蒼空の君と魔女の言葉
遅れて申し訳ありません。
小説家入門書と小説とマンガ読み漁り、能楽会の参加、学校のレポート、二次執筆、ここのキャラ起こし、その他もろもろやっておりました。(礼)
では、どうぞ。
月の国、月夜国の中央辺りに位置する月乃島。その北東にある蒼月の館がある迷いの森を抜けた場所に“北の漁村”と呼ばれる場所がある。海に面した砂浜に立つ漁村、気高くなくカモメの如き幻獣、市場は活気に満ち溢れ、人々はのどかに元気よく暮らしている。その市場の一角に魚屋サブと書かれた店があった。まだ日も昇らぬ朝方に水揚げされた新鮮な魚が立ち並ぶ店である。その店先で子供の背丈ほどもある縞猫が自分より背の高い少年となにやら揉めていた。
「………どうしても引かネェのか?」
「…引けないねぇ~。」
「フフフ~ンフ~ン♪ワン!」
「………あははは、……はぁー…」
白犬聖獣サチの鼻歌が聞こえる中、一歩も引かず火花を散らす隻眼の猫と少年。
片方は白と蒼の衣にキャスケット帽を被った少年、優の面倒を見てくれることになった鍛冶屋(仮)の天津空だ。対するは、堂々とした風情があるこの店の店主のおっちゃんである。体を覆う毛はゴワつきそうなほど剛直であり、右目がの上に傷が走って片目がつぶれている渋い猫だ。
「なあ、もう少しマケてくれてもいいんじゃないのか? サブ猫さんよォ…」
「馬鹿言え! いくら常連の蒼空の旦那と云えども、これ以上マケたらウチは商売あがったりでィっ。これ以上あっしからは一銭もマケてたまるかってやンでィ…っ」
70㎝ほどのマスを境にして至近距離で顔を見合わせ、何をしているかと云えば一種壮絶な魚の値切り交渉である。マス一匹にそこまで熱くならなくとも…と思う俺は呆れてモノが言えない。かれこれ四半時――三十分ばかり――はこの状態が続いていた。
「ああ゛!? 五千ルナだと? まだ値切れるだろ?ええ゛おい…。なんならお前に不利な話を縁談が進んでいる娘に吹き込んでやってもいいんだぜ? サブ猫く~ん?」
まるでチンピラである。サブ猫と呼ばれた男はソラに縋りつかんばかりの様子で、
「勘弁してくだせィよ蒼空の旦那ァ……ようやっと纏まりそうな101回目の縁談なんでさァ…」
「知るかンなもん。でもまぁ、このマスを、もっと安く売ってくれたら、サブ猫君のいいとこいっぱいあの娘に吹き込んじゃうんだけどなぁ~?」
ソラはニヤァッとあくどい笑みを浮かべて交渉を吹っかけた。
黒い。黒い。真っ黒だ。
魚屋の親父もよくもまあ、それだけ縁談が纏まらないものである。驚きの数字だ。
苦悶の表情を浮かべた魚屋サブは、その肉球がついた手で頭をぐしゃぐしゃと掻きむしって唸った。
――このマスを蒼空の旦那に格安で売ればあの可愛い娘がもしかしたら振り向いてくれるかもしれない。なんせ百一回目の縁談だ。あっしも慎重に進めて娘さんや両親に気に入られ、やっとの思いでここまで来たんだ。もうすぐ結婚できるかもしれないよ云うのに、マス一つで…っ、マス一つで…っ――いや待て。今は月末である。春の終わり、初夏の初めだ。そういう時期は決まって物入り、果たして赤字でいいのか?どうなんだ?あっしはどちらを取れば正解なんだ………――。
サブ猫は頭から煙が出る程思い悩んだ。ソラはその様子を腕を組んでニヤニヤと黙ってみていた。
「くぅっあぁぁぁあああーーっ…4000ルアでどうだ!」
「2500ルア。ああ、今にも足がお嬢さんの方に向きそうだ。早くしないとサブ猫君の黒歴史も言いふらしちゃおっかな~…?」
ソラは白々と嘯き、今にも走り出しそうな態度をとる。優から見て本当はそんな事をする気もなさそうなのにサブ猫はしっかり騙されたようだ。必死に彼の服の裾を掴んで引き留める。今にも泣きだしそうなほど情けない顔だ。そんなに嫁さんが欲しいか?そんなにいい印象を持たれたいか?――後から聞いた話、この魚屋の店主は三十路過ぎで月猫の婚期を随分逃していたらしい…。まあ、三十路過ぎたら普通焦るよね。しかもこの国の婚期は15から25の間だと聞くと余計に。
――ソラは煩わしそうな目で自分の袖をつかむ店主を見下し言った。
「離せ。それともマケテくれるのか?2000ルア。」
ソラさんや、さりげなく要求を500ルア下げた(きつくした)な。何はともあれ勝負あったようだ。
「ちくしょっーー持ってけドロボー!!」
店主は自分の体躯以上もあるマスに包装紙を巻きながら男泣き、ソラは悪どくニヤリと勝利の笑みを浮かべたのであった。
縄と紙に包まれた土産を肩にかけて歩くソラの後ろをサチを抱えたユウが歩く。
細かい砂の大地を踏みしめ、目指す先は先程のサブさんから教えてもらった魔法具店だ。
「え~と…? 確かこっちをこうだな…」
市場から一歩奥に入ると和風オカルト染みた怪しげな通りに出た。
いかにも呪術師や占い師などの職業を生業としていそうな木造の高床式倉庫の如き家々が立ち並ぶ。中でも一際異彩を放つ古びた家、信じられないことにソラはそこに向かって真っすぐ足を進めている。
「そ、空…? あの家にいくのか?」
お前が向かっているのは本当にあの家か?あの家じゃなければ駄目なのか?
「そうだ。どうした? 尻尾巻いて逃げかえりたくなったのか?」
ソラは振り返って腕を組んで仁王立ち、首をかしげて挑戦的に笑う。
だがしかし、あの店だけは……あの店だけは止めておいた方が良いっ。
薄い布が何枚も掛かるぽっかりとあいた入口。正体不明の骸骨が立ち並び、幻獣の剥製が飾られていて、頭が痺れるような怪しげな香を漂わせている。見れば見る程胡散臭く怪しさ満点の店だ。この漂ってくる香も癪に障る。腕の中のサチも心なしか顔をゆがめていた。
「ああ、この匂いか。大丈夫だ。害はない。大昔から魔女が客を引くために焚いてきた香だ。その香の種類や質、扱う材料などで客は店を選ぶ。」
なるほど、そういうことなら仕方がない。客はひたすら我慢するか、自分の好きな店に行くしかないのだろう。いずれにしろ、この臭いが俺にとってもサチにとっても嫌な臭いだという事は変わらない。ソラは止めていた足を再び店に向け、顔をしかめながら一人ごちた。
「……まあ、もっともこの頃はなくなった風習だから、今から行く店は80は超えた老人がやっていると見て間違いないだろうな。もしくは余程の物好き魔法族か。よほど若作りか自分の容姿に自信があると見える。……虚栄心に満ちた嫌な臭いだ。」
店内に入ると一層怪しさが増した。呪いのわら人形、怪しげな髪の束、よく判らない呪文の書かれた紙、毒々しく色を変え続けながらぐつぐつと煮えたぎる魔女の大鍋…――狭苦しい店内によくもまあこれだけオカルト染みたモノが揃ったものだ。呆れを通り越して関心を覚える。
奥からしわがれた化粧の濃い老婆が現れた。腰は曲がり、わかいころはさぞ…と思われる容姿をしているが内面の醜悪さまでは隠せない。俺は彼女が入って来た瞬間、思わず顔を顰めた。
「イーッヒッヒッヒヒヒ…こりゃまた上玉のお嬢さんたちと可愛らしい聖獣様がやってきたもんさねっ」
声だけは艶っぽく色悪を思わせる嫌味さだ。後味が悪い。
「お嬢さんじゃねーし。俺、男。」
老婆の迫力に押されてユウの抗議の声も自然、小さくなる。
「おい、待て。オレたちは男だ。すくなくとも連れのコイツはな。」
ソラは自分とユウを交互に指さして、毅然と抗議する。表面上は顔色ひとつ変えず対応するさまは尊敬に値すると俺は思う。それくらい老婆は毒々しく、強烈だった。
「そうかい、そうかい、男さね。色っぽい少年たちが来たもんさね。なにか用かい?魔法具からよく利くまじないの薬、占いや厄払いまで幅広くやってるよ。なんなら恋の呪いでも用立ててやろうか?」
老婆は自分が魅力的だとでも思っているのだろうか、ソラにしな垂れかかるようにして商売を始めた。
さすだに彼の眉間にも皺がよる。ソラは老婆を丁重に引きはがして軽蔑の笑みを浮かべ、
「魔女婆、年は覚えておいた方がいい。これは老い先短いお前への忠告だ。それと…連れにやる魔法の袋『イベントリ』はないか?リュック型、手提げ型、肩掛け型、腰に下げる巾着袋でもなんでもいい。今日はそれを買いに来たんだ。」
老婆は俺とソラを見比べて途端に態度を変えた。
「なんだい、今日はの収入は鼠の小僧だけかい…ツマンナイねっ。蒼空の君さま、あんたも結構な歳だろう? この婆はいらぬかえ?」
「要らんっ、オレには“あの方”だけで充分だ。契約の下、オレは“あの方”と世界の為だけに存在する。それに皺くちゃの中身が伴っていない老婆には触手が動かん。悪いな、他をあたれ。」
すげなく老婆を突き放すソラ。だけど結構な歳ってどういうこと?見た目12歳ぐらいの瑞々しい少年だぜ?老婆に歳と言われるくらいには見えない。それに“あの方”と“契約”とはなんだ…。
「そうかい、残念だね…ヒッヒッヒ。まあアナタ様の主様好きは今に始まった事じゃないからからかってみただけさ。本命は…」
じゃあ言うな――とソラは老婆を睨みつけるが彼女は無視してそのままユウに迫ってくる。
「そこの坊ちゃん……ああ、やっぱりお前さんはいらないよ。よくみればお前さん、呪い持ちの“お客人”じゃないか。欠けた魂は三年で流れる。この婆より老い先短いんじゃしょうがないよ帰っとくれ。家にはお前さんらに用意できるものは何もない。」
手で出て行けとジェスチャーする老婆を前にソラは目を見開き、能面のように表情を無くす。
「どういうことだ。俺の魂が欠けている? 俺が呪い持ち?……説明してもらおうか。」
部屋の奥に疲れた様子で引っ込もうとする老婆に、ユウは詰め寄った。
「帰ってくれ。わしはただありのままを見ただけさね。どうしても気になるのならそこにいる【蒼空の君】さまに尋ねればいい。この婆よりもずーっと詳しく話してくれるさね。なんせこの方は……ギャーーーーっ!!」
老婆が悲鳴をあげ、いくつもの破壊音と共に何かの山が崩れ落ちる音がした。
見ると白い物体サチが家の中を自由自在に飛び回り、高いものから順に倒して行っているではないか。
「このバカ犬っ、さっさと消えろ!消えちまえーーーっ!!」
サチを追い出そうと暴れる老婆に叩きだされる形で俺たちは魔女の家を後にした。
「ああ、いい気味だ。ヒトの秘密や個人情報は簡単に喋るものではないよ。よくやった、サチ」
ソラに晴れ晴れとした表情で頭をなでられたサチは誇らしげに一吠えした。
「なあ、ソラ、教えてくれないか?」
「ん?あの老婆が言った事か?」
ソラは俺の腕の中にいるサチを構いながら目も合わせずに問い返す。
「そうだ。気になることが多すぎる、お前は…」
「待て。まだその時は来てないし、オレもまだ話すつもりはないよ。これは……俺の役目じゃないから――」
不思議な言葉を残してソラは買ったマスを背負い直し、もとの通りに戻ろうと足を進める。
「じゃ、本当の目的地に行こうか。上手くすればいいものが見れるよ。」
それっきり、何度聞いてもその日、彼が老婆の言葉の真意を教えてくれることはなかった。
「おう、ここだここだ。お~い、クロネーーー! クロネ=クロナ起きてるかーーー!!」
空は岬にそびえる燈台守の家の戸を叩き、大声で呼ばわったのだった。
ほんのちょいとだけファンタジー…。
丁々発止の値切り交渉、もっと上手く書けるようになりたいな~…。
さて、次回は燈台守が出てくるよ。……ああ、いい加減にしないと不味いかな~…。にやにや出来る文章目指して頑張りますぜ。……時間作るの下手だが。以上。(次回、一ヶ月以内に更新目指す。うん。)




