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第二話 電波(?)親父との邂逅

 キーンコーンカーンコーン

 と予鈴が鳴った。

 助かった。これで先生が来てなんとかしてくれるだろう。


「テメェ等、席に着け……なんだ? この騒がしさは?」

 体育教師の宮崎先生(男)は教室の騒がしさに顔をしかめる。俺は涙目で説明したのだが、先生は途中から苦虫を噛み潰したような顔で「うへぇ……」とぼやいた。


「……頭が痛ぇ……メンドウだから保健室で預かってもらうか……」

 流石先生! 話が早いぜ!! それでこそ教員歴十八年!!

 ……おいそこの女子! 陰口を止めなさい!! 男子高校生のメンタルの弱さ知ってる? シンデレラもビックリなくらいのガラスよ? 超割れやすいよ?



 一限目の授業が始まっても俺に対する小声は続いた。やべぇな……俺が停学になるのも時間の問題かも知れない……ふぇぇ……俺何もしてないのに……

 トントン

「ん?」

 後ろの席のゆずさんが俺の背中を叩いた。振り返ると小さな手紙を渡してきた。


 なになに、『君も大変だね、ところで本当に彼女は君の娘なのかい?』

 ……あなたまで俺をそんな目で見ていたんですか…

『知ってたら名前を間違えるわけが無いでしょ?』とマジレスを書いてゆずさんに渡した。


 数秒後に『でも、あの子は君を困らせるためにあんなことを言ったようには見えなかったけど?』と書かれた手紙を回してきた。


 ごもっともな考えである。しかし、知らないものは知らない。俺が知ってることは俺の知ってることだけだからと誰かが言ってそうなことを思いながら『知らないよ』と書いて渡した。それ以外に俺に言えることなんてないからね。


 さて今は一限目の授業中である。だが俺は気にせず居眠りすることにした。不貞寝♪ 不貞寝♪



 気が付くと、そこは何故か保健室のベッドだった。オマケに手に包帯が巻かれていた。

「?? Why?(訳:なぜ手に包帯が?) というかWhere?(訳:ここは何処……って保健室か)」


 頭の中で状況を整理しようと思った時

「あ、気が付いた!! 先生、透が目を覚ましました!!」

 何故かブレザーの上から白衣を羽織り、眼鏡というチャームアイテムを装備しているゆずさんが……って先生? はて? 授業中に居眠りしただけのはずだが何が起こったんだ?


「あの~ゆずさん、一体何があったんですか?」

「え!? ゆず『さん』……」


 ゆずさんが俺の言葉をオウム返しした。オカシイ……さっきこの人は俺の名前を呼んでいた。ということはこのひとは大原柚子で間違いないはず……なのだが確認しておいた方が良いだろう。


「えっと……あなたは大原柚子さんですよね?」

「……そうですけど……あなたは沢渡透さんで合ってますよね?」

「??もちろんそうですけど……?」


 ゆずさんの言っている意味が分からなかった。まるで顔も名前も同じなのだが、別人を認識しているかのような違和感があった。そっくりさんでも居るのかな? 同姓同名の。


「大原くん、ここは私に任せて君は戻りたまえ」

「……わかりました、先生」


 そう言ってゆずさんは部屋を出て行った。そして俺の前には俺が知っている保健医の五○代後半の太った色黒のオバサンとはまったく違うアラサーのちょいワル風のオッサンが居た。

「やぁ、久しぶり透」

「…………? ど、どちら様ですか?」

 こんな知り合いは居ない。というかオッサンの知り合いなんて居ない。親戚にも居ない。


「父親の顔も忘れたのかい……記憶が混乱しているようだね、ちょっと待っててくれ。脳の検査を……」

「!! おい、ちょっと待て、あんたが『父親』だって!! ふざけるな! 俺の親父は五十五歳のジジィだぞ!? DNA鑑定もしているから他人なわけが無い!」


「…………本当かい?」

「なんでアンタにこんな嘘を言う必要があるって言うんだ」


 親父はかなりの変人で幼い俺や兄貴、琥珀のDMA鑑定をお袋に黙って知り合いに頼んでしていたらしい。……いや、この年になれば親父がなんでDNA鑑定をしたのか分かる……親父……


 オッサンは少し黙った。おいおい、説明しろよ…なんだ? また変な夢を見ているのか? 顔を摘んでみる。Ouch(アウチ)!

「やはり、この子はドリームファクターなのか……」


 え? なんだって?

 ドリームファクター……?

 理解しがたい言葉が聞こえたが、ぶっちゃけどうでもいい。だから、まずこの状況を誰か説明してくれないか。


「……質問してもいいかい?」

「……どうぞ」

 オッサンからの質問タイムが突入した。……やだなぁ……知らないオッサンとの質問交換とか誰得よ?

「君は何処から来たんだ?」


 なんだその質問は? そんなもの当然『自宅から』学校に来たに決まっているだろ?


「自宅から」

「……自宅だって? それは何処にあるのかな」


 俺はオッサンに自宅の住所を丁寧に教えてやった。もちろん在住都道府県から。……オッサンはタブレットのような装置で何かしだした。大方住所を検索してるんだろう。はて? そこまで確認する必要があるのだろうか?学校からは徒歩十五分くらいだぞ?


「質問は終わりですか? じゃあ教えてくださいよ、自分はなぜ保健室にいるんですか?」


 さすがの俺も年上の人間に質問するときは口調に気をつける。こういうタイプのオッサンは自尊心が強い気がする。ソースは無い。あるわけない。


「それは君が校門のトラップで手を火傷したからさ。覚えてないかい? 電熱が出るあの校門のことを」


 え!? なんだって? (二回目だがさっきとはニュアンスが違うぞ?)

 このオッサンは何を言ってるんだ? 校門だって? 居眠りしてたのに校門に触れる機会なんて……ん? 校門……


「あの夢……」

「やはり夢でここに来たのか」

 俺の呟きにオッサンが反応した。

「何言ってんだ? アンタは」

「やっぱり、君はドリームファクターだったんだね」


 ふむふむ、なるほどなるほど……このオッサンは危ない!

 と俺の本能が警報を鳴らしている。こんな電波親父からはとっとと逃げるべきなのでベッドから飛びあがる。そして扉に向うが、


「クリスは知っているかい?」

 聞き逃せないセリフが聞こえた。クリスといえばあの自称俺の娘で俺の高校生活をぶっ壊してくれたピースブレイカーちゃんである。そしてあんな出来事テロのすぐ後だ。そう簡単に忘れることが出来る訳が無い。出来れば苦労しない。主に精神的な意味で。


「……で? それが何か?」

「あの子はドリームファクターと言って、夢に行くことができる特別な人間の一人。ドリームファクターには……」

「スミマセン! 頭痛が痛いので失礼します!!」

 オッサンは電波なセリフを理解できなかったので俺も日本語的におかしなセリフで応戦した。


 だが、オッサンはまだまだしゃべり続けていた。

「君は……この世界では死んでいるんだよ…客船の沈没に巻き込まれて」

「……あの……何言ってるんですか? あなたは」

 さすがにこのワードを無視することはできなかった。マジトーンでアラサーの大人がこんなことを言うのはおふざけにしても性質が悪い。


「ドリームファクターというのはこの世界に召喚された『この世界で死んだ人間』と同じ人間のことさ……ドッペルゲンガーとやらに当たるのかな?」

 このオッサンの頭が本格的に心配になって来た。だってそうだろ? 異世界から召喚なんてアニメとかの世界だ。こんなことをマジトーンで話すアラサーを想像してみてほしい。ドン引きだろ? ゆえにこんな話を鵜呑みにする奴はイカレてやがる。


「信じられないって顔をしているね。当然の反応だろうね。……そうだ。元いた世界に返ったら確認してみると良いよ、どうやってクリスが君の前に現れたのかを」

 うちの学校は確か学園内での犯罪を抑制するという名目で廊下や階段、そして教室などに監視カメラが設置されている。(因みに設置されてないのはトイレと更衣室くらいである。)この監視カメラの映像は申請すれば生徒でも見ることができたはず。

 つまりこれを確認すればクリスがどうやって侵入したかが分かるわけなのだが…もしもそれでも分からなかった場合は……ん?


「ところで、俺はどうすれば元の世界に帰れるんだ?」

 敬語を使うことをすっかり忘れていたが、オッサンはそれについては何も言わず「寝たらどうだい?」と言って来た。不本意だが仕方がない。オッサンの言葉通り寝ることにしよう。人に見られながら寝るのはあまり得意ではない。さらに起きたばかりなのである。だが眠気はすぐにやってきた。

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