第2話 再びFXに挑戦
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FXから逃げ出して数ヶ月が経ったある日。喉元過ぎれば熱さを忘れるとはよく言ったもので、俺は急にFXを再開したくなり、再び地獄の釜の蓋を開ける決意をした。
再挑戦するにあたり、俺は別の業者に新しく口座を開設した。
業者を変えたのは、昼のテレビ番組で紹介されていて気になったというミーハーな理由と、心機一転を図りたかったからだ。
今回のスタート資金は、10万円。
(よっしゃ〜! 前の負け分、きっちり取り戻すぞぉ!)
再開するにあたり、俺は一からFXの勉強をし直した。だからだろう、今回の俺は根拠のない自信に満ち溢れていた。
具体的に何を勉強したのか?
それは『インジケーター(チャート上に表示される分析ツール)』だ!
……え? インジケーターの組み合わせを変えて、新しい必勝法を見つけたのかって?
――いや、全く違う。
お前バカだろ? と思われるかもしれないが、前回の俺はインジケーターや水平線を一切使わずにトレードしていたのだ。
つまり、己の勘と「なんとなく上がりそう」という『値ごろ感』だけで戦場に突撃していたということである。
ボリンジャーバンド、RSI、移動平均線……もちろん言葉としては知っていた。だが、知っているのは名前だけで、使い方は全く知らなかった。
――いや、単に勉強するのがめんどくさくて、知ろうとしなかっただけだ。
今思うと、値ごろ感だけで勝とうとしていた当時の俺は、竹槍で戦闘機に挑むようなマヌケ以外の何者でもない。無知とは恐ろしい。
再挑戦に向けて調べた結果、トレンド系なら『移動平均線』『ボリンジャーバンド』、オシレーター系なら『RSI』『MACD』『ストキャスティクス』を勧める声が異常に多かった。
これだけ多くの人が勧めるなら、間違いないはずだ。
(よし、こいつらの使い方をマスターしてやる)
実際にチャートに表示させて検証した結果、俺は『ボリンジャーバンド』と『RSI』を相棒に選んだ。
ボリンジャーバンドに決めた理由は単純だ。
「価格が2σ(シグマ)という線の内側に収まる確率は約95%。3σなら驚異の約99%」という説明を見たからだ。
99%の確率で線の中に収まって反発する……ということは、負ける確率はたったの1%しかないじゃないか!
(どう考えても、こんなチート級のツール、使わない手が無いだろ!)
さらにRSIを使えば、「買われ過ぎ」「売られ過ぎ」がパーセンテージで一目でわかる。まさに鬼に金棒だ。
(おっ、ボリバンが+2σにタッチしたな。ヨシ、ショート(売り)だ!)
教科書通りのサインを確認し、5ロットでショート。
すると予想通り、レートが5銭ほどスッと落ちた。
(よしよし、狙い通り。利確っと!)
導入したインジケーターのおかげで、最初のうちは面白いように勝てた。
だが、ツールを「絶対の魔法」だと過信した代償は、すぐに支払うことになった。
瞬く間に、軍資金の10万円が泡のように消し飛んだのだ。
――なぜ、負けたのか?
それは……『損切り』をしなかったからだ。
なぜ損切りをしなかったのか? 答えは単純明快。インジケーターを盲信していたからである。
RSIが「20以下」で推移している。つまり超絶「売られ過ぎ」サインだ。
(これだけ売られてるんだから、そのうち反発して上がるだろう)
そうタカをくくって放置していた。だが、待てど暮らせどRSIは底にへばりついたまま、レートは一向に上がってこない。
――俗に言う『ダマシ』ってやつだ。
上がらないということは、下がり続けるということ。
当然、損切りという命綱を手放していた俺を待っていたのは、無慈悲な『強制ロスカット』だった。
ちなみに、この時一向に相場が反発しなかったのは、ギリシャの債務不履行危機……いわゆる『ギリシャショック』という歴史的な大暴落が原因だった。個人のインジケーターなど、世界的なパニックの前ではティッシュペーパーと同義だ。
一撃で軍資金を飛ばした俺は、本気で『死のうかな』と思うほどメンタルをやられた。
だが不思議なことに、一晩寝ると翌日にはうつ状態がケロリと治っていた。
(まぁ、やられたのは10万円だしな。これが1億とかだったら、マジで首を吊っていたかもしれんが……)
◇
10万円を失ってから数日後。
(やっぱ、やられっぱなしで終わるわけにはいかねぇ!)
俺の心に再びギャンブラーの火が灯った。今度は、前回の3倍……『30万円』を入金。大勝負だ!
(まずは、インジケーターの変更だな)
RSIで痛い目を見たので、代わりに『ストキャスティクス』を採用し、さらに『パラボリック』を追加した。
(フフッ、前回の俺とは一味違うぜ!)
根拠のない自信を再び身にまとい、トレード再開。
「ヨシ、ここでロング」
「はい、5千円ゲット!」
「次はここでショート」
「はい、また5千円ゲット!」
面白いように勝てた。勝率にすれば、実に80%以上!
――だが、順調に軍資金が増えまくっているのかというと……全くそうではない。
勝つ時の利益より、負ける時の損失額の方が圧倒的に大きかったため、口座の残高はジリ貧だった。
いわゆる『コツコツ勝って、ドカンと負ける(コツコツドカン)』というやつだ。当時の俺は『リスクリワード(利益と損失の比率)』という超重要概念を知らなかったのである。
それでも、大きく減ってはいない。
勝率の高さに気を良くした俺は「俺って実は天才なんじゃね!?」と、完全に調子に乗っていた。
(よし、もうすぐドル円が90円ちょうどだ。SNSの凄腕トレーダーたちも『90円は固い、割らない』って言ってたし……ここで大きく買うか!)
ドル円90円付近。ここが歴史的な大底だと踏んだ俺は、意気揚々とロング(買い)を入れた。
だが、相場は無情だ。反発する素振りすら見せず、あっさりと90円の壁をぶち抜いて下落した。
――ここからの展開は、ご察しの通りだ。
ボリンジャーバンドの線に張り付いたまま下落し続ける『バンドウォーク』が発生しているのに、反転を期待して保持。
ストキャスティクスが売られ過ぎゾーンの底に張り付いているのに、反転を期待して保持。
利益が出たらすぐに決済する(チキン利確)。
それに対し、損失が出たら現実逃避して損切りできない。
だから、いかに勝率が80%だろうが、たった1回の特大の負けで口座が吹き飛ぶのだ。
切るに切れなくなり、ついに画面に向かって手を合わせた。
「頼む、神様! 建値まででいいから戻ってきてくれ!」
出た。FX名物『お祈りトレード』である。
不思議なもので、お祈りを始めた時点でもう勝負はついている。高確率で戻ってはこない。
その結果、強制ロスカットを食らって無事死亡……。
――俺の30万円は、こうして電子の海へ消えた。
ロスカットのショックで、数日間はチャートを見ないようにしていた。だが、やっぱり未練があって、恐る恐るチャートを覗いてみた。
すると……。
なんと、俺が強制ロスカットを食らった『まさにその大底』付近で相場は見事に反転し、俺が買った建値のラインまで余裕で戻ってきていたのだ――。
「ハァァァァア!? ふざけんなよ! やってられっかッ! 何だこのクソゲー!!」
あまりの理不尽さにムカつきすぎて、俺は我を忘れて叫んでいた。
もう、やってられるか。そう心底キレた俺は、今度こそ完全にFXをやめることにしたのだった。
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過疎配信ですが、FXやラノベなどの話をしに来てください!




