゃない」

「大した事じゃねぇか!! なんでそんなに悠長なんだよ!? そもそもなんであんな大火事なのか説明しろよ!!」

「あれは米軍のせいだよ……今アメリカ連合国は世界征服しようとしているんだ」

「アメリカ…………連合国……?」


 この世界の歴史がどうなってるのか知らないが連合国……? 世界征服……? 説明を求めたが予想の斜め上の回答に混乱してしまった。


「数年前に革命的な技術がアメリカのマサチューセッツで起こったらしく、一部の過激なテロリストの手に渡り、クーデターによりアメリカ合衆国は分かりやすい軍国主義になってしまい、誰もがなしえなかった世界統一という名の征服戦争を全世界に仕掛けたのだよ」

 ……絶句である。何一つ理解したくない。……だってそうだろ? このオッサンは世界大戦レベルの戦争が始まってると言っているのだから。


「つまり……アメリカ『連合国』ってことは……すでに……?」

 自分の予想が当たってほしくなかったため俺は最後の方を言いよどんだ。


「残念ながらその通りさ。アメリカの最初の侵略対象となったキューバは米軍に一日も持たなかった。カナダに至っては侵略される前に和平的に合併した。それが『アメリカ連合国』の始まりであり、現在は南アメリカの全国家とヨーロッパの一部を征服している」


 ……おいおい……ウソだろ? キューバ軍ってそれなりに強いんじゃなかったか? 確か、核を持っていたはずだ。そんな国が一日かからずに侵略された?


「なんで……なんで日本は降伏しないんだ? カナダのように」

「君の言いたいことも分かる。だが、政治家は自分達の利権が大事なのだよ。国民の命よりも」

 俺の疑問にそんな理不尽な答えが返ってきた。

 …………なんだよそれ……沖縄の人たちはそんなお偉いさんのバカな発想のせいで死んで逝ったってことなのかよ……狂ってやがる!


「この国の政治家を庇うわけではないが、敵はたった一人なのだよ。だから政治家はバカな勘違いをしてしまった。『勝機が有る』と……」

 ワンマンアーミー……? 有り得ない。そりゃ思い上がっても無理は無い。


「おいおい、どんな化物だったらあんなことが出来るっていうんだよ?」

「パワードスーツは君の居た世界には有ったかい?」


 テレビの特集で見た事はある、通常の数倍の力を使えるって代物だろ? だが、日常的に使えるほど完成はしてなかったはず。

 ……おいおいこの世界はそこまで技術が発展してるのか。 さっきの革新的な技術って…なるほど、察した。


「その通り、そのため歩兵でありながら時速四〇キロメートルで走る事ができる」

 四〇!? おいおいそんなの反則だろ! 世界最速の男と並走できるのか!!

「安心してくれ、火力はロケットランチャー程度だから」

 こいつ、感覚が麻痺してんのか? まったく安心できねぇよ! そんなもん食らってみろ! 一瞬でお陀仏だ!


「……? ちょっと待ってくれ。アンタは俺に何をしろって言うんだ? まさかそんな化物を倒してくれって言うんじゃ……」

 こいつはご丁寧に世界情勢からアメリカ軍のパワードスーツの性能を説明してくれている。なんでそんなことをしているのか? その理由を推測すればおのずと答えは出てくる。


「理解が早くて助かるよ、そう言うつもりだったんだ」

「ふざけんな! 俺に死ねって言うのか!!」

「沖縄は米軍基地が在っただろ?」


 さっきの映像、そして説明が基地の有無の重要性を証明していなかった。基地が有ろうが無かろうがあんなことができるのだ。人一人など簡単に殺せるだろう。

「だからどうした!? たった一人にあの被害なんだろうが!! それをただの小僧に何ができるって……」


 声を荒げて主張する。無理だ、あの化物と同じくパワードスーツでもあればあるいは……

「その点は問題ない、こちらにも試作品のパワードスーツが一着ある」

「やかましい!! それがあったとしても沖縄が落ちてるじゃねぇか!」

「試作品だと言っているだろ? 沖縄戦ではこの試作品は間に合わなかったのだが、今回は既に完成している」


「……」


 興奮気味の俺でもさすがに理解できている。つまり沖縄はあんな悲惨なことになってしまったが。

「……勝算はあると?」

「ここの責任者は私だ。勝算が無ければこんなことは君に頼まずにさっさと投降しているさ」


 本気の目をしていた。このオッサンは 殺る(ヤる)と決意した本気の目をしていた。

「なら……性能は?」

 敵は時速四〇キロメートルほどの速度を出すことができ、バズーカ並みの火力を持っているという話だ。少なくともそれを何とかできる性能で無ければ話にならない。


「性能なら理論上戦車の榴弾すら防ぐ事ができる…だが米軍が切り札を取っている可能性を考えると……」

 榴弾すら防げるなら大抵の兵器は防げるんじゃないのか? と思ったが希望的観測は危険である。この世界だと非常に。


「因みに言えば、あれは君用にチューンナップした物なので君以外の人間が乗っても期待値は少ない。だが、その君は沈没事件で一回死んだ事になっているし」


 なるほど、だから、

「だから俺に戦えって? 拒否権はあるのか?」

「もちろんあるさ」


 なんだ、このオッサンは最低最悪なクズだと思ってたが、どうやら真人間のようだ。と安堵したのだが。

「だが、拒否すれば我々は全滅だろう」

「!!!!」

「選んでくれ、『我が身可愛さでこの世界の人間に死ねと言うのか』それとも『この世界の人間を守るヒーローになるのか』を」


 訂正。こいつはクズだ、真正のな。

 だがどうする……俺は、ヒーローになれるのか?


『クァー! やっぱりこのアニメは面白れぇ! 自分を犠牲にしてでも世界を守るってのがカッコいいよなぁ~』

『そう? 確かにカッコいいけど、現実だと絶対にしたくないよね。自己犠牲で世界を救ったところで何の価値があるの?』

『そりゃ自己犠牲は自己満足だろうけどさ、そこまで言わなくても良いじゃん?』

『俺は勇者が苦労して魔王を倒してめでたしめでたしが良いんだよ。ほら、桃太郎みたいな分かりやすいの』

『殺しあってるのに誰も死なないのはおかしくない? ご都合主義じゃん?』

『フィクションなんだから単純でいいんだよ、仲間が誰も死なない勧善懲悪でさ』


 そう……これは現実だ。夢というなの……

 だから……俺は……

 ……なれるなけない……よな? お伽噺のヒーローみたいに自分を犠牲にしてまで他人の命を守ってやるほど俺は出来た人間じゃない……

 これが普通の反応だ、普通の……と俺は自分に言い聞かせる。


「悪いな…俺は自分の方が可愛いんだ……」

「そうか、この腰抜け」

 腰抜けだと!? このクソヤロー! 好き放題言いやがって!! 我慢ならん!!


「良いか! 俺はこの世界の人間じゃねぇんだ!! わざわざ説明してもらったがなんで俺が見ず知らずの他人の為に命懸けで戦争しなきゃダメなんだよ!!」

「我々も必死なんだ、死にたくないから」

「死にたくないってのは分かるが、それは何でも許される免罪符じゃねぇだろが!!」


 俺はオッサンに俺の本心を伝えた。正論だ、正論のはずだ、何も間違っているはずが無い。この世界の俺が死んだ以上、この世界の連中は自分達で何とかする義務がある。異世界人に助けを求めるなんて言語道断である。


「ごもっともだ……だから君にヒーローになって欲しかった。ただそれだけだ」

「却下だ! 自分達の命くらいは自分達で守れ! 分かったら出て行け!! 俺は元の世界に帰るために寝る!」


 最後のセリフが滑稽なのは自分でも分かっていたが言うしかなかった。だがこれでこの奇天烈な現象ともサヨナラだ! と思っていたら

「だが、君が元いた世界に戻る方法は無いと思うがね」

「!? どうゆうことだ!」

「簡単な事さ、この辺りに安眠妨害装置を搭載させてもらった」

 安眠妨害装置……? なんだそのアホな装置は! どんなバカが何のために作ったんだ!?


「心配しなくて大丈夫だ……一日しか稼動させないから」

 つまり『その一日で考え直せ』ってことかよ…クソが

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