第十六話 命を懸けた基地防衛戦 【後編】
「どうした? 随分と考えていたようだが答えはまとまったか?」
ジェノサイドが痺れを切らせたように急かしてくる。……覚悟を決めるか。そして信じさせてもらうぞ。お前が死んでも救いたかったモノを。
「あぁ、お前の言ってることは完璧だ。俺達の負けだよ。これ以上の抵抗は完全に無意味だ。お前が俺達日本人を殺さないでくれるというなら俺は喜んでお前達アメ公の仲間になってやる」
「懸命な判断だ」
ジェノサイドは警戒の姿勢を若干ではあるが解いた。
よし! ここからが俺の仕事だ。俺が死ぬか生きるかはもう俺だけの仕事じゃない。
「だが一つだけ聞かせてくれないか?」
「今すぐじゃなければならないことか? お前はこれから我々の同士になるのだ。時間なら…」
「なぜお前はそんな力があるのに俺を仲間にしようとしているんだ?」
「……なんだ? その質問は」
一気に警戒を強めた。やつの周りに青白い光の球が浮かんでいる。さっきシンのブースターを破壊したように俺を焼き殺すつもりなのか。
「疑問に思ったことだ。俺達日本人は貴様等に降伏しなかった。そんな危険分子を貴様は独断で仲間に迎え入れようとしている。これは妙じゃないか?」
「……優れた兵を引き抜くことがそんなに妙か?」
違う、こいつは何かを隠している。俺達が気付いていない、知リ得るわけがない何かがある。
「ダウトだ」
「何?」
「貴様らがそんなことを考えるわけが無い。俺は18のただの小僧だ。優れた兵士という意味ならキューバ兵の方が優れている。そんな人間を放置する必要性なんて皆無だ。このパワードスーツが欲しいなら俺を殺して奪い取れば良い。だが、貴様はそれをしない。なぜだ?」
キメ顔で言ったが、何も俺は気付いていない。これはブラフだ。敵が何かを漏らすかもしれない、その一縷の望みに賭けたブラフだ。
「言ったはずだ。その危険予知能力、そして状況分析能力は大人を含めたとしてもかなりのものであると」
「本当に? 本当にアンタはそう思っているのか?」
ジェノサイドが露骨に激高しているのが俺には良く分かった。……だが、これで確信した。こいつはここまで言われても何もしない。何もしないだけの『何か』がある。その何らかの理由を崩せば……
「本当に貴様は見事だ。その素晴らしい推理の褒美と言う訳ではないが答えてやろう」
勝った、言葉の力で俺は勝機を勝ち取った。アンタは気付いていないだろうが、アンタのチェックはこの時点で破綻した。
さぁ、教えてくれよ。沖縄を殲滅したジェノサイドが俺を生かしておく理由ってのを。
「まず最初に訂正しておくが、俺がアメリカ人ではない。イタリア人だ。イタリア系アメリカ人という意味ではない。純血のイタリア人だ」
何を言っているのか理解に苦しむ…つまりどういうことだ?
「イタリアはすでにアメリカの政略下にある。と言えば意味が分かるか?」
「アンタはイタリアが征服されたために米軍として生きていると言いたいのか?」
「そうだ、軍人としてアメリカに尽くさなければ即処刑だった。イタリア軍人であった俺に選択肢は無かったから米軍に入った。生きるために」
生きるために?
「……何かおかしい所でもあるか?」
「……いいや、続けてくれ」
問題ない、むしろ同情する……このあいだまでの俺ならな
「米軍に入った俺の初めての命令が沖縄の殲滅だ。無論拒否権は無かった。だから殺した」
「……なるほど、殺したくなかったが生きるために殺した、というわけか」
「そうだ。だが、貴様等は違う。ここで仲間にしておけばクーデターを起こすときに味方にできるかもしれない。俺はアメリカを許さない、だから……」
「だから? だからどうした? だから自身の行動を正当化するのか? そうか、この腰抜け」
誰かに言われたことと似た事を俺はジェノサイドに言ってやる。
「貴様、調子に乗るなよ。貴様の、貴様等の命は俺の手の中にあるんだぞ?」
「笑止、脅迫なんて無意味だ。アンタの思考は理解した。アンタみたいな下衆の仲間になどなるかよ!」
さぁ、ここからが勝負だ。
「我が身可愛さに人を殺し、挙句の果てには脅迫をするようなゴミクズに俺がなんで協力しないといけないんだ?」
「どこの世界に死にたい人間がいる? この世界に弱者が生きる権利なんて無い。生きる権利を手に入れた強者のみが生きることが許される。必死なんだ、だから…」
『死にたくないってのは分かるが、それは何でも許される免罪符じゃねぇだろが!!』
ジェノサイドは呆気に取られていた。こんなもんかな?
…さぁて、仕上げに入るか。
「アンタは殺した。たくさんの人をその手で殺した。生きたがっている人間を理不尽に自分の都合だけで殺した。『誇り』? そんなものアンタには無い!!」
「強者だけが生きることができる。弱者は死ぬ宿命にある。自分の命よりも弱い他人の命が大事だって言う人間が居る?」
「居るんだよ、それがな。アンタの価値観を他人に押し付けて勝った気になってんじゃねぇよ。」
もうここからは俺が言いたい事を言うだけの簡単な仕事だ。小細工は必要ない。論破すれば良い。俺がされたように。
「アンタを説教するつもりなんてない……でもな……『愛する人が幸せに生きていてくれれば良い』なんて悟った顔で語るような奴だって居るんだ。
そいつにとって自分の『命』なんてどうでも良かった。自分が自分であるための『アイデンティティ』すらもどうでも良いらしい。……そんなヒーローがこの世界には入るんだ。
アンタが殺した沖縄の人たちにだって人生があった。友人も居ただろう、恋人や家族だって居たかもしれない。だが、お前はそんな人たちの命を奪った。……殺したんだよ、アンタがただ『生きたい』と願う代わりに『生きたい』と願う権利をアンタは剥奪したんだ!!」
「それが普通だ、貴様だってそうだろう? 貴様じゃないのだろ? そんなバカなことを言った理想論者は」
「もちろんそうだ。俺じゃない、俺は現実的思考を持ってる。けど……だけど……」
そんなバカのせいで
『だけど思っちまったんだよ!! こんな俺でもヒーローになりたいってさ!!』
……言っちまったな……ゲームオーバーとなるか、それとも……
「『ヒーロー』か……そんな戯言を貴様は信じて戦う……いや、死ぬのか?」
やはり、俺の死は確定事項になってしまった……あぁ、それで良い。それで……俺の。
「そうだ。俺はヒーローになると決めた。アンタと共に米軍に入ってこの国にとっての英雄になるという選択肢はもう俺の中には存在しない……覚悟は出来てる」
「覚悟か……なら仕方ない……」
ジェノサイドの周りの光球が『キュルル』と唸る。
……あぁ、この瞬間で全てが決まる。
そして、俺の期待は仲間は答えてくれた。、
銃撃、砲撃、爆撃が俺とジェノサイドを襲う。
「なんだと!? バカな!!」
光球は弾丸の雨を薙ぎ払うのに使われた。
「死なせない!! トオルくんは絶対に死なせない!! また会えたのに…また会えたのに!!」
カナさんの声が通信機越しに聞こえてきた。あぁ、最高だよ。そうじゃないと、バカ(あいつ)が死んでも救おうとした価値が無い。
そう、俺が賭けた策はあのバカが信じた『仲間』を信じるという単純なものだ。
俺はキングだ。キングが殺られれば確実に負ける。でも、俺だけで勝てない。だから俺には仲間が居る。
もしも、何もしなければ『沢渡透』が死ぬという場面になったら、どういう行動を取ってくれるか。何もしなければ死亡率は一○○%だ、けれど撃てば生存率はほぼゼロ%になるかも知れない。
俺が死ぬことがほぼ確定した以上、俺は賭けるしかなかった。
自分の命を投げ捨ててでも、俺を助けてくれることを。
頼れる仲間が、自分のことを好きでいてくれる仲間が『沢渡透』を守ってくれることを。
他人の恋心を利用した最低な策だが、それくらい利用しないと俺は勝てない……
……いや、この言い方は間違ってる。カナさんが居なければ俺は死んでいた。カナさんが居たから俺は生きている。こういうことだ。
俺は光球を使い、スキだらけのジェノサイドにあるモノを投擲する。
だが、さすがはジェノサイド。俺の行動に気付いて華麗にバックステップで十数m跳び回避する。
見事だ。今のが閃光弾じゃなくて手榴弾ならな!
「!!」
閃光がジェノサイドの目を潰す。
勝った! これで俺達の勝ちだ!! チェックメイトだ!!
目が潰れたジェノサイドは悪あがきのように不規則に後退する。この好機を俺とカナさんはもちろん、チサトもミズホも見逃さない。全員による集中砲火がただの無規則な移動で避けられるわけがない。数秒でジェノサイドは追い詰められる。
最初に、一番距離の近い俺のマシンガンがジェノサイドのパワードスーツを襲った。そして砲撃の嵐がジェノサイドを殺しに掛かる。
はぁはぁはぁ……
勝った……これで本当に……
「Ψ1からΩ1へ。油断するな。対象の生存活動の停止を確認するまでは」
確かに、敵のパワードスーツの強度を俺は知らない。キューバは一日も持たなかった。つまり戦闘能力だけでなく防御能力も高いのかもしれない。オッサンは榴弾も防げると言っていた。もしかしたら死んでいないのかもしれない。
「Ω1から各員へ。残弾数の確認がしたい」
「こちらΨ1、残弾は問題ないが、銃身の熱が酷い。冷却処理に入りたい」
「こちらρ1、撃ちつくしてしまいました。」
「こちらρ2、同じく」
「Ω1、了解」
仕方ない。俺も体力的にはヤバイが落としてしまった散弾銃を拾えば…
「!! 逃げろ! トオル!!」
「……は?」
散弾銃を拾った瞬間、俺の腹部に激痛が走った。
何かが俺の腹を貫通した。
恐怖しながら腹部を見てみると、あの死に損ないの腕から直径五センチほどのワイヤーが伸びていた。
ワイヤーにはフックが付いていて、そのフックがパワードスーツごと俺の背中にめり込む。
腹を貫通した傷みで背中の方は何も感じないのは不幸中の幸いなのか。だが、このままだと確実に殺られる。
ジェノサイドはワイヤーを力一杯引いて俺を殺そうとしている。
「…こ、こんな作戦に出るとは…油断の極みだ…だから、貴様だけは殺す。それが俺の『戦士としての誇り』だ。」
ふざけるなよ、こん畜生が!!
勝ったんだ、勝った筈だ!
こんなデッドエンドなんて俺は認めない、認めたくない!!
奴がワイヤーを思いっ切り懇親の力で引き、俺を手繰り寄せる。
体重七十kgの俺の体が簡単に飛ばされ、ジェノサイドの後ろの壁に激突する。
まだだ、ジェノサイドがここで終わるわけが無い。
俺はそれを本能的に察知し、エネルギーフィールドを展開する。
ジェノサイドの腕に内蔵していた機関銃が俺を襲った。もしエネルギーフィールドを展開していなかったならとを考えるのが恐ろしい。
「なっ!」
読めてるんだよ。ジェノサイド。
アンタの敗因は俺達を過小評価したことでも、俺に策で負けたことでもない。
アンタ自身のポテンシャルはそのパワードスーツのスペックに依存し切っていた事だ。
俺が散弾銃の銃口をヤローに向ける。
「俺はなぁ……こんな腐った世界で」
余力全てを込めて引き金を引く。
「死にたくねぇんだよ!!」




