1話 混沌の朝、偏屈な武器屋さん
何度も遅れて申し訳ありません。今回も長めです。
―――夢を見た。
いや、正確に言えばそれは夢といえるほどの物でもなかったかもしれない。
映像は無く、目くらになったかのようにただ声だけが聞こえるおかしな夢。
『クロ様、クロノミコト様。アあ、私はなんと幸せ者なのでしょウか』
聴いたことがあるような、ないような。
陶然とした感情をにじませた声でささやきかける声の主は、はたしてこれまで出会った数々の存在の中にいただろうか?
『邪魔者もイない、呪縛も無い―――ナにより、このセカイの環境が素晴らシい』
低い、落ち着いた、女の人の声だ。
邪魔者?呪縛?セカイの環境?
言っている事の意味が、わからない・・・・。
『クロ様、貴方が私ヲ解き放ってくださル時はそう遠くはありマせん』
僕が、解き放つ、日?
何だ?声にノイズが混ざってきて・・・?
『ソれマデ、どウか。ココロマちにしてオイテクダさイね』
声が、急速に明瞭さを失っていく。
待って。あなたは誰で、どうして僕の名前を知っているの?
『じキニ、ワかリマスヨ・・・・・・』
謎めいた言葉を残した声は、暗闇に溶けて・・・消える。
待って。まってくれ。嫌な予感が、どうにもぬぐえないんだよ・・・。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・
「ねぇ、待って!・・・・あれ?」
目が覚めた。
ふかふかとしたベッドの上、横向きになって寝ていたみたいだ。
カーテンの隙間からは薄いグレーの太陽の光が差し込み、夜明けが近い事を教えてくれた。
「変な夢だった・・・うわ、寝汗がすごい」
短かったくせに、さっき見た変な夢のせいか寝汗をびっしょりとかいてしまっていた。うう、汗が冷えて寒い。気持ち悪い。
(ええと、井戸か水道の場所はどこだったっけな)
そこまで考えてふと思い出す。
そういえば、昨日はヒタキさんに連れられて宿屋に泊まったんだっけ。
で、夕食の途中に寝てしまって、部屋まで運ばれて・・・・ってなにそれ恥ずかしい。
(後でヒタキさんにはお礼を言っとかなきゃな)
とりあえずちょっと申し訳ない気分になりつつも、僕を抱きしめて寝ていたジルを、無駄に慣れた体さばきで起こさないように振りほどいて、静かに部屋から出て行った。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
廊下に出ると、階下から美味しそうな匂いがただよってきた。どうやらもう厨房で朝食の調理が始まっているらしい。
そのままふらふらと、匂いにつられるようにしてまだ薄暗い階段を下りる。
1階までおりると、まだ明かりの点いていなくて薄暗いロビーのカウンターの中でチャコさんがせわしなく動き回っていた。
テーブルを準備しているのかな?エプロンをかけて、片手にふきんを持ってせっせとテーブルを拭いていた。
「おはようございます、チャコさん」
あいさつすると、こっちを振り向いてちょっと驚いた様子のチャコさん。あれ、なんかファンタスティックな寝癖でもあったかな。
頭に手をやって触ってみる。うん、大丈夫だ。なんともない。
「おう。おはようさん。・・・どした?やけに早起きじゃねぇか。まだ4時半だぞ」
「4時半・・・普段ならあと1時間は寝てますね」
「へぇ、それでも早起きなのな。んで?うちのベッドの寝心地がお気に召さなかったとか?」
「いえいえ、とんでもないです。ジルに抱き枕にされたのを除けば最高の寝心地でしたよ・・・・ただ、ちょっと変な夢を見て」
「変な夢?」
怪訝そうな顔で聞き返してくるチャコさんだけど、あいにく僕にもあの夢の正体はわからない。
ただなんとなく、『夢であって、夢ではない』ような。僕にもはっきりとはわからないけど、何かもっと別のもののような気がする。
「夢ねぇ。神様でも夢なんて見るんだな?」
「そりゃそうですよ。知りませんか?僕ら高位神たちは人間の『オリジナル』なんですから」
「ん?・・・ああ、うん。知ってるけど覚えてない」
なんじゃそりゃ。
けっこうポピュラーな話だと思ったんだけど・・・。
「まあ、後でヒタキにでも教えてもらうとするか。で?どうすんの、それ」
「それ?」
「寝汗。・・・コート脱がされててよかったな。裏手に井戸があるから、体を拭くついでにシャツも洗ってきなよ」
「裏手ですね。助かります」
手伝いを申し出るチャコさんにやんわりと断りを入れつつ裏手に出る扉に向かい、外に出る。
着替え用として何枚か同じシャツを持ってきていてよかった。異次元ポケットから1枚取り出し、替えの下着とズボンも着替え用においておく。
井戸の水をくみ上げるのは、何とも意外な事に手動式ポンプだった。テコみたいなレバーを繰り返し上下させて水をくみ出すアレ。非常にらくちんでよろしい。
まず服を脱ぎ、借りておいたタライにいったん水を張って、手おけを使って頭から水をかぶる。
「ぬおっ、冷たっ!!」
うぎゃ!しまった、油断してた。
1年を通して温度が一定な井戸水が、ダイレクトに僕にその温度を伝えてくる。・・・わ、鳥肌すごい。体が震える。
我慢して、何度か水をかぶって汗を洗い流す。うおぉ・・・!寒い、寒すぎるぞ!!
「ぬ、ぬおおおおおおお」
悶絶しながらも、体を乾かすために魔法を唱える。
あれ、そういや魔法で体を乾かすなんて初めてのことじゃないだろうか。詠唱は・・・寒いし、もう適当でいいや。
「わ、『我が欲するは・・んと、風!風神の風よ、わが体を・・・体を・・・・乾かせ?』」
刹那、一陣の風が僕の体に吹き付ける。
その風は体表の水分を残らず吹き飛ばし―――
「・・・・・・へくしっ!」
水がついてるところに風が当たれば寒い。
よく考えてみたら当たり前の事じゃんか。ちくせう。
・・・・・・・・・
・・・・・・
「へぷしっ」
「何やってんだよ・・・ほい、ココア」
「ううっ・・・すみません、いただきます」
毛布に包まりながら、ロビーのテーブルで温かいココアを入れてもらっていた。
朝の厨房はチャコさんのお父さんが担当してるので、チャコさんは丁度フリーな時間帯らしい。
僕の対面に座って、ココアと毛布を提供する条件として僕から借りた山刀を手にとって眺めている。ちなみに太刀のほうは遠慮してもらった。何が起こるかわかったもんじゃないので、今も腰のベルトにはさんだままだ。
「へぇー、こんなの伝説の武器だなんて・・・見た目で判断してるとイタい目見るなこれは」
「とはいっても、攻撃力が高いとか魔法的な属性がついてるとか、そんなことはないんですけどね」
実際、いくら酷使しても壊れないってだけのことだし。
・・・まぁ、ジルが剣を使うと1日とたたずに壊れてしまうから、経費削減という点ではものすごく役に立っていることは間違いないんだけど。
「ほぇー・・・切れ味とかも気になるけど、さすがにここでやるわけにもいかないな」
「また貸してあげましょう。まぁ、大体のものなら力技で斬れます」
「へえ。大体のもの、ねぇ」
「ジルがこの前、大砲唐竹割りに成功したとか言ってましたけど」
「・・・!!?」
鋳鉄製の・・・なんだっけ、臼砲?
あれを地面に突き立てて力任せに斬っていた。正直、そこらへんに斬った大砲の砲身が転がってて邪魔だったな。
「おや、マスターにチャコ殿。おはようございます」
そんな感じで雑談をしていると、ようやく目が覚めたのかジルが階段を下りてきた。
服装は昨日っていうかいつもと変わらないパンツスーツ。なんであのスーツ一式はアイロンもかけてないのにクタクタにならないのか。永遠の謎だ。
「ジル、おはよ」
「おはようございます、マスター。その毛布は何です?」
「ああこれ?ちょっといろいろあってね」
苦笑しながらそう言うと、なにやら納得したようにジルがふんふんと頷いた。
・・・・何だろう、嫌な予感しかしないんですが。
「なるほど、つまりその毛布の下は全裸と。露出狂ですねわかります」
「いやそれ絶対違う!」
「チャコ殿、朝食を所望します」
「スルーしないでね!?」
「毛布の下は全裸。ふむ、考えてみれば中々そそりますね」
「あぁできればそのネタはもうスルーしてほしかった!!」
なんなんだこの会話。ぜったい朝一番にする会話じゃない。
というか使い魔が主人に使うような言葉じゃないよもうやだこの使い魔。
チャコさんが苦笑しながら僕とジルの朝食をとりに厨房へ立ったとき、急に真面目な表情になったジルが急に僕に顔を寄せてきた。
「・・・・マスター。昨日の神界への連絡の事で、少し」
「ほえ?・・・あぁ、聞こうか」
昨日僕らが神殿に行ったとき、神社トップのリンドウさんから告げられた「このセカイを管理する神はもうすでに召喚されている」という衝撃情報。これすなわち僕が下界に降りてきた意味を全否定する情報でもある。
ジルには神界に情報の確認をしてもらうと共に判断をあおいでもらい、僕は実際に召喚されたというアテナちゃんに会って事実の確認をした。
そのときアテナちゃんから聞いた、どうにもきな臭い情報の事もある。神殿の陰謀とやらで神が召喚されたとか、何の冗談だって話。
「キザミ様、ミササ様にお話を伺ったところ、神界でもつい昨日キャッチできた情報だそうです。詳細は確認中との事ですが神殿側、もといブルファット司祭の仕業と見て間違いは無いかと」
「・・・そう」
数週間前に意図的に召喚され、昨日まで神界の高位神ですらあざむく強固な隠蔽工作で隠されていた事実。
それはまるで、僕がこのセカイに来る事をあらかじめ知っていたようなタイミングで―――
「少なくとも、イレギュラーな事態には違いありません。神界でも、アテナ殿が管理していたセカイの消滅を確認したそうです」
「ふぅん・・・・」
―――どうやら事態は、僕らが思っていたよりも深刻なのかもしれなかった。
チャコさんが僕とジルの朝食がのったプレートを両手で持ってくるのをぼんやりと見ながら、このあと取るべき行動について思いをめぐらせていく。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・
ちょうど、僕とジルが朝食を食べ終わったころだった。
「おはようございまーす」
「あ、ヒタキさん!」
「あら、クロちゃんにジルさん。もう起きてたんですね」
出入り口のドアが開き、誰かが入ってきた・・・と思ったらヒタキさんだった。今日も昨日と同じ巫女服を着ている。
僕らに気がつくと、さっきチャコさんが座っていた僕らの対面側の席に座り、壁にかけてある時計を見ていた。
「ずいぶんと早いのね。冒険者なんてまだ一人も起きてきてないじゃない」
「そういえばそうですね。まあ、あんまり遅く起きるとヘリオスおじさんに心配されちゃうので」
「ヘリオス・・・太陽神?」
「心配性なんでしょうね。いっつも下界ばっかり見てるんですよ」
「へぇ、こう言っては何だけどすごくいい神様じゃない」
「・・・銭湯の女湯ばっかり見ては娘さんたちにボコボコにされてるって情報もありますけど」
「ごめん、最後の情報は要らなかったわ」
何でも娘さんたち7人がかりで数時間にわたって折檻するんだとか。
寝坊の現場に駆けつけるのも神界では有名な話で、実際に被害にあったニュクス姉さん(寝坊常習犯)によると、おじさんが寝室に4頭の神馬に引かせた戦車で突っ込んできたので、とりあえずボコボコにして娘さんたちに引き渡したとのこと。うーん、なむなむ。
「と、ところでクロちゃん。今日はちょっと街の案内でもしようかと思うんだけどどうかな?」
ヒタキさんが若干、顔を引きつらせながらも話しかけてくる。
街か・・・うん、昨日はちょっとだけ馬車で街道を走ってギルドに入ったぐらいで、まだこの街のことなんてまったく分からないから正直にありがたい。
「いいですね。楽しそうです」
「じゃぁ決まりね。何か買いたいものとか知りたい事はあるかしら?」
「ええと、まだ具体的にはないですね。街を歩いてるときに何かあったら言いますよ」
「了解。じゃぁ何もなかったら今からすぐ行きましょうか」
「はーい」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
僕らの朝食の食器を片付けたあと、みんなで外に出た。あ、今日は晴れだな。抜けるような青空が気持ちいい。
ちなみにジルはさっき、『案内してもらうよりは自分で見たほうが早いので』なんて言って飛んでいった。もちろんカラス形態で。
そういうわけで『地上組』は僕とヒタキさんと厨房から抜け出してきたチャコさん。チャコさんは、厨房用の制服から茶色っぽいジャケットとブルージーンズに着替えていた。
「それじゃまずは商業区・・・北側に行ってみましょうか。近いからすぐ着くわよ」
「了解でーす」
僕たちが今から向かう商業区というのは通称で、正式には『計画整理区画北部第1商業奨励区域』・・・とか言うらしい。もう商業区でいいや。
税金とかが優遇されるらしく、個人の商店や様々な露店、大規模商会の支店などが寄り集まった区域だそう。
さまざまな種類のお店が集まる商業区では、日用品から武器防具まで、お金さえあれば何でも間違いなく手に入る。
「だいたいの宿屋の仕入れとかもあっちでやることが多いし、冒険者とか旅行者もあっちに行っていろいろと買い込むことが多いな」
「チャコさんのところでもあっちで仕入れを?」
「まぁ臨機応変にだな。そこらへんの市で買うこともあるし、商業区の店に行って買うこともある。モノ次第だよ」
「ほえー・・・」
いろんなことをチャコさんとヒタキさんに聞きながら15分ほど歩くと、やがて活気にあふれた大きな通りに出た。
人通りも、今まで歩いた通りとは比べ物にならないほどに増えて、背が低い子供ならばすぐに迷子になってしまいそうなほどだ。・・・え、僕?子供じゃないから大丈夫だよ?ふ、ふん。何を言ってるんだか。
「今日も相変わらず盛況ね。でもやっぱり休日に晴れると人通りもすごいわ」
「だな。よしクロ、迷子にならないように手でもつなごうか?」
チャコさんはちょっとからかうように手を差し出して聞いてくるけど、僕としてはけっこう重要な問題かもしれないので真剣にお願いして手を握る。
ん?もう子供じゃないんだろって?・・・いや、これは後でジルにからかわれないための苦肉の策であって・・・その、うん。ごめんなさいでした。
「うわすげぇ、あたし神様と手をつないでるよ」
「とてもそうには見えないけどねー・・・。よくって姉妹かしら」
「だから僕は女じゃないですよっ」
「「あ、そうだった」」
二人そろって忘れていたらしい。ひどっ。もうグレてさしあげようかしらん。
でもグレたところでジルにからかわれるタネにれるだけなのでやめておこう。小心者と笑う事なかれ、ジルに一日じゅう粘着質にイジられてれば誰だって間違いなくトラウマになるから。
「え、えへへ、えっと、その、クロちゃんは何か気になるお店とかあるかな?」
「むぅー・・・そうですね、じゃぁ武器屋さんとかでしょうか」
「お、おお。さすがは武神サマ。男らしいねぇー!」
「いや、男らしいってのもちょっと」
「どうしろと!?」
まぁ武神だからってのも抜きで武器屋さんは気になる。このセカイではどんな武器が発展しているのかってのは普通に気になるし。
「武器屋だったら・・・そうね、『ギュルザ武具銃砲店』でどうかしら」
「おー、最初から難易度高いな。うん。楽しくなりそうだ!」
「・・・?」
なぜだか、とたんにうきうきし始めたチャコさんとヒタキさんに引っ張られて、いまだ人通りが増していく大通りを進んでいった。
あれ、やっぱり嫌な予感しかしない。なんでだ。
・・・・・・・・・
・・・・・
「到着ー!」
大通りから少しだけ外れた裏通りに入った場所まで引っ張られた末にたどり着いたのは、周りの石造りの建物からは明らかに浮いた、赤レンガと石材の合わせ技・・・とでも言うべき大きな建物。
はじめからそういう風に立てたというよりは、石造りの建物にあとから赤レンガで補修や改装をしていったらこうなった、って感じかな。
開け放たれた分厚い木製の扉の上には、ただ『ギュルザ武具銃砲店』と書かれただけの何の装飾もない小さな看板がかけてある。
立地条件とその佇まいがあいまって、なんとなく人を寄せ付けないような雰囲気があった。
「ここが・・・武器屋さんですか?」
「そうよ。王国一の腕と知識をもつギュルザお爺さんのお店。立地はこんなんだけど、すごいんだから」
「へぇー」
知る人ぞ知る名店?いや、でも王国一の評判ってことは有名なのか。ううむ。
「よっし、じゃぁ入りますか。・・・おーい、爺さーん!生きてるかー!?」
それは無いんじゃないの、っていうあいさつと共にチャコさんが店に一歩足を踏み入れた。
と、そのとき。
ガチャッ・・・ビンッ、カツッ、ビンッ、カツッ!!
「うお、危ねっ」
チャコさんが踏み込んだ床がわずかに沈み、それがスイッチとなって作動した仕掛けから矢が放たれた。
2本の矢は直撃コースとまでは行かないものの、けっこうチャコさんの体すれすれのところを飛翔して壁にかけられた的へと刺さっていく。危ないなぁ・・・当たったら怪我するだろうに。
でも、それでもなぜかチャコさんは涼しい顔のまま。
「爺さん、生きてたんなら声で返事しなよって。ボウガンを再装填するよりは体力を使わないで済むぞ?」
「・・・フン。その程度のトラップを見抜けん奴にウチの武器を買う資格は無い」
意外にもほとんど物が置かれていない狭い店内の奥にあるカウンターから聞こえてきたのは、しゃがれたお爺さんの声。どうやら入り口のトラップもこの人が仕掛けていたようだ。
「・・・入れ。ヒタキに、チャコか。・・・・ん?お前・・・何者だ」
カウンターの奥に座るお爺さんが、僕を見て眼光を鋭くする。
あれはお爺さんの目じゃないな。いうなれば、相手を威嚇するライオンの目だ。はあ、つまりただ者じゃない・・・のかな?
「・・・小娘「僕は男ですよ」・・・・小僧。もしやお前、精霊と契約しているか?」
「精霊さんと?いえ、無いですね」
「・・・・・だろうな。・・・ヒタキ、どういうことだ」
カウンターの奥のお爺さんが、さっきまで僕に向けていた鋭い目線をそのままヒタキさんに向けて問う。
あ、これバレるかもな。僕の正体。
何とかごまかしてください、という視線をヒタキさんに送っておく。
「ええと、この子は・・・そう、従弟で・・・その、クロちゃんって言う名前なんだけど・・・」
ヒタキさん、すばらしいまでの棒読みをありがとうございます。
「・・・・もういい。事情があるのは分かった」
「わお、爺さんさっすがー!」
フン、といちど鼻を鳴らしたお爺さんはカウンターから立ち上がると、まっすぐ僕のほうへ向かってくる。
立ち上がったお爺さんは、長い腕とは対照的に脚が短くて、長くひげを伸ばした眼光鋭いシワだらけの顔がよく目立っていた。
「・・・・ワシの名はギュルザ。ギュルザ・ジグニス。見ての通り、ドワーフだ」
そう名乗ったギュルザお爺さんは、毛むくじゃらの手を僕に差し出してくる。
ふむ、ドワーフ。鍛冶をつかさどる種族で、ドワーフが鍛えた武器は天下一品の品質である・・・らしい。
・・・いや、メグル姉がやってた『アールピージー』とやらの受け売りだけど。
考え事をしながらも、とりあえず手を握り返した。
「僕の名前は・・・クロです。わけあって名字は名乗れません」
「・・・・関係ない。お前は筋が良さそうだ。・・・・腰の刀は何だ?」
さっき握手したごつい手で僕の腰のベルトにはさまれた太刀と山刀をギュルザさんが指差す。
「これですか?マチェットと、太刀です」
「・・・その程度、見れば判る。・・・・そうではなく、その太刀だ」
ギュルザさんが指し示したのは、鞘から柄まで真っ黒な僕の太刀。
なんの飾りも無くて、見た感じはただの数打ちの刀だけど、聞いたところ僕以外の人間が抜こうとするととんでもない事が起こったりするらしい。
もっとも、所有者の僕ですら今まで一度も抜くことができていないんだけども。
「・・・・その太刀、神の加護が・・・いや、呪いの一種か?・・・しかし封印が厳重だな・・・痕跡が・・・・」
僕の太刀を見つめて、ギュルザさんがうわ言のようにつぶやく。
その額からは汗がひとすじ流れ落ち、眼光もさっきに増して鋭くなっていた。
チャコさんはそんな僕らを見ながら、壁にもたれかかって暇そうにしている。
「なぁ・・・おい、爺さん」
「・・・・小僧。気をつけるんだ」
「無視かよぅ」
「気をつけるって・・・何をですか?」
「・・・その太刀。かなり上位の呪いや加護を見抜く力を持っとると自負するワシですらも見抜けない、何か高度な細工が施してある。おそらくそれは、太刀に込められた『何か』を隠蔽、もしくは封印するためのものだ」
『何か』って・・・なんだろう。
何か魔法がかけてあるのは知ってたけど、何かが封印されてるってのは知らなかった。姉さんたちですら、この太刀の出所をはっきりと知らないみたいだったし。
有益な情報だ。何かの手がかりになるかもしれない。
「わかりました。ご忠告ありがとうございます」
「・・・・うむ」
素直に頭を下げると、頷いたギュルザお爺さんはそのまま踵を返してカウンターの奥に向かう。
どうやら、カウンターの奥に扉があって、そこから先に商品が保管されているようだ。
ギュルザお爺さんが開いた扉の向こうからは、機械油と金属の匂いがただよってきている。
「・・・・ついて来い。ヒタキ、チャコ。お前達もだ」
「うーい」
「わかりました。ほらクロちゃん、行こう」
おお、やっとこのセカイの武器とご対面だね。
軍隊で戦車やライフルが使われているのは知ってるけど、軍用じゃない民間の武器を見るのはこれが初めてだ。
剣はあるのかな。火砲は?民間に浸透してるのかな。
あわよくば、その使い方も聞いてしまおう。昔の戦闘技術とどんな点が違っているのか楽しみだ。
そうしてほんの少し興奮しながらも、僕は『武器庫』とプレートの掛かったドアをくぐり抜けた―――。
はい出ました。8800文字~!
何度も遅れて本当に申し訳なかったです。
私生活で非常に忙しかったものですから、執筆の時間を確保できませんでした。重ね重ね、申し訳ありません。
今回は武器は出ませんでしたね。掴みだけです(笑
来週にはナンボか出しますよ。はい。




