第7話 決意を新たにスタート
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(ロングで入れそうだけど……いや、このまま落ちそうな気もする……)
いつもなら何も考えずに『ポチッ』とクリックしてしまう場面。だが、もう後がない俺は完全にビビり散らかし、マウスを握る手から汗を流すだけで、どうしてもポジションを持つことができなかった。
「あ〜、やっぱり上がったかぁ……」
見送った数分後、ドル円のレートは俺の当初の予想通り、綺麗な弧を描いて上がっていった。
次こそは、迷わず入ろう。そう決意し、再びエントリーできそうな形になるまでチャートを睨み続ける。
(ヨシ、ここだ。絶対下がる。下がれよォ!)
今度は勇気を振り絞ってショート(売り)を入れた。
狙い通り落ちた。だが……落ちたのは僅か3銭。
そこから急反転し、レートは嘲笑うかのようにグングンと上がっていった。
「なんで予想だけの『エアトレード』の時は完璧に当たって、実際にポジを持つと外れるんだよッ!」
不思議なことに、予想だけで見ている時は高確率で相場の動きが当たる。
だが、実際にお金を賭けた瞬間に……負ける。
これはFXに限らず、競馬などのギャンブルでも頻繁に起こる、全世界共通の謎現象だ。
お金を賭けていない時はリラックスしていて、余計な力が入っていないからだろうか?
だとすると、俺にとって今のロット数が大きすぎて、無意識に冷静さを失っているのかもしれない。
そこで俺は、思い切ってロット数を落としてトレードをしてみることにした。
(とりあえず、2ロットまで落としてやるか)
数量を2ロットに落としたことで、多少逆行して含み損を抱えても、右往左往することなくドッシリと構えることができた。
(俺のノミの心臓には、10ロットは大きすぎたんだ……。これまでの負けを早く取り返そうと、無意識に焦りすぎていたのかもしれん)
勝っても負けても平然とトレードできるまで、まずは2ロットでリハビリをすることにした。
これが功を奏したのか、致命傷になるような『大負け』をすることが見事になくなった。
……まぁ当然、ロットが小さいので『大勝ち』することもなくなったわけだが。
(一撃の爆益はなくなったが、相場にイライラする頻度が減ったのはデカいな)
大負けしなくなったことで、メンタルが安定する。
メンタルが安定すると、ムキになって取り返そうとする感情的トレードの回数が減る。
感情的トレードが減ると、無駄な負けが減る。
(いい傾向だ! この鋼のメンタルを維持できれば、俺もついに勝ち組トレーダーの仲間入りだぞ!)
天狗になりやすい俺は、ここですぐに調子に乗った。
2ロットで成果が出てきたので、ロット数を「3ロット」に引き上げる。
(よしよし、3ロットに上げても問題ないな)
3ロットに上げても、2ロットの時と同じようにメンタルは安定していた。
とはいえ、やはり爆益には程遠い。勝っても負けても、微益と微損の繰り返しである。
◇
(大負けはしなくなったとはいえ、完全にジリ貧だ。これじゃあいつまで経っても専業には戻れん。どうにかして、一発デカいのを当てないと……)
数ヶ月が経っても思うように資金が増えていかず、俺の心に再び『焦り』という名の毒が回り始めていた。
――そこで俺は、マイルールをあっさりとゴミ箱に捨て、大勝負に打って出る。
勝負の舞台は、第45代アメリカ大統領を決める『アメリカ大統領選挙』だ!
当時の下馬評では、民主党のヒラリー・クリントンの圧勝。対抗馬であるトランプには、勝ち目など万に一つもないと言われていた。
(誰がどう考えても、ヒラリー勝利で相場は安定。ドル円は上がる。ガチガチに堅いだろ)
競馬で言えば、全盛期のディープインパクトの単勝に賭けるようなものだ。
勝負の世界に絶対はないが、限りなく負ける確率はゼロに近い。
そう確信した俺は、封印していたはずの『10ロット』のロング(買い)を仕込み、運命のアメリカ大統領選を迎えた。
――そして2016年11月9日。大統領選の開票が始まった。
序盤こそ余裕の表情でニュースを見ていたが、開票が進むにつれ、次第に雲行きが怪しくなっていく。
そしてついに、キャスターが信じられない言葉を発した。
『……激戦州を制し、トランプ氏優勢です!』
この速報を受け、ドル円のチャートは血の気を失ったように下がり始めた。
「ハァァァ!? ヒラリーの圧勝じゃなかったのかよォォォ! なんだったんだよ、今までのマスコミの報道は!? 頼むから、ウソだと言って上がってくれ……!」
完全にマスコミの報道に踊らされていた。
トランプの当選が確実になった瞬間、ドル円は底が抜けたようにナイアガラ級の急落を見せた。
そして、お馴染みの無機質な電子音と共に、俺のポジションは海の藻屑となって消え去った。
強制ロスカットの画面を虚ろな目で見つめながら、俺の脳裏に『ある記憶』がフラッシュバックする。
……イギリスがEUを離脱するか残留するかの国民投票。
あの時も、報道では『残留派が勝つ』と言われていた。俺はマスコミを信じて全力でポジションを持ち、その結果、強制ロスカットされたのだった。
たった数ヶ月前の出来事。絶対に忘れてはいけない教訓。
それなのに俺は、一発逆転の欲に目が眩み、完全にその記憶を消し飛ばしていたのだ。
(…………もう二度と、絶対にマスコミは信じん)
自分の記憶力の無さと強欲さを棚に上げ、俺はモニターに向かって心の底から誓った。
YouTub(オーストリッチマンのFX)でリアルトレード配信をしています。
過疎配信ですが、FXやラノベなどの話をしに来てください!




