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ラファエル

五章

早朝。まだ朝靄がかかっている時間帯。

自室のある宿舎の裏で、勇哉はシグルスから借りた真剣で素振りと形の練習をしていた。

まるで敵がそこにいるかのように剣を振り、時には息を整えながらイメージトレーニングをし、ただただ鍛錬に専念していた。

「・・・はぁ」

大きく息を吐いた勇哉。

「身体鈍りすぎ。これじゃあ、ラファエルにだって負けそうだ」

剣を地面に突き刺して、ゆっくりと肩を回す。今回はこれで終わりらしい。

筋肉痛予防にしっかりとストレッチをしていると、ようやく朝靄が晴れてきて朝日が勇哉を照らした。そろそろ拓哉も起きる時間帯だ。

自分の近くに置いてあった鞘と厚手のタオルを拾う。

「ふぇ?」

タオルで顔を拭こうとした勇哉だが、視界の端に何かが映って思わずそちらの方を向く。しかし、映るのは入り口付近の柱のみ。

(見間違え・・・かな?)

地面に突き刺さったままだった剣を引き抜いて、鞘に仕舞う。ついでにタオルは肩に掛けて、そっと気配を消して柱の方へ歩く。

「やっほー」

「うわぁっ!?」

四角くやや太い柱の向こう、そこにいたのは長い杖を背負った青年。

「・・・ラファエル?」

「何だよ、今の間は!お、驚かすなよ!」

「やっぱりラファエルだ!」

勢いに任せて抱き付こうとした勇哉に対して、ラファエルは杖を引き抜くと思い切り勇哉の額を叩いた。

「ふぇえええ・・・痛い」

ため息をついたラファエルは「汗臭いのにこっち来んな」と独り言ちた。

「ミカちゃん、なんでまだこんな所にいるの?チャネリングも上手く繋がらないし、何があったのかと思ったよ」

杖を仕舞いながら言う。

「・・・で、どうして子供姿?」

「向こうで俺、一から生まれ直したんだよ、人間として。で」

ラファエルはうんうんと頷いてみせる。

「人間としてねぇ。・・・はぁっ!?」

勇哉は苦笑いすると、柱に寄りかかった。

「向こうにはもうあの方の眷属というか友人というか、そういう人以外は皆ただの人間でさ。主はわざわざ俺らを作り変えられたらしい。お陰で、まともに剣は振れない。ただでさえ加護なしの俺が、更に加護なしの丸腰ってわけ」

「ち、知識は?」

「んー、あるといえばある。でもこれも、つい昨日思い出して・・・」

呆気に取られて奇妙な表情をしているラファエルは、軽く頭を掻くと天を仰いだ。

「ミカちゃんが何をしたっていうんだよ・・・」

「ラファエル、聞いてないのか?俺、ルシフェルと喧嘩してまた世界の端を消滅させたんだ」

何故か照れ笑いをしている勇哉。

「・・・・」

「ふぎゃっ」

やや赤くなっている額を、今度は思い切りチョップされた。


「勇哉、どうしたんだ?」

寝巻きから普段着に着替えている拓哉は、真っ赤な額をした勇哉が帰ってきたのを見て、思わずそう聞いてしまった。

「ちょっとそこの階段で転んで」

「馬鹿野郎。それ、冷やさねぇと本気で腫れるぞ。こっちに来い」

常に枕元に置いてある学生鞄から、拓哉は弁当の入った袋を取り出す。この中には保冷剤が入っているのだ。

保冷剤を凍らせた拓哉は、目の前に立っている勇哉の額にそれを当てる。

「冷たかったら、タオルか何か巻けよ」

「うん。わかった」

保冷剤をそのまま当てながら、着替えを再開した拓哉から離れた。

「あ、そうだ。今日ちょっと用事があって、俺夜まで帰らねぇから。変なごたごた起こすんじゃねぇぞ」

「大丈夫だよ。僕も今日シグルスと近くの町まで買出しに行くから、支部の人達には迷惑かけないし」

「そうかよ。あいつがいるなら、悪霊だろうが邪神だろうが余裕だな」

安心した、と微笑む拓哉。そんな拓哉を見て、勇哉は複雑な顔をした。

髪を整えて、寝巻きを畳んだ拓哉は、ふと勇哉の様子がおかしい事に気が付く。

「どうした、悪夢でも見たような顔だな」

ベッドに腰掛けた拓哉がそう言っても、勇哉の表情は変わらない。

「・・・あ、あのさ、る、ルシフェル?」

拓哉が少し驚いた顔をしたが、すぐに元に戻った。

「ん?」

「俺と一緒にいて、不快じゃない?」

「・・・お前、単刀直入すぎるだろう」

深いため息をついた拓哉。

「はっきり言おう。お前が俺にそんな事を聞くのは一万年早い。記憶が戻って?それがどうした、お前は何か勘違いしてないか?」

自分の腿の上で頬杖を突く。

「もう少し頭の中を整理してから話せ」

「これでも冷静だよ!そうじゃなくて、俺らがこうなった原因は俺・・・」

必死な勇哉を一瞥すると、またため息をついた。

「埒が明かないな。サタナエル、行こうか」

「はい」

立ち上がった拓哉が、ゆっくりと勇哉の脇を通っていく。

「あぁ、そうだ。外にいる猿によろしく言っておいてくれ」

ばたん、と扉が閉まった。

「・・・猿って、俺の事か?」

いつの間にか窓枠の上にしゃがんでいたラファエルが言う。次の瞬間むっとした顔になった勇哉は、まだ凍っている保冷剤を握り締めて言い放った。

「あ、の、上から目線!せっかく謝ろうと思ったのに!!」

「いや、上から目線は悪口に相当しないぞ?」

肩を竦めたラファエルは、部屋に入ってくると勇哉の隣に立った。

「てか、傍から聞いてて思ったんだけど、あの高慢ちきのルシさんはお前だけが悪いって思ってはいないみたいだぞ」

はっとラファエルの顔を見詰める勇哉。

「意外と、自分の非を認めてんのかもな。・・・まぁ、俺の勝手な推測だけど」



ガナム支部から歩いて約一時間の距離にあるセーレは、他の国から来る旅人や商人が多くいる交流都市として栄えた街の一つ。そう説明したシグルスは、隣にいる勇哉と付き添いの団員―ディアランと一緒に広い通りを歩いていた。

「露天が!こんなに並んでるの、お祭りでしか見た事ないよ!」

「ここは常時祭りみたいなものだからな。ところでディアラン、今日の用事は?」

ディアランは団服のポケットから、折り畳みすぎてボロボロになった羊皮紙を取り出す。

「新しく加入してきた飛竜用防具一式の発注。古い聖具の買い替えと強化の依頼。えーっと、何だこれ」

どうやら、ちょうど折り目の部分に書いてあったようだ。

「・・・酒?」

「あー、それ無視していい。局長が勝手に書いたやつだから。消えてましたって言えば、それでいいし」

意外と適当だった。

「シグルスー!僕一人で歩いててもいい?」

人込みに流されつつある勇哉が聞くと、シグルスは頷いて腰に帯びていた剣を勇哉に手渡した。

「これをもっていけ。十二番が彫ってある」

「ありがとう!」

「太陽が中天を回る時に、南門に集合だぞ」

大きく手を振りながら通りの奥へ。勇哉の姿が完全に見えなくなってから、シグルスは小さくため息をついた。

剣を抱えながら速歩きしている勇哉。街道から逸れて狭い路地に入ると、陰に潜むようにして存在している浮浪者の間を抜けて、とある酒場の前で立ち止まった。

「えっと、アザルヤさん・・・」

「はい、何でしょう」

「うぇ?」

いつの間にか後ろに立っていた青年。

「・・・何やってんの?」

訝しげな顔をした勇哉に対して苦笑いを浮かべると、勇哉の腕を掴んで歩き出した。

「ふぇ、ふぇえええ・・・」

「ちょっと黙ってて下さい」

古びて朽ちかけている木の扉の前で止まる。

「デル、開けて」

ギィ、と音を立てて扉が開く。

「先生早っ・・・て、あんた誰?」

七歳ぐらいの子供が、勇哉を睨み付ける。それに対して、勇哉は曖昧な笑みを浮かべただけだった。

「こら。口の利き方に注意しなさいと、何度言えばわかるんですか?」

「はぁい」

薄暗く、中には幾つかの木箱があるだけで他には何も見当たらない。人も、デルと呼ばれた少年しかいない。

「アザルヤさん、ここは?」

「・・・えぇっと、あなた名前は?どうして私を知っているんです?」

質問に質問で返されたが、勇哉は笑っているのかいないのかわからない表情を浮かべて答えた。

「勇哉です。あ、別に怪しくないから気にしないで下さい」

自分で言っている時点で怪しいのだが、本人は全く気付いていない。

「友達にあなたを紹介されて、特に用とかないんですけど会いに来てみたんです」

「そう、ですか。わかりました。ここは単なる入り口です。奥へどうぞ」

アザルヤに続いて奥へ進む勇哉。その後ろに、デルも一緒になって歩く。

「・・・あれ?」

「ユーヤ知らねーの?幻術だって、げ、ん、じゅ、つ」

あったはずの壁を抜けた時、アザルヤに睨まれながらデルが説明した。

「へぇ。そうなんだ」

そうして三枚の壁をすり抜けた先には、小さな庭があった。六人の子供が遊んでいた。

「あ、せんせーだ!」

「おかえり!早いね」

皆、年齢は5歳から10歳ぐらいだ。勇哉を物珍しそうに見ている。

「これ全員デル君の兄弟?沢山いるね」

「すげーだろ。あっちがミュー兄ちゃんで、こっちがアルバ姉ちゃん。あとシーとカイとイプロンとタウって言うんだ」

なんだか聞き覚えのある名前だな、と思いながら勇哉は頷く。

「勇哉さん、ここがどんな所かその友人に聞きましたか?」

アザルヤは、回りに集まってきた子供に対して少し困ったような顔をしながら聞いた。

「あ、はい。孤児院だと」

「そうです。皆、私がここに連れて来た子です」

「僕が居た所と似てますけど、きっとここはもっといい所・・・」

勇哉の顔に陰が落ちる。

「あの、もし宜しければ、奥で話をしますか?立ち話もあれなので」

それに気付いたのか、アザルヤは勇哉にそう提案した。勇哉も頷く。

「ミュー、アルバ、皆をお願いしますね」

庭の奥にはそれなりに大きな建物があり、その一階の狭い応接室に二人は入る。アザルヤが最後に入って鍵を閉めた。

「あー、もう、あの口調気が狂うかと思ったぞ。てか、ふぇってなんだよ、お前」

「いやぁ、つい出ちゃうんだよねぇ」

困ったように笑う勇哉に対して、アザルヤーラファエルが更に突っ込んだ。

「しかも、勇哉って名前だったのかよ。いきなり詰むかと思ったぞ」

勇哉は木で出来た椅子に腰掛ける。

「それならそっちだって。どう接していいのかわからないだろう、あんな風に喋られたら」

テーブルの上に座ったラファエルは、ふん、と鼻を鳴らした。

アザルヤに化けていたラファエル。本当はさっさと子供達のいない場所に行きたかったのだろう。彼は深いため息をつくと、勇哉に向き直った。

「ところで、どうして俺をここに呼んだんだ?別に他の場所でも話ぐらい・・・」

「ここは、俺が張った超高性能結界の内側だからだ。で、ミカちゃんは地界でいう一昨日の事、どれだけ把握してる?」

いきなり本題に入ったラファエル。

「ガナム支部に悪霊が何故か(・・・)現れて、あと悪魔の気配、とサタナエルとルシフェルがいた事ぐらいかな」

勇哉は腕を組んで、思い出しながら言う。

「そうだ。それで、その悪魔の気配についてなんだが、あれはダゴンだ。悪霊もあいつが連れて来た、とラジエルは言ってる」

「ダゴンにそんな力はなかったはずじゃあ・・・」

「信者がいるんだよ。サタナエル様がダゴンをどうにかしたらしいが、きっとすぐ復活する。他の悪魔も、あちこちで確認されてるんだ」

机の上に寝転がったラファエルは、空中からある巻物を取り出して勇哉に渡す。

「現在進行で異教の信者が増えてんだよ。このままじゃ主だって危ない。だから」

巻物を広げた勇哉がはっと息を呑む。

「その身体で構わない。一度天界に戻ってきて欲しい。主もそれを望んでる」

巻物の中身は、天界に入るための許可証だった。

ラファエル、癒しの天使として有名ですね。

他には旅人の守護だったり、アスモデウスを退治した話も有名です。

トビト書で実際にアザルヤという偽名?を使っていました。

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