泥棒聖獣はお犬さま?
難産。頭が飽和状態や~。
「よし、出来た!」
俺が頭の中身を整理し終わったころ、ソラは唐突に満足そうな声を上げた。彼の手元を除くと地図のようなものが描かれた紙が二枚。一枚は先程、話の途中から彼が書いていただろう三つの大国を軸とした世界地図。新たに小国や島々、生き物たちなどが生き生きと描かれている。もう一枚は、この俺達が居るという“月の国”月夜国を中心に持ってきた絵だ。三日月の形をした島を中心に、いくつもの大小さまざまな島が描かれている。おそらくこれがこの国とその周りの形だ。
「んじゃ、地図も出来たし続き行くぞ?」
「わかった。いいぞ。」
「じゃ、一枚目の地図。世界地図を見てくれ。」
三つの大国が映った地図を見る。ソラが改めてどれがどの国か説明し、最後に月夜国を指さして説明しだした。
驚くことにこの国の周りだけ真水の海らしい。あと、太陽国の本島の周り、二百海里だけ。あとは全部海水なんだとさ。変わっている。海には国の公認海賊と野蛮な強盗海賊の二種類が居るらしい。公認海賊は、世界を旅して、治安を維持し、基本的に海図や陸地などの地図を作るのが仕事らしい。いわゆる冒険家だな。反対に強盗海賊は名前のまんま。商船や公認海賊を襲い、一般人に危害を加え、非道の限りを尽くす悪党だそうだ。
二枚目の地図――この月夜国の地図――を最初の地図の上に重ね、説明は続く。
月夜国は、もともと二つの国が一つに成って出来た物らしい。一つは死者や罪人が行くとされる“黄泉の国”闇夜之国。もう一つは空が属する“月猫”と呼ばれる種族が治める“夢幻と月の国”月夜之国。歴史は遥か六千年ほどはあるらしい。お隣の太陽国もこの国よりは短いが、そのくらいとか。ちなみに、星の国の歴史は月の国の半分だそうだ。
「ま、それは置いといて、年月が経つにつれ、“月猫”以外にも種族が増えてな。“月猫”の次に“妖族”が産れた。次に“時兎”が産れ、トップが“月を持つ者”となり、この世界の時空を管理する役割を、神の役割を手伝うようになった。あとは順々に増えて行ったよ。」
指でいくつかの島を指しつつ、説明してくれたがやっぱりわからない。それが彼の性格なのか、言葉が足りないのだ。
この時、ソラはこの説明に飽き始めていた。表面では笑顔を絶やさない。絶やさないが、この目の前の何も知らない客人に説明することが面倒臭くなっていた。だから脳内では、脳内でどうやったら伝わりやすいか考えつつ、今日の朝食をどうするか、完全に寝入った者の効果的な起こし方、果物の保存法と酒造の仕方など、わりと今はどうでもいいことを考えていた。
ユウはあたまを掻き、もっと詳しい情報を求める。
「空、もっと詳しく。結局“月を持つ者”ってなんなんだ? 他も種族名としかわからないぞ?」
「あはは。今から説明するのさ。まず、そうだね…。“月を持つ者”だが、この国では“月”という。だが、お隣の太陽国では“陽を持つ者”という名称がつかわれ、星の国では“星を持つ者”という名称の使われ方をするんだ。つまり、国によって少しだけ違う。」
そこで一旦――間。
「“月を持つ者”とは、神から加護を与えられた者のことだ。加護が強ければ強いほど、そいつは“世界”に、“神”に縛られる。」
「は?」
言われたことを呑みこめず、結果、ユウはマヌケな顔をさらした。ソラは笑いをこらえて真剣な顔を作って続ける。
「加護が強ければ強いほど、特別な権限を与えられ、仕事を遂行する義務が与えられる。そして、“不老不死”に近い“不老長寿”となるんだ。だから、知恵のある者は嫌がってなりたがらない。」
「なんで? 不老不死なんて最高なんじゃないか?」
「ユウ、君は俗物的だね。それに不老不死じゃなくて不老長寿。だけど、死ねない身体だから、どちらでも同じか。そうだな、長く生きるということはそれだけ人生を楽しめる事でもあるが、同様に多くの人を見送る生とも云える。家族や友人、その他を見送りながら、ほとんど変わり映えのしない日常を過ごす。普通なら耐えられない苦痛だろう。」
哀しそうに遠い目をするソラ。その様子を見て、ユウは想像してみようとした……が、出来なかった。記憶に霞がかかったように、一部が不透明なのだ。なんどやってもうまくいかない。
「だから、仕事があって、権限があり、役割が与えられる。狂わないように、退屈にならないように、自殺しないように。そうして神はオレたちを飼い殺すのさ。ま、数百年もすれば慣れる。今のところ、世界に50人ほどそういう奴もいるしな。楽しいぜ? 長く生きるのも悪くはない。」
空は昔を懐かしむ様子で静かにくすりと笑う。気のせいだろうか、その顔にはどこか諦めた色も浮かんでいたようだった。ユウが次の言葉を発しようとしたその時、
「――わぅ~っ♪」と犬の鳴き声がして、目の前を白いふわふわが掠め(かすめ)去って行った。
去って言った方向を見ると森の中を白い小型犬が飛んでいる。大きな耳をいっぱいに広げて、空のものと似た帽子を被り、口に地図が描かれた紙と石のついたネックレスを加えて、宙を悠々と滑空している。
もう一度言う。小さな可愛らしい白の小型犬が、大きな耳を広げて、宙を飛んでいるのだ。
「……はァ!? な、なんであの犬、宙を飛んでいるんだ!? それになんかソラと俺の持ち物に……っ!」
ふと自分の胸元を見ると、起きた時に首に掛けていたネックレスがない。目の前を見れば地図もない。ついでに対面に座るソラを見やれば、帽子の代わりに立派な黒い猫耳と尻尾が出現していた。
「………え、尻尾? 耳と尻尾ぉぉぉおおおおおお!!!!?」
驚いて自身の耳と尻尾を指さし絶叫するユウに、ソラは煩わしそうに耳をふさぐ。そして何処からか出したハリセンを勢い良く叩きつけた。
「うるさいっ!」
「イテッ…」
スパンっ――と張りのある音が響いた。頭を押さえ、抗議と疑問の視線を送ってくるユウを無視し、ソラは押入れから縄を取り出す。
「ユウ、お前、足は速いか?」
「え、さぁ? 多分速いんじゃねぇの?」
ユウは記憶を辿ろうとするが、まったく覚えてないので、感で答えた。空は溜息を吐き、内心“疑問に疑問で返すな”、と怒りつつ縄を一束投げた。
「おわっ! 急に投げンなっ」
「いいからさっさとあの馬鹿犬を捕まえるぞ。自分の分は自分で取り戻せ。それがここのルールだ。」
ユウは手もとの縄を見つめ、次にちょうど森の中に入って行った白い生き物を見据える。自然と縄を持つ手に力が入った。ソラはその様子にふっと微笑み、縄を鞭のように両手でもって引っ張った。
「じゃあ行くぞ。相手は空飛ぶ犬聖獣・サチ。目標は泥棒犬の捕獲と収集物の押収。着いて来れなかったら置いていく。」
「え、マジか? その前にソラさんや、なんか聖獣とか聞こえた気がしたんだが、気のせいか?」
聖獣といったら、聖なる獣と書くアレだろう? 国を守るとか、象徴する獣。それがなんで犬で、空飛んで、泥棒するんだ?――などとまた新たな疑問がユウの胸に沸き起こったが、ソラに取っては一刻も早くお気に入りの帽子を取り戻すことの方が先決。
「問答無用。 それじゃあ行くぞ。」
彼は片手に縄を持ったまま、自分の体よりも大きなユウの襟首を掴む。そのまま涼しい顔をして引きずり始めた。
「ちょっ、待て待て待てっ! まだ話は終わってねーぞ!?」
ユウは焦って引き留める声を上げるが、少年は無視。彼の視線は森の方に注がれ、歩みもそちらに向かっている。顔を見上げると彼の額には青筋が立っていた。どうやらよっぽど犬にモノを盗られたことが腹に据えかねているらしい。歩みは止まらないどころか、心なしか段々と速くなる速度。笑みを絶やしたソラ。引き摺られる自分。天を見上げれば朝日が昇ってきていた。しょうがなくユウも彼に合わせて歩き始める。それはいつしか駆け足に変わり、森に来た時、ソラの掛け声で追跡者のソレになった。
「レディ……GO!」
途端、辺りの景色が素早く移り変わり、緑一色と自らを掴む腕だけが鮮明に見えたのだった。
「さァ、犬追い物の始まりだ。」
ダメだ。この頃疲れがたまっているのかも。
というか、ユウに思い入れが少ないことが発覚。この子は割とテキトーに作ったから…。まあ関係ないですね。要は私の力不足なのです。
さて、続きます。犬追い物。




