表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/17

飼い猫ルーを探して

まだ飛ばない。まだ死んでくれない。まだ…なんで捕まった?


家の門を抜けた所で空を見上げた。


「勘弁してくれよ…」


もうすぐ夕方とはいえ、燦々と真夏の日差しが容赦なく俺を焼く。風は熱風、紫外線は強い、アイスはもうない。


「最悪だ。死ねる。マジで今日、死ねる。ルゥー…、早く出てきてくれ~…」


ボヤいてみてもそんなすぐに出てくるわけがない。俺は仕方なくつば付き帽子を目深に被り、炎天下の中、飼い猫探しに精を出すのだった。






三時間後、


「なんで、なんでいないんだよルゥゥゥウゥゥゥウウウ!!!」


だいぶ陽が傾いてきた町中にユウ少年の叫び声が響き渡る。

身体中から汗が吹き出し、来ていたTシャツの背中はどっぷり濡れ、ズボンには地面を這った跡らしき泥がついている。家を出る時に羽織っていた、薄手の上着は腰に巻きつけられ、もはや邪魔モノ以外のなんでもなかった。


「いったい、何処にいるんだ…?」


家から三軒先の猫ばあちゃん家にもいない、近くの公園はすべてまわった。車の下、細い路地、町の図書館裏の陰、学校裏の秘密基地と裏山、他にも猫が行きそうな場所をたくさん探したが、どこにもいない。


「お~、そこにいるのは女装が似合う我が従兄弟どのじゃないか! なに?今日はワンピースじゃないの?ユウちゃ~ん♪」


「誰が着るかボケェ!! 俺は男だ!! 女顔とか言うんじゃねェ!! 言った奴は前に出ろ!!叩き潰して………お前か、狢。」


甚だ不愉快なセリフが聞こえたので、反射的に喧嘩を売ったら、相手は親戚の女好きだった。途端に気持ちがしぼみ、うんざりした気分になる。

夕日を背にして、女にしては背の高い我が従姉妹、(むじな) (あさ)()が人を食ったような小馬鹿にした笑みを浮かべて、颯爽と俺の前まで歩いてくる。彼女はラフな格好で腕にスーパーの袋を提げ、手にはアイスを持っていた。


「ユウちゃんが夏に一人で外ほっつきあるいてるなんて珍しい~…。」


従姉妹であり、高校の先輩でもある狢は目を丸くして、驚いたような声を出す。


「まずその『ユウちゃん』いうのやめれ。俺、男。だいたいお前も一人だろ? いつも連れてる女の子の取り巻きはどーした?」


この従姉妹殿は性癖が大変変わっていて、女なのに、女のハーレムをいつも周りに築いているのである。なのに男にも女にもモテる、大変稀有な人物なのだ。まあそれはどうでもいい。大事なのは、


「よく倒れなかったな。先輩は感心だ。」

「もしも~し…」


こいつが人の話を聞かない、


「よし、今度の夏のコミケでユウには受けであのキャラをやってもらおう!…茶髪で冷たい男の娘…群がる男どもで総受け…夏バテ…弱った……ぐへへへ……」


腐った奴であるということ。

ついでに変態でもある。それはこの言動と危ない目で口からヨダレを垂らしていることからわかるだろう。黙っていればそれなりに美人なのに、この外見に勿体ないほどの中身の残念さはなんだろうか。


「誰がやるか…そんな身の危険を感じそうな役。一生御免被る。」


俺は狢を置いて、さっさとその場から去ろうとした。しかし、


「そうと決まれば早速採寸をば…」

変態な従姉に腕をガッシリ掴まれ、ヤツの家に向かってズルズル引きずられ始めてしまう。


「おいっ、ちょっと待て!! 俺はちゃんと断ったハズだよな!? 女装なんてしないし、総受けとか訳わからんけど身の危険を感じることはしないぞ?!」


「オレ、ユウちゃんにはあのウィッグが似合うと思うんだ。ついでに胸元をフリフリのフリルで飾ったドレスに女の子らしい靴や小物を合わせ……いっそのこと中華ドレス風コスプレいってみっか? 東方の女の子キャラコスプレでもいいぞ? ユウならどれでも似合う!」


イイ笑顔で力説しやがった。東方ってなんだ!? 高校生にもなって中華ドレスって……フリルのドレスって……つか、お前今年受験生だろ?! 大学受験前にコミケっていいのか!? 大学ってそんな簡単に入れるものなのか!?


「力説されてもしないものはしないからな!! お前の着せ替え人形になるのは小学校の頃にもううんざりしてンだ!ぜったい着るもんか!!」


じたばた暴れながら俺が声を荒げて抗議すると、狢は一瞬考え込み、溜息を吐いた。良かった、諦めて…


「はぁ~…仕方がない。お前の親父さんにも頼んで、道連れになってもらうしかないか」


くれねーのかよ!!


「なぜそうなる!? つか離せっ、この男女! 」


親父まで話を持っていくな! ぜったい笑顔で承諾するからっ。俺に対する嫌がらせも兼ねて母さんの喜ぶ顔見たさにゼッタイ承諾するからァ!!


「いよ~し、オレの家にLet’s Go!…ぐえっ」


パタン、――…頑なに俺を腐界に引きずり込もうとしていた狢が、いきなり潰れた蛙のような声を上げて倒れた。

この隙に俺は狢の魔の手から――すっげー馬鹿力…指を一本一本離してやっと外れた。腕を見てみると手形がくっきり。――逃れ、変態な危険人物から距離を取る。


「ふふふ、『痴漢撃退法その三十、友がやられていたら後ろから襲え』成功ね。大丈夫?ユウちゃん?」


天使が来た。ふんわりと優しく微笑み、雰囲気まで優しくふんわりとした天使だ。

いや、狢の幼馴染で親友の文鵺魅 朔夜さまだ~…。


「朔夜~!! ありがとうーーー!! 嬉しすぎて涙が出るけどその前に抱きついていい?」


「うん、やめてね? 抱きついてきたら『痴漢撃退法その一、力一杯突き飛ばせ』を実行するよ?」


どこまでもふわふわとしたその見た目と雰囲気に見合わず、彼女は強い。それもこれも過保護な父親のせいだ。恨むぞ朔夜の親父さん。


「まったく、ユウちゃんもやっぱり朝陽ちゃんと同じ血筋なんだね。反応や思考がそっくりだよ。」

「冗談きついぜ朔夜。俺があの変態と? ないない。死んでもアイツと同じと言われることだけは避けたい不名誉なことだ。」


その時、変態がゾンビの如く頭から血を流し、むくりと起き上って来た。


「ヒッ?!」

「怯える朔夜も可愛いっ!!愛してるぜ朔夜。ユウは女装してオレにめちゃくちゃにされるといい、頬を染めて膝まずいて愛を請え!! 朔夜はオレのモノだ、そしてお前もオレのものだ!! 男の娘もゆるふわ娘も老若男女関わらずオレのモノはオレのモノ!! さぁ、オレに愛を請え!!」


流れるように止めどもなく真夏の路に変態の中性的な声が響き渡る。変態のくせに無駄に美人な顔と美声をもってやがるからなお性質が悪い。ムカつく。


変態はどうしようもない馬鹿だった。


俺は朔夜と目を見合わせる。思いは一つ、この変態を黙らそう。


「ん? どうした? そんな冷たい目で見られると変な扉が開きそうだ。…ああ、イイ!! 冷たい朔夜も朔夜ならどんな朔夜だって俺は愛せる!! ユウ、もっとにこやかに!! 女装させてくれ一緒に腐界に落ちよう!……え? ちょっ、ちょっと?! 二人とも拳構えて足上げてどうした? サービスか?サービスなのか!? 朔夜のパンツはしr…げふっ…も、もっと足を上げてくれっ、そうそうその調子で…ぐふっ…だれか、だれか紙を…カメラを…今この瞬間を永久に納めブフッ……――」



しばらくお待ちください。



「まったく、ここで待ってろって言うから待ってたのに、もとはと言えば迎えに来ない朝陽ちゃんが悪いの。見つけてみればユウちゃんを無理やり腐界に引きずり込もうとしてるってどういうこと? あたし言ったよね? 無理強いはダメって…」


路の端、歩道の隅に狢を正座させ、こんこんと説教する朔夜。

変態は俺たちにボコられ、無残に転がっていたはずなのにもう回復し始めてやがる。いったいどんな体の構造してやがるのか不思議でならねェ…。


「はい、ずみまぜんでした。だから、その胸を揉ましてくれ朔夜!!」


ブレないな、おい…。


「ていっ!」


変態は朔夜に回し蹴りを食らわされてうめく。アレぜったいパンツ見えたな。


あ、そういえば俺、何かを探してたような……。




「ああーーーーーー!!!」


ビクッ――突然の叫び声に朔夜と朝日は驚いた。


「そうだった、俺、ルゥを探してたんだった。」


「は? ルゥって本家のお前ん家で飼ってる黒猫か? あの毛並みが良くて人懐っこい…」

「ユウちゃんのお母さんが溺愛しているあの黒猫? ときどきユウちゃんが抱えてたあの?」


「そうその黒猫ルゥ! 一週間ほど前から行方不明で今日、母さんがオレに探して来いって命令してさ、連れて帰らねーと家に入れてもらえないんだわ。あんたら何か知らないか? ルゥが何処に行ったか。」


狢はぼろぼろの状態のまま腕を組み、考え込み、朔夜は眉をひそめて同じく考え込む。


「朝日ちゃん、もしかしてあの猫じゃない?」

「どの猫だ? もしかして朔夜が猫のコスプレ…嘘ウソ冗談です。」


朔夜が無言で拳を構えたら、朔夜は慌てた様子を見せて自分の言動を撤回した。

一転、真面目な顔をして話し始める。


「アレだろ? お社にいた黒猫だろ?」

「そうそう、柚木ちゃんとこの…」


女子二人は顔を見合わせ、何かを知っている様子。


「え!? 居場所しってんの!? それ何処!?」


ユウは掴みかからんばかりの様子で先輩二人に尋ねた。

朔夜と朝日はその剣幕に驚いたが、親切に地図まで書いてみた場所を教える。


「ユウちゃん、この町で毎年祭りが開催されているのは知ってるよね?」

「当り前だ。俺は射的とリンゴ飴の出店の常連だぞ?」


この町には毎年、十月の十四日と十五日に秋祭りが開かれる。出店の数は百を超え、祭りの日にはテレビ局のカメラが来る、近辺では少々名が知られた祭りである。噂では江戸時代以前から続くとか…


「だがそれがどうした?」


猫探しと全然関係ないと思うのだが。


「じゃあ、それがドコを祭って、何処主催で行われるかは知ってるか?」


「……知らね。遊べたらそれでいいし」


出店全部回るのに三時間は掛かるからな。その祭りを何処がやってるかなんて知らなくても生きていける。問題ない。


「じゃあ教えてやろう。あそこの祭りはな、水蓮寺という寺と天神さんを祭る神社が一緒になってやってるんだ。神仏混合といってな、日本じゃ昔から神様も仏様も一緒に奉ったのさ。明治時代の廃仏毀釈と神仏分離思想でバラバラにされたけどな。」


「知ってるよ! この間あった期末テストに出たからな。それとこれとが何の関係があるんだ?」


いい加減イライラしてきたぞ。焦らさずに早く教えろ――ユウはそんな思いを込めて、ニヤニヤ笑いを浮かべている狢を睨みつける。


「そう焦るなって…」


「もうっ、鈍いねユウちゃんは。その寺の境内にルゥちゃんらしき黒猫がいるのを見かけたって話してるの!」


「目の色は?首に紅い首輪してたか?」


ルゥの眼は海の様に深い青色をしているのである。その眼が人懐っこく、クリクリと動くさまは可愛らしくて仕方ない。


「してたしてた。」


「チラッと見えた目は青だったよ?」


行ってみるか。


「サンキュ! ルゥが無事に見つかったら、お礼に毛並みとか存分に堪能させてやる。」


「はうっ…! ま、マジでありますか夢旅ユウ後輩っ」


朔夜は目をこれ以上ないほど輝かせ、ユウに詰め寄る。その後ろで狢は苦笑していた。


「ま、マジだ。じゃあな、俺はルゥを探さないと…」


ま、眩しすぎる目だ。


ユウは純粋な視線に耐え切れず、逃げるようにその場を後にしようとする。その背中を狢の声が叩いた。


「ユウ!」


立ち止まり、振り返ってみるとアイスキャンデーの袋がひとつ宙を舞い、手の中に落ちてきた。ユウは訝しげに眉をひそめて狢を見やる。


「餞別だ。今日は暑いから熱中症で倒れるな。倒れたらオレがお前を女装させて写真を大量に撮り、ネットに昔の恥ずかしい写真諸共upしてやる。」


「ちょっと朝日ちゃんっ?!」


従姉殿なりの気遣いなのだろう。これでぜったい倒れられなくなった。

狢は失跡してきた朔夜に、懲りずにまたセクハラして殴られている。『痴漢撃退法その4』だとか…。その痴漢撃退法、いったい幾つまであるんだろうな?


「ありがとな。」


「おーう、気をつけてな~」

「また学校で会おうね~!」


俺は二人の先輩の声を背に、毎年の祭り会場に向かって……あれ?

そういえば水蓮寺って、あの境内のドコにあったっけ?





貉 朝陽 (むじな あさひ)


性別:女、

性格:女好き。腐っている。男前。朔夜が大好きな変態。どこまでいっても残念な美人で変態。変態女。

備考:ハーレムをつくっている。ユウの従姉。高校三年生。


文鵺魅 朔夜 (ふみやみ さくや)


性別:女

性格:おっとり。さらっと毒を吐き、トドメを刺す。女の子らしく可愛い。

備考:貉の幼馴染。よく変態の被害に遭うため、過保護な父に『痴漢撃退方』と言う名のよく判らない護身術を仕込まれる。ユウとは貉繋がりで幼い頃から面識有り。高校三年生。


ユウのお姉さん的存在二人組。

現実逃避で、なんとなくトリップ小説ネタを練っていたら、生まれた女の子たち。そのネタの主人公ども。


この話では、ここと回想的な場面でしか出ない予定。(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ