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第十二話 決戦準備 【中編】

 ~またさらに8時間後~

 ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぁ…

 俺は訓練場に倒れこんで全身で息をした。考えることすらもうできない…今何時間動いた? 80時間か?

「合計18時間だ」

 18時間か…模擬戦は高度なホログラムによる擬似シュミレーションであった。

 街中に放り込まれて、何処から現れるか分からない敵からの攻撃を力場で防ぎ、その後敵を武器で仕留めるという説明を聞くだけなら楽なのだが、実際は何処から来るかわからないという心的不安からかのストレスはかなり大きい。トラウマになりそう…


「ほれ、ドリンクだ」

 乱暴にに俺のヘルメットを外したミズホが口の中に無理やり栄養剤を流し込んだ。

(!? なんだよこの味は!! ゴーヤと唐辛子とレモンを一緒に混ぜたようなビックリドッキリな味は!!)

「我慢しろ、飲まなきゃ明日以降過労で死ぬぞ」

 などと脅迫されてしまったては飲み続けるしかない。そんなこんなで劇薬としか思えない液体を2L飲まされて訓練は終わった。



 その後のことはうろ覚えだ。担架のような機械で巨大な窯のような風呂に連れられ、タンパク質・ビタミン・脂質・糖質・塩分の塊のような料理を食べた。「THE・栄養摂取」であろう。

 風呂は大きく設備も良かったのだが、食事ははっきり言って有り得ないに等しかったのだが、死ぬほどエネルギーを使ったので味のないようなのでも美味く感じられた。


 気が付けばもう朝である。眠った覚えが無いのは気絶していたということなのか、それとも単純に寝オチということなのか……あれ? というか元の世界に帰れていない……


「おい、バカヤロー朝だぞ。訓練の続きだ」

 ミッチーが問答無用で俺を部屋から連れ出し、もとい拉致した。着替え? そんなことが通じる相手ではない。

 朝食なんてものは用意されておらず栄養食と栄養剤をぶっきらぼうに腹に入れられ再びパワードスーツを装着され模擬戦を6時間ほどさせられた。

 流石に10時間も反復すれば何をやればいいのかというのも理解できてくる。攻撃対象を確認すれば攻撃を避け、そして武装で対象を破壊する。

 高性能なパワードスーツのおかげでエネルギーフィールドなんかを使う必要もなくなってきた。

 最終的には防御も回避も必要なく、やられる前にやれるようにまでなってきた。


「ふぅ…どうだ!! これでも文句あるか?」

「そういう慢心が戦場では命取りなんだ。戦場に次は存在しない。やられたらそこで終了なんだ。分かったら時間の許される限り…」

 ブーーブーー

 訓練場に、いや学校中にサイレンが鳴った、鳴り響いた。どう考えてもこれは警報だ。ということは…

「…了解、これから会議室に向かう。トオル、敵だ。これから俺たちの初陣だ」

 遂にか…さて、俺はあと何時間生きていられるのだろうかね。


 ミズホに連れられて会議室に行くとオッサンの他にはシン、チサトにカナさんという面子だった。

「やっと来たか、何やっているんだよ」

「ギリギリまで訓練をしていた。それだけだ」

 自分の質問に予想外の答えが返ってきたシンはきょとんとしていた。

「お前ら…昨日も散々やってたのに今日もやってたのか? 大丈夫なのか? 体力的に」

「問題はない」


 ミズホは断言したが、俺自身は問題しかない。心身どちらもな。だが、俺には発言権はなかった。

「問題がないのなら席についてくれ。これから作戦会議だ」

 オッサンのセリフに違和感を感じた俺は質問せずにはいられなかった。

「たった5人だけ作戦を実行するんですか?」

 オッサンの役職は司令官だというので実戦に出るのは俺を含めて5人のはずだ。他に助っ人がいるなら話は別だが……


「その点に関してはこれから説明させてもらう。今回の作戦は海岸から来襲してくると思われる敵、以降これをジェノサイドと呼称する。このジェノサイドを海岸で迎え撃つというものである。この時点で質問はあるか?」

 ここでは誰も挙手はしなかったし俺もまだ意見はなかった。

「ならば作戦の詳しい説明に移る。今回はパワードスーツを着用した沢渡にジェノサイドと戦ってもらう。他の者にはそれを支援してもらうというものだ。質問のあるものは挙手」


 随分と単純な作戦であった。だが沖縄を殲滅した敵に小細工が通じるとも思えない…オマケに相手は重装備とは言えたった1人だ。

 5人がかりなら勝てるのかもしれない…いや勝たなければならない。だがしかし。

「問題はないが、仲間の役職を教えてもらいたい」

 俺は自分のことでいっぱいだったから他の人がどんなことをするなんてのは知らない。知っていなけば安心して背中を任せられないだろう。


「島村が長距離ビームガンでの狙撃、小早川と桜田が中距離からの支援砲撃、そして間宮が君の後衛で支援射撃という配置だ。他には何かあるか?」

 さすが。エネルギーフィールドなんかがあるんだからビームガンくらいあるわな。これに関してはもう問題はない…あと訊くべきことは…


「もしも…もしもジェノサイドを仕留められなかった場合はどうなる?」

「その場合は街の建物を爆破してジェノサイドを圧殺してでも仕留める。そうでもしなければ日本は…すぐに落とされるだろう」

 オッサンの言った事に驚愕した。これが必死か…このオッサンもあのバカと同じで自分に、自分達に価値を感じてないんだろう。

 でも、街の人間はどうなる? 建物を爆破すれば当然沢山の人が死ぬだろう。おそらく『たった街1つで』危険な兵器を破壊できるのだから仕方ないとかそういう腐った考えなんだろうな。


 でもまぁ、軍人ってこんな考え方なのかもしれない。テロに屈しない頑固な政治家とかがこんな発想で人質を見殺しにしていそう。

 ……こういう考えは嫌だな、俺は。そこに居る人を想っている人のことを考えていない主観的な考えに思える……けど、これって俺が甘いからなのかな? でも


「何人だ?」

「は? 何の話だ?」

 俺の質問の趣旨が分からなかったらしくオッサンは訊き返してきた。

「この街の住人は何人だと訊いたんだ」

「あぁ~えぇっと……約40万人かな?」

 オッサンは端末でこの街の人口を調べたようだ…しかし、40万人か…俺がしくじったら40万人が死ぬわけか…


 作戦会議というより作戦の説明を受けて俺はシンの着替えに付き添った。海岸に敵が来襲予測時間まで50分ほどある。既にパワードスーツを着ている俺は武器の準備以外やることがない。


「お前も物好きだな」

「? 言ってる意味が分からない。何の話だ?」

 シンの質問の意味が俺には分からなかった。何の話をしたのだろう。

「男の着替えに付き合うって。何が楽しい?」

「ふっ、ははっ」

 失笑してしまった。あまりにも予想外のセリフだったから。

「おいおい、笑うなよ。何処がツボったんだ?」

「いや、今から死ぬかもしれないのになんか気楽だなぁと思って。」

「…逆だろ」

「は?」

「死ぬかもしれないから未練なんて無くしたいんじゃねぇか」

 真顔で言われた。普段ふがけてる奴が真面目なトーンで何かを言うとそれだけで空気が重くなる。

「最期かも知れないんだから女子更衣室に入りたいと思うだろ? 普通。」

 …俺の心情はもはや言い表せないものになっていた。こいつは全然ブレてなかった…尊敬するわ、お前のその精神。


「ところでお前の役職は支援射撃だって聞いたが」

 俺は話題転換をした。このまま猥談になれば俺はマトモに戦える気がしないから。

「あぁ、それがどうした?」

「パワードスーツの無いお前はどうするんだ? 相手の火力はお前だって知ってるんだろ?」

 俺が知っている普通の歩兵ならこんな心配はしない。しかし、相手は時速四〇キロメートル(自動車並み)で走り、ロケットランチャー(バズーカの一種)の火力の武器を持っていると聞いた。

 そんな相手に立ち向かうってパワードスーツを着ている俺だって嫌なのにスーツ無しのこいつは嫌なんてレベルじゃないだろう。


「そういうことか、心配しないでいい。オレには人間用の高機動ブースターがある。防御・攻撃能力は無いが回避能力がある。偉い人も言っているだろ?

『どんな攻撃だろうと、当たらなければどうという事は無い』って。」

 なるほど、分かりやすい…てっきり生身かと思っていた。…てことはあの三人も?

「いや、君が想像しているようなことはない。大型ビームガン『オラクル』の射程は五千メートルもある。

 ジェノサイドの予想射程は三百メートルくらいだからミッチーには防御用の装備は必要ない。チーとカナポンにはジェノサイドの射程圏外の五百メートルから砲撃してもらう作戦になっている。

 因みに俺はお前の後方五〇~八〇メーオル付近から支援射撃をするつもりだ。」

 なるほど、またまた分かりやすい。分かりにくいのはチサトとカナさんのアダ名だ。「チー」と「ポン」ってなんだよ。麻雀か? 鳴くのか?

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