“名もなき書物の世界”は未完成
世界についての話。
8月18日に投稿したものを、投げずに書きなおしました。
再投稿です。申し訳ありませぬ。
こいつ今なんつった? “日本”に行った事がある? いつ? どうやって?
「昔はな、異世界旅行なんてこの国じゃ珍しくもなんともなかったんだ。」
「ハァ!?」
何でもない事のように云う空に、ユウは素っ頓狂な声をあげた。空は気にせず茶を一口飲み、言葉を続ける。
「昔、この国には、世界を渡れるほどの強大な力を持つモノが沢山産れた時代があった。その中でも【鏡の双子】と呼ばれる妖族の双子の兄弟の力は強大でな、彼らは我らが創造主と守護神に認められ、“月”を持つモノとなり、力を伸ばした。そして世界を渡る運び屋を職業にしたのさ。彼らはその力でもって、多くの人やモノを“鏡”を触媒にして運んだ。だから昔、異世界旅行は“月の国”の民にとって、外国旅行と似たような感覚だったのさ。俺もその時に便乗していろんな所に行ったんだよ。」
――といっても、千年は前の話だがな、そう付け足すように言い、彼は口に笑みを佩いて懐かしそうに虚空を見つめた。まるでその時代を生きて来たかのように、追憶のかなたにある景色を思い出すかのごとく遠い目をしている。外見は子供だというのに時折見せる表情がそれを裏切る不思議な子だ。
そして、また解らない単語が出てきた。こちらに理解できない言葉を説明なしに使わないでほしい。切実に。ユウは再度説明を求めるため、まだ続きそうだったソラの話を遮るようにして口を開く。
「ちょっと待て! また判らない単語が続出したぞ!? 俺にも解るように説明してくれ。いっそのこと、幼稚園に入りたての子供でも解る様にっ!」
きょとんとした表情を浮かべたソラを気にせず、ユウは真剣に言葉を続ける。
「鏡の双子って誰? 創造主と守護神って何? “月を持つ者”とはなんだ? しかも異世界旅行が外国旅行の感覚って、お前らはいったいどういう神経をしている!?」
吹き出す洪水の如く、ユウは尽きない疑問を並べ立ててぶつけた。次の瞬間、噴出するような笑い声を黒髪の少年はあげた。心底可笑しそうな、それでいて自嘲する雰囲気も併せ持った笑い声だ。
「なんで笑うんだよ…。」
ユウはむっとして、ソラを睨みつけるように見やる。だが、それも彼の笑いを一層誘うだけだ。再び笑い転げないように唇を噛みしめながら、腹を抱えてソラは謝り告げる。
「いや~、御免ごめん。君があまりに必死過ぎてつい? 半分は自分の説明不足に対する自嘲だ。気にするな。」
じとりとした目でユウは彼を睨みつける。まだ微かに笑っていたソラは咳払いをし、気持ちを切り替えた。
「じゃあ、先ずはこの世界の簡単な説明と、この国について説明しよう。オレの出来る範囲でわかりやすくな。言葉足らずな所があるかもしれないが、疑問は全て後回しにしてくれ。」
「わかった。よろしく頼む。大まかでいいから、この世界の仕組みと成り立ち。それにこの国の法律とかも教えてくれ。やってはいけないことってやっぱあるんだろ?」
「あ、そっか。それも教えなきゃいけねェのか。…毎度のことながらメンドクサイな、まったく。」
後半のボヤキはぼそりと呟かれたが、俺の耳にはよぉく聞こえた。
「なんか言ったか?」
「いや? じゃあ始めよう。」
睨みつけるとヤツはとぼけた笑みを浮かべ、話し始めた。
「まず、この世界に名はない。正確にはあるのだろうが、それも仮称でしかない。この世界は未だ未完成で、唯一共通していることは物語か書物に関する名が毎回つけられている事。故にオレたち古から続く月夜の者と、他国の一部の者達はこの世界をこう呼ぶ。“名もなき書物と物語の世界”と…。」
厳かに目を伏せ、ソラは告げる。「未完成の世界…。“名もなき書物と物語の世界”…。」と、ユウは噛み砕くように復唱した。
「まあこれも通称だ。確か、創造主が決めた今の正式な仮称は“ビブリア”…なんだったかな? 忘れた。百年に一度くらいの周期でころころ変わりやがるから、オレにもわからない。多分、この世界が出来上がった時、名前が判る。それは同時にこの世界の終わりの時だろうけどな。」
「何故だ?」
「この世界が出来上がるとき。それは創造主たる“ノア”が物語の筆を置き、死に絶え、神々とオレ達世界の管理者である“月を持つ者”の寿命が尽きる時だと言われているからだ。世界が進化を止めた時、世界は滅びる。な? 理に適っているだろう?」
そういって、ソラは自嘲気味に哂い、湯呑に残ったお茶を飲み干した。すぐに次を足し、言葉を続ける。
「この【月の国】月夜国は、国としてはこの世界、最古の歴史を持つ。この世界が何時産れたのかはもう、定かではない。だけどこの国が真水の海に浮かび上がったのが何年前かは覚えている。約五千年以上は昔、七千年よりは前のことだ。創造主たる“ノア”という少女が居た。彼女は一匹の黒猫を創り、自分の分身とした。」
「神話か?」
クスリと笑ってソラは答える。
「今となってはそう呼ばれるのもおかしくないか。そう、神話だ。なにせこの世界の神々が産れる前の話。その時代にこの国は――国となる前の集落だが――この島、『月乃島』は産れた。少女が己が分身となった、後に自殺を止める命綱ともなる一匹の黒猫の為に作り上げた世界なんだよ。もともとこの世界は、彼女とその猫の為に創られたんだ。…――」
まるで見て来たかのように、朗々と話す天津空の声にユウは吸い込まれるようにして聞き入った。外見12程の少年が話す内容と言葉ではないと思うし、彼の目が、雰囲気が、話し始めてからまるで、何年も生き続ける隠者の如き者に代わっていたとしても、ユウは彼の巧みな話術に聞き入っていて気にならなかった。
「――…この世界は三つの大国を軸にして出来ている。我ら【月】と【夜】を冠する多数の種族者たちが集う【月の国】月夜国。その我が国、月夜国の次に古い歴史を持つ隣国、医療と学問の都があり、【陽】を冠する民を祖先とする人間たちが集う【陽の国】太陽国。そして砂漠とオアシスで出来た世界随一の国土と大陸を持ち、【闘星の民】と呼ばれる種族の子孫が集う愚かな戦馬鹿の国が、【星の国】星砂国だ。」
ソラは最後の“星の国”に何か恨みでもあるのか、そこだけ吐き捨てるように言った。自国と隣国の太陽国のことを話すときは、笑みさえ浮かべていたのに随分な違いだ。至極忌々しそうに呪いの言葉すら吐き出しそうな雰囲気であった。
「なあソラ、星の国ってどういうところなんだ?」
だから俺は逆に興味を持った。その星の国とやらに。
「ああ゛? …やめとけ。あの国には関わるな。外国人も異世界人もあの国だけは入っちゃなんねェ…っ! 入ったら最後、運が悪ければ出てこられない。奴隷になるか、死ぬか、有り金剥ぎ取られるか、とりあえずロクな目に遭わないのは確かだ。正気ならあの国だけは旅行でいこうと思うな。」
ソラは噛みつかんばかりの勢いで俺に釘を刺す。その眼は怒りと悲しみに満ちていた。どうやら昔何かあったらしい。しかもその根は深いようだ。これ以上彼に“星の国”について訊かない方がいいだろう。そんなことを考えていると彼は表情を一転させ、穏やかな口調で言葉を紡いた。
「オレのお勧めは“陽の国”太陽国だ。あそこはいい。平和で幸せに満ちていて、住民たちが温かい。何よりも子供たちが笑顔に満ちている。それにあの国には、この国の国王夫妻の血縁者がいるんだ。…機会があったら行ってみるといい。」
さっきまでの怒りが嘘のような穏やかさだ。それだけ彼が“星の国”を嫌っているということなのだろう。俺は彼の迫力に押されながら、素直に頷いておくことにした。
「お、おう。機会があったらな。星の国については……肝に銘じておく。」
奴隷化も、死ぬのも、無一文になるのも、御免被りたいからな。
「ああ。話を戻そう。この世界は【月】と【太陽】と【星】を冠する三国を軸に創られているが、この三国、実は三神の姉弟神たちがそれぞれ一国ずつ守護しているんだ。」
「それがどうした?」
ユウは胡乱気に眉をひそめた。
「まあ、うん、そういう反応だよね。でも、この姉弟神たちの関係が国の関係に直結しているとしたら? この世界が、神様方と直接会って、話せて、触れ合えることが出来る世界だとしたら? ちょっとは聞き方が違ってくるんじゃないか?」
ユウはソラに話を続けるように促す。
「まず、この国の、月夜国の守護神はアルテミスという女神で長子だ。月を守護する実験魔。弟たちを実験台にしていろいろやったり、下界の人々を実験に使ったり、やり過ぎて創造主ノアにお仕置きを喰らう話が有名な神だ。ここまではいいな?」
ソラは確認を取り、話を続ける。まだ先が見えない。
「隣国、陽の国の守護神はソルスという太陽と医療を司る男神で、かなりの苦労者。アルテミスの双子の弟だ。生まれた時から姉に実験台にされて死にかけ、必死の思いで医療を修めたという逸話の持ち主だ。御人好しで義理堅く、優しい性格の男。姉の頼みを断れず、逃げてもつかまり、ずるずると一緒に居続けるという…そんな話が残っている。で、長々と話したけど、この国の守護神と隣国の守護神は双子のためか、なんとなく仲が良く、姉は下の者に基本的に無関心なんだ。」
「で、この国も隣国と仲はいいが、基本的に無関心とそういうわけか?」
「そうそう。で、憎たらしい星の国の守護神は、外見だけ上等な馬鹿の戦神アルス。姉に邪険にされていることも気づかず、自ら実験台になったり、兄に対して勘違いしたり、嫉妬心を抱いたりする阿保馬鹿な神だ。姉至上主義っぽい困った構ってちゃん的な?」
「…なんかひどくね?」
「事実だ。本人は真正面で言われても、嫌味に気づかないくらい馬鹿な能天気筋肉野郎だから、大丈夫だ。」
(大丈夫なのか星の国。そんなのでいいのか?)
ユウは“星の国”星砂国の在り方に疑問を持ったがそっと心に仕舞い、話を進めることにした。
「それで? ここも神々の関係と同じように、星の国は他の二国と仲が悪いという訳か?」
「そういうことだ。我が国は“無関心”なだけだが、たびたび戦を仕掛けられている太陽国とは仲が悪い。これがこの国と隣国との世界情勢だ。
ちなみに、この月夜国は多種族国家の王制で連盟制政治。
お隣の太陽国は律令制政治の王国で人間の国。
世界で一番の大陸を持つ星と砂の国、星砂国は貴族と皇族、そして一部の特権階級主体の世襲政治で、強権皇帝国家の宗教国家。戦馬鹿とでも覚えておけばいい。」
やっぱり星の国に対して、ソラの説明の仕方が投げやりだ。その部分だけ目が半目になり、声色が低く変わっている。とりあえず、話は大部分理解したので先に進めてもらうことにした。これ以上星の国のことを話題にするのはヤバい気がしたからだ。主にソラの機嫌が悪くなるという意味で。
ソラは紙を取り出した後、そこに太陽と月と星を模した大まかな地図を描いた。見るとトライアングル上に三つの大国が並んでいるのがわかる。南の方角にデカデカと星の国が描かれ、その下、海を隔てた下に並ぶようにして、太陽と月が同じくらいの大きさで描かれている。言葉で説明されるよりも図案化された方がわかりやすい。
「簡単に世界を描くとこうなる。他にも国や島はあるが、基本はこの三国だけで十分だ。まず“客人”と呼ばれる異世界人だこの三国の他に行くことはない。手段もほぼないに等しいからな。」
ソラは紙に細かい図柄を少しずつ書き足しながら告げた。
「へぇ~…。」
ユウは感心の声をあげ、図を見る。動物や町の様な物、塔などが書き足されていく。上手い…。そして早い。海に海賊船ぽいものや、島が書き足された。一旦そこで鉛筆が机の上に置かれる。
「さて、ここまではこの国の七つの子供でも知っている事。ここまではいいな? いいよな? 良かったら次はいよいよこの国について話すぜ?」
「整理するからちょっと待て。」
「わかった。ちょっとだな。百数える間だけ待ってやる。」
「そんだけかよっ!?」
「じゃ、五十。」
「短っ! 百でいい百で。だから待て。」
「了解。」
ソラは机に突っ伏すようにして鉛筆を持ち、また書き足し始めた。彼が心の中で百を数える間、ユウは頭の中を整理するのでした。
はい、半分です。後篇に続きます。
先日投稿した話を、分割した感じになります。雰囲気的には。
世界説明って、口下手の言葉っ足らずなめんどくさがりやの気まぐれ屋には難しいですね。
今回、地味に伏線を数か所設置。地味~な、地味~な伏線。
お次は“月の国”月夜国と種族についてです。
特殊用語というか、専門用語的なのが多くてごめんなさい(?)
謝罪と感謝を述べます。ありがとう。
さて、お次を書かなければ。(シュバッ…!)




