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クロの下界冒険記~神→冒険者?~  作者: UNKNOWN
3章 行き当たり、王国?
25/41

閑話 土竜の「鼬ごっこ」

2章1話のT-35部隊と、そのライバル部隊のお話。

時系列的にはだいたいクロたちが神殿に着いた2章5話あたりです。


※気が付いたら、40000pv!ユニークアクセスも8600越えと、もう感謝感謝です!!いつも読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます!!

レガルド王国、南部特別区。



抜けるような晴天の下、10メートルはあろうかという濃緑に染め上げられた重戦車と、兵員を搭載した灰色の輸送車が(わだち)の残る広い1本道を進んでいる。


いずれの車輌にも円形の塀に囲まれた竜の紋章と土竜(モグラ)のイラストがペイントされており、同じ国の、同じ部隊に所属する車輌である事をうかがわせた。




「―――――こちらモール1。各車、状況報告せよ」



木々が(まば)らに生え、辛うじて林と呼べるような木々の群れの中を、中年の男の声を乗せた魔力波が走り抜けた。



「―――こちらモール2。異常なし」


「―――モール3。こちらも異常なし」


「―――モール4。異常ありません」



ノイズ混じりのそれら3つの音声をヘッドセットから聞き取った男は頷き、再びマイクに声を吹き込む。



「こちらモール1。了解した。各車、引き続き警戒しつつ前進せよ」


「―――モール2。了解した」


「―――モール3。了解」


「―――モール4。了解しました」



魔力式通信装置をオープンにしたまま、中年の男――先ほどモール1と名乗った男だ――は、束の間のあいだ狭い空間から逃れるように高い位置にある主砲塔ハッチから身を乗り出し、辺りを見回した。


新型戦車の、(あい)も変わらずご機嫌斜めなエンジンの唸り声を聞きながら後ろを見れば、先ほど通信を交わした随伴部隊らが装軌輸送車で後をついてきているのが見えた。


背が低く、上面装甲のない、つまり屋根の無い車上からは荷台部分に各車4人ずつ兵員が乗車し、カービンライフルを構え周囲を絶えず警戒している。車体前方の車長席には軽機関銃が据え付けられ、前面装甲の細いスリットから銃身を突き出していた。



「――こちらモール3。1の車長殿、缶詰に戻りな。ヤバいエリアだ、選抜射手(マークスマン)の野郎共があんたの脳天に風穴を空けに来るぞ」



男が重戦車の主砲塔という高所にあるハッチから身を乗り出し、辺りを見回していると、ふいにそんな通信が入った。


見れば、後ろをついてくる3台の装軌輸送車の内の1台の車長席で、ヘッドセットを着けた若い男がこっちを見ながら銃架の機銃で狙撃する真似をしているではないか。



「――こちらモール4。モール3、言葉ば選んだ方がいいですよ」


「――知らんな。我らが隊長殿の頭をぶち抜かれてからじゃ遅えんだよ」


「モール1だ。気にするなモール4よ、モール3は私の事が心配で心配でたまらんのだよ。・・・俺が好きだから」


「――モール4。ああなるほど、お二人はそういう関係でしたか。了解です」


「――ちょ、おいモール4!何納得してんだお前ゴラ!俺はホモじゃねぇ!!隊長も何を―――」



そう、いつ襲われるか分からない緊張の中、適度にリラックスするために砕けた会話をしていた時だった。



「―――右側面に敵影!隊長伏せて!!」



突然の緊迫した声の入電。会話に参加していなかったモール2からだ。


男は、ほとんど条件反射でハッチから砲塔内に滑り込む。


と同時に、跳ね上げていたハッチの蓋から金属質の音と共に火花が散り、被弾の衝撃でひとりでに閉じた。敵兵からの小銃弾が直撃したのだ。



「――敵・・・オートバイ!やはり待ち伏せ(アンブッシュ)です!!」



跳弾の音からハッチの付近に継続的に弾を撃ち込まれている事に気づき、一旦狭苦しい車内に戻った男はマイクに声を吹き込んだ。



「各車停車!応戦しろ!!散弾銃を使え、藪に潜んだ奴等にぶち込むんだ!!」


「―――モール2!散弾銃使用します!!」



入電の直後、装甲を小銃弾が叩く音と随伴部隊の小銃の発砲音に混じって、12口径散弾の重い射撃音が響き始めた。



「第1副砲、第2銃塔旋回して射撃開始!それぞれ左舷方向!!」


「了解!砲塔旋回します!」


「副砲手、戦車砲はいい。機関銃で対応しろ!」


「合点!!」



手動式の砲塔を旋回させるべく砲手がハンドルを回し、装填手は7.62mm弾が詰まったドラム弾倉を手元に控える。



「敵兵数、目視できる限りで10以上!薙ぎ払え、撃ち方始めぇッ!」


「了解!――これでも喰らえ!!」



ズダダダダダダダダダダダダダダダッ!!と凄まじい銃音と、空薬莢が車内にぶちまけられる音が連続して響いた。


しかし、こちらも無傷では済まなかったらしく、砲手のくぐもった呻き声とともに第1銃塔からの射撃が止んだ。


それでも副砲の機銃は何回か指切りと弾倉交換を挟みながら掃射を続け、20秒ほど経ってようやく射撃が止まる。


銃声からくる耳鳴りの中、オートバイのものと思しきエンジン音が遠ざかっていった。





「撃ち方やめ!」


「・・・・チッ、やられたな・・・視界内に動体なし。どうします車長」


「警戒を続けよ。オートバイがあったなら相手は間違いなくあの鼬(ウィーゼル)隊だ。油断できん」


「違いねぇな」


「・・・各車、聞こえるか?」



自らも車外の様子を確かめるべく、主砲装填手に主砲塔バスケット床部に落としてしまった軍用双眼鏡を取らせつつ随伴部隊に通信を取る。



「――こちらモール3。損害大だ。奴ら、操縦手と兵員をごっそり持っていきやがった」


「被害を報告せよ」


「―――モール3。履帯損傷のため車輌は自走不能状態。兵員4名、操縦手1名が死亡。・・・残ってるのは死に損ないの車長(オレ)1名のみ。無傷だ」


「――こちらモール2。こちらも被害あり。兵員が3名死亡、操縦手が負傷。自走は可能ですが継戦不可能です」



車内で報告を聞いた男は唖然とした。


たった10人弱のゲリラに、一気に9人もやられてしまった。それも随伴部隊の車輌のうち2台が継戦不能。普通に考えて、かなり不味い状況だ。


嫌な予感を感じながら、応答が無い最後の車輌に呼びかける。



「モール4。応答せよ」


「――――――」


「聞こえているかモール4・・・不味いな」



いくら呼びかけても返事が無い。ということは、少なくとも車長が死亡した事だけは間違いなさそうだ。そうなれば指揮能力の低下は免れない。



「―――こちらモール3。目視でモール4の状態を確認」


「・・・どうだ」



確認というよりも、ほとんど祈るような男の声だった。




「――――――全員の死亡を確認。モール4、全員死亡」


「・・・そうか」



一気に戦力が削られた。


10人のゲリラに生残者を許した上に、こちらには15人の損害。比べるまでも無く、こちらの圧倒的不利が確定した。


しかし、それを嘆くだけでは先に進めない。男は無線で指示を飛ばす。



「モール3は車輌を放棄せよ。モール4については放置するしかない。尚、モール3の車長はモール2へ乗り換えろ。小銃を忘れるな」


「――モール3、了解し・・・ん?あれは・・・」


「どうした?」


「――いや・・・・なんでもない。見間違いだ」


「何かいたのか?」


「――獣だ。イノシシだった」


「そうか。では乗換えを急ぐように」


「――モール3。了解した」



擱座(かくざ)した装軌輸送車を乗り捨て、モール3がモール2の車輌へと乗り換える。


運転座席後部に積んでいた小銃と予備弾薬を降ろし、負傷したモール2の操縦手を荷台部分に移したのちに無線装置のスイッチを切ろうとした――――その時だった。



「―――モール3。放棄する車輌の魔力無線のパワーをカット『パンッ』・・・がっ!?」



唐突に小さな銃声が鳴り響き、モール3からの通信が途絶えた。



「おい、何があった!?応答しろ!!」


「―――こちらモール2、緊急事態発生!隊長!!」


「クソ、ちょっと待ってろ!!」



ますます訳がわからない。今度は何だって言うんだ。男は周りの状況が直接つ確認できない状況に苛立ちを募らせ、手が痛むのも構わずに先の銃撃で閉じていたハッチを殴って開いた。



そして、呆然とした。



「・・・・・何だってんだ、こいつら・・・」



全身に木の葉や苔のような偽装を施し、対戦車擲弾などの重武装で固めた兵士たちが続々と木から(・・・)滑り降りてくる(・・・・・・・)



「―――緊急!!敵増援部隊っ!!兵装、対戦車ロケット擲弾!!」



何人も、何人も滑り降りてきた異様な風体の兵士たちは地に足をつけるや否や装填・照準をはじめ、30メートルも離れないこの巨大な戦車を捉えた。無駄が一切無い、洗練された動きだった。


後方では、いつの間にか展開していた敵の狙撃チームにより、数少ない随伴部隊が確実に仕留められていく。


男は軽く、パニックに陥った。



「畜生・・・ッ!!操縦室!旋回!!左旋回急げ!!正面装甲を奴らに向けて受け止める!!」


「え!?りょ、了解!左旋回!!」


「――ダメだ、間に合わない!隊長!!脱出してください!!」




しかし、時すでに遅し。



多砲塔の重戦車がその巨体を旋回させ始める直前、潜伏兵たちは無慈悲に肩に担いだ発射装置の引き金を引いていた。


発射筒内で雷管が炸裂し、推進薬に点火。発射筒外に露出した|成形炸薬(HEAT)弾頭が押し出され、ロケット・モーターへの点火と同時に尾部の安定翼が展開し、飛翔した。



「クソッ!!脱出!!脱出――」



男がそう(わめ)く間に、サイドスカートに直撃した複数発が足回りを破壊する。副砲塔の側面装甲に1発直撃し、砲手と装填手を同時に殺傷する。後方の第2銃塔も根元付近への直撃弾によって破損、むろん機関銃手は即死した。


中途半端に旋回した車体の先端に弾頭が命中し、操縦室のハッチを跳ね上げて炸裂。操縦手を即死させ、比較的近くにいた副砲装填手をも負傷させた。


独断で砲塔を旋回させようとした主砲砲手は、主砲塔の装甲に直撃した1発で吹き飛び、同時に砲塔の駆動系も破損し旋回不能となる。装填手は、砲手が取り落とした砲弾の下敷きになり意識を失った。



「・・・・!!・・・・!!!」



声にならない悲鳴を上げて、幸いにも生き残った男は這いずり回る。


右足を持っていかれ、パニックによって正常な思考ができないままに砲塔バスケットから抜け出し、この鋼鉄製の棺桶から脱出するべく必死に這った。



「っぐ・・・・せいっ!!」



右側面にある第2銃塔の下まで這い、腕と左足の力で体を立てて思い切りハッチを開ける。


暗いランプの光で照らされた車内に太陽光が差し込み、男は思わず目を細める。ほとんど腕力だけでハッチから持ち上げた上半身を乗り出し、辺りを見回した。が・・・




「やぁ、ごきげんよう!土竜(モール)機甲中隊のニール隊長さん?」


「チッ・・・・」



既に、戦車を6台ほどのサイドカー付きのオートバイが取り囲み、降車した軍服姿の兵士たちが小銃を男――いまニールと呼ばれた――に向けていた。


その中でひとりだけ、小銃も持たずに爽やかに笑う青年がいる。


頭には士官帽とバイク用のゴーグルをつけ、レガルド王国警備隊(・・・・・・・・・)のユニフォームをきっちりと着込んでおり、腕には牙を剥いた(いたち)のイラストが入ったワッペンが縫い付けられていた。



「・・・・ウィーゼル、またお前の部隊か」


「ふふん、どう?今日もびっくりしたでしょ?」



屈託無く笑うウィーゼルという名の青年を見ながら、男は苦い顔だけ返す。



「ビックリなんてもんじゃない。死ぬかと思ったんだぞこちとら」


「その様子じゃそうみたいだね!・・・で、どうするの?降参?降参しちゃう?」


「あーはいはい。降参してやるコンチクショウ」


「あー、いけないんだー!敗残兵のくせにいっけないんだー!」


「だぁっ、うっせえなテメェ!信号弾ブチ上げるから大人しく待ってやがれ!!」


「は~い。あ、『MSPS』ならもうオフにしてもいいからね」


「言われずとも」



(ニール)はそう言うと一旦車内に潜り込み、信号拳銃を探しながら側壁に取り付けられた小さなスイッチを押す。



「おいお前達!負けたぞ!さっさと起きろ!!」



「へいへい・・・ああ、首が痛ぇ。隊長また踏みましたね?」


「くぅ~ッ、よく寝た」


「げえっ、俺達また負けたのか?中隊っつっても楽じゃないな・・・」



三々五々、先ほどまで死んでいた――正確には魔術により意識を失っていた――男達が起き上がり始める。


その体には成形炸薬による金属片を受けた痕跡も、小銃弾を受けた銃創も、もとより何も無かったのだ。ただの魔法により人為的に与えられた痛みと衝撃程度では、まず死ぬ事などないだろう。



「なぁラゴス、俺は今アバラが折れてるぞ。こりゃもしやMSPS戦での『事故』として保険金がたんまり降りるパターンじゃねぇのか!?」


「安心しろ。そのテは今まで18回の申請があって全て却下されてる。ちなみに18件中16件はお前だ」


「あれ?そうだっけか?」



ニールは、先ほど背中に落下した砲弾で負傷したこの戦闘で唯一の負傷者である主砲装填手と、その相棒の主砲砲手が駄弁っているのを遮りながら、やけに晴れやかな、かつ若干恍惚とした表情で折れた肋骨を押さえる装填手の腰ホルスターから勝手に信号拳銃を引き抜いた。



「ってあぁニール隊長!それ私物!!私物ですからカンベンして!!」


「・・・ほう、MSPS戦に私物の武装を持ち込んだか。没収」


「ふあぁ・・その蔑む目線と冷たい態度でゾクゾクきますぅ!!・・・あ、でも高かったんでやっぱり拳銃返してくださいマジ何でもしますんで」


「くたばれマゾヒスト」


「うっは、キクゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」



もとより嵩張(かさば)る信号拳銃など持ち込む気の無かったニールは、装填手から分捕(ぶんど)った中折れ式の信号拳銃に装填されていたバカでかい空砲を装填手の肋骨めがけて投げつけ、ポケットの中から取り出した官給品の信号弾に詰め替えた。


そして装填手が悶絶する声を後方に聞きながら軽やかに銃塔ハッチから車外へ出る。


外ではウィーゼルがスタンドを立てたオートバイに跨ってエンジンを空吹かしさせて待っていた。



「おそいよニール。待ったよ僕。すっごい待った。ガソリン超減った」


「ウィーゼル・・・ウチの装填手の被虐性癖がいつまでたっても直らんのだが」


「・・・・あの子か。うん、諦めた方がいいかも」


「・・・・そうか」



ちなみに相談はするものの、ニール自身あの超弩級被虐嗜好者(ウルトラマゾヒスト)についてはもうとっくに諦めている。


ついつい現実から逃げたくなるときも、たまにはあるのだ。



自前の信号拳銃を奪還すべくハッチから何度も這い上がってくるマゾヒストを軍靴で蹴り落としつつ、後方で死亡判定を受けて倒れていた隊員と無線で連絡を取りって集合する旨を伝える。


もうすでに見慣れたモール機甲中隊の面々はともかく、いまだ見慣れぬウィーゼル小隊の隊員たちがマゾヒストを見て何とも言えない微妙な顔になっていたのも、まぁ、ご愛嬌だろう。



やがて全ての隊員と車輌が集結した事を確認し、模擬戦闘終了の合図である信号弾を上空に向かって発射。


信号を確認した本部からの指示を待ち、合流した2つの小隊でもと来た道を引き返して帰還した。





――――ちょうどクロ一行が神殿に到着してから、アテナに肋骨を全本ブレイクされた頃までの間の話である。




※今回のあとがきは群を抜いて長いです。


・・・ムズかった(泣

文章的に変な部分があったらどしどしお願いします。

ちなみに『MSPS』はまた今度解説すると思いますが、正式名称「Magic Soldier Practice Sistem」です。こじつけ(笑


さて、今回(久しぶりに)出てきた兵器ですが、

登場順に

・T-35

・ユニバーサルキャリア(装軌輸送車)

・SKSカービン(小銃。両小隊ともこれ)

・RPG-7(対戦車ロケット擲弾)

・BMW R-75(側車付きオートバイ)

・カンプピストル(ドMの私物信号拳銃)

・・・です。

今回は比較的多かったですね。

既出のものはいいんで初出のやつを簡単に解説すると、

・RPG-7といえば戦争。戦争といえばRPG-7。安さと単純さ故の途上国への浸透率パネェっす。旧ソ連で開発されたロケット推進の対戦車兵器(無反動砲)。安価だからとナメてはいけない。いくつか弾頭にバリエーションがある。

・BMW・R-75についてはそんなに深く考えなくてもいいです。ただの側車つきの単車です。軍用なので頑丈、不整地走破性も抜群。

・カンプピストルって信号弾を改造したグレネードランチャーなんだけど、一応専用の信号弾も撃てたらしい。ツェットピストルとも。マゾ君が何故所持していたかは不明。



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