9話 ナチュラル暴力アテナちゃん
ちょびっと短め。・・・って言いながらやっぱり長かった。
「ふぅ・・・やっと着きましたね」
「さすがに疲れたわ・・・」
暗殺者さんを迎撃(いや、襲撃?)してからさらに5分ほど。
僕たちはやたらと大きな扉の部屋の前に到着していた。
扉の辺りには警備の兵や神官っぽい人は1人もいない。聞くと、どうやらアテナちゃんが警備の兵やその他用のない人は近寄らないように命令していたらしい。
どうりで。
「アテナちゃんらしいっちゃらしいですね」
「そうなの?」
「場合によっては問答無用で神撃魔法をぶっ放されますから」
まあ、アテナちゃんの攻撃は神撃魔法だけじゃなくてむしろ殴る蹴るの攻撃のほうが傾向としては多い。
僕はやられた事がないけど、テイレシアスさん(一般市民)とかいう人は目が見えなくなるまで顔面をボコられたらしい。
ちなみにそこまでやった理由は話してもらえなかった。気になる。
「神撃魔法って・・・神様しか使えないっていうあの魔法?」
「はい」
神撃魔法っていうのは僕ら神族しか使えない固有の魔法で、それぞれの神が何個かずつ持っている。
どれも人間が使う通常の魔法とは桁違いの威力・効果を持つけど、その魔法を保有している神以外の存在は同じ魔法を使用できない。
たとえば僕の持っている神撃魔法をカルム兄が使おうとしても無理、っていう風に。
「・・・私、不敬なこととは思うけどこの扉を開けたくなくなってきたわ」
「そうですか?でも会わなきゃ話が進みませんから」
「それもそうね・・・じゃあ心の準備を」
コンコン。
「失礼しまーす」
「えっ、ちょっとクロちゃん!?」
扉を押すと、案外簡単に開いた。何か魔法の効果でもかかっているのかもしれない。
僕が中に入ると、ヒタキさんもあわててついてきた。
絨毯の敷き詰められた広い部屋の奥には大きな玉座。
そこに座っているのは、僕よりもほんの少し小さいであろう人影。
「やぁ、こんにちはアテナちゃん」
「・・・!!」
その人影は、こちらを見るなり目を鋭く光らせて玉座から立ち上がった。
そして目にも留まらぬ速さで加速、こちらに突進してきて――――
「お兄さまっ!!!」
・・・満面の笑顔で抱きついた。
「お兄さまお兄さまお兄さまっ!!」
ぐりぐりぐりぐりぐりぐり。
抱きついたついでに僕にグリグリと頭をこすり付けてくる。
・・・ちなみにけっこう痛い。
なにが痛いかってまず抱きつく腕の力が尋常じゃなく強い。そこに頭グリグリ攻撃。
要は、腕による背中からの圧力+頭グリグリによる圧力=僕のアバラ骨圧砕コース、って感じ。
「お兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さまっ!!!」
ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぼきっ。
「あふっ」
「く、クロちゃん?今変な音がしたよ!?」
「ゴホゴホッ・・・大丈夫ですよ」
「セキと一緒に血が出てるけど!?」
おっと。あまりの圧力で折れたアバラ骨が肺に刺さってしまったみたいだ。
「大丈夫、こんなの回復魔法で」
「お兄さまお兄さまお兄さまー!」
ぐりぐりぐりべきっ。
「かふっ」
「また変な音が!?」
むむ、詠唱失敗。
今度こそは。
「『我が望むは再生の奇跡。医神よこのからd」
「おーにーいーさーまー!」
ぐりぐりぐりぐりべきゃっ。
「けふっ」
「クロちゃんなんで生きてるの!?」
惜しい惜しい。あとちょっとで詠唱完了だったのに。
よし今度こそは、と思った矢先、ふいに頭グリグリがストップした。
「・・・ふぇ?『クロちゃん』?」
むくり、と僕の胸から頭を上げた少女は今気付いたといわんばかりにヒタキさんの方を一瞥して、
「お兄さま、この俗物っぽい輩は何者ですー?」
語尾をのばす独特のしゃべり方で問うてくる、緋色の髪を頭の両脇でお団子にまとめたこの少女。
・・・この少女こそ、天然暴力(命名ジル)こと戦神アテナちゃんその人だった。
「ぞ、俗物?」
さらっと俗物扱いされたヒタキさんが問い返す。
「違うのー?」
「ち、違うわよ!」
きょとんとした顔で首をかしげるアテナちゃん。
ちなみに言ってる本人に悪気はない。
つぶらな瞳の中にクエスチョンマークでも浮かんでいそうだ。
「こほん、えー、ヒタキさん。この子がアテナちゃんです」
「・・・・え」
「よろしくー!」
にぱっ、と笑って僕から離れヒタキさんに手を差し出すアテナちゃん。
手を差し出されたヒタキさんは・・・・あれ、顔が青いぞ?
「わ、わたし・・・また神様相手にっ・・・・!!」
「ほえ?」
「お兄さまー、この人間おかしいですよー?」
ああなるほど。
アテナちゃんも僕と同じく神になんて見えないから敬語を使わなかった事を気にしてるのか。
「アテナちゃん」
「どうしましたお兄さまー?」
「この人・・・ヒタキさんには敬語を使ってほしいと思う?」
するとアテナちゃんはケラケラと笑って、
「なわけないじゃないですかー!クロ兄さまもボケましたねー」
「ボケてないしっ」
「またまたー」
ケラケラケラ。
むっ・・・・昨日ジルに言われたことと同じ事を言われたぞ。僕がボケる事なんて無いっちゅうに。
まあいいや。
「ヒタキさん、というわけですから僕にもアテナちゃんにも敬語は使わなくていいですよ?」
「・・・・へっ?」
「聞こえなかったんですかー?まるでバカみたいですねー!」
ケラケラケラ。
ヒタキさんは呆気に取られている。
それもそうか。神族ってそんなに形式ばったことが好きじゃないことが大半だからなぁ。例外もいるけど。
その代わり、性格や精神がどこか変なことになってるひとが多い。たとえばジルとか、あとジルとか。あ、それとジル。・・・あれ?
「でーすーかーらー?敬語はぁ、いりませんー!」
ケラケラケラ。
「はぁ・・・」
「まぁ、さすがに僕みたいに長刀で脳天を直撃しようものなら『シャイニングアロー』が100発以上叩き込まれますけどね」
「ありえますー!」
ケラケラケラ。
『シャイニングアロー』はアテナちゃん固有の神撃魔法で、無数の光の矢を広範囲にわたって叩き込める攻撃魔法だ。
なまじ発射量が多いから、一回の詠唱で1000人規模の軍団を1つまるまる消し飛ばす事もできるらしい。
「シャ、『シャイニングアロー』!?」
「そんなに驚くことですー?」
「伝説級の戦術魔法よ・・・」
「あららー。まあ、どうせ人間ごときには使えるワケありませんよねー!」
ケラケラケラ。
ヒタキさんが頭を抱えていた。
「どうしました?」
「ちょっと・・・私の信じてた神様とのギャップがすごくて」
「ちなみに以前の神様のイメージは?」
「こう、ひげを生やしたおじいさんで、思わず敬語を使っちゃうような・・・」
「えぇー」
ひげを生やして、敬語を使いたくなっちゃう人・・・ふむ。
「アスクレピオスおじさんとか、ハデスおじさんあたりですか?」
「たしかにー!」
ケタケタケタ。
たしかにアスクレピオスおじさんは超絶に優しいから思わず敬語使っちゃうし、ハデスおじさんはたとえ機嫌がいいときでも不機嫌そうだから思わず敬語を使ってしまう。
なるほど・・・ああいうイメージか。
また一つかしこくなったぞ。
「おじさんって・・・神様よね?」
「ええ、医神と冥界の神ですよ」
「もういいわ、気にしていたらキリがなさそう」
「さいですか」
まあいいや。どうせみんな変な人ばっかりなんだし。
ん?僕は違うよ?・・・・違うよね?
「ところでお兄さまー」
「うん?」
「こんなきちゃない下界まで何のご用ですかー?」
「き、気にしちゃ負けよね」
ああそうだった。
思わず本題を忘れるところだった。危ない危ない。
首をかしげるアテナちゃんに僕がこの世界に召喚される事になった経緯とこれまであったことをかいつまんで話す。
「・・・・というわけでここに来たんだけど。アテナちゃんが召喚されたのって本当?」
「そうですよー?」
「ちなみに、もともと管理していたセカイはどうなったの?」
たしかアテナちゃんが管理していたのは『科学が限界まで発展したセカイ』だったはずだ。
それを聞いたら、アテナちゃんの顔が心なしか曇った。
「それがー・・・ちょっとおかしいんですよねー」
「おかしい?」
「はいー。どうも外部からの魔法による攻撃を受けたみたいでー」
「えっ?」
外部からの魔法による攻撃だって?
「詳しく教えて?」
「はいー」
アテナちゃんは、前いた世界で起こったことを話してくれた。
まとめると。
アテナちゃんが管理していた『科学が限界まで発展したセカイ』は、特に目立った戦争も無く、平和な時代を迎えていた。
しかし、ある日突如として何の前触れも無く『転移系の魔法陣』がセカイのいたる所に出現。同時におびただしい数の『災害級』の魔物が召喚された。
魔物の中には物理攻撃はもとより魔法以外のほぼ全ての攻撃を無効化するようなものも含まれており、魔法による攻撃手段など皆無の科学の世界の民はこの奇襲によって次々と滅ぼされていった。
アテナちゃんも人間に干渉できる範囲で魔物の駆逐に乗り出したものの全ての魔物の駆逐にはいたらず、世界中に召喚された魔物によってまたたく間にセカイの5分の4以上の人間が滅ぼされてしまった。
地球上の生命の大半を占めた主要な種族・人間がそれこそ2週間とたたないうちに絶滅に近い状態まで追い込まれた事によりセカイの様々なバランスが急激に狂い、その影響で歪んだセカイはそのまま消滅したそうだ。
そして、アテナちゃんが「フリー」になったのとほとんど同時に行使された召喚の儀式。
アテナちゃんはどこか釈然としないながらもこれ以上滅亡するセカイが増えてはならないと思い承諾、今にいたる。
「聞くからにきな臭い匂いしかしないわよ」
「それについては僕も同感です」
ちなみに話の途中にあった『災害級』の魔物というのは1体で1つの領地を滅ぼす事ができる能力をもつ魔物の事らしい。ちなみにこのセカイでは比較的広いレガルド王国でも災害級が4、5体塀の内側に侵入すると壊滅するそうだ。
なんとも恐ろしい計算だなぁ・・・。
そのような強力な魔物が何体も何体も召喚されてしまった魔法が存在しないセカイの人間はひとたまりも無かったに違いない。
攻めてくる異界の魔物に対して、有効な攻撃の手段がほとんどと言っていほどに無いのだから。
それに加えて、アテナちゃんがこのセカイに召喚されたタイミング。
アテナちゃんがフリーになった途端に召喚されるなんて偶然とは思えないほどにタイムリーだ。
そして、それらの情報を総合して整理した結果、頭の中に浮かんだ人物は―――
「ブルファット司祭、ですかね」
「これの黒幕?」
「そうです。リンドウさんから聞いた情報とアテナちゃんから聞いた情報を総合すればおのずとそうなるかと」
確かリンドウさんによれば、ブルファット司祭は2週間ほど前に僕がこっちに来る事を察知したかのように召喚の儀式を強行、そしてアテナちゃんをこのセカイに召喚したはずだ。
そして召喚の儀式に動員された多数の魔術師。
何百人もの魔力保持量が多い人間がいっせいに同じ魔法を詠唱すれば、異世界への干渉だって条件次第では可能になるのだ。
つまり、ブルファット司祭が僕たち高位神の誰か、もしくは僕が降臨する事を何らかの理由から避けるために、僕らよりも先にアテナちゃんを呼び出して僕らが降臨する必要性をなくそうとたくらんだ可能性があるわけだ。
そうなると・・・・ああ、関係者の方々にはヤバい魔法が行使される可能性もあるかな。
「そういえば」
「?」
ヒタキさんが口を開いた。
「クロちゃん、さっきから言ってる『ヤバい魔法』って何?」
「文字通りの意味です」
「・・・どう、『ヤバい』の?」
どうって・・・・
「たとえばキザミ姉なら対象を意識のあるままにミイラ化させるとか、カルム兄なら対象を発狂させて自分からバラバラになるように仕向けますね。あとメグル姉なら次元の狭間に永遠に閉じ込められt」
「もういいわ。なんだか聞いちゃいけなかったことだったような気がする」
「そうですか?」
それからヒタキさんは少しだけ黙って、
「・・・・クロちゃんにもあるの?そういう魔法」
「ありますよ」
ちなみに僕の場合はいろいろあるけど・・・・ああ、見てもらったほうが早いかな。
「じゃぁちょっと実演しますよ」
「え?」
「ちょうどよく標的もある事ですし」
うまく隠れてるつもりなんだろうか。
でも残念。血の匂いでバレバレだよ。
「召喚魔方陣、起動」
変な終わり方をしていますが、仕様で(ry
たまの休みをフル活用して延々書いていたら文字数が10000字とかワケのわからんことに。というわけで分割して投稿。もう次話は完成していますのでまた後ほど投稿します。




