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FXに夢と希望を託した男の末路 〜1クリックで全財産を飛ばした俺の泥臭い出稼ぎループ戦記〜  作者: オーストリッチマン


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第6話 三度目の正直

カクヨムにも掲載しています

 血と汗の結晶である軍資金もだいぶ貯まった。俺は新潟での出稼ぎを辞め、地元である長崎へと帰還した。


(三度目の正直だ。今度こそ、今度こそ絶対に勝つっ!)


 手元にある全財産は250万円。だが、これまでの手痛い経験から「全ツッパは身を滅ぼす」と学んでいた俺は、余力を残しておく賢明な判断を下した。

 証券口座への入金額は、キリよく100万円!


(さぁ、第3次FX戦争の開戦だ!)


 俺は気合を入れ直し、モニターの前に座る。

 久しぶりに本腰を入れてのトレード。今回、俺は相棒となるインジケーターを一新していた。

 『回帰トレンド』『パラボリック』『ストキャスティクス』の3種の神器である。


 これまで愛用(そして裏切られた)ボリンジャーバンドを捨てて、回帰トレンドに変更したのには明確な理由があった。

 過去の敗戦を振り返ると、俺の負けパターンは常に決まっていた。「これだけ下がったんだから、そろそろ反発するだろ」という値ごろ感からのエントリー。つまり、相場の流れに逆らう『逆張り』ばかりをやっていたのだ。


 一般的に、FXは流れに乗る『順張り』の方が勝率が高いと言われている。

 だからこそ、相場のトレンド(方向感)が視覚的に一目でわかる回帰トレンドを導入したというわけだ。


(まずは肩慣らしからだな)


 復帰1発目。ロット数は抑えめの3ロットでスタート。

 回帰トレンドのチャネルが綺麗に上を向いていたので、迷わず『ロング(買い)』でエントリーする。


(よし、そのまま上がれよォ……)


 初動こそ少しモタついたが、その後は教科書通りにジワジワと上昇を始めた。


(7銭抜ければ、今の俺には十分だ)


 欲張らずに利確ボタンをターンッ!

 いつも出だしだけは調子がいい。だが、そこから気が大きくなり、損切りできずに無事死亡……。

 それが俺の黄金の負けパターンだ。今回こそは絶対にその轍は踏まないぞと、自分に強く言い聞かせる。


 しばらくすると、先ほどエントリーした位置までレートが落ちてきた。


(まだトレンドは上向きだ。もう一回、ロング行けるんじゃね?)


 再びロング。数十分後、今度は15銭上がったところで危なげなく利確!


(……イイ! めちゃくちゃイイ感じだ!)


 回帰トレンドの導入は完全に正解だった。

 相場の波に逆らわず、波に乗る。この手法こそが俺の最適解だ。そう確信した!


 数時間後、三度みたび同じ位置までレートが落ちてくる。

 上昇の角度は緩やかになってきたが、回帰トレンドはまだギリギリ上を向いている。


(よし、もう1発ロングだ!)


 狙い通り、レートが反発した。

 ――しかし、4銭ほど上がったところで突如として重くなり、下落へと転じる。

 そのままズルズルと下がり、俺の建値を下回った。


(……チッ、流れが変わったか。マイナスが膨らむ前に損切りだな)


 イラッとはしたが、復帰初日ということもあり、俺は機械のように冷静に損切りを実行できた。お祈りトレードからの卒業である。


 その後も勝ったり負けたりを繰り返したが、損小利大を心がけた結果、資金は少しずつ、確実に増えていった。

 ここで、調子に乗りやすい俺の悪いクセが顔を出す。

 『あれ? 順張りに切り替えた俺、もしかして天才トレーダーとして覚醒したんじゃね?』


(よし、ロットを上げるか)


 資金が増えたことで強気になった俺は、5ロットから『10ロット』へと勝負のアクセルを踏み込んだ。


(やっぱり10ロットだと……画面を見る緊張感が段違いだな……)


 1ピップス(1銭)動いた時の損益の増減が倍になる。心臓のバクバクが早くなる。

 だが不思議なもので、何回かトレードをこなしていくうちに、そのヒリヒリする感覚にも脳が麻痺して慣れていった。


 ◇


 10ロットに上げたことで、勝つ時の金額はデカくなった。だが当然、負ける時のダメージもデカい。

 一進一退の攻防が続き、俺は「もっと効率よく、ドカンと稼ぎたい」という歯がゆい思いを抱え始めていた。


 ――そこで俺は、回帰トレンドも順張りもすべて投げ捨てて、とんでもない大勝負に打って出ることにした。


 なぜそんな暴挙に出たのか?

 それは……世界中が注目する歴史的イベント、『イギリスのEU離脱ブレグジットを問う国民投票』が目前に迫っていたからだ!


 テレビの報道やSNSを見る限り、圧倒的に『残留派が優勢』というムードだった。

 だから俺は「イギリスがEUを離脱するなんていう狂った選択をするはずがない」と完全に高を括っていた。

 これは、数年に一度あるかないかの、勝ちが約束された出来レースだ!

 ここが俺のトレーダー人生の最大の勝負所だと踏んだ俺は、あろうことか殺人通貨『ポンド円』のロングを限界まで仕込んだ。


 数量は、掟破りの15ロット!


 そして運命の2016年6月23日。イギリスで国民投票が幕を開けた――。


(まぁ、開票結果がハッキリするのは明日だ。果報は寝て待つとするか!)


 翌日。俺は余裕の笑みを浮かべながら、テレビで開票速報の番組をつけた。


(……ハァッ!? ちょっと待て、テレビじゃ残留派が圧倒的って言ってたのに……なんでこんなに拮抗してんだよ!?)


 大方の予想に反し……『離脱派』が猛烈な勢いで票を伸ばしていた。

 この信じられない光景に、俺の心臓は早鐘を打ち始める。だが同時に「いやいや、最後はロンドン辺りの票が入って、結局残留派が勝つでしょ」と、どこまでも都合のいい希望的観測にしがみついていた。


 ――数時間後、歴史の針が動く。最終的な開票結果が発表された。


 結果は……残留支持48%、離脱支持52%。

 まさかの『イギリス、EU離脱決定』である。


 この世紀の大番狂わせを受け、世界中の為替市場はパニックに陥り、俺がロングを握りしめていたポンド円は、歴史に残るナイアガラ級の大暴落を開始した。


「ウソだろ……頼むから……止まってくれェェェッ!!!」


 俺の悲痛な魂の叫びなど、ポンド円の暴走列車には届くはずもない。

 ローソク足は狂ったように下へ下へと伸び続け……そして、お馴染みの光景が訪れる。


 ――強制ロスカット。


 数ヶ月間、雪国で這いつくばって稼いだ金が、一瞬で電子のゴミに変わった。

 俺は口を半開きにしたまま、茫然自失の体でモニターを見つめ続けた。


 数分後、我に返った俺の全身を支配したのは、激しい怒りだった。

 その矛先は、自分自身……ではなく、マスコミだ!


「ふざけんなよ!! 何が『残留派が優勢だから離脱はありえねェ』だよ!! 適当なこと抜かしやがって、バッカじゃねェの!?」


 誰もいない部屋でテレビに向かって怒鳴り散らしたが、いくらキレようが失ったお金は1円も戻ってこない。

 結局のところ、自分で考えることを放棄し、マスコミの報道を真に受けて全ツッパした『俺自身が100%悪い』のだ。

 ようやくその事実に気づいた俺は、深く、長いため息をついた。


(また入金して、一からのスタートか……)


 幸い、口座にはまだ150万円の余力がある。だが、全額入れるのは危険すぎるので、最後の命綱として50万円は残すことにした。

 よって、次なる入金額は100万円だ。


(もしこの100万まで溶かしたら……またあの地獄の出稼ぎ労働に戻らないといかんのか……。あ〜、マジで働きたくねぇ……)


 想像しただけで強烈な憂鬱に襲われたが、全ては自業自得。いくら悔やんでもしょうがない。

 後が無くなった俺は、これまでの自分のトレード(という名のギャンブル)を改めて振り返った。


(常にポジションを持っていたいポジポジ病、資金に見合わないハイレバ、根拠のない値ごろ感エントリー、熱くなった感情的トレード、そして……致命傷になるまで切れない損切りの遅さ。……こんなところか)


 再スタートを切るたびに、毎回同じ反省点を洗い出している気がする。

 マイルールを神に誓って守るのは、いつも最初の数回だけだ。こんな学習能力ゼロの奴が、相場の世界で生き残れるわけがない。


(専業トレーダーとして何億も稼いでいるバケモノたちは、例外なく『マイルールを機械のように徹底している』と聞く。俺もあっち側の人間になるには、心を鬼にしてルールを徹底するしかない!)


 今度こそ、今度こそ絶対にマイルールを守り抜く。

 減りゆく残高を見つめながら、俺は何度目かわからない誓いを、モニターの前で新たに立てるのだった。

YouTub(オーストリッチマンのFX)でリアルトレード配信をしています。

過疎配信ですが、FXやラノベなどの話をしに来てください!

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