閑話 オフィスより
いつもいつも遅くなって申し訳ないです………
「―――報告は以上です」
『そうか………これまでに見つかった死体が八体、うち一体は例の惨殺体か。参ったよなぁ正直』
「神殿での襲撃者については身柄を確保していますが、教会の手の者と見て間違いは無いかと」
『だろうな。奴等にとって"彼"は邪魔者だしよ……だが、引っ掛かるのは昨日のアレだ』
「変異型怪物の大規模異常出現、そしてヒトのみで構成された所属不明の武装集団。―――精々が警備用の私兵を持つ程度の教会が扱いきれる物とは思えません」
『だろ?こりゃあグレーっつうのも憚られるレベルのドス黒さだ。ぶっちゃけ外交問題レベルだな』
「となるとやはり……?」
『ああ。九割方"ヤツら"が絡んでると見て間違い無い。しかもかなりタチの悪いやつらを寄越しやがったらしい。―――あぁクソ……人間至上主義の馬鹿どもめ』
「…………」
『で、尋問の調子はどうだ?』
「駄目です。全く喋りません」
『まあ想定内だな。じゃあ奴等は地下牢にブチ込んどいてくれ。あとの料理はウチの者がやる』
「了解しました。――――ところで"彼"については?」
『教会は今回の一件ででかい顔が出来んだろうから神社……と思ったがそれは無理だ。彼にその意図が有ろうが無かろうが、神社が急激に力をつけることになるからパワーバランスがな』
「であれば、国ですか?」
『それしか無いな。見た限り市井に放しておくのは危険だしよ。―――色んな意味で』
「…………」
『それに彼の能力も野放しにしておくには惜しい。俺個人としては昨日の事もあるし申し訳ない限りなんだが、"我が国"としては願ってもないチャンスだ』
「……それは、彼の立場を理解された上でのご判断ですか?彼は」
『まあ待て、俺を教会の連中と一緒にするんじゃねえ。世界のルールだか何だか知らねえが、俺らは彼らにわざわざ来てもらってる立場なんだろ?本当は必要もねぇのに。―――それもこっちから呼び出しといて、手違いでしたので用無しですさようならーってのは………なんつーかマズい。相手が相手だけに』
「確かに。教会の連中は見くびっているようですが……いくら"傍観の戦神"とはいえ、手を出されれば―――」
『……例の死体よろしく五体バラバラになりかねん、か』
「はい」
『ふーん……』
「………」
『………』
「では、彼の処遇は」
『ああ。議会で決めた通り、一応我がレガルド王国に居て頂く。そして本人に説明した上で可能な限り情報を秘匿しろ。もう知ってる奴らは仕方ないが、本人を特定できる情報が大々的に流布する状況は好ましくない。せいぜい噂程度に留めるんだ』
「了解しました」
『では俺からも以上だ。頑張れよ。―――"ミーシャ中尉"』
「はい。それでは"陛下"」
『うーい』
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受話器を置き、チンッと小さくベルの音を響かせて電話を切ったミーシャが溜め息を吐く。
ダークエルフとして100年余りの時を生き、そのほとんどの期間で軍に仕えてきた自分にさえ、こんな事態は初めてだ。まさかこの世界において、ひとりの神族―――それも最高位の神族の一柱の存在を『いないもの』にしようというのだから。まあ、すでに今の時点で完全な秘匿は不可能になってしまっているけれど。
「あの方も運の無いお方だ……」
召喚された神社では侵入者と間違われた挙げ句砂漠の真ん中のダンジョンに飛ばされ、何とか辿り着いた王国では命を狙われ、更には片腕までをも千切られた。
運が悪いというよりも、これではあまりに不憫である。不憫なのに、更にこれから此方の都合を押し付けなければならないのだから、余りの申し訳無さと何もしてやれない無力感に涙が出そうになる。
何でもいいから、せめて何かしてやれないものか。
そんな事を考えているとふと、きのう彼がアイスクリームを美味しそうに頬張っていた事を思い出した。
(では私から、せめて手土産でも)
紙幣を十数枚財布に入れながら、この程度の事しかできない自分と、この程度の事で提案を飲んでしまいそうな彼に苦笑する。
苦笑しながら、窓の外に視線をやる。
レガルド王国中央情報省のガラス越しに見た空は、雲ひとつ無い快晴であった。




