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親の命令

作者は言葉に不自由しておりますが、それでもよければお楽しみください。

どうぞ、よろしくお願いしたします。(ふかぶかと一礼





燦々(さんさん)と照りつける太陽、真っ白い入道雲。ほとばしる汗。日陰に涼を求めて逃げる犬猫などの動物たち。


ここは日本の田舎町。四方を山に囲まれ、綺麗な水の流れる川がある田舎であるが、スーパーもデパートもちゃんとあり、道路には車が走っている。町の端には大図書館や神社、寺などがあり、しっかり街として機能している田舎の中の都会である。


そんな田舎町に、一軒の武家屋敷風日本家屋があった。バカでかい門構えを有した形ばかりの建物で、外観からして古めかしい。門の入口に掛かる表札には“夢旅(むたび)”と書かれている。ここら一体で、暑さに弱いことで有名な一族の名だ。昔からこの地に住み、金持ちではないが馬鹿でかい屋敷を持ち、長寿なことでも有名な一族である。


そのデカくて古いだけの家の中で女子高生…ではなく、少年が一人、暑さにうめいていた。


「あ~、あぢぃーーー…」


冒頭で檻に入れられ、うなだれていた茶髪の少年である。


「暑いー……あいたっ」


ソファの上で嘆いていると頭になにか堅いものがぶつかった。下に落ちてきたソレを拾ってみると空のビール缶だ。どうやらリビングの椅子で俺と同じように、力なくぐったりとしていた親父が投げて来たモノらしい・・・。もうすぐ四十にさしかかる汗だくの父は、椅子に寄り掛かった状態で目だけこちらを鋭く睨んでいた。


「親父、なにすんだよ。もし中身が入っててビールがこぼれたらどうすんだー・・・・」

「うるさい。夏なんだから暑いのはあたりま…え、だー…。無駄にあつい暑いと喚くな。余計暑くなる・・・」


この暑さにかなりまいっている様子の親父。言葉の端々が途切れ、語尾が尻すぼみになっている。かくいう俺も相当まいっている。暑くてあつくて仕方がない。そういえばこのビール、冷蔵庫で中身がキンキンに冷えてたはずなのにもう外側が温かい。どんだけ今年の夏は暑いんだ…。扇風機や団扇や扇子などではまったく追いついていない。


「そんなこと言ったって、暑いのはあついンだよ。つか、なんでクーラーつけないの?なんでこんなに暑いの?今の気温何度だよ?」

「仕方ないだろう。数か月前の震災で原子力発電所が使えなくなり、日本中(?)電力不足だというし、計画停電とやらが実施され、日中冷房は使えない。といううかクーラーが壊れてンだ。このクソ暑い中、ウチのクーラーはショートしたんだー・・・。日本推奨の28度設定もクソもねーよホント。だって元が壊れてンだから・・・アハハハハ」


汗だくの顔でから笑いする親父。目が死んでら~・・・。多分、俺も同じくらい目が死んでいると思う。先祖代々俺たち()(たび)家の一族は暑さに弱い。夏になると老若男女関係なく、夢旅家の血が流れている者はどっかでへばってる。そしてそれを夏の間介護もといっ、しっかり後々の生活に響かないように外から嫁や婿に来た者が世話するというのが、ウチの夏の風物詩だ。

申し忘れてたけれど俺の名前は()(たび)(ゆう)。江戸時代以前から続く由緒正しい夢旅家の長男である。ちなみに親父はこの家の何十代目かの直系当主・・・らしい。詳しくは不明。毎年真っ先に暑さに倒れ、母さんに世話される姿がウチの夏の始まり。


「で、今何度?」


ソファに倒れ込んだまま、俺は親父に尋ねる。すると親父はリビングの机の上にあった温度計を手に取り、まだシワの少ないその顔を苦悶の表情に歪めてうめいた。手に持った温度計をそのままこっちに力なく投げつけてくる。俺はソファのすぐそばに落ちたソレを拾い、次の瞬間、見たことを後悔した。


「うわぁ~…マジで?」

「俺も信じたくねーよ、そんな数字…」


温度計の数字はなんと、四十度を超えていた。どおりでまったく動く気がしない。地獄だ……灼熱地獄だー…。


「暑いぃぃぃ゛~~~…」

「………。(死ぬ…)」


親父と一緒に死んだ目をしてヘタっていたら、ドタドタドタと元気でせわしない足音を響かせて買い物に出ていた母が帰ってきた。


ばーんッッ――壊れそうな音を立てて居間のドアが開く。


「たっだいま~!! 二人とも生きてる~? 死んでない? あっ、スーパーで安売りしてたから素麺(そうめん)とアイス大量に買って来たわ!」


アイス? アイスが大量?――ピクリと親父と俺の手が微かに動いた。限界だ。俺は兎も角、かすかにここから見える親父がヤバい。さっきまで椅子にへばりついていたのに、今は冷たい机に顔を押し付けて目を閉じているし、背中がこれ以上ないほど汗だくだ。

母さんはヅカヅカと親父に歩み寄り、腕に下げていたスーパー袋からガリガリ君を取り出して口を開け、中身を無理やりこじ開けた親父の口に突っ込んだ。

みるみるうちに親父の目が生き返っていく。


「ほらほら、生き返ってシャキッとしなさい! っもう、毎年毎年情けないんだから!」


母さんは同じように俺にもキャンディアイスを口に放り込み、台所に消えた。


「・・・・生き返る。」


マジで生き返ったようにシャキッとしやがった親父が、口にソーダ味のガリガリ君をくわえたまま、ぼそりと呟いた。


すげーなアイス。瀕死の親父を生き返らせ、きっちり椅子に座らせやがった。


「親父はな。ホント、母さんがはやく帰ってきてくれて良かったな~…。じゃなきゃマジでもう少ししたら干からびて死んでたんじゃね?」


つか、アイスひとつでそこまで回復できる親父がスゲーわ。俺なんて漸くソファから離れ、動く気になるだけだというのに。


アイスが食べるそばから溶けていく。


「かもなー…。夏は本当にダメだ。プールはいいんだけどなー・・・」

「だよな~…。水着で遊んで、女の子が・・・って何言わせる気だよ!」

「お前が勝手に言っただけだろが。つか何言おうとしたんだ?ん? お父さんにいってみ?おまえのしょーもない欲望をな…」

「・・・・お父さんってなんだよ・・・つかキモイ。しょーもなくねーし」


ニヤニヤ顔やめれ。実は女装も似合うその顔で、その、世間様には少しだけカッコいいと思われているその顔で哂われると、未来の自分が笑っているようで腹が立つ。仮装大会で女装して一位なんて取ってんじゃねェぇえええええええ!!!! 今思い出しても腹が立つ。俺の将来もコレに似た感じになるのかと思うと・・・・いーやーだーーーー!!!


「お前、学校ではモテてんのか? 俺なんて高校のときは両手で足りない程の女をだな、」

「あ~、はいはい。それ前にも聞いた。どうせ最後は惚気になるんだろ?耳だこだからやめてくれ。だいたい俺のクラスはみんな友達みたいなモンだよ。告白っつっても二、三回ぐれーか?」

「よし、お父ちゃんが女子にモテる秘訣を…」


「ああーーーーー!!!!」


台所から叫び声が聞こえて母がリビングに出てきた。


「なんだ?今度はどうした?」

「忘れ物でもしたの? 母さん」


三十後半のいつも元気な俺の母さんはドジで、頻繁に何かを忘れたり、こけそうになったり、何処かをぶつけたりする、少々危なっかしい一面を持っているのだが、首をぶんぶんと横に勢いよく振っていることから今回は違うらしい。いったいなんだ?


「お味噌を買い忘れたけれど今はそのことじゃないの! お父さん、ユウくん、ルーは?ルーはまだ帰ってきていないの!?」


ルーというのは、家で飼っている深い碧の眼をした雄の黒猫だ。名前の由来は『クラッシュブレイ』なんとかという小説に出てくる、占い師の神秘的なお兄さんから貰い、俺がつけた。目が大きくて人懐っこい猫だ。ツナ缶が大好物。

ルーはこの暑さの為か、一週間ほど前にふらりと居なくなったのである。


「まだだな。それより母さん、味噌がないって明日の味噌汁はどうするんだ…、まさか味噌なしの味噌汁を出すとか言わないでくれよな?」

「お父さん、明日の味噌汁は多分そうなるわ! うう・・・ユウくん、ルーちゃんに逢えない・・・・」


親父は母の言にショックを受けて沈み、猫好きな母はルーにまだ逢えないと知って涙を流し、寂しがる。子どもかよ…。


「親父も母さんもそんなことぐらいで泣くなよ。ルーならそのうちひょっこり帰ってくるって…」


ガシッ――気づくと二人がすぐ近くに居て、俺の体を掴んでいた。親父に至っては目が据わっている。


「ユウくん、命令です。今すぐルーを探し出して連れ帰ってきなさい。」

「ついでといっちゃなんだが、どこかで味噌を買ってきてくれ。そのための小遣いはやる。」


そんな…無茶苦茶な……。母さん、猫の行動範囲がどれだけ広くて狭い道を通って行くのか知っているのか? 


「え、ええ~・・・でも、外暑いし動きたくねーよ。」


親父、無理やり小遣いを握らせないでくれ。余計断りづらくなるじゃねーか。心読んだように無言で頷く(うなずく)な。睨みつけるなぁあああー!! 親父だって外が中よりも暑いのは知ってるだろ? さっきまで家の中でバテてただろ? 大事な息子を灼熱地獄に突き落とす気か?!


「問答無用!大丈夫! あと一時間もすれば日が暮れてくるわ! それからはお得意の霊能関係で探せばいいのよ!」


言い忘れたケド、俺には霊感がある。かなり強い霊感らしくて、話す・見る・聴く・殴る・蹴る・払う、なんでもござれな便利さだ。気のいい奴は手助けしてくれることもあるし、偶にあちら側の方から頼まれごとをしたりもする。だが、大抵いいことなんてない。見えていることがバレたら追いかけ回されるなんて日常茶飯事だ。


ちなみに、父も霊感はあるが母にはない。だから呑気に焚き付けてきたりするんだが、今は困った。真剣な目で扉を指差して命令しないでくれ。今アイツらに関わったら、時期だから体の心から冷たくされて病気になりそうだ。


「嫌だよ?! ゼッタイ寒いよ?! 真夏なのに今度は寒くなりすぎるよ!? なにその拷問! 俺に夏風邪引けって言ってるのかおふく、ろォ!?」


ぐへらッ・・・――ユウはビンタを受け、母の両手で思いっきり口を横に延ばされた。


「ユウちゃん、わたしのことは『おかあさん』か、『母さん』って呼んでねっていつも言ってるでしょう?…「おふくろ」なんて田舎の親子みたいな呼び方するんじゃないわよ。」

「ふぁ、ふぁい…。」


母さん、それ偏見だぜ?――…な~んて、口が裂けても言えねー…言えねーよ。後ろに般若を背負った母さんに言える訳がない。


「わかったらさっさと行く! 晩御飯は今日大量に買ってきた素麺の予定だから、遅れないように!!」


ビシッと夕飯用のネギを持って命じる母に俺は頭を抱えたくなった。


「無茶苦茶だ…」

「大丈夫だ。お前なら出来る。といううか、できないとお前の晩御飯ヤバい。」


親父の後ろでは般若―母―が素麺を握りしめ、

「…見つけられなかったら何を仕掛けようかしら、タバスコ?唐辛子?お酢?砂糖?塩?…それともいっそのこと晩御飯無しにしてしまおうかしら?」

ブツブツと恐ろしいことを考えていた。


「わかったら早く行って、早く見つけて、連れ帰って来た方が身のためだぞ?」

「い、いってきま~す……」


激辛素麺なんて作らせてなるものか。そんなもの食べた日には胃の中のモン全部吐いて吐血するに決まってる。そうなるのは絶対イヤだ。


「いってらしゃ~い! 気をつけて行くのよ。」

「いってら。味噌を忘れるな!!」


今日が俺の命日になるかもな…。暑さにやられて…。

ただ一つ言わせてくれ。


親父、どんだけ朝飯の味噌汁にこだわってンだ!



後書き編集

サブタイトル候補として、『家族』、『夢旅ユウ』、『猫さがし』、『プロローグ』、『始まり』などを検討。


夢旅 ユウ


性別:男

職業:高校生

身長:157ほど

容姿:羽気味な茶髪。

   大きく薄茶色いツリ目。

   女顔。

   スタイル良い。

趣味:読書、

   ルゥと遊ぶこと、

   友達と遊ぶこと。

特技:霊感がある。

   射的で祭りの景品を全部落とせる。

   少々の武術。

   女装が似合う事(不本意。)

備考:黒猫を飼っている。

   江戸時代以前から続くらしき、名家の当主長男。ただし、金持ちではない。ただ、住んでいる家が日本家屋の屋敷で、異様に大きいだけ。

夏はすぐバテるのは一族の特性。


夢旅家の一族


・何故か男にイケメンか、女顔が多い。

・一族の者は何故か百まで生きるなんてザラ。

・本家と分家がある。だが、ほとんどみんな金持ちではない。

・本好きが多い。

・夏はバテる。当主が真っ先に夏バテにかかることで有名。

・周りに不思議が多い。


………こんなものだろうか。w


お次は腐った残念な女の子とほわほわ少女登場。

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