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第十五話 命を懸けた基地防衛戦 【中編】

 シン達の時間稼ぎにしかならなかった攻撃のおかげでジェノサイドの行動も大体読めてきた。


 攻撃を避けた際、奴は8の字に後退する。後退した後は凸レンズの形に避ける。凸レンズの起動を描いたあとはハート型の軌跡に移行する。そして最初の8の字に戻る。 多少の誤差はあるがこれが定型化した行動パターンだ。


 ここで一番注目しておきたいのが、軌跡自体は存在しないということだ。奴が通った場所には奴が通ったという過程が見られない。つまり奴は接地しながら移動しているのではない。浮遊して移動しているのだという結果が得られる。

 浮遊しているということは地面との摩擦を気にしないで良いという反面、摩擦力を利用した減速ができないということである。これはかなり重要になりそうだ。攻めるならこの『浮遊している』という点を狙った方が得策であるだろう。

 以上がこの単時間で分かった事項であり、これを封殺すればスキが生まれる。

 スキが作れたのならそこから勝利の方程式を無理矢理にでも作ってやる!


 ハート型の軌跡が終わり8の字のパターンに移る。

 現時点の俺の装備は手榴弾ハンドグレネード×6、閃光発音弾スタングレネード閃光弾フラッシュグレネード×2、マシンガン×2、ハンドアクス×1、散弾銃×1。


 牽制に使えそうなのはハンドグレネードとマシンガンくらいか。後退し大きく曲がったところでハンドグレネードを一つ投擲する。一度防がれているため当たるとは思っていない。


 狙うのはグレネードを回避するための行動だ。先ほどと同様に加速するのならば加速したところを狙い撃ちにする。どうゆう行動をするのか分かっているなら例え高速移動していようが対処できる。問題は予想外の行動だ。

 敵も同じことを理解しているだろう。対処されないには違うカードを切らなくてはいけない。だからこそ、あえて同じことをすれば相手はどうする? 同じ対処法をする? 別の対処法をする? 切れるカードが多いなら安牌あんパイの別のカードを選ぶはずだ。


 俺の推測通り、ジェノサイドは加速しなかった。腕に内蔵していたバルカンでグレネードを処理する。グレネードの効果は爆風による衝撃波だけではなく破片による攻撃も含まれているのだが、奴のパワードスーツには無意味のようだ。この程度で倒されるなら沖縄で返り討ちになっているだろう。

 しかし、この行動は想定の範囲内。グレネードの爆風で加速度の向きが逆転して後退する。後退地の予測地点は……あそこか!

 そこを狙い2つ目の手榴弾を投擲する。後退しているためその対処は加速も破壊も使えない。さらなる奥の手があるかもしれない。


「全員! 一斉射撃!!」

  奥の手(それ)を使われる前に狙い打つ!!

 王手! こうやって一手ずつ追い込んでいく。そうすれば必ず大きなスキが生まれるはず。


 …………そんな甘い考えはジェノサイドの切り札に一蹴された。

 ジェノサイドの背後から奇妙な青白い光の球が浮かび、そこから鋭い1本の光が放たれ、手榴弾がビリヤードのように弾き飛ぶ。

 この状況は理解できなかった。何が起きたのかを理解するための時間が必要だった。…………そしてそんな時間が戦闘中にとって絶対的な敗因になることにも俺はパニックのせいで気付けなかった。


「トオル!! ボサっとするな!!」

 シンの一喝がインカムを通して聞こえる。我を取り戻したが、既にジェノサイドのバルカンが俺を狙っていた。

「クッ!」

 条件反射でエネルギーフィールドを展開して防御態勢に入る。

 ……エネルギーフィールド……? まさか!?

「クソッタレが!!」

 シンがジェノサイドに向かって対戦車ライフルを乱れ撃つ。だが、銃弾の雨をジェノサイドは先ほど同様の光球からのレーザービームで蒸発させる。レーザービームの勢いは銃弾を消しても残り、そしてシンのブースターを破壊した。


「なっ!?」

 ブースターを破壊され、慣性の法則にしたがって盛大に転倒し、何度も地面にぶつかる。

「シン!!」

 この心配のせいでエネルギーフィールドの形成が不安定になった。そのスキをジェノサイドは見逃さず追撃に入った。


「ガハッ!!」

 鳩尾みぞおちに強烈な蹴りが入り壁にぶつかる。時速四〇キロメートルの蹴りだからか、壁にめり込み手足の自由が利かない。

 パワードスーツが無ければ内臓が潰れて即死だったかもしれない。

 ……まずい……頭がクラクラする……


「見事な危険予知能力だ。貴様のその能力は評価に値する……どうした? まだ生きているだろ?」


 誰かの声がする……

「……だ、誰だ?」

「私は新アメリカ軍第13番隊所属『ディーノ』だ」

 新アメリカ軍……? ディーノ……? 初めて聞く単語が2つも聞こえてきた。

 少し頭も冴えてくるとジェノサイドが俺の前で謎の青白い光球を周囲に浮かべながら立ち尽くしている。……この光球が奴の奥の手だったか……原理はきっと俺のエネルギーフィールドと同じようなものなのかもしれない。


「生きているな。会話できるか?」

 状況が理解できない……なんで俺を殺しに来た奴が俺の心配をしているんだ?

「あ、あぁ」

 こいつが俺に止めをささない理由は分からないが、それならそれで都合が良い。……そうだ、シンは……

「ふっ、自分の心配よりも味方の心配か。気にするな、あれは生きている。再起不能ではあるだろうが」


 よ、良かった。だが、安堵はできない。

「で、何が目的だ? 日本語が通じるなら答えてもらいたい」

「ならば日本語で単刀直入に言おう。我々の仲間になれ。そうすれば貴様らの命は助けてやる」

 見事なまでに悪役のセリフを吐きやがった……

「バカか……もちろ……」

「『もちろ』?」


 頭がクラクラしているせいか、自分の立場が理解できなかった……状況を整理しなければいけない。

 ここで断れば、俺はどうなる? 間違いなく殺される、瞬殺だろう。

 仲間の助けが来る可能性は? と思いρ1.2(ローワン、ローツー)Ψ1(プサイワン)の方を見るが固まっている。


「無駄だ、貴様等の火気兵装能力は把握できている。私をあの兵器で撃てば、貴様も死ぬだろう」

「……俺も死ぬか、だが俺が仲間になればその脅しは無意味だろ?」

「私もそこまで外道ではない。人質である貴様が仲間になればこの基地の戦力は0に等しい。投降した場合はこの基地、いやこの国の全員の身の安全は私の『誇り』にかけて誓おう」


 俺がここでアメリカ(こいつら)の仲間になれば日本人全員の命が助かる……約四〇万人から約一億数千万人に跳ね上がりやがった。

 ……一億ってなんだよ……どんだけの人間の命背負って戦わなきゃいけないんだよ……四〇万でも死にそうなのにプレッシャーだけで死ねる……

 オッサンは行った。『ヒーローになって欲しいと』と

 あのバカは言った。『と世界を守ってくれ』と

 クリスは言った。『ずーと一緒だよ』と


 ……なぁ? もう十分じゃないか? お前()はまだ戦いたいのか? 良くやったよ。

 皆助かるんだ。確かに敗戦国というレッテルを貼られるかもしれない。植民地的なことになるかもしれない、けどさ、死ぬよりはマシだろ?


(ほんとうに? ほんとうにそう君は思うのかい?)

 ファントムが悪魔のように耳元で囁きかけてきた。だけど何の問題があるって言うんだ? 『投降』という選択こそが正解だ。間違っている訳が無い。

 ここで俺が抵抗すればジェノサイドは今度こそ俺を殺すだろう。俺を殺し損ねたとしてもシンはどうなる? 確実に殺されるぞ。


(君もシンも助ければ良い、君には…君『達』にはそれができる)

 買いかぶるな、俺は一昨日まで普通に生きてきた高校3年生だ。ここまで命がけで戦っただけでも賞賛してくれても良いくらいだ…もう、無理なんだよ…

(君は一昨日おとといここで起きたことに少しも未練が無いといえるのかい?)

 ………………

(君は一昨日の出来事が楽しいと思ってくれたからこうやって頑張ってくれたんじゃないのかな? 無自覚なの? 違う、言い聞かせているだけだ。自分は良くやった。ここまで死ぬ気で、必死で頑張った俺をとがめることの出来る人間なんて居ない。勝率ゼロ%のこの状態はチェックメイトなのだから諦めよう。そう思っているのだろ?)

 それの何が悪い!! 今回は理想論でどうにかなることじゃない! 目の前の状況から逃げてアホみたいな説教するんじゃねぇ!!

(確かに理想論だ。けど、ボクの言いたいことの本質はそこじゃない)

 ……何が言いたい?

(君は何時から自分は一人ぼっちで戦っていると思っていたんだい? 一対一の殺し合いじゃない、一対五の防衛戦という戦争をしているんだ。敵はクイーンのみ、けどこっちはキングとナイトとルークとビショップが揃い、やられたのはまだナイトだけだ)

 一対五……?


 ……なるほど、テメェの言いたいことの意味がやっと分かった。

 ジェノサイドはチェックメイトのつもりなのだろう。だが、奴がしたのはチェックだ。まだ奴の勝利は確定していない。

 賭けさせてもらおうか。バカが信じて考えたこの作戦を!

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