1話 転移完了
どうもです。暇ができたので休日を待たずに投稿!
最近弐千円札を入手してテンションが上がった安上がりな作者です。
今回、やっとクロが下界に転移します。
※2015年1月3日改稿しました。
「う゛ぁ゛……」
どうやら気絶していたらしい僕は、脳味噌に直接響くような気持ち悪さで目を覚ました。
「き、気持ち悪い………」
今の気持ち悪さをたとえるならば、さしずめブルーベリージャムとザラメ砂糖を大量に混ぜ込んだ納豆を一気に掻き込んだ時のあの感じ・・・と言ったらわかりやすいだろうか。……逆に分からないって?まぁ、とにもかくにも気持ち悪いんだ。
とりあえず、寝転んだ姿勢から上体を起こそうとして手を後ろにつく。
むにゅ。
「………」
ん?
なんだ今の感触?な、なんだか柔らかかったぞ?
おそるおそる後ろを振り返ってみると、
「なるほどなるほど。マスターは何ですかな?気を失っている相手に対してそういう痴漢紛いの行為をするような性癖の方だったのですか。いや、まったく失望しましたねマスター。そもそもマスター、最近そういう行為のことを―――」
……あぁ、何だ。
もう既に人間の女の人の姿になっていたジルの胸に手を突いてしまっただけだった。
いやいや危ない。首とか突いてたら僕の命が無かった。
「―――ですからねマスター。あなたには今一歩デリカシーというものが欠けていまして……って、ちょっとマスター聞いてますか?」
しかし、ジルって人間の姿になると、ものすごく美人であることがよく分かる。
切れ長な目にスッと整った鼻筋、薄い唇。
小柄な僕よりも頭ひとつ分高い背丈の腰の辺りまで流れるようなさらさらの黒髪は、頭の後ろで一つに纏められていた。
えーとあれだ、いわゆるポニーテール。
服は細身のパンツスーツを着ていて、服の上からでもその細い腰つきとかがよくわかる。胸は……あるほうなのかな?メグル姉よりはあるのは当然だとして、まあ普通ぐらいか。
……おっと、いけないいけない。『セクハラは死刑』、ジルの恐ろしき過去の名言だ。神界でも何人か半死半生の目に遭ってるからきっとマジだ。
「もしもーし?……あ、そうでしたか、マスターはあれですか、所謂セクハラ上司というやつですか。納得ですねぇ」
「せ、セクハラ?!いやジル待って、今のはセーフ!セーフセーフ!不可抗力!ノーカン!セクハラ即死刑ダメ絶対!!」
割と本気でそう言ったら、
「は?死刑?何ほざいてるんですかマスター。ついに脳ミソが崩壊しましたか?そもそもマスターが死ぬことってあるんですか?まずはそこから疑問なんですが。あ、そうかマスターはもう老化が始まって記憶が」
す、すごくバカにされてる。
仮にもジルって使い魔なのに……マスターは僕なのに……何故このような仕打ちを……?しかも使い魔から……。
かたや、下界に来て早々に凹んで、つとめて何も考えないようにする僕。
かたや、後ろで普段はあまり感情の出ない顔に愉悦の表情を浮かべながら相変わらずネチネチと僕のガラスハートを弄び続けるジル。
それだけ見れば、ただの毎日の光景なんだけど。
――――ここどこ?ほえぁーいずでぃすぷれーす?
見慣れない、板張りの床にから目を上げると目に入るのは、漆喰っていうんだっけ?独特の質感のある白い壁。
よく見ると、天井も木が組まれてできていた。窓にガラスはなく、代わりに頑丈そうな太い木製の格子がはめ込まれている。その窓からはこの建物の周りを取り囲んでいるのであろう、鬱蒼と茂った木々が見て取れた。
正面には、鋳鉄製の金具が取り付けられた重厚、かつ頑丈そうな扉。何度か試しに押してみたけど全く動かない。たぶん外から鍵がかかっているんだろう。
でもここまで厳重に封鎖してあるというのに、建物の全体によく手が行き届いていて、木の葉はおろか埃ひとつない。定期的に掃除でもされているのかな?
(こんな建物、天界には東方の神々の領域ぐらいにしか無かったなぁ……)
と、そこまで考えてやっと気づいた。
この建物は東方の、更に言えば日本っていう島国でよく見られる神社の感じに良く似ている。というより、日本式の神社そのものだ。
後ろを振り返ると、僕の丁度後ろにやや小さな祠のようなものがあり、そこに『ご神体』なるものが収められているようだった。
とりあえず、武神である僕が神界から転移すると、自動的に武神が祀られている『神社』に出口が開くそうなんだけど、
転移陣を用意したのが、あのメグル姉だからなぁ……。
正直どんなことが起こってもおかしくない。
というわけでその神社が祀っている、僕たち高位神それぞれの象徴を象ったご神体を確認し、ちゃんと自分の祀られている神社に転移できたか確認しておくことにした。
そして善は急げと、座った姿勢から立ち上がって祠についている縦40センチほどの小さめの扉を開けようとしたところ、
ガチャガチャガチャ!!!
「!!!?」
唐突に、正面にあったあの頑丈そうな扉から金属音が鳴り響いた!
「ん、迎えの者ですかね?それにしても遅い。礼儀ってのがなって無いんじゃないんですかねぇ?」
って、なんでジルさんそんなに平然としてられるんですか。
でも迎えの者?にしては開け方が余りに乱暴すぎる気がするんだけど……。
と、ふいに止んだ金属音。
そしてここで疑問がまたひとつ。
(外から鍵、掛かってんじゃないの?)
さっき内側から扉を押してみたときはビクともしなかったんだし、それに内側に鍵らしきものが見受けられない。魔法で封じた形跡も内側には無いし、まあ何にせよ外から見ないとわかんないや。
そういえば、さっきしていた音は開錠するというより、鍵を引き千切ろうとするような音だった。……慌てているんだろうか?
外からの音も無いのでしばらく考えを巡らせていると、ふいに扉の外から
『アンロック!!』
少女らしい声が聞こえると同時に、微量ながらも魔力が一点に集まるのを感じた。
アンロック。その名の通り、自身の魔力を使ってロックされた鍵や錠前などを解錠することができる魔法。放出された魔力に含まれる、発動者固有の波動を読み込む形式のために大量に魔力を必要とせず、あまり魔法に適正がない人でも使える事から日常的に錠前代わりに使われている魔法だ。
やっぱり外側から魔法でロックされてたんだな。納得。
ロックが解かれ、鋳鉄の重厚な扉がゴトンとわずかな音を発した。
と、それからほぼノータイムで扉が勢い良く開け放たれ、
「こんの……無礼者おッッ!!!!」
―――何と、長刀を構えた巫女装束の少女が突入してきた。
(ハッ、この人メグル姉に似てる―――主に胸が!!)
そう思った瞬間には、振り下ろされた長刀の峰が僕の脳天を正確に捉えていた。
南無。意識がどんどん薄れていく。
意識が完全に失われる直前、ちゃっかり巫女さんが突入してくる前に元のカラスの姿に戻っていたらしいジルが『あら、マスター弱いですねぇ』なんて言ってるのが耳に入った。
いや待てよジル、お前使い魔だろうよ。マスター守れよおい?
けっきょく僕は、この日3回目となる気絶を経験したのだった。
ちなみにジルはちょっとしたSです。
そういえばクロはこの時点ではまだ何も能力を使ってませんね(汗
早いとこ使ってもらわねば。
※ご意見、ご感想などございましたらどしどしお寄せください!