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灯台下暗しの黒猫郵便屋 壱



漁村の先の林を抜けると広がる一幅の絵画の如き光景。

浮雲が遊ぶ空の下、雄大に広がるアクアマリンブルーとエメラルドグリーンの草原を背景にしてその灯台は島の岬にあった。首が痛くなりそうなほど見上げられる玩具の如き塔の前にでかいまんじゅうや大福をそのまま地面に置いたような白壁の家がある。

蒼空の名を冠する少年は古びた木の扉の蝶番を叩き、大声で誰かの名を叫ぶ。


「クロネ=クロナーーっ! クロちゃ~んっ!起きているかーーー!」


ドンドンドンドンっ――乱暴に叩き、なんども呼びかけるが出てこない。


「黒くろくろクロナーーー!」


ドンドンドンドンっ――彼は笑顔のまま拳を握りしめて戸を叩く。中から応答はなく、ただ寝息と紙が静かに舞い散る音が僅かに聞こえてくるだけである。


「クロネ=クロナーー!!」


ドンドンドンドン!――笑みの種類が黒いモノに変わり、扉をたたく腕に遠心力という力を籠め、精一杯叩く。ユウは大きな耳を肉球で押さえて小さくなるサチを抱きしめ、引き気味に見守る。


「――……ド腐れ居眠り猫っ!早く開けやがれ!」


ドン!ドカドカドカドカ!ガコンガコン!ガキンっガキン!――扉を殴り、蹴り飛ばし、腰から武器を抜いてソラは“攻撃”した。だが扉はびくともせず、誰も出てこない。ただ、中から静かな寝息と時折怯えたように息をのむか細い声が聞こえてくるだけである。


――間違いなく誰か、居る。


しかし誰も出てこない。鍵は掛かったままだ。呼びかけが次第にぞんざいに、悪口めいたものに変わるがそれでも誰も出てこない。

家に備え付けてある丸窓から中を覗くと、夥しい(おびただしい)ほどの郵便物で部屋の中が埋め尽くされて容易に中を窺う事が出来なかった。

つまり、それだけの郵便物が堪るほど“彼”は配達をせず、眠りこけているらしい―。


「万年居眠り黒猫! 起きて出てきやがれや!」


ソラが扉の破壊工作をしようとした時はさすがにユウも止めに入ったが、扉はこの上もなく頑丈であった。斬られても破壊されそうになっても蹴られても、殴られても、どんなに乱暴されたって傷一つつかない。一家にひとつの割合で欲しいくらいだ。主に泥棒対策用に。家の前でこんなに騒音を出されても眠っていられるなんて、随分図太い郵便配達屋がいたものである。


ソラは肩をすくめてユウを見る。

「ダメだ、寝てやがる。」

これだけやられれば、言われなくてもわかる。

「なあ、ここに一体なんの用なんだ?見た所普通の灯台だけどさァ」

ユウはサチを撫でながら怪訝そうに尋ねた。

寝息はずっと聞こえている。寝言に「もう食べられない…」などと幸せそうな少女の声も聞こえてきていた。ソラの眉間にぴきりと皺が寄る。


「ここはクロネ=クロナという俊足の郵便屋が住まう灯台だ。王館に繋ぎを付けようと思ってな。」

「へぇ~そうなのか。」

「ああ。しかしアイツは寝てやがる。それも見た所三か月以上は。」

眉間にしわを作って発された言葉にユウは仰天した。

「さ、三か月もっ!? そんなに人って寝られるものなのか!?」

「アイツならザラにあり得る。最長は五年だったな。」

「ご、五年も!?」

普通の人間なら一ヶ月眠りつづければ憔悴して死ぬかもしれないというのに、この塔の主はそれ以上眠りこけたことがあるという。まず間違いなく“人ではない”。

ソラは腕まくりをして、「………これだけはやりたくなかったが仕方がない。アイツが起きて出てこないのが悪いのだ。」足を扉に向かって振り上げた。


「お、おい、ソラ?」

「急ぎだ。許せ見逃せ!せいやァ…っ!!」


瞬間、爆発音かと思うほどの轟音が響き渡る。先程までビクともしなかった扉が土煙を立てて吹き飛んだ音だ。あの小さな体にいったいどれほどの力を込めたらこうなるのだろう。

視界が張れた先、扉と共に分厚い壁の一部が吹っ飛んで机に刺さり、真っ白い漆喰の欠片が崩れ落ちる。バサバサバサ…、仕事の書類らしき紙束が宙を舞う。

その中央で何事もなかったように一人の少女が枕と鞄を抱いて眠っていた。

ソラはつかつかとその少女に歩み寄り、首根っこを引っ掴む。


「…にゃ?」


ぱちり、と蜂蜜色の寝惚け眼が開かれる。少女は眠気を飛ばすように首を振り、艶やかな黒のショートカットを揺らしてソラを見た。


「ああ、空か。天津空。天津すべての空を司り、ぼくと対の存在天津空~……住所は月の国月乃島、北の森奥深く、軍の訓練場を兼ねた離館《蒼月乃館》……ふぁ~ああ、ではではおやすみなさいにゃ~。zzz」

八重歯の可愛らしい少女は住所を諳んじた後、意地汚く二度寝に着こうとした。

空は無言で少女の顔面を鷲掴み、そのまま地面に思い切り打ちつける。

「ぐべらっ!」

少女は額を青じませながらむくりと顔を起こし、

「………痛いニャ!何するのにゃ!ぼくのたまのお肌が傷ついたらどうしてくれるのにゃ!」

キッ、と涙目で睨みつけて抗議した。

「にゃにゃ!? よく見たら空じゃなくて空鵺にゃ! 女じゃないにゃ!男にゃ!」


(は?空はソラだろ?男が女になれるハズがない。手術とかすれば別だけど。)


「そうだ、空鵺様だ!クロナ殿?…心配ないからさっさと仕事に着け。起きろ。なんならもう一度その役に立たない脳みその詰まった頭を岩に打ち付けてやろうか?」


柔和に笑って提案する空。

本当にやりそうな危ない光を眼に宿している空。


少女、クロネ=クロナとユウは戦慄した。

「起きる起きる起きるにゃ!起きるからそれだけはやめてくれにゃ!空にやられたら冗談抜きで頭が粉砕するにゃ!」


「ははは、ソラ、冗談だよな?」


「ああ、そいつが“きちんと起きて仕事をしてくれれば”、冗談さ」


目が本気と書いて“真剣マジ”だ。やると言ったら絶対やる目だよ!


「あ、あの~…」


空のせいで一気にカオスと化した場に第三者の声が聞こえた。声の方に目をやると、壊れかけの机の陰から大きな灰色の鼠耳が飛びだしている。……よく見るとそれはひょろりとした弱弱しい雰囲気の青年の耳だった。


(ここってマジで獣人の国なのかもな……)


「あ゛?なんだ?なんか用か鼠ぃ」

「鼠じゃありません!ボクの名前はラッテンです!ラッテン・ハイヤード=フィ…「あ~いいからいいから。お前の名前なんて覚える気ないし、ラッテン=鼠だからネズミで充分だろ?」……くっ、言い返せない、だと?」


鼠と呼ばれた灰色の髪の青年は、空と少女に言葉をかぶせられて名乗りを中断させられて、涙を呑む。それを何処からか湧いたのか、墨で形作られたような普通サイズの鼠たちが出てきた。仮に《墨鼠》と名付けよう。墨鼠はラッテン青年の周りで器用に舞い踊り、落語や芸能の真似事をしたり、泣き始めたラッテンを宥めようと一生懸命だ。


なんだかこの世界の奴は変人が多いな。ギャグキャラというかなんというか。やりとりがいちいちコメディチックだ。まあこの国の奴らだけかもしれないが。


上手いこと纏らない。途中投稿で短くて申し訳ありません。


地の分と会話文、どちらが多いほうが良いのだろうか。というかこれ、ちゃんと地に足ついていますか。……色々心配になってきますが、とりま書きます。続きます。

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